陰キャな僕がエセヤンキーに攻略された話

ムーン

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日常の方が楽しい

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シャツの手洗いとシャワーを終えた僕はさっぱりとした気分で自室に入った。運んでおいた鞄を開け、出しておくべきものを出す。

「しおり……そうだ、作文」

宿泊学習で学んだことを振り返る作文。まぁ、旅行の感想だな。それを書く紙だ。

「捻挫したんだよなー……」

作文用紙は机に置き、ダイニングへ向かった。シンク掃除が終わったらしい母がおやつをお供に一息ついている。

「おかえりなさい、ヒロ」

「ただいま」

飲み物を準備して母の向かいに座り、お菓子をひとつまみいただく。

「宿泊学習どうだった?」

「それが、足捻挫しちゃってさ」

「あらー……」

「でも、シンヤくんがおぶってくれて、あっ、シンヤくんに着いたってメッセ送らなきゃ」

帰宅後初めてスマホを起動。メッセージアプリを開くまでもなく通知にシンヤからのメッセージが並んでいる。
「家着いたよ」「ヒロくんはまだ?」「大丈夫?」「何かあったの?」
 と、僕の安否を気にしている。慌てて無事を知らせるメッセージと軽い謝罪をおくると、すぐに安心した旨の返信があり、にんまりと笑う。

「あら、シンヤくんと何かいいやり取りできたの?」

「そ、そんなんじゃないよ……別れた後は家着いたっていつも連絡してるから、それがないってシンヤくん心配してて……なんかいいなって。それより、宿泊学習なんだけど──」

俺は山登りの最中に芋虫が落ちてきたことや、足を捻挫したこと、特にシンヤがおぶってくれて嬉しかったということを笑顔で話した。

「災難だったけど、いいこともあっまのね。シンヤくん王子様みたいじゃない」

「そうなんだよ! 本当にカッコよくてさぁ……! まだあるんだよ、今回の宿泊学習で僕とうとう、ファーストキスを……!」

「あらー! 青春ね!」

微笑ましそうに僕を見る母は僕が精液まみれで帰ってきたことには気付いていなさそうだ。

「シンヤくんとは順調なのね」

「うん……すごく、順調」

ファーストキスは済ませた、セカンドもサードも。もうキスのハードルはそう高くない、日常的にしていけるだろう。歯磨きをし始めた頃が懐かしいな、習慣になったおかげで歯が綺麗になった気がする。

「毎週土日は遊びに行ってるけど、明日明後日も行くの?」

「うん、ダメ?」

「ダメなわけないけど、宿泊学習で疲れてないかなーってお母さん心配しちゃった」

「ちっとも疲れてないよ。捻挫してたし」

軽い捻挫だから普通に生活する分にはもう問題はない。ちょっと捻りを加えるとまだ痛いけれど、今は無問題。



父の帰宅後、改めて宿泊学習の苦い思い出──芋虫と捻挫の話をして、就寝。そして起床、素早く準備を整える。

「いってきまーす!」

「ヒロ……あらあら、随分はしゃいで……」

母の返事も聞かず家を飛び出し、シンヤの家へと走った。
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