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見た目だけは不良だから
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朝食の後は荷物をまとめてバスに乗り、アスレチック施設へ向かう。そこで遊んで昼食を食べたら宿泊学習の工程は終わり、学校に戻って解散、宿題に作文を書かされる。
「ヒロくん♡ 手ぇ繋ご♡」
「……うん」
教師の視線も会話も気にせずに、何十人も乗っているはずのバス内で僕達は二人きりを装った。
アスレチック施設に到着後、僕は保健医に呼び止められた。もうほとんど痛みが引いた捻挫のことに関してだ、今だけは盲目を装う訳にはいかない。
「もう大丈夫だと……あ、でもこっちに曲げると痛くて……」
僕は隔絶しようとした世間に再び接し、意識だけを傍で待つシンヤに向けた。
「あ、いたいた。なぁ吉良、小宅と付き合ってるってマジ?」
シンヤに話しかけているのはクラスカーストトップの男子生徒だ。詳しい人柄は知らないが、クラスの中心人物なんてろくな奴じゃないに決まっている。
「うん」
「へぇー!」
男女の組み合わせでもからかい倒す年頃だ、同性の組み合わせを見たら何をするか分からない。今すぐシンヤの元に戻りたい、戻っても何も出来ないけれど。
「ヒロくんには俺以外必要ないし、俺にはヒロくん以外必要ないから、あんまり関わらないでね」
「えぇ? 冷てぇな、いいじゃん一緒に遊ぼうぜ」
「嫌だよ」
保健医の目を盗んで耳だけでなく目もシンヤに向けた。
着崩した動きやすい私服、ポケットに手を突っ込みふんぞり返った立ち姿、僕に向けるものとは全く違う冷たい視線、どれを取っても喧嘩寸前の不良だ。
「あ、ヒロくーん♡」
僕の視線に気付くと硬い表情をふにゃりと柔らかくして手を振ってくれる。
「なぁ、吉良……」
「今話しかけるな、ヒロくんが俺の方見てくれてんのが分かんないの」
「え……なんかごめん」
「ヒロくーん♡ 足どーぉー? 俺が背負ってったげよーか♡」
僕は上の空だったが、保健医と相談した結果「アスレチックはやらない方がいい」との結論が出た。それでは退屈だろうからと、上半身だけで遊べる施設の他の遊具を使わせてもらえるそうだ。
「えっと……じゃあ、な」
シンヤに話しかけていた男子生徒が去っていった。少し怯えているように見えたが、まさかシンヤに?
まぁ、自分より背が高い金髪の男に睨みすらされず冷たく接されたら怖いし、言葉遣いが多少柔らかい程度では怖さは和らがないよな。
「……シンヤくん、僕別の遊具の方使えって」
「そっか♡ 俺もそっち行く♡」
「シンヤくんは普通の方でみんなと遊んでていいけど……僕と一緒に居てくれるの?」
「当たり前じゃん、ダメ?」
保健医と担任に視線をやると二人は困ったように笑い、シンヤにも許可を出した。
「やったぁ♡ 一緒に遊ぼうねヒロくん♡」
「……うん!」
体を使った遊びなんて嫌いだったけれど、シンヤと一緒なら楽しめるかもしれない。アウトドア派になれるかも──うんていをやらされるまでは僕は本気でそう思っていた。
「ヒロくん♡ 手ぇ繋ご♡」
「……うん」
教師の視線も会話も気にせずに、何十人も乗っているはずのバス内で僕達は二人きりを装った。
アスレチック施設に到着後、僕は保健医に呼び止められた。もうほとんど痛みが引いた捻挫のことに関してだ、今だけは盲目を装う訳にはいかない。
「もう大丈夫だと……あ、でもこっちに曲げると痛くて……」
僕は隔絶しようとした世間に再び接し、意識だけを傍で待つシンヤに向けた。
「あ、いたいた。なぁ吉良、小宅と付き合ってるってマジ?」
シンヤに話しかけているのはクラスカーストトップの男子生徒だ。詳しい人柄は知らないが、クラスの中心人物なんてろくな奴じゃないに決まっている。
「うん」
「へぇー!」
男女の組み合わせでもからかい倒す年頃だ、同性の組み合わせを見たら何をするか分からない。今すぐシンヤの元に戻りたい、戻っても何も出来ないけれど。
「ヒロくんには俺以外必要ないし、俺にはヒロくん以外必要ないから、あんまり関わらないでね」
「えぇ? 冷てぇな、いいじゃん一緒に遊ぼうぜ」
「嫌だよ」
保健医の目を盗んで耳だけでなく目もシンヤに向けた。
着崩した動きやすい私服、ポケットに手を突っ込みふんぞり返った立ち姿、僕に向けるものとは全く違う冷たい視線、どれを取っても喧嘩寸前の不良だ。
「あ、ヒロくーん♡」
僕の視線に気付くと硬い表情をふにゃりと柔らかくして手を振ってくれる。
「なぁ、吉良……」
「今話しかけるな、ヒロくんが俺の方見てくれてんのが分かんないの」
「え……なんかごめん」
「ヒロくーん♡ 足どーぉー? 俺が背負ってったげよーか♡」
僕は上の空だったが、保健医と相談した結果「アスレチックはやらない方がいい」との結論が出た。それでは退屈だろうからと、上半身だけで遊べる施設の他の遊具を使わせてもらえるそうだ。
「えっと……じゃあ、な」
シンヤに話しかけていた男子生徒が去っていった。少し怯えているように見えたが、まさかシンヤに?
まぁ、自分より背が高い金髪の男に睨みすらされず冷たく接されたら怖いし、言葉遣いが多少柔らかい程度では怖さは和らがないよな。
「……シンヤくん、僕別の遊具の方使えって」
「そっか♡ 俺もそっち行く♡」
「シンヤくんは普通の方でみんなと遊んでていいけど……僕と一緒に居てくれるの?」
「当たり前じゃん、ダメ?」
保健医と担任に視線をやると二人は困ったように笑い、シンヤにも許可を出した。
「やったぁ♡ 一緒に遊ぼうねヒロくん♡」
「……うん!」
体を使った遊びなんて嫌いだったけれど、シンヤと一緒なら楽しめるかもしれない。アウトドア派になれるかも──うんていをやらされるまでは僕は本気でそう思っていた。
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