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カッコつかないにもほどがある
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肩でよかった。見上げた瞬間に顔に落ちてこられていたら、僕はショック死していたかもしれない。
「な、何何? 今の声誰? 小宅?」
腰を抜かした僕のジャージの上を這う毛虫は何故か顔の方に寄ってきている。先を歩いていた陽キャ共も駆け寄ってくれる。
「うわ何そのクソデカい芋虫」
「キモ……」
いくら陽キャでも芋虫を手掴みは出来ないようで、一定距離から近寄ってこない。
「顔の方来てるっ……たすけて、シンヤくんっ……取って」
「え」
「お願いっ、取ってぇ……!」
「ま、任せてっ、えっと……ぁ、ちょっと待ってね」
「はやくぅっ……! 顔に来たら死んじゃう……!」
半泣きで頼むとシンヤは枝を折って震える手で芋虫を僕の肩から弾き落とした。
「……早く行こうぜ、また落ちてくるかも」
「それヤバ。行こ」
問題解決を見届けた陽キャ共が足早に草木のトンネルのような道を抜ける。僕はシンヤに礼を言いながら手を借り、立ち上がると──
「痛っ……!」
「ヒロくんっ? ヒロくん、大丈夫?」
「う、うん……大丈夫」
──左足首に激痛が走った。芋虫に驚いて変な転び方をしたから足首をくじいたのだろう。ズキズキと痛む足は歩行不可能を訴えている。
「ヒロくん? どうしたの? どっか痛い?」
歩けない。でも、芋虫に驚いて捻挫したなんてシンヤに言いたくない。
「……足? 足痛いの?」
「ち、ちがう……大丈夫、歩けるからっ……」
くじいたばかりの足は地面を踏むだけで痛くて、元気を装うことすら出来ない。暑くはないのに汗が溢れてきた。
「足だね。おぶるよ」
「え……そ、そんな……いいよ、大丈夫」
「だめ。ほら、乗って」
シンヤは背負っていたリュックを腕にかけ、僕の前に屈んでくれた。駄々をこねても無駄だと悟った僕は大人しくおぶられた。
「何、小宅どったの?」
「足痛めちゃったみたい」
「うーわご愁傷さま。あ、吉良、カバン持つよ」
「ありがとー」
シンヤに相応しい彼氏になりたいのに、僕には男らしさの欠片もない。未だにシンヤ以外の者を怖がって顔を伏せてしまっている。
「小宅、お前もカバンよこせ」
「ぇ、あ、ぁ、ありが、と……」
雰囲気だけで嫌っていた彼らもいい人達だ。それでも苦手意識は薄れない。この場の人間で最もダメな奴は僕だ。
シンヤにおぶられたままホテルに着き、保健医の診断と治療を受ける。湿布とテーピングを終える頃には痛みはかなり引いていて、ゆっくりとなら歩くことも出来るようになっていた。
「……歩けないくらい痛かったの、本当にあの時だけだったのかも。ごめんね、ずっとおぶらせちゃって。多分途中で降りて自分で歩けたのに」
「気にしないで♡ ヒロくんがずーっと背中に引っ付いてたの嬉しかったし、ヒロくんがぎゅーってしがみついてくれてたのも嬉しかった♡ それに、その速さなら歩けてもおぶるよ俺」
そういえばせっかくシンヤに抱きついていたのに体温も匂いも何も堪能出来なかったな。自己嫌悪でそれどころじゃなかった。
今もそうだ、シンヤが向かいで美味しそうに昼食を食べているのに、唇も頬の動きも追えない。
「なんていう料理なのかよく分かんないけど、美味しいねヒロくん。もちろんヒロくんの料理の方が上だけど♡」
「……そんな。ありがとう」
同グループのはずの陽キャ共は別グループの友人の元へ行っている。僕の悲鳴の話をして笑いを取っているような──気のせいかな、気のせいだと思おう。
「な、何何? 今の声誰? 小宅?」
腰を抜かした僕のジャージの上を這う毛虫は何故か顔の方に寄ってきている。先を歩いていた陽キャ共も駆け寄ってくれる。
「うわ何そのクソデカい芋虫」
「キモ……」
いくら陽キャでも芋虫を手掴みは出来ないようで、一定距離から近寄ってこない。
「顔の方来てるっ……たすけて、シンヤくんっ……取って」
「え」
「お願いっ、取ってぇ……!」
「ま、任せてっ、えっと……ぁ、ちょっと待ってね」
「はやくぅっ……! 顔に来たら死んじゃう……!」
半泣きで頼むとシンヤは枝を折って震える手で芋虫を僕の肩から弾き落とした。
「……早く行こうぜ、また落ちてくるかも」
「それヤバ。行こ」
問題解決を見届けた陽キャ共が足早に草木のトンネルのような道を抜ける。僕はシンヤに礼を言いながら手を借り、立ち上がると──
「痛っ……!」
「ヒロくんっ? ヒロくん、大丈夫?」
「う、うん……大丈夫」
──左足首に激痛が走った。芋虫に驚いて変な転び方をしたから足首をくじいたのだろう。ズキズキと痛む足は歩行不可能を訴えている。
「ヒロくん? どうしたの? どっか痛い?」
歩けない。でも、芋虫に驚いて捻挫したなんてシンヤに言いたくない。
「……足? 足痛いの?」
「ち、ちがう……大丈夫、歩けるからっ……」
くじいたばかりの足は地面を踏むだけで痛くて、元気を装うことすら出来ない。暑くはないのに汗が溢れてきた。
「足だね。おぶるよ」
「え……そ、そんな……いいよ、大丈夫」
「だめ。ほら、乗って」
シンヤは背負っていたリュックを腕にかけ、僕の前に屈んでくれた。駄々をこねても無駄だと悟った僕は大人しくおぶられた。
「何、小宅どったの?」
「足痛めちゃったみたい」
「うーわご愁傷さま。あ、吉良、カバン持つよ」
「ありがとー」
シンヤに相応しい彼氏になりたいのに、僕には男らしさの欠片もない。未だにシンヤ以外の者を怖がって顔を伏せてしまっている。
「小宅、お前もカバンよこせ」
「ぇ、あ、ぁ、ありが、と……」
雰囲気だけで嫌っていた彼らもいい人達だ。それでも苦手意識は薄れない。この場の人間で最もダメな奴は僕だ。
シンヤにおぶられたままホテルに着き、保健医の診断と治療を受ける。湿布とテーピングを終える頃には痛みはかなり引いていて、ゆっくりとなら歩くことも出来るようになっていた。
「……歩けないくらい痛かったの、本当にあの時だけだったのかも。ごめんね、ずっとおぶらせちゃって。多分途中で降りて自分で歩けたのに」
「気にしないで♡ ヒロくんがずーっと背中に引っ付いてたの嬉しかったし、ヒロくんがぎゅーってしがみついてくれてたのも嬉しかった♡ それに、その速さなら歩けてもおぶるよ俺」
そういえばせっかくシンヤに抱きついていたのに体温も匂いも何も堪能出来なかったな。自己嫌悪でそれどころじゃなかった。
今もそうだ、シンヤが向かいで美味しそうに昼食を食べているのに、唇も頬の動きも追えない。
「なんていう料理なのかよく分かんないけど、美味しいねヒロくん。もちろんヒロくんの料理の方が上だけど♡」
「……そんな。ありがとう」
同グループのはずの陽キャ共は別グループの友人の元へ行っている。僕の悲鳴の話をして笑いを取っているような──気のせいかな、気のせいだと思おう。
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