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山登りなんて初体験
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バスは山の麓に到着。これから僕達は山を越えてホテルに向かい、昼食を終えたらホテルの裏手にあるらしい川で遊び、夕食を食べたらキャンプファイヤーをして──学校は僕達をわんぱく小僧か何かだと勘違いしている。
「体力もたないよこんなスケジュール……!」
「ふわぁー……ヒロくんお腹すいたぁ」
「山登りしたらホテルのご飯が食べられるよ。全く……帰りはホテルまでバス来てくれるんだから、行きもホテルまで行って欲しいよね」
寝起きのシンヤに愚痴を言いながらグループで集まる。僕は僕の苦手な陽キャ共四人と一緒のグループだ、ただでさえ山登りが嫌なのに最悪だ。
「おはよぉー、よろしくー」
シンヤは僕と違って社交性もある、コミュニケーションは全て任せよう。
「ヒロくん、出発だって」
「ぁ、うん……」
「元気ないね」
「ね、寝起きだからだよ。ふわー、眠いなー」
バスの中では一睡もしていないのに欠伸をするフリをして誤魔化し、出発。山登りと言っても当然本格的なものではなく、山道を歩くだけ。キツめのウォーキングだ。山はハイキングだっけ?
「看板立ってる。マムシ注意だってさヒロくん。ヒロくん蛇どう?」
「顔は可愛いと思うけど、生で見たら泣いて逃げるよ」
多分出ないだろうマムシよりも視界の端にチラチラと見える巨大な虫が怖い。どうして都会から離れて住む虫はこう大きいんだ。
「吉良ー、吊り橋あんぜ吊り橋!」
「二人ずつまでだってよ、こえー」
少し先を行っていた陽キャ共は二人ずつに分かれ、古い吊り橋を楽しげに渡っていく。
「学校行事で渡っていい橋じゃない……!」
「お、渡りきった。ヒロくん行くよ」
「や、やだ……おうちかえる……」
帰してもらえるわけもなく、軋む木の板を踏み、チクチクする縄を掴み、シンヤの後ろを歩いていく。
「ぅ、うぅう……ギシギシ鳴ってる、風で揺れてる……こんなの法律違反だっ! なんとか安全法とか絶対引っかかる!」
「ヒロくん、高いとこ嫌い? 下見ずに歩いた方がいいよ」
「そんなこと言ったって下見ちゃうよっ!」
「じゃあ俺の顔見てて♡ 自分で言うの恥ずかしいけど……ヒロくん俺の顔好きっしょ?」
顔を上げるとシンヤはこちらを向いていた。橋は細く、縄を掴んでいれば後ろ歩きでも真っ直ぐ進めるだろうが、それを出来る度胸は凄まじい。
「あ、ありがとう……シンヤくん、僕、僕もうダメかと……」
シンヤが天使に見える。これが吊り橋効果か? いや、シンヤは元々天使か。顔がいい、これなら歩ける。
シンヤの顔を見つめて吊り橋を渡りきり、陽キャ共に「遅ぇ」とか言われつつもホテルに向けて出発。あの吊り橋がちょうど真ん中の距離にあるらしいから、もうひと踏ん張りだ。
「ちょっと暗くなったね」
「あぁ、上まで枝が伸びてるからかな……」
草木のトンネルのような道を歩き、幻想的だななんて思ったりしていると肩にぼとっと芋虫が落ちてきた。
「……っ、嫌ぁあぁあああーっ!?」
その瞬間の悲鳴はきっと、僕の人生で一番のものだった。
「体力もたないよこんなスケジュール……!」
「ふわぁー……ヒロくんお腹すいたぁ」
「山登りしたらホテルのご飯が食べられるよ。全く……帰りはホテルまでバス来てくれるんだから、行きもホテルまで行って欲しいよね」
寝起きのシンヤに愚痴を言いながらグループで集まる。僕は僕の苦手な陽キャ共四人と一緒のグループだ、ただでさえ山登りが嫌なのに最悪だ。
「おはよぉー、よろしくー」
シンヤは僕と違って社交性もある、コミュニケーションは全て任せよう。
「ヒロくん、出発だって」
「ぁ、うん……」
「元気ないね」
「ね、寝起きだからだよ。ふわー、眠いなー」
バスの中では一睡もしていないのに欠伸をするフリをして誤魔化し、出発。山登りと言っても当然本格的なものではなく、山道を歩くだけ。キツめのウォーキングだ。山はハイキングだっけ?
「看板立ってる。マムシ注意だってさヒロくん。ヒロくん蛇どう?」
「顔は可愛いと思うけど、生で見たら泣いて逃げるよ」
多分出ないだろうマムシよりも視界の端にチラチラと見える巨大な虫が怖い。どうして都会から離れて住む虫はこう大きいんだ。
「吉良ー、吊り橋あんぜ吊り橋!」
「二人ずつまでだってよ、こえー」
少し先を行っていた陽キャ共は二人ずつに分かれ、古い吊り橋を楽しげに渡っていく。
「学校行事で渡っていい橋じゃない……!」
「お、渡りきった。ヒロくん行くよ」
「や、やだ……おうちかえる……」
帰してもらえるわけもなく、軋む木の板を踏み、チクチクする縄を掴み、シンヤの後ろを歩いていく。
「ぅ、うぅう……ギシギシ鳴ってる、風で揺れてる……こんなの法律違反だっ! なんとか安全法とか絶対引っかかる!」
「ヒロくん、高いとこ嫌い? 下見ずに歩いた方がいいよ」
「そんなこと言ったって下見ちゃうよっ!」
「じゃあ俺の顔見てて♡ 自分で言うの恥ずかしいけど……ヒロくん俺の顔好きっしょ?」
顔を上げるとシンヤはこちらを向いていた。橋は細く、縄を掴んでいれば後ろ歩きでも真っ直ぐ進めるだろうが、それを出来る度胸は凄まじい。
「あ、ありがとう……シンヤくん、僕、僕もうダメかと……」
シンヤが天使に見える。これが吊り橋効果か? いや、シンヤは元々天使か。顔がいい、これなら歩ける。
シンヤの顔を見つめて吊り橋を渡りきり、陽キャ共に「遅ぇ」とか言われつつもホテルに向けて出発。あの吊り橋がちょうど真ん中の距離にあるらしいから、もうひと踏ん張りだ。
「ちょっと暗くなったね」
「あぁ、上まで枝が伸びてるからかな……」
草木のトンネルのような道を歩き、幻想的だななんて思ったりしていると肩にぼとっと芋虫が落ちてきた。
「……っ、嫌ぁあぁあああーっ!?」
その瞬間の悲鳴はきっと、僕の人生で一番のものだった。
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