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お人形さんになりたいの

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水を飲ませて、身体を清めて、服を着替えて、事後の雰囲気をもみ消した──つもりなのだが、シンヤの気だるげな表情と放り出すように伸びた手足には色気を感じる。

「……シ、シンヤくん、あの……ごめんね、やり過ぎちゃった」

ぐったりとベッドに横たわったシンヤと目線を合わせるため、僕は床に座ってベッドに顎を乗せている。

「んーん♡ 嬉しかったよ♡」

「シンヤくん、ああいう風にされるの好き?」

「ヒロくんがしてくれたのが嬉しい♡ 俺にめちゃくちゃしてる時のヒロくん、すっごく興奮した顔してたし……♡ 俺で楽しんでくれてるんだって♡ すっごく嬉しくなったよ♡」

口元をゆるゆるにしているシンヤは心の底から嬉しいと思っているのだろう。けれど、僕は素直には喜べなかった。

「……自分勝手にしてごめんね。シンヤくん、僕にして欲しいことない?」

緩んだ頬に手を添えると大福のような柔らかさが手に伝わった。

「ヒロくんの好きなようにして欲しい♡ 俺、ヒロくんが好きだから、ヒロくんに喜んで欲しいんだ♡ 俺の見た目ヒロくんの理想だろ? 俺でたくさん遊んでヒロくん♡」

尽くしたいタイプ、なんて言葉を当てはめるのは正しいのだろうか。

「いや、僕もシンヤくんが好きだからシンヤくんに喜んで欲しいんだ。シンヤくん、して欲しいこと言って」

「……? だから、ヒロくんの好きなようにして欲しい♡ って言ってるじゃん」

「いや、もっとこう、ほらっ……具体的に? いや、オブラート剥がして? こう、本っ当にして欲しいっ! って……ガチのおねがい、ない? 世界征服とかでもいいよ、教えるだけ教えて」

シンヤはしばらく考えた後、満面の笑みで明るく言った。

「ヒロくんのオモチャになりたい!」

「…………は?」

「あれ、まだ分かりにくかった? ヒロくん専用のオナホ機能付き着せ替え人形になりたいな♡」

意味が分からない。どうすればいいんだ? コスプレえっちしたい♡ って言いたいんじゃないよな?

「ヒロくん……? なんか困ってる?」

「ぁ、あぁ、ちょっと困ってるかも」

「……俺のせい?」

「ち、違うよっ! それは絶対違う」

僕の読解力が低いのが悪い、シンヤはちゃんと伝えてくれた、汲み取れない僕がバカなんだ。

「だよなっ。お人形さん手に入んの嬉しいっしょ、俺では困ることないよなぁ♡」

「人形って……君は人間じゃないか」

「ん? うん……うん? ヒロくんの人形にしてくれないの?」

マグロでヤリたい、って意味か? いや、流石に違うよな。

「や、やだっ……人形にして、嫌わないで、不満あるなら言って、直すから嫌わないで!」

「ま、待ってよ! なんで、人形って何……君は僕の恋人だろ?」

「……うん、恋人……愛してくれるってことだろ? お人形さんにするってことだよな? ガチのおねがい言ってって言うから言ったのにぃ……」

何故、人形というワードが出るのか分からない。僕はその謎を解き明かすため、根気強くシンヤに尋ね続けた。その結果──

「言いなりになる子が愛してもらえる……んだよね? 問題起こさずにテストでいい点取ってれば大丈夫だったよ」

──おそらく、両親からの扱いのせいで愛情の認識が歪んでいることが分かった。

「ずっと父さんと母さんのお人形さんしてたんだけど、ヒロくんって大好きな人が出来たから、ヒロくんの人形になろうってしてたんだけど……ヒロくんあんまり命令してくれないよね、考えるの苦手だから何すればいいか教えて欲しいな」

彼が髪を染めているのは「好きな人の好みでいたい」なんて健気な乙女心もどきじゃない。
着せ替え人形にお気に入りの服を着せるように、好きな人の好みの姿になるのが当然だと考えていたんだ。

「……よく、分かったよ。ごめんね、察しが悪くて」

「ヒロくん? わっ……えへへ、ぎゅーされんの好き♡」

抱き締められて喜ぶのだから、彼にも意思はある。
ゆっくり付き合っていこう。僕の顔色は伺わなくてもいいと、僕の言いなりにならなくても僕には愛されるんだと、少しずつ理解してもらおう。
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