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いつか

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夕飯を食べ終えて食器を片付け、皿洗いで冷えた手で熱くなった頬を冷やす。
僕の性的嗜好が母にモロバレだったのはとてもとても恥ずかしいことだが、致命傷ではあるのだが、交際を受け入れられたのはよかった。

「はぁ……ん? メッセきてる……」

ソファに移った母の隣に座り、テレビを横目にスマホを弄る。

「あら、早速彼氏とメール?」

「の、覗かないでよっ!」

母からスマホ画面を隠しつつ、シンヤからのメッセージを読む。僕が教えた料理が上手く作れて美味しかったと、感想と感謝の言葉が可愛らしく綴られていた。

「ふへへ……」

「ニヤついちゃって」

「……っ!」

クッションで顔を隠し、どういたしましてのメッセージを送る。顔の熱がある程度引いたら元の体勢に戻る。

「彼氏はもういいの?」

「も、もう夜だし……」

「寝落ちするまでメール送りあったり電話しちゃったりするのが青春じゃないの~。ふふ、元カレ思い出しちゃう」

「嘘でも父さんって言ってくれよ息子の前だぞ……!」

「だってあの人と会ったの会社なんだもの。学生時代の話はみんな元カレよぉ。母さん嬉しいのよ? ヒロ友達もいないから、子供との恋バナは出来ないんだーって諦めかけてたのよ」

母の調子に呆れているとスマホが通知音を鳴らす。慌てて見てみたが、企業アカウントからの広告メッセージだった。

「……覗かないでよ」

僕とほぼ同時に僕のスマホ画面を覗いた母を睨む。

「ふふっ、ねぇ、シンヤくんってどんな子なの? 写真とかある? もっと話聞かせて」

母に見せられる健全な写真なんてあっただろうか、出会ってすぐの頃の写真なら大丈夫かな。

「……こ、この子」

「あら……! ヒロの持ってる本の表紙の子みたい。これじゃ好きになって当然ね」

「本については言わないでってば!」

制服を着崩した金髪少年という世のお母様方は嫌いそうな格好だが、シンヤが不良ではないと説明しておかなければ。

「シンヤくんは、えっと……こんなカッコしてるけどすごく真面目で、頭もいいんだよ」

「へぇー……こんなに顔がいいのに頭も……ねぇ、今度家連れてきてよ、母さん会いたくなっちゃった」

「え……うん、出来たらね。へ、変なこと言わないでよ?」

「変なことって? 本のこととか?」

「やめてってば!」

今後数日はエロ本イジりがあるんだろうな、ほとぼりが冷めるまで引きこもろうかな……

「と、とにかく……僕の恥ずかしい話とかやめてよ。シンヤくんは僕のことカッコイイって思ってるんだから」

「目は悪いのね……」

「母さん!? 息子をなんだと……あっ」

今度こそシンヤからメッセージが来た。受話器を持ったアザラシと「電話していい?」の文字の可愛らしいスタンプだ、シンヤらしい。

「いいじゃない、話して話して」

「母さんは聞かないで!」

もちろんと返信をしてすぐに電話がかかってくる。母から逃げてリビングの隅で応答ボタンをタップする。

「……も、もしもし、シンヤくん?」

『もしもしヒロくん? ヒロくん……♡ ごめんねこんな時間に』

「う、ううんっ、全然いいよ。どうしたの?」

『……どうってわけじゃないんだ、ただ……声聞きたくて♡ 迷惑だった?』

「全然っ! 僕もちょうど話したいと……ぅわあっ!?」

母が背後に迫っていたことに気付き、腰を抜かす。

『ヒロくん? 何?』

「な、なんでもない! ちょっと虫が……ちょっと待ってて…………やめてよ母さんっ! 僕もう部屋帰る!」

自室に逃げ込んで扉を背に座り、シンヤと話す。

「ごめんごめん。えっと、ちょうど僕も話したかったんだ」

『ほんと? 嬉しい♡』

「うん……ぁ、宿題やった? まだ? うん、僕もまだ……やりながら話そうよ、僕ちょっとこの教科苦手でさ、教えて欲しいな」

スマホを机に置いてシンヤと話しながら宿題を進める。当然のように話に夢中になり、宿題は夜遅くまでかかった。人生で一番楽しい夜更かしだったねなんて笑い合い、また明日と名残惜しく別れを告げ、通話を切る。

「はぁ……好きだなぁ」

胸の高鳴りと温かさを反芻するために胸に手を当て、シンヤも同じ気持ちだと嬉しいななんて考えた。
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