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昔から変わらない俺のヒーロー♡
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今日は昼からヒロとショッピングモールに出かけた。嫌な目にも遭ったけれど楽しかったし、その嫌なことも昔を再現したような出来事だった。
「ヒロくん、今日この後ヒロくんの家行くとかはダメな感じ?」
「い、家? 僕の家はちょっと無理かな、ごめん」
「そっか。じゃ、ばいばーい♡」
家に遊びに行くのは断られてしまった、時期尚早だったかな。でも、もう焦る必要はない。ヒロは昔から変わらず俺のヒーローだ。
中学生の頃、今日のように不良に絡まれたことがある。その頃の俺は黒髪で、制服のボタンも外していなかった。大人しそうな見た目だったからかカツアゲにはよく遭った。
その日は路地裏に連れ込まれて何度も殴られて、財布まで盗られて、いつもより酷かった。でも、助けが入った。
「やめろ! このっ……バーカ!」
俺と同い年くらいの少年が不良達に鞄を投げたのだ。不良は俺を置いてその少年を追いかけた、一人になった俺は痛みで立つことすら出来ず、散乱した鞄の中身をただ眺めた。
「生意気……不良、調教?」
教科書類の中で異質だったのは性的な内容が含まれるライトノベルだった。しばらくして戻ってきた少年は俺がその本を持っているのを見て顔を真っ赤に染め、俺の手から奪い取って鞄に戻した。
「……君、そういうの好きなの?」
「べ、別にいいだろ!」
「悪いとは言ってないよ……」
散乱した教科書類を拾うのを手伝い、彼の名前を知った。小宅 ヒロと書いてあったからオタク ヒロと読んだ。
「…………助けてくれてありがとう。あいつらどうしたの?」
「交番に逃げ込んだんだ。あいつらギリギリまで交番あるのに気付かなくてさ、バカでよかったよ」
「……そうなんだ」
俺は彼に一目惚れをした。メガネと髪で目元が見えないミステリアスな雰囲気、不良に鞄を投げつける勇気、交番に逃げ込むアイディア、戻ってきてくれた優しさ、全てが僕を魅了した。手を貸して立たせてもらう時には既に俺の心臓は早鐘を打った。
「それじゃあ、僕はこれで」
去っていく彼を引き止めることはしなかった。そんな度胸はなかったし、今の俺では彼を振り向かせるのは無理だと分かっていたから。
俺はその日から生まれ変わった。まず髪を金に染め、次に制服を着崩した。俺のヒーローが持っていた本の表紙に描かれていた不良に姿を寄せた。
「生意気って書いてたな……生意気、かぁ、難しいな」
鬱陶しいくらいに馴れ馴れしく振る舞うようになった。周囲の者には色々言われたが一目惚れのヒーローを振り向かせるためなのだからその他大勢の言葉なんて耳に入らなかった。成績さえ落とさなければ父母は安心し、それまで通り放置した。
「付き合った時のために男同士のセックス勉強しとかなきゃ……え、開発? 何これ。なんか怖いなぁ……」
ネット知識で道具を使って自分の身体を男に抱かれても大丈夫なように開発した。最初は痛くて苦しかったけれど、しばらくすると気持ちよくなって開発は順調に進んだ。
「結構髪伸びた♡ プリンになってきた♡ 表紙のあの人はこんな感じだったなー……あはっ♡ これなら間違いなくオタクくん振り向いてくれる♡♡」
彼の理想の人間になることばかり考えて、どうやって再会するかは考えていなかった。けれどそんなバカな俺にカミサマは奇跡をくれた。
「俺のヒーロー、同じクラス!? やった♡ やったぁ♡ しかも隣……♡♡ よしっ、不良っぽく座っとこ♡♡♡」
彼は俺が誰だか分かっていない様子だった、それでよかった。付け焼き刃の不良だと分かってしまったら振り向いてくれないかもしれない。
「っし、今日も俺不良っぽい♡」
だから俺は頑張って不良を続けた。椅子は傾けたし、ボタンはとめなかったし、廊下の真ん中を歩いた。
「あ、勉強はしないと」
課題は配られた日に済ませたし、板書は完璧にした。家での予習復習も欠かさなかった。もちろん父母に口出しをされないためというのが一番の理由だったが、テスト前だとかに彼に頼りにされたかったのもある。それが不良らしいかどうかなんて分からなかった、どんな形でもいいから彼に求めて欲しかった。
とうとう今日、あの日の出来事の再現が起こった。打撲を負ってしまったけれど、痛みなんて気にならなかった。
俺はヒロが好き、ただそれだけ。録音させてもらったヒロの声を聞きながら眠る毎夜、ヒロに振り向いて欲しいと祈り続ける。
どうか明日こそ、ヒロがキスしてくれますように──と。
「ヒロくん、今日この後ヒロくんの家行くとかはダメな感じ?」
「い、家? 僕の家はちょっと無理かな、ごめん」
「そっか。じゃ、ばいばーい♡」
家に遊びに行くのは断られてしまった、時期尚早だったかな。でも、もう焦る必要はない。ヒロは昔から変わらず俺のヒーローだ。
中学生の頃、今日のように不良に絡まれたことがある。その頃の俺は黒髪で、制服のボタンも外していなかった。大人しそうな見た目だったからかカツアゲにはよく遭った。
その日は路地裏に連れ込まれて何度も殴られて、財布まで盗られて、いつもより酷かった。でも、助けが入った。
「やめろ! このっ……バーカ!」
俺と同い年くらいの少年が不良達に鞄を投げたのだ。不良は俺を置いてその少年を追いかけた、一人になった俺は痛みで立つことすら出来ず、散乱した鞄の中身をただ眺めた。
「生意気……不良、調教?」
教科書類の中で異質だったのは性的な内容が含まれるライトノベルだった。しばらくして戻ってきた少年は俺がその本を持っているのを見て顔を真っ赤に染め、俺の手から奪い取って鞄に戻した。
「……君、そういうの好きなの?」
「べ、別にいいだろ!」
「悪いとは言ってないよ……」
散乱した教科書類を拾うのを手伝い、彼の名前を知った。小宅 ヒロと書いてあったからオタク ヒロと読んだ。
「…………助けてくれてありがとう。あいつらどうしたの?」
「交番に逃げ込んだんだ。あいつらギリギリまで交番あるのに気付かなくてさ、バカでよかったよ」
「……そうなんだ」
俺は彼に一目惚れをした。メガネと髪で目元が見えないミステリアスな雰囲気、不良に鞄を投げつける勇気、交番に逃げ込むアイディア、戻ってきてくれた優しさ、全てが僕を魅了した。手を貸して立たせてもらう時には既に俺の心臓は早鐘を打った。
「それじゃあ、僕はこれで」
去っていく彼を引き止めることはしなかった。そんな度胸はなかったし、今の俺では彼を振り向かせるのは無理だと分かっていたから。
俺はその日から生まれ変わった。まず髪を金に染め、次に制服を着崩した。俺のヒーローが持っていた本の表紙に描かれていた不良に姿を寄せた。
「生意気って書いてたな……生意気、かぁ、難しいな」
鬱陶しいくらいに馴れ馴れしく振る舞うようになった。周囲の者には色々言われたが一目惚れのヒーローを振り向かせるためなのだからその他大勢の言葉なんて耳に入らなかった。成績さえ落とさなければ父母は安心し、それまで通り放置した。
「付き合った時のために男同士のセックス勉強しとかなきゃ……え、開発? 何これ。なんか怖いなぁ……」
ネット知識で道具を使って自分の身体を男に抱かれても大丈夫なように開発した。最初は痛くて苦しかったけれど、しばらくすると気持ちよくなって開発は順調に進んだ。
「結構髪伸びた♡ プリンになってきた♡ 表紙のあの人はこんな感じだったなー……あはっ♡ これなら間違いなくオタクくん振り向いてくれる♡♡」
彼の理想の人間になることばかり考えて、どうやって再会するかは考えていなかった。けれどそんなバカな俺にカミサマは奇跡をくれた。
「俺のヒーロー、同じクラス!? やった♡ やったぁ♡ しかも隣……♡♡ よしっ、不良っぽく座っとこ♡♡♡」
彼は俺が誰だか分かっていない様子だった、それでよかった。付け焼き刃の不良だと分かってしまったら振り向いてくれないかもしれない。
「っし、今日も俺不良っぽい♡」
だから俺は頑張って不良を続けた。椅子は傾けたし、ボタンはとめなかったし、廊下の真ん中を歩いた。
「あ、勉強はしないと」
課題は配られた日に済ませたし、板書は完璧にした。家での予習復習も欠かさなかった。もちろん父母に口出しをされないためというのが一番の理由だったが、テスト前だとかに彼に頼りにされたかったのもある。それが不良らしいかどうかなんて分からなかった、どんな形でもいいから彼に求めて欲しかった。
とうとう今日、あの日の出来事の再現が起こった。打撲を負ってしまったけれど、痛みなんて気にならなかった。
俺はヒロが好き、ただそれだけ。録音させてもらったヒロの声を聞きながら眠る毎夜、ヒロに振り向いて欲しいと祈り続ける。
どうか明日こそ、ヒロがキスしてくれますように──と。
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