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きゃんぷ、じゅうはち

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特に興味はないが他に見るものもないので涼斗の着替えを眺めながら話題を探す。

「……そういえば涼斗さんも拘束外してもらえたんですね」

「いえ、自分で外しました」

俺も自分で外したと言っても……いや、最後の一つ以外は金具を壊しただけでそこから先は雪風に外してもらった。

「へぇ……どうやって?」

「縄抜けが特技なんですよ。プレイの時はもちろんしませんけど」

着替えを終えた涼斗と共に脱衣所を出る。

「そうそう涼斗さん、特殊部隊がどうとかってなんなんですか?」

「あぁ……大学生の頃、休暇は雪風さんの私設特殊部隊のみなさんと一緒に訓練していたんです」

そういえば雪風は普段のボディガード以外に部隊を持っているんだったな。雪兎が誘拐されたと勘違いされた時に動かしていたか、どの程度の部隊なのだろう。

「……俺も頼もうかな。雪風と雪兎守りたいし……どんな訓練したんです?」

「えっと……とりあえず七十二時間動き続けて大丈夫な体にして、それから……」

「基礎からやります」

叔父と二人で使っているらしい部屋に到着。涼斗は自分の鞄から救急箱を取り出した。チラッと見えた鞄の中身はサバイバルを想定した戦士と女子力が混在しているような混沌としたものだった。

「手当しますね」

涼斗は俺の後ろに回ると前髪を髪留めで持ち上げ、額を丸出しにして手当を行った。彼の素顔を見たい気持ちを抑えて手当が終わるのを待ち、シャツを着てから振り返った。

「……意外とヤバい目してますね」

俺が噛んだ跡の手当をしている涼斗の目はギョロっとしており、普段の温和な雰囲気には似合わない。しかし精神状態が悪くなった時の彼にはピッタリと言える。

「あなたに言われたくありませんよ」

「昔から瞳孔しかないと言われてます」

涼斗自身の手当も終わり、使った道具の片付けも終わり、何をしようかと悩む。

「雪也君、本の話をしたいです」

とりあえず雪兎の元へ行こうかと立ち上がると呼び止められた。

「途中でしたね。俺も話したいです。雪兎も雪風も物語はあまり読まないみたいで」

「凪さんもですよ。凪さんがいない間に……なんて、ふふ……僕がこんなこと考えるなんて」

凪……雪凪、そして雪風…………

「あーっ! 雪風っ……しまった! あのクソ野郎と二人きりじゃねぇかぶっ殺す!」

傷の痛みで忘れるなんて、なんて間抜けな奴だ。俺は慌てて浴場へ向かった、蹴り開けた扉の蝶番が嫌な音を立てたが、今は壊れたかどうかを見ている暇はない。

「クソ……? ぶっ殺す………………させるか」

脱衣所の引き戸を勢いよく開け、跳ね返ってきた引き戸に挟まれ、転びかけながらも飛び込んだ。

「雪風ぇっ! 無事か!」

雪風は既に風呂を上がって着替えを終えていた。服の飾り紐を叔父に結ばせている。

「ほら、この結び方ならほどけないってこの間テレビで見たんだよ」

「へー、流石ニート。役に立つのか微妙な知識蓄えるのは得意だよなぁ。真尋ぉ、どうこの服」

襲われてはいなかった。ひとまず胸をなで下ろし、叔父を睨む。彼は俺を見て眉を顰め、そっぽを向いた。

「ちょっとガキっぽいかなって思ったけどさ、着てみたら案外……真尋っ、後ろ!」

振り返りつつ前に飛ぶ。裁ち鋏が空振り、ギョロっとした目に睨まれる。

「……いやぁ、俺の早とちりでした。何もされてないよな? 疑い過ぎはよくないですね。それじゃ俺は雪風と一緒に雪兎のところに戻るので」

雪風の手を握り、裁ち鋏を握った涼斗を警戒しつつ彼の隣を抜け、間合いを取ったら雪兎の元へ全速力で走る。

「お、お前よく普通に話せたな!? 俺が言ってなかったら脳天に刺さってただろ!」

「下手に喧嘩買った方がヤバいって分かりましたんで! 俺が喧嘩していいのは半グレまでです!」

涼斗が追ってきていないことを確認して胸を撫で下ろし、広間に入る。泥だらけの雪兎と祖父が居た。祖父は酷く不機嫌そうな顔をしている。

「……な、何があったんですか?」

「急に雨が降ってきたからね、ロッジに戻ろうとしたんだけど……車椅子のタイヤ、ぬかるみに沈めちゃって、おじいちゃん落としちゃったんだ」

「…………だからやめろって言ったんだ、お前がこんなもん押す必要はない」

「ごめんなさい……おじいちゃん、早くロッジに連れて行かなきゃって」

どうやら雨に焦った雪兎が使用人が来るよりも前に車椅子を押し、バランスを崩して祖父を投げ出してしまったようだ。しかし怪我はないようでよかった、不幸中の幸いだ。
俺は落ち込んで泣きそうな雪兎を抱き締めてあやし、着替えたばかりの服を泥で汚した。
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