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ふたまた、じゅうろく

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雪風に連れられて彼の寝室に入ると雪兎がベッドの端に座って手帳を読んでいた。俺に掴まられてゆっくりと歩いていた雪風はそれを見て赤い瞳を大きく見開き、俺の手を払ってベッドに飛び乗り、雪兎の手から手帳を奪った。

「人の手帳を勝手に読むなぁっ!」

「……雪風、官能小説書いてたの?」

「分かります。割とそれっぽい文体してました」

手帳に記す妄想にしては妙に比喩表現が多かったのを覚えている。

「ま、真尋……お前も見たのか!」

「あ、うん……雪風が寝てる時に」

「だからあんな俺の希望通りに……!」

雪風は白かった顔を紅潮させて恥ずかしがっている。息子の前で平気で抱かれる彼の羞恥心はよく分からない。

「全く……どいつもこいつも勝手に人の日記を」

「日記なの? 妄想じゃなくて?」

妄想だ。俺はあんな暴力的な抱き方はしていない。

「夢日記。その日見た夢を覚えてる限り書き出してんの」

「カチッカチッ……ウボァ」

「それ夢と現実の区別つかなくなるとか聞くけど大丈夫? ん? ポチ、何か言った?」

「いえ何も」

「そう? まぁいいや、こっちおいで」

雪兎に手招きされてベッドに乗ると仰向けになるよう手で指示され、犬が仰向けになった時のように開脚し、手を顔の横に持ち上げる。

「……っていうか雪風、毎日こんな夢見てるの?」

「いや毎日って訳でもないけど……覚えてない日もあるし」

「うーん……でもさぁ、手足切られて手当されずに抱かれて出血多量で死ぬ夢とか見てたら変になっちゃわない?」

「えっそんな話ありました? 見逃してた……」

また今度読んでおこう、再現する気はもちろんないけれど。しかし雪風の趣味は多岐にわたり過ぎだ。

「今んとこ変にはなってねぇけど」

「けど?」

「真尋……雪兎に会社継がせた後なら……し、してもいいからな? ぁ、俺の死体はメガとギガにやってくれ」

「おかしくなってるね」

夢や妄想で楽しむ分ならなんら問題はないが、して欲しいとか言い出すのなら話は別だ。やったら俺は犯罪者だし。

「俺は雪風を殺したくない。一緒に生きるんだ、ずっと……雪兎と、雪風と、俺と三人で……ずっと、一緒に」

「冗談だって、そんな怒るなよ。っていうか……泣きそう? ごめんな、いや、死にたいんじゃないんだよ真尋、殺されたら興奮するなって話で、死にたくはない」

話を聞いて鮮明に想像して目頭が熱くなった。ご機嫌取りのキスに応え、離れた唇の体温が名残惜しくて間近の美顔を見つめる。

「……真尋ぉ。ずっと先の話になるけどな? 俺達、寿命は違うんだからな」

「雪風……そんな話しないでよ。これからポチを抱くって決めてるのに萎えちゃうじゃん」

「…………そうだな」

雪風は慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、俺と雪兎の頭を撫でる。きっと先に寿命を迎える雪風を二人で見送って、俺達はその後の数十年を二人で過ごす。もし雪兎が先に死んだら俺は後を追うが、俺が先に死んだら雪兎には生きていて欲しい。今ではなくてもいつかその意志を伝えておかなければ。

「大丈夫、真尋。死んだからってお前を一人にはさせねぇよ、俺も雪兎もちゃんとお前の遺骨を腹に納めてやるからさ」

「えっ……ぁ、うん、大丈夫! ポチ、一欠片くらいなら飲んであげるよ」

「なんで俺が先に死ぬ前提なんですか! 歳的に雪風だろ!」

「犬の寿命って人間に比べて短いから……」

「俺人間! 遺骨飲む宣言ドン引きだけどちょっとときめいた自分が憎い!」

暗い雰囲気にしないための雪風のおふざけだろう。それなら全力で乗って暗い雰囲気を吹き飛ばさなければ。
淫靡な雰囲気も吹っ飛んでしまったが、それはすぐに蘇る。
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