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あらためまして
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目を開けると真っ白い天井が一番に目に入った。こういう時に呟くセリフは決まっている。
「……知らない天井だ」
誰も居ないと勝手に思い込んで堂々と呟き、眼球だけで辺りを見回せば、祖父も雪風も雪兎も叔父もその恋人も居た。ここはおそらく病院だろう、消毒液の匂いがする。
恥ずかしい……多分彼らにはネタ通じてないと思うけど、恥ずかしい……
「雪也……起きたか」
「真尋っ! 真尋……よかった、やっと起きたか」
「ポチ、ポチ、大丈夫? 痛くない?」
「大丈夫だろ、石頭なんだし」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ちょっとしたおふざけを挟んだ俺とは真逆に叔父以外はみんな真剣な顔をして俺を心配していた。
「……この阿呆兄貴、いい加減涼斗のメンヘラ治せよ!」
「えー……これが可愛いんだから嫌だよ」
「ごめんなさいぃ……雪也君、ごめんなさい……」
前髪で隠した目を擦って泣いているのを見ると怒る気が失せるし、雪風が叔父に近付くのを阻止するのが先だと雪風の手を掴んだ。
「真尋っ? 真尋、どうした?」
言うことが思い付かないでいると雪兎が靴を脱いでベッドに上ってきた。毛布を挟んで俺の足の上に跨り、額に唇を触れさせた。
「……心配かけたみたいですね、ユキ様」
赤紫の瞳は潤んでいるし、頬には涙の跡がある。
雪兎と雪風の顔を見た瞬間ほど「生きていてよかった」と思うことはなかったし、殴られて意識を失う時ほど「生きたい」と願ったことはなかった。
今までずっと心のどこかが死にたがっていた、車に乗る度、父母を思い出す度、死にたくなっていた。
「雪風も……心配かけたな」
でも俺は本当は生きたかったんだ。愛する家族と共に生きていきたいんだ。
もう事故の記憶を引きずるのはやめにしよう、もう雪兎も雪風も居ない時に「死にたい」と呟くのもやめよう。
俺はきっともう大丈夫になったんだ。雪兎に首輪を引かれて犬だと思い知らされなくても、雪風に甘えて痛みを和らげなくても、二人が居るだけで立てるようになったんだ。
「……おじい様も心配かけましたね」
「心配なんかしてない」
マスクと伊達眼鏡を身に着けた祖父の手には包帯が巻かれていた。
「手、大丈夫ですか?」
「利き手なのに折れてる、大丈夫な訳ないだろ」
「ごめんなさいぃ……いくらでも払います……」
ヒビが入ったかもとは聞いたが折れていたとは……俺を庇って手を折るなんて、俺を孫だと認めてくれている証拠だ。
「……そうだ聞いてくれよ真尋ぉ、俺とユキが病院着いてすぐに親父なんて言ったと思う? 泣きながら「守れなくてごめんなさい」って……痛ぁっ!? 小指! 小指折れた!」
祖父は怪我をしていない方の手で携帯端末を雪風の足に投げ落とした。病院内だしスリッパでも履いていたのだろう、痛いだろうが折れてはいないと思う、むしろ携帯端末の方が心配だ。
「……叔父さん、なんで来たんですか」
「え? やだな、勘違いしないでよ、涼斗さんの付き添いだから」
叔父は恋人の腰に腕を回して微笑んだ。
「…………涼斗さん、ありがとうございました」
「ごめんなさいっ! え……? な、何を言うんですか、雪也君……」
「おかげさまで、俺……死にたくないんだなって分かりました」
彼のおかげで近道ができた。頭は痛いが心は楽になった。
「それは別として慰謝料寄越せよ、真尋の分と親父の分」
「いいじゃん、犬なんとかさん怒ってないんだし」
「涼斗、お前に言ってるんだ」
「わ、分かってます……ちゃんと払います……」
気分的には俺はもういいのだが、俺の気分で決めていい問題でもない。法外な請求をするつもりなら止めるけれど、基本は任せよう。
「……ぁ、ところでさ、俺前から病院でヤってみたかったんだよね。起きたならベッド空けてよ」
生きるということ、死ぬということ、そんな難しい問題に自分の中で区切りを付けられた。だから頭を殴られた恨みも怒りもないけれど、やっぱり叔父への苛立ちは溜まるばかりだ。
「……知らない天井だ」
誰も居ないと勝手に思い込んで堂々と呟き、眼球だけで辺りを見回せば、祖父も雪風も雪兎も叔父もその恋人も居た。ここはおそらく病院だろう、消毒液の匂いがする。
恥ずかしい……多分彼らにはネタ通じてないと思うけど、恥ずかしい……
「雪也……起きたか」
「真尋っ! 真尋……よかった、やっと起きたか」
「ポチ、ポチ、大丈夫? 痛くない?」
「大丈夫だろ、石頭なんだし」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ちょっとしたおふざけを挟んだ俺とは真逆に叔父以外はみんな真剣な顔をして俺を心配していた。
「……この阿呆兄貴、いい加減涼斗のメンヘラ治せよ!」
「えー……これが可愛いんだから嫌だよ」
「ごめんなさいぃ……雪也君、ごめんなさい……」
前髪で隠した目を擦って泣いているのを見ると怒る気が失せるし、雪風が叔父に近付くのを阻止するのが先だと雪風の手を掴んだ。
「真尋っ? 真尋、どうした?」
言うことが思い付かないでいると雪兎が靴を脱いでベッドに上ってきた。毛布を挟んで俺の足の上に跨り、額に唇を触れさせた。
「……心配かけたみたいですね、ユキ様」
赤紫の瞳は潤んでいるし、頬には涙の跡がある。
雪兎と雪風の顔を見た瞬間ほど「生きていてよかった」と思うことはなかったし、殴られて意識を失う時ほど「生きたい」と願ったことはなかった。
今までずっと心のどこかが死にたがっていた、車に乗る度、父母を思い出す度、死にたくなっていた。
「雪風も……心配かけたな」
でも俺は本当は生きたかったんだ。愛する家族と共に生きていきたいんだ。
もう事故の記憶を引きずるのはやめにしよう、もう雪兎も雪風も居ない時に「死にたい」と呟くのもやめよう。
俺はきっともう大丈夫になったんだ。雪兎に首輪を引かれて犬だと思い知らされなくても、雪風に甘えて痛みを和らげなくても、二人が居るだけで立てるようになったんだ。
「……おじい様も心配かけましたね」
「心配なんかしてない」
マスクと伊達眼鏡を身に着けた祖父の手には包帯が巻かれていた。
「手、大丈夫ですか?」
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「ごめんなさいぃ……いくらでも払います……」
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「……そうだ聞いてくれよ真尋ぉ、俺とユキが病院着いてすぐに親父なんて言ったと思う? 泣きながら「守れなくてごめんなさい」って……痛ぁっ!? 小指! 小指折れた!」
祖父は怪我をしていない方の手で携帯端末を雪風の足に投げ落とした。病院内だしスリッパでも履いていたのだろう、痛いだろうが折れてはいないと思う、むしろ携帯端末の方が心配だ。
「……叔父さん、なんで来たんですか」
「え? やだな、勘違いしないでよ、涼斗さんの付き添いだから」
叔父は恋人の腰に腕を回して微笑んだ。
「…………涼斗さん、ありがとうございました」
「ごめんなさいっ! え……? な、何を言うんですか、雪也君……」
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