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けいたいでんわ、いち

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雪兎の夏休みが終わり、俺に再び数時間の暇がやってきた。玩具や拘束で責められながら数時間放置されるよりは、首輪の紐すら外されて邸内を自由に探索できる方がいい。そう思ってはいるが何か物足りない。

「淫乱すぎるだろお前……」

学校から帰ってから必ず抱いてくれる訳ではない、宿題があるとか疲れているとか言って、玩具ですら遊んでくれずに寝てしまうことも多い。
そんな日々に不満を覚えてしまう自らの淫らさを自分で罵ってみても何も感じない。雪兎に言われたならきっと悦べるのに。
せめて雪兎のシャツの一枚でもあれば……と枕に顔を埋めて雪兎の残り香を探していると、扉がノックされた。

「はーい」

雪兎ならベッドに寝転がったまま返事をして入らせるが、俺は跡継ぎではないのでそんな大きな態度は取らない。ちゃんと扉を開ける。

「おはようございます、どうしました?」

「ポチさんにこちらをと」

使用人が渡してきたのは携帯端末。俺が知っているものより大きい。

「え……なにこの変なカメラ」

「あと一ヶ月もしないうちに発売される最新機種です、今度のものはカメラの性能がいいようですね」

「三つ……三つかぁ、うーん……ん? 待ってください発売まだなんですよね?」

「えぇ……九月? の中旬だそうです」

今は盆が終わってしばらく、八月の下旬。富豪だからといって発売前に手に入れられるものなのか? この家の権力はよく分からないな……

「雪成様が用意してくださったんですよ、お礼のメッセージはちゃんと送ってくださいね」

「はぁ……ありがとうございます」

「そうそう、こちら当主様と雪兎様の電話番号とメールアドレスとQRコードとIDと……」

わざわざコピーしてきたのか、雪兎達の連絡先が印刷された紙を渡される。

「あ、ど、どうも……」

「それでは失礼します」

軽く頭を下げ、携帯端末の電源を──っと、電源は入っていた。初期設定は済まされているようだ、すぐに使えるようにされている。とりあえず雪兎達の番号を登録しておこうと電話帳を開くと、雪成という名が既に登録されていたので、電話をかけてみた。

「かけてくるな」

すぐに出てくれたが、すぐに切られた。もう一度かけてみよう。

「殺すぞ」

また切られた。今度はかけてすぐに話してみよう。

「ケータイありがとうございます」

「……それだけか?」

「もしかして俺のこと気に入ってくれまし……あれ、ちょっと……切られた」

まぁ祖父と必要以上に仲良くする気はない。親子三代と肉体関係とか流石に嫌だし、還暦だし……でも見た目は雪兎より幼いし……好みだし…………落ち着け俺、旅行の修羅場を忘れるな。今度こそ雪兎に刺される。そもそも仲良くするイコール肉体関係ってどういう思考回路なんだ、自分で自分が怖い。

「雪兎入れて、雪風入れて……他のメッセージアプリも……」

操作は俺が持っていた携帯端末と大して変わっていない。直感操作が可能な精密機器というのは素晴らしいものだ。

「……雪兎は学校か、雪風は……?」

電話をかけてみたが出てくれなかった。知らない番号だからなのか仕事中だからなのか……まぁいいや、ネットサーフィンでもしよう。
最新のゲーム情報やアニメや映画の情報を漁っているうち、情報だけ仕入れたところでこの部屋にはテレビもゲーム機もなく、俺は映画館どころか敷地外にも出られないことを思い出し、虚しくなってやめた。
まぁこれからは雪兎の写真を何枚でも撮れるのだから……とまだ真っ白なフォルダを眺めて口元を歪めていると、電話がかかってきた、雪風からだ。

『もしもし、真尋か?』

「雪風? うん、携帯もらったんだよ、仕事中?」

『ひと段落ついた』

電話越しだと少し声が違うような気もするが、顔を見なくても話をするだけで頬が緩む。

『真尋は? 今暇?』

「あぁ、俺は雪兎が帰ってくるまでめちゃくちゃ暇だけど」

『ふーん……なぁ、ビデオ通話ってあるだろ? やってみろよ』

「え? あぁ、これか……」

そういえばそんな機能もあったな、これなら顔を見て話せる、雪風の笑顔が見られる。珍しく純粋に喜んだ俺の心は映し出された雪風の姿を見て途端に穢れた。

『……何とぼけた顔してんだよ、まーひろっ』

「えっ……いや、なんで脱いでるんだよ!」

『脱いでるとは言わないだろ』

バレンタイン前だったか、雪風が住んでいると言っていい社長室に行ったことがある。あの部屋だ、あの上等な椅子に座り、雪風はシャツのボタンを外して胸元を露出させていた。ネクタイは解かずに緩め、ジャケットも袖は通したまま、シャツを無理矢理引っ張って胸だけを晒していた。
白いジャケットに白いシャツに白い肌、白いネクタイが胸の真ん中を降りて、薄桃色の乳首だけが目立つ。

『…………見てて、真尋』

綺麗に切られた形のいい爪が胸の先端を摘む。勃ち始めていた乳頭をくにくにと弄り、頬を紅潮させていく。

『真尋にされてると思って、してるから……すぐ、反応するな……見られてるしっ、いつもより……はや、い……かも』

「……雪風」

『ぁ……! もっと、呼んで、まひろぉ……』

雪風は蕩けた赤い瞳を画面越しに俺に向け、携帯端末に接続しているのだろうイヤホンを耳に挿した。
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