俺の名前は今日からポチです

ムーン

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めいどこす、に

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雪風は……おっと、メイドは俺の腰に座り、上体を倒して両の手のひらを背中に当てた。親指を背骨に添わせ、掴むように背筋を揉んでいく。

「ぁ……気持ちいい、肩もお願い……」

深いため息が頭の上から降ってくる。
肩甲骨を越え、首の後ろに親指を当て、首から肩にかけての筋肉を揉む。

「はぁっ……気持ちいい、もっと強くっ……ぅん、そう……ぐりぐりって……はぁんっ……!」

「……ムラムラするー」

「んっ……後で、な…………ぁあっ、いい……そこきもちぃ……」

「…………流石、俺。マッサージの才能もあったんだなー、ははは……」

メイド……いや、雪風の声が単調だ。真顔なんだろうな。焦らして悪いがマッサージが本当に気持ちいいので仕方ない。なんか眠くなってきたな……

「……ん? おい、真尋? 真尋ー?」

雪風の声が遠く聞こえる。マッサージで血行が良くなって──というやつだろうか。ぬるま湯に浸かっているような気分だ。ゆっくり、ゆっくりと夢と現の境目がぼやけ、夢の方へ落ちていく──

「…………はっ! やばい寝てた。雪風ごめん……うわ暗っ!」

ほんの一瞬前まで真昼間で部屋に陽光が射し込んでいたはずなのに、今は月明かりすら見えない。そっと起き上がり周囲に人気がないと気付く。手を振り回すと座布団と背の低い机を見つけた。

「…………っ、暗い……嫌……嫌っ、起きて……返事して」

何も見えないはずなのに、眩いヘッドライトが真正面に見えた。何も聞こえないはずなのに、車が正面衝突する轟音が聞こえた。誰も居ないはずなのに、呻きもしない父母が居る気がした。

「誰、か……助けて。嫌だ……」

真っ暗な山道で両親の死体の傍で雨に打たれている。救急車に乗って、病院で、医者に首を振られた。

「嫌っ、嫌、嫌……ぁ、あっ、ぅあああぁあっ!」

大勢の足音がこちらに向かってくる。襖が開け放たれ、電灯が点る。スーツとサングラスの男達に囲まれて、背を摩られる。しかし、呼吸は一向に整わない。

「ポチさん、ゆっくり深呼吸してください、過呼吸になっちゃいます。吸って、吐いて……あぁダメですって、ちゃんとゆっくり……」

「ゆ、きっ……ユキ様ぁっ……」

「雪兎様は居ません。落ち着いてください」

雪兎に首輪を引っ張ってもらわなければ、ポチと呼んでもらわなければ、犬にしてもらわなければ。両親を失ったのは、あの事故に遭ったのは別人だと教えてもらわなければ──

「真尋っ! どうした!」

違う。真尋じゃない。真尋は嫌だ。奇跡の生還者になんてなりたくなかった、一緒に死にたかった。

「アンタがどうした何だそのカッコ!」

「先輩! 当主様になんて口の利き方を……何ですかそのカッコ!」

俺を囲んでいた使用人達が割れて道を作り、ミニスカのメイド服に着替えたらしい雪風がやって来る。俺の顔を持ち上げ、涙を拭った。

「真尋、大丈夫か? どうした?」

「ぁ、ゆ、ゆきっ……」

「あぁ、雪風だ。俺はここだ」

そっと唇が重なり、忘れていた呼吸の仕方を教えられる。少し落ち着いて雪風を抱き締めれば他人の体温も手に入って、更に落ち着く。

「……すいません。ちょっと夢見が悪かっただけで……お騒がさせして本当にごめんなさい」

使用人達は納得がいっていないふうにしながらも部屋を出ていった。腕を下ろし、少し離れた雪風を眺める。股下五センチもないミニスカートに、肌が透けて見える靴下を留めるガーターベルト。背中を肩甲骨の下辺りまで覆った黒い革は腹筋をほとんど露出させて交差した細い紐で留められている。ファッション的な意味でのボンテージ……と言ったところか。

「……真尋? 本当に大丈夫か?」

胸元には劣情を煽る革すらないが、フリル過剰のエプロンによって何とか隠れている。しかし今のように座り込んで見上げられたりすると胸元が丸見えになる。エプロンは緩く結ばれている、横からも見えるだろう。

「雪風……」

肩甲骨から上は完全に露出している。エプロンの肩紐くらいか? 背に手を回すと素肌に触れる。メイド服なのかボンテージなのか裸エプロンなのか……何だこのカッコ。

「…………その服……」

「ん? あぁ、可愛い?」

「可愛い……立って見せてくれ」

心配そうな表情を嬉しそうな笑顔に変えて立ち上がり、くるっと回った。座り込んだ俺の前で立てばスカートの中が見えると分かっているのだろうか。短いエプロンとスカートの下、鈴付きの黒いレースの下着、ガーターベルトが太腿の中心に描く黒い線、全て見えている。

「どうだ? 似合うか? 可愛い?」

「……めちゃくちゃ可愛い」

肌が薄らと透ける網目の靴下に太腿の中程まで包まれた足を抱き寄せる。膝の凹凸が扇情的だ。その上の太腿に頬を触れさせ、スカートの中をじっくりと眺めた。
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