俺の名前は今日からポチです

ムーン

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俺との抱擁を終え、雪兎は機械を片付ける。凹んでいるだとか部品が取れただとか聞こえたけれど、自業自得なので無視して着替えを進めることにした。
機械は修理すると決めたようで雪兎は使用人を呼び付けた。暴力団関係者を確信する強面が部屋に入る頃には俺はもう服を着ていたから、特に意味もなく笑顔で出迎えた。

「……え? 嘘。うん……分かった」

機械を持っていくついでに使用人は雪兎に耳打ちした。

「ポチポチポチポチ聞いて聞いて」

「めっちゃボタン押してるみたいですね」

俺に伝えるのを止めないのなら耳打ちなんてしないで欲しい、嫉妬してしまう。俺もこの可愛らしい耳に内緒話をするふりをして甘噛みしてやりたい。

「あのね、少し前に叔父さん出てったでしょ?」

「あぁ、はい。あのクズが何か」

「クズって普通に言うのやめてね。叔父さん、うちの敷地出たところで刺されたんだよ」

刺された? 俺が刺されろと願っていたとか刺されそうと言っていたとか、そんなのは関係ないよな?

「雪風と間違えられたのかな……怖いよね。警備の人達がすぐに止めに入ったから大したことはないみたいなんだけど。ちょっとお見舞い行こっか」

「……お見舞い? 今からですか? 明日でいいでしょ、面会時間終わってますって」

「何言ってんの。一階にあるの知ってるでしょ? ポチも風邪引きかけた時泊まったし僕の看病でも来たでしょ?」

あの学校の医務室のような部屋か。確かに学校ね医務室程度には設備は整っていたが、刺傷にも対応していたのか。

「……そうですね、燃やす前に顔見てあげましょうか」

「生きてるよ」

「生きててもいいから燃やしません?」

「……ポチ、怖いよ」

「あぁすいませんすいません冗談ですよ、ブラックが過ぎましたかね」

部屋で過ごすだけなら要らないだろうと抜いていたベルトを締め、首輪がなくて落ち着かないのを雪兎と手を繋ぐことで紛らわしつつ、例の部屋に到着。

「はははは……ぁ、ん? ユキ! と……犬!」

扉を開けてすぐ、腹を抱えて笑っている雪風に手を振られる。条件反射のように手を振り返し、雪兎に足を踏まれる。

「見ろ、ユキ。これが馬鹿だ……ふっ、ふふ、はははっ! ざまぁ!」

「…………傷に響く」

「響け響けバーカバーカ不倫兄貴ー」

雪風は心の底から楽しそうに笑い、叔父が寝かされているベッドを蹴っていた。今までなら呆れたところだが、今はその無邪気な笑顔が可愛らしく思えてしまう。

「やめなよ雪風、バカはどう見ても雪風の方だよ」

「バーカバーカはバカっぽすぎますよね」

「お前らどっちの味方だ薄情者!」

兄が怪我をしているのにベッドを蹴るような奴に薄情者とは言われたくない。だが、叔父は蹴られて然るべしのクズだ。

「俺も蹴っていいですか」

「蹴れ蹴れ蹴ってやれ」

「ダメだよポチ、めっ!」

蹴ってやりたいが、ここは雪兎に従っておかなければ後が怖い。雪風の言うことを聞いて──なんて詰められ方をするのは分かり切っている。
俺は雪風を押しのけ、雪兎をベッド横の丸椅子に座らせた。
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