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ぼうりょく
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俺が目を奪われた花瓶は造花らしき名前の分からない花が飾られており、それが刺さった口は細く、底の方にかけて丸くなる──握って振りやすい形をした花瓶だった。
俺は無意識にその花瓶に手を伸ばしていて、視線は俺の顔をパソコンに向けようとする叔父に移っていた。
何かが割れる音が部屋に響き渡り、気が付けば俺は割れた花瓶と膝をついた叔父を見下ろしていた。
「いっったぁ……」
叔父は側頭部を押さえ、蹲っていく。
俺はその前に屈み、手頃な破片を手に取った。顔を上げた叔父は慌てた顔で俺の手を掴む。
「あのさぁっ……確かに俺は勘当されてるしニートだよ? だからってさ、殺したら騒ぎにはなるよ?」
手首を掴む力と手のひらに刺さった破片の痛みに我に返り、破片を落として叔父の手を払った。
「…………すいません、ついカッとしちゃって」
「殴るまではそれでいいとしても破片拾ったのはかなり冷静な行動だと思うな?」
「……短絡的だったとは思いますけど、悪いことしたとは思ってませんよ。次があれば一度で仕留めます」
頭の痛みはまだあるらしく、叔父はまた側頭部に手を添える。その隙を狙ってポケットから携帯を抜き出した。
「あの動画って他に移してあります?」
「……いや、恋人に見られると刺されるからそれに移して消したけど」
「…………了解でーす」
破壊してもカードがあれば復元される。完全に処分しなければならない。トイレにでも流そうか。
興奮していて考えがまとまらない俺は先程教えられた寝室への扉を抜け、簡易的な鍵をかけて携帯を部屋の端に投げた。
「なぎ……?」
弱々しい声が聞こえる。ベッドの上に毛布にくるまった雪風が居た。
「……何してんですか、クソ暑いのに」
「まひろっ、真尋……助けて」
毛布を剥がすと雪風が後ろ手に縛られているのが分かった。
「縄、ですか。うわ硬い」
「荒い縄で手首痛くてさ……手で解くのはキツいだろうから、隣の部屋の……花瓶とかパソコンとか置いてるいかにもな仕事机あったろ? あの引き出しに鋏入ってるから、それで切ってくれ」
指が痛い、チクチクと爪の間にまで刺さってくる。だが、解くのはそう難しくもなさそうだ。
「…………真尋? 聞いてたか? 鋏……え、要らない? 嘘だろお前……どういう手してんだ」
縄を解くと雪風はゆっくりと慎重にベッドを降り、俺に掴まりながら立った。
「まだ何かあるんですか?」
「……オモチャ、な? 二個くらいな? 後ろに……突っ込まれてさぁ…………動いてないからマシなんだけど、痛いし……苦しいし」
「…………下脱いで下さい」
「待っ、待て待て真尋……いいか、二個だ、細いけど長めでデコボコがエグいのが二個だ。分かるだろ……? 痛いとか裂けるとかそんなんじゃなくて、下手すりゃ腸に穴が空く。考えてみろ真尋、医者からすれば一人で無茶で馬鹿なことやった馬鹿だ。この雪風様が、当主様が、変態の馬鹿だ……」
「……変態の馬鹿には違いないでしょ? 気を付けますからズボン脱いで後ろ向いてください」
割と平気そうな雪風の様子に辛辣な物言いをしてしまったが、今すぐこの部屋を出て叔父を殴りたい気分だ。
「真尋真尋まひろぉっ! 待て、真尋……俺なんかもうこのままでいい気がしてきた」
「…………殴って気ぃ飛ばしますよ?」
「待って待って待って真尋! まーひーろぉー! そこっ、そこのな、引き出しにローションあるから……せめて、それ使って……ゆっくり、ゆっくりだぞ?」
深いため息を見せびらかすようについて、雪風の濡れた頬を親指で拭う。驚いたように目を見開く雪風の髪を撫で、言われた引き出しを漁った。
俺は無意識にその花瓶に手を伸ばしていて、視線は俺の顔をパソコンに向けようとする叔父に移っていた。
何かが割れる音が部屋に響き渡り、気が付けば俺は割れた花瓶と膝をついた叔父を見下ろしていた。
「いっったぁ……」
叔父は側頭部を押さえ、蹲っていく。
俺はその前に屈み、手頃な破片を手に取った。顔を上げた叔父は慌てた顔で俺の手を掴む。
「あのさぁっ……確かに俺は勘当されてるしニートだよ? だからってさ、殺したら騒ぎにはなるよ?」
手首を掴む力と手のひらに刺さった破片の痛みに我に返り、破片を落として叔父の手を払った。
「…………すいません、ついカッとしちゃって」
「殴るまではそれでいいとしても破片拾ったのはかなり冷静な行動だと思うな?」
「……短絡的だったとは思いますけど、悪いことしたとは思ってませんよ。次があれば一度で仕留めます」
頭の痛みはまだあるらしく、叔父はまた側頭部に手を添える。その隙を狙ってポケットから携帯を抜き出した。
「あの動画って他に移してあります?」
「……いや、恋人に見られると刺されるからそれに移して消したけど」
「…………了解でーす」
破壊してもカードがあれば復元される。完全に処分しなければならない。トイレにでも流そうか。
興奮していて考えがまとまらない俺は先程教えられた寝室への扉を抜け、簡易的な鍵をかけて携帯を部屋の端に投げた。
「なぎ……?」
弱々しい声が聞こえる。ベッドの上に毛布にくるまった雪風が居た。
「……何してんですか、クソ暑いのに」
「まひろっ、真尋……助けて」
毛布を剥がすと雪風が後ろ手に縛られているのが分かった。
「縄、ですか。うわ硬い」
「荒い縄で手首痛くてさ……手で解くのはキツいだろうから、隣の部屋の……花瓶とかパソコンとか置いてるいかにもな仕事机あったろ? あの引き出しに鋏入ってるから、それで切ってくれ」
指が痛い、チクチクと爪の間にまで刺さってくる。だが、解くのはそう難しくもなさそうだ。
「…………真尋? 聞いてたか? 鋏……え、要らない? 嘘だろお前……どういう手してんだ」
縄を解くと雪風はゆっくりと慎重にベッドを降り、俺に掴まりながら立った。
「まだ何かあるんですか?」
「……オモチャ、な? 二個くらいな? 後ろに……突っ込まれてさぁ…………動いてないからマシなんだけど、痛いし……苦しいし」
「…………下脱いで下さい」
「待っ、待て待て真尋……いいか、二個だ、細いけど長めでデコボコがエグいのが二個だ。分かるだろ……? 痛いとか裂けるとかそんなんじゃなくて、下手すりゃ腸に穴が空く。考えてみろ真尋、医者からすれば一人で無茶で馬鹿なことやった馬鹿だ。この雪風様が、当主様が、変態の馬鹿だ……」
「……変態の馬鹿には違いないでしょ? 気を付けますからズボン脱いで後ろ向いてください」
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「真尋真尋まひろぉっ! 待て、真尋……俺なんかもうこのままでいい気がしてきた」
「…………殴って気ぃ飛ばしますよ?」
「待って待って待って真尋! まーひーろぉー! そこっ、そこのな、引き出しにローションあるから……せめて、それ使って……ゆっくり、ゆっくりだぞ?」
深いため息を見せびらかすようについて、雪風の濡れた頬を親指で拭う。驚いたように目を見開く雪風の髪を撫で、言われた引き出しを漁った。
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