272 / 667
おじ
しおりを挟む
帰国からもう一週間、時差ボケが完全に治る頃、俺は以前の日常を完全に取り戻していた。そして、その日常は早々に壊れた。
学校に行く雪兎を見送り、やる事もないので二度寝を始めて数分。ベッドが微かに軋んで右肩の隣にマットが沈む感覚があって飛び起きる。
「雪かっ……ぜ、じゃない……?」
座った男は驚いた顔をしていた。俺が眠っていると思っていたのか知らないが、今この部屋で驚く権利があるのは俺だけだ。
「……久しぶり、えっと……犬なんとかさん」
雪風に瓜二つの顔で微笑む右眼を眼帯で隠した男。雪風や雪兎より髪の色が濃く、瞳は翠を混じらせた青だ。
「ポチです……いや、えっと……叔父さんでしたっけ、何してるんですか」
玩具を付けっぱなしにされていないで良かったと心底思う。一応シャツは着ているし、今の俺におかしなところは──首輪があった、おかしいのは首輪を気にしなくなっている俺の頭だ。
「近くまで来たから不法侵入したよ」
「へぇ……は!? 不法侵入!? ここに!?」
「趣味でね」
「何が!?」
「法を犯すのが……ふふ、言っちゃった。恥ずかしいな」
勘当される訳だ。金と権力で誤魔化せる種類と量には限度がある。法治国家としては誤魔化されて欲しくはないけれど。
「……いや、この家に侵入とか不可能じゃないですか?」
「そんなことないよ。恋人に頼んで使用人さん達の個人情報握って、真正面からそれチラつかせればこっそり入れてくれるよ。共犯者がいっぱい、ふふ」
近くまで来たから、という理由の割に計画的だ。
雪風よりタチが悪いのではないだろうか。兄は弟に勝るものなのか。クズっぷりは競わないで欲しい。
「…………恋人さんあの後大丈夫でした?」
「何が?」
「何がって、旅行中に振り切ったんでしょ?」
「平気平気、俺にめちゃくちゃ惚れてるから。多少扱い悪くても我慢するよ」
「クズい……」
個人情報で脅したり愛情を利用したり、しかもそれを笑って話すその精神。これが義父でなくてよかった。
足を揺らして談笑するだけの彼にいつの間にか気を許し、視線を外したその時、首輪が後ろに思い切り引っ張られ、俺はベッドに倒れた。彼は素早く俺の腹の上に馬乗りになり、革靴を履いたままの足で腕を踏んだ。
「油断しちゃダメだよ? 犬なんとかさん」
「……降りろ」
「相変わらず怖い顔するねぇ」
右腕を踏んでいた足が少しずつ肩に上り、爪先が頬をつつく。
「躾、出来てないんじゃないの? まぁアレの息子に躾なんて出来るわけないか」
「…………くらすぞ」
「方言出てるよ? ふふ、まぁ……あんまり怒らせると、君怖いからなぁ」
足は肩からも腕からも離れ、降りようというのか俺の胸に手をついた。
「ちょっと待って、腰……かなり、危ない」
立とうとした体勢のまま静止する。
顔はかなり真剣なものだ、無理に動かして身体を痛めてもらっても……いいかもしれないが、後々面倒臭そうだ。
俺は大人しく彼が自力で立つのを待つことにした。そう決めた直後部屋の扉が勢いよく開いた。
学校に行く雪兎を見送り、やる事もないので二度寝を始めて数分。ベッドが微かに軋んで右肩の隣にマットが沈む感覚があって飛び起きる。
「雪かっ……ぜ、じゃない……?」
座った男は驚いた顔をしていた。俺が眠っていると思っていたのか知らないが、今この部屋で驚く権利があるのは俺だけだ。
「……久しぶり、えっと……犬なんとかさん」
雪風に瓜二つの顔で微笑む右眼を眼帯で隠した男。雪風や雪兎より髪の色が濃く、瞳は翠を混じらせた青だ。
「ポチです……いや、えっと……叔父さんでしたっけ、何してるんですか」
玩具を付けっぱなしにされていないで良かったと心底思う。一応シャツは着ているし、今の俺におかしなところは──首輪があった、おかしいのは首輪を気にしなくなっている俺の頭だ。
「近くまで来たから不法侵入したよ」
「へぇ……は!? 不法侵入!? ここに!?」
「趣味でね」
「何が!?」
「法を犯すのが……ふふ、言っちゃった。恥ずかしいな」
勘当される訳だ。金と権力で誤魔化せる種類と量には限度がある。法治国家としては誤魔化されて欲しくはないけれど。
「……いや、この家に侵入とか不可能じゃないですか?」
「そんなことないよ。恋人に頼んで使用人さん達の個人情報握って、真正面からそれチラつかせればこっそり入れてくれるよ。共犯者がいっぱい、ふふ」
近くまで来たから、という理由の割に計画的だ。
雪風よりタチが悪いのではないだろうか。兄は弟に勝るものなのか。クズっぷりは競わないで欲しい。
「…………恋人さんあの後大丈夫でした?」
「何が?」
「何がって、旅行中に振り切ったんでしょ?」
「平気平気、俺にめちゃくちゃ惚れてるから。多少扱い悪くても我慢するよ」
「クズい……」
個人情報で脅したり愛情を利用したり、しかもそれを笑って話すその精神。これが義父でなくてよかった。
足を揺らして談笑するだけの彼にいつの間にか気を許し、視線を外したその時、首輪が後ろに思い切り引っ張られ、俺はベッドに倒れた。彼は素早く俺の腹の上に馬乗りになり、革靴を履いたままの足で腕を踏んだ。
「油断しちゃダメだよ? 犬なんとかさん」
「……降りろ」
「相変わらず怖い顔するねぇ」
右腕を踏んでいた足が少しずつ肩に上り、爪先が頬をつつく。
「躾、出来てないんじゃないの? まぁアレの息子に躾なんて出来るわけないか」
「…………くらすぞ」
「方言出てるよ? ふふ、まぁ……あんまり怒らせると、君怖いからなぁ」
足は肩からも腕からも離れ、降りようというのか俺の胸に手をついた。
「ちょっと待って、腰……かなり、危ない」
立とうとした体勢のまま静止する。
顔はかなり真剣なものだ、無理に動かして身体を痛めてもらっても……いいかもしれないが、後々面倒臭そうだ。
俺は大人しく彼が自力で立つのを待つことにした。そう決めた直後部屋の扉が勢いよく開いた。
0
お気に入りに追加
1,424
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる