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きこく
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車は小さな飛行場へと到着する。小さいながらその警備の厳重さは大きな空港よりも上だ。
その中に入ると車の速度も落ち着き、見覚えのあるビジネスジェットの横に停まった。
「……俺も帰ろうかな。そろそろ日本が恋しい」
「…………恋人さんは?」
「俺よりしっかりしてるから一人でも帰ってこれるよ」
「何でこれと付き合えてるんですかその人……ユキ様?」
「名前も顔も知らない、分かんないよ。弱味握ってるんじゃない?」
飛ぶ準備が出来るまでは外に出るなと言われ、シートベルトを外して待機する。車を出たらすぐに乗り込めだとか、その間雪兎を庇えだとか、何を警戒しているのかも分からないが薄ら寒さを感じた。
「電話鳴ってますけど」
「次で百回目だね、次出るよ」
叔父はそう言って着信が切れるまで待ち、次の着信をコール音が鳴る前に出た。
「……もしもし、凪です。はい、すいません……はぐれてしまって。先にホテルに帰っててください。そうですね、十分くらいで戻ります。道に迷いはしましたけど、もう分かりましたから。はい……一人でおもちゃで遊んでいてください、帰ったらすぐに……ね?」
先程までどこかぶっきらぼうだった声色は甘く優しく変わり、話し方も穏やかなものになる。電話が切れると同時に車のすぐ側にタラップが下りた。
「……ねぇ、十分でこのホテル行ける? 行けなかったら…………そうだねぇ、君、娘……来月生まれるんだって?」
「じゃ、叔父さんまたね!」
嫌な脅し方をしている叔父を横目に車を降り、言いつけ通り雪兎を庇いながら飛行機に乗り込んだ。
丸い窓を覗けば乱暴な運転で飛行場を後にする車が見えた。運転手とその家族が幸せに暮らせることを願いつつ、今度は機内のシートベルトを締めた。
「……あの人って正月居ました?」
「叔父さんは勘当されてるから親戚の集まりには来ないよ。他の親戚からも縁切られてる、雪風とだけ連絡取り合ってるんだよね。僕も会ったの何年ぶりかだよ、電話も禁止だし……」
「…………勘当って、何かしたんですか?」
「僕が生まれる前の話なんだよね。確か、機密漏洩……? あと、麻薬……いや、えっと…………んー、よく知らないや」
関わらない方がいいということだけは分かった。大して興味はないし、今度雪風と話す機会があってどうしても雑談しなくてはならなくて話のネタがなかったら聞いてみよう。多分、そんなことにはならない。
「にしても……まさかの帰国ですね。何があったんでしょう」
「知らないよ、まだ行きたいところもやりたいこともあったのに……」
「まぁまぁ、またの機会に、ね?」
「うん……ねぇ、ポチ、膝乗っていい?」
窓の外、眼下には雲の海が見えた。飛行は安定しているようだし多少動いても構わないだろう。俺はシートベルトを外し、組んでいた足を下ろして腕を広げた。
「ポチの膝は僕の特等席、他の人座らせちゃダメだよ?」
「もちろんですよ」
「そもそも、僕以外の人に簡単に触られちゃダメなんだからね?」
「分かってますよ、そうそうユキ様以外に関わることなんてないでしょう?」
旅行でもなければ家の外どころか部屋の外にすら出られない。雪兎以外に会うのは使用人程度で、彼らも積極的に関わっては来ない。
「……俺にはユキ様しか居ませんよ」
そう、雪兎は俺の全て。今度こそ失うことのない、絶対的な俺の存在意義。
俺は照れたように笑う雪兎の頭を撫でながら、雪兎が聞けば気味悪がるような愛の言葉を心の中で吐き続けた。
その中に入ると車の速度も落ち着き、見覚えのあるビジネスジェットの横に停まった。
「……俺も帰ろうかな。そろそろ日本が恋しい」
「…………恋人さんは?」
「俺よりしっかりしてるから一人でも帰ってこれるよ」
「何でこれと付き合えてるんですかその人……ユキ様?」
「名前も顔も知らない、分かんないよ。弱味握ってるんじゃない?」
飛ぶ準備が出来るまでは外に出るなと言われ、シートベルトを外して待機する。車を出たらすぐに乗り込めだとか、その間雪兎を庇えだとか、何を警戒しているのかも分からないが薄ら寒さを感じた。
「電話鳴ってますけど」
「次で百回目だね、次出るよ」
叔父はそう言って着信が切れるまで待ち、次の着信をコール音が鳴る前に出た。
「……もしもし、凪です。はい、すいません……はぐれてしまって。先にホテルに帰っててください。そうですね、十分くらいで戻ります。道に迷いはしましたけど、もう分かりましたから。はい……一人でおもちゃで遊んでいてください、帰ったらすぐに……ね?」
先程までどこかぶっきらぼうだった声色は甘く優しく変わり、話し方も穏やかなものになる。電話が切れると同時に車のすぐ側にタラップが下りた。
「……ねぇ、十分でこのホテル行ける? 行けなかったら…………そうだねぇ、君、娘……来月生まれるんだって?」
「じゃ、叔父さんまたね!」
嫌な脅し方をしている叔父を横目に車を降り、言いつけ通り雪兎を庇いながら飛行機に乗り込んだ。
丸い窓を覗けば乱暴な運転で飛行場を後にする車が見えた。運転手とその家族が幸せに暮らせることを願いつつ、今度は機内のシートベルトを締めた。
「……あの人って正月居ました?」
「叔父さんは勘当されてるから親戚の集まりには来ないよ。他の親戚からも縁切られてる、雪風とだけ連絡取り合ってるんだよね。僕も会ったの何年ぶりかだよ、電話も禁止だし……」
「…………勘当って、何かしたんですか?」
「僕が生まれる前の話なんだよね。確か、機密漏洩……? あと、麻薬……いや、えっと…………んー、よく知らないや」
関わらない方がいいということだけは分かった。大して興味はないし、今度雪風と話す機会があってどうしても雑談しなくてはならなくて話のネタがなかったら聞いてみよう。多分、そんなことにはならない。
「にしても……まさかの帰国ですね。何があったんでしょう」
「知らないよ、まだ行きたいところもやりたいこともあったのに……」
「まぁまぁ、またの機会に、ね?」
「うん……ねぇ、ポチ、膝乗っていい?」
窓の外、眼下には雲の海が見えた。飛行は安定しているようだし多少動いても構わないだろう。俺はシートベルトを外し、組んでいた足を下ろして腕を広げた。
「ポチの膝は僕の特等席、他の人座らせちゃダメだよ?」
「もちろんですよ」
「そもそも、僕以外の人に簡単に触られちゃダメなんだからね?」
「分かってますよ、そうそうユキ様以外に関わることなんてないでしょう?」
旅行でもなければ家の外どころか部屋の外にすら出られない。雪兎以外に会うのは使用人程度で、彼らも積極的に関わっては来ない。
「……俺にはユキ様しか居ませんよ」
そう、雪兎は俺の全て。今度こそ失うことのない、絶対的な俺の存在意義。
俺は照れたように笑う雪兎の頭を撫でながら、雪兎が聞けば気味悪がるような愛の言葉を心の中で吐き続けた。
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