俺の名前は今日からポチです

ムーン

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うぇっとすーつ、じゅうなな

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夜明け前、周囲に建物がないこの別荘は酷く静かで、原初の暗闇に包まれている。俺はそんな時間に目を覚ました。

「んっ……ぁ、あっ…………痛っ、痛たた……」

鞭打ちの痛みが残っているのと筋肉痛とで立ち上がるだけでもかなり辛い。

「……暗ぇ……灯りねぇのかよ……」

立っている地面や自分の手は見える。月と星のおかげだ。だが、暗い。
しばらくの間降るような満天の星空を見上げ、ふとウェットスーツのファスナーが元通り上まで閉められていることに気が付く。立ち上がったことによって足に溜まった粘っこい液体にも。

「……気持ち悪ぃな…………脱ぎてぇ、クソ……」

手探りで窓のサッシに登り、ウェットスーツを着たまま真っ暗な室内を歩く。
雪兎はもう眠ってしまったのだろうか、あの細腕では俺を運ぶことなど出来ないのだから仕方ないけれど、だからと言って放って眠るなんて酷過ぎる。

「………………暗い」

月の下では見えていた自分の手も見えない。

「……っ、嫌っ……やだ、母さん……父さん……」

全身が濡れていて、冷えていて、誰の声も聞こえない。あの日と同じだ。

「返事……して、嫌だ…………一人にしないで」

フラッシュバックする真正面からの車の光、轟音と衝撃と、一瞬後の静寂。そう、一瞬だった、一瞬で全て奪われた。
自分の鼓動だけが聞こえる、何も見えない、誰も居ない。俺は気が付けば叫んでいて、数秒経つと視界が光に包まれた。

「……ポチ?  ど、どうしたの?  もしかして、ゴっ……ゴ、的な、何かが居たの?」

「ぁ……あ、ゆきっ……雪兎……」

「…………ユキ様って呼びなよ」

顔を上げれば明るい部屋の中白い壁に輪郭を溶かした髪と肌の白い少年が立っていた。

「雪兎っ、雪兎ぉっ!  ゆき……」

俺は雪兎の元に走りよって、寝間着に着替えている彼を抱き締めた。

「ゆきと……ゆき、ゆき…………俺の……ユキ様」

細く小さな身体、強く抱き締めれば壊れてしまいそうな儚い少年。それが俺の全てだ。

「…………どこにも行かないで、ご主人様」

「……行かないよ、どうしたのポチ」

「起きたら、一人で……暗くて、静かで、怖くて、寂しくて……怖くて、たまらなくてっ……」

「よしよし、ごめんねポチ。夜食作ってたんだ、失敗したけど食べる?」

泣きじゃくりながら返事をして、雪兎に手を引かれるままにダイニングの椅子に座らされる。

「す、すっごく不味かったんだけど……本当に食べるの?  ちょっと焦がしちゃってて……」

「ユキ様の作ったものなら……美味しくいただきます」

手を合わせ、焦げ付いた原材料すらも分からない謎の塊を改めて見つめる。雪兎に会えた喜びと雪兎の手料理に舞い上がって格好付けてしまったが……人間の食べ物とは思えない代物だ。

「…………苦っ!?  まずっ、ぅわぁ……何これ……」

「………………だから言ったのに」

つい本音を漏らし、隣で俺を見つめていた雪兎を思い出し、謝罪として落胆した雪兎を抱き締めた。
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