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おきがえ、はち

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金の輪と黒い透け布で身を飾られ、姿見の前に立たされて、改めて自分の所有者は自分ではないのだと思い知る。

「あれ、気に入らない?」

俺が鏡から目を逸らしたのを不機嫌の証として受け取ったのか、雪兎は俺の視界の真ん中に身を動かした。
気に入るとか気に入らないとかではなく、似合わないだろう。そう言う気にもなれず黙っていた。

「大丈夫、可愛いよ。ほらよく見て」

雪兎は俺の頬に手を伸ばし、顔を鏡に向けさせる。背伸びをして、上目遣いで──というのはなんとも可愛らしく、俺は笑みを零して鏡に目を向けた。自分の姿はあまり見たくないが、犬として主人の望みには答えなければ。

「……ほら、可愛い」

俺が鏡に目をやったのを確認し、雪兎は俺の背後に回った。自分の姿をよく見ろということだろう。
惨状とも呼べる光景を記憶に残さないようぼうっと見ていると、露出した腹に手が回される。地黒の肌に白く小さな手はよく映えて、俺を高揚させた。

「…………本当に似合ってると思ってるんですか?  だとしたら眼鏡買った方がいいですよ」

そう言った直後、臍に指が沈む。ほじくるように指を動かされて、擽ったさに身を捩る。

「よく見なよ、似合ってる。ポチ金とか赤とか似合うんだよ、それに……ねぇ、こういう筋肉質な身体がちょっと女の子っぽいって言うか、夜伽用みたいな服着てるのって……イイと思わない?」

「……ユキ様なら似合うでしょうけど……ぁ、ちょっと、やめてくださいよ……」

右手は下腹を愛撫したまま、左手が胸を布の上から撫で回す。

「僕が着たって意外性がなくてつまんないよ」

似合うという自覚はあるらしい。

「ポチってさ、ほら、夜遊び激しそうな顔してるでしょ?」

「……そうですかね」

言われた覚えは──あるようなないような。

「毎晩毎晩取っかえ引っ変え女の子抱いてそうな顔と身体、それなのにこんな服着せられて僕みたいな子供に遊ばれてる」

「人の見た目を好き勝手に……」

「それってとっても興奮しない?」

その言葉にまた改めて、意識して鏡に映った自分の姿を見る。
薄らと割れた腹筋を撫でられ、透ける布で隠した胸元を弄られて、筋肉質な足を内股にして腰をくねらせて──やはり、俺には良さが分からない。

「……変な趣味してますね」

「そうかなぁ……割とメジャーだと思うけど」

「いやいや、変ですって……ひぁっ!?  ゃ、やめてくださいよいきなりっ……」

布の上から乳首を摘まれて会話を途切れさせる。

「ふふ、ほら、鏡見て。目を逸らしたらお仕置きだよ」

「そんな……」

鏡に映った自分──半透明の布の下に隠れた口から甘えた声を漏らして、切れ長の目を更に細めて潤ませて、行き場のない手に空を彷徨わせて──どこがイイのかさっぱり分からない。

「ゃ、あ、ぁあっ……」

「ほーら、可愛いでしょ?  自分の可愛さ分かった?」

「俺に、そんなのないっ……ぁ、あるわけないでしょっ!」

「……ちゃーんと自分のどこか可愛いのか分からなきゃダメだよ、無自覚に僕以外の人誘惑しちゃったらどうするの?」

「俺に誘われるような奴いませんよっ!」

「こんなに可愛いのに……?  ふふ、全然分かってないね。大丈夫、分からせてあげる。たっっぷり時間をかけて、ね」

俺の肩越しに鏡に映った雪兎の笑顔。それは俺に僅かな恐怖と不安、大きな期待と興奮を与える。
自分の可愛さなんてきっと一生をかけられても分からない、けれど、その授業は楽しみだ。
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