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ゆうはん、なな

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扉を開けた従業員は俺の姿を見て硬直する。
当然だ。浴衣は乱れに乱れて右肩は出ているし下半身は完全に露出しているし、その上首周りにはアザや歯型があるだろう。

従業員は二人居た。扉を開ける為に読んだのか、最初から着いてきていたのかは分からない。

「……なぁ、おい」
「…………ああ」

後から姿を現した方が硬直していた方を肘でつつく。彼らは俺の腕を掴んで引き起こし、俺を挟むように個室に入った。

「…………すいません、部屋に帰りたいんですけど……」

雪風はこれが問題になったらどうする気なのだろう。
俺はそんな事をぼうっと考えながら、浴衣を整えようと腕を引く。だが、従業員達は俺の腕を掴んで離さない。

「…………あの?」

「入ったのって……雪風、だったよな。あの人なら…………多少の不祥事はもみ消すはずだ」
「あぁ、口止めされるだろうよ。しかし息子に手ぇ出すとかとんでもない奴だな」

腕を離したかと思えば、浴衣の中に手を入れてくる。
こんな奴ばっかりだ!

「だったら……俺らも楽しんでいいよなぁ」
「騒ぐなよ?  どうせもみ消されるんだから人呼んでも無駄だ」

「…………もみ消される。なら……」

「どうせなら下の方が良かったな」
「あっちじゃ入るかどうか分かんねぇぞ」
「はは、確かに」
「ま、流石に実の息子にゃ手ぇ出さねぇだろ」

俺は前に居る方の従業員の胸倉を掴む。シャツのボタンを外してくれていたのは幸運だ、掴みやすい。

「あ……お前、何を……っ!?」

思いっきり引き寄せて、従業員の鼻に頭突きをくらわす。鼻血を垂らしてふらついたところを狙って、顎を下から突き上げるように殴る。黒目がぐりんと上を向いて、ずるずると倒れた。

「……は?  このっ、騒ぐなって……」

「るっせぇよ!」

振り返りざまに肘を鳩尾に入れる。ちょうどいい位置に居てくれて助かった。腹を押さえて嗚咽しているのも俺にとっては幸運。
髪を掴んで、膝を顔面に叩き込んだ。また胸倉を掴んで、壁に押し付ける。

「このままドタマかち割ってやろうか?  あぁ?  喧嘩慣れしてねぇくせに変な真似するからこーなんだよ」

よく見れば、彼も意識を失っていた。手を離せばそのまま倒れてしまった。

「…………はぁ、雪風にも出来たらなぁー。スッキリすんのに……」

帯を解いて浴衣を着直していると、個室の外からぱちぱちと拍手が聞こえてきた。まだ誰か居たのかと飛び出れば、口だけで笑う雪風が立っていた。

「この旅館、最近赤字続きでな。ま、俺の傘下じゃないからどうでもいいんだが、親戚の一人にここと関わってる奴がいてな。長い付き合いだから赤字を理由には切れずにいて、問題起こせばそれを理由に切れるって言うんで、協力してやってたんだよ」

「…………んだよ、ハッキリ言え」

「従業員が客の一人をレイプ、これは大問題だろ?」

「……お前がそれ言ってたって方が大問題だ」

「かもな。でも、それを証明する術はない、カメラはここには無いんだよ。しっかしまぁ……どうするかな。まぁいい、正式な仕事じゃない。失敗だろうが金は減らん」

「…………最低だな」

「カメラが無い」との情報から憂さ晴らしの方法を思い付いた。それの笑みを隠すため、俺は呆れたフリをした。
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