俺の名前は今日からポチです

ムーン

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しんせき

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温泉には何度か行ったことはあるが、このような高級旅館というものには泊まったことがない。キョロキョロと見回しながら歩いていると、雪風に脛を蹴られる。

「やめろ、みっともない」

「……すいません」

「雪風足癖悪い!  ポチ蹴らないでよ!  怪我したらどうするの!」

軽く当てられただけで、蹴られたというのも語弊となる。俺は雪兎に感謝しつつ、大丈夫だからと宥めた。

「ここには何しに来たんです?」

「挨拶回りだ、親戚が集まってる。お前らは一度顔を見せたら部屋に引っ込んでいろ、酔っ払いに絡まれたくないならそれが最善だ。部屋に露天風呂が付いているが、のぼせるからそこではヤるなよ」

「な、何もしませんよ……」

雪風は俺が普段どういった暮らしをしているのか知っているのだろうか。ペットとして俺を買った時点で雪兎がどういった扱いをするのか察していたのだろうか。

「しないの?」

「します」

そんな俺の悩みは雪兎の上目遣いに吹っ飛ばされる。今すぐにここで押し倒したいと、そんな欲望すら湧いてくる。

「部屋でなら好きなだけヤって構わない。ただし、声には気を付けろよ」

「…………雪風様は、俺と雪兎がこんなんでいいんですか?」

「何の為にお前を買ったと思っている。図に乗るな、目の前を飛ぶ羽虫の種類が気にならないように、お前らに興味が無い」

息子に向かって「興味が無い」はどうかと思うが、反対されないのならそれでいい。俺は雪兎の肩を抱き寄せ、頭の天辺にキスをした。

宴会場に辿り着くと、見渡す限りの酔っ払い。コレが全員親戚、つまり富豪の集団だと思うと、親近感と落胆で頭が混乱してくる。
雪風は舞台のような場所に上がり、マイクを持って俺を紹介する。

「俺の新しい息子、雪也だ。よろしく頼む」

「ぁ……よろしくお願いします、雪也です」

急にマイクを向けられ、声が裏返る。
親戚達は俺の声の調子も、新しい息子という不思議な言葉も気にせず、ただ大声を上げた。もう何も分からないほどに酔っ払っているのだろう。

「……終わったぞ。部屋に帰れ」

ルームキーを投げ渡し、雪風は挨拶を続ける。俺は雪兎の手を引き、宴会場から出て行った。

「こっち……ですね」

「温泉入りたーい」

「部屋にあるそうですよ」

部屋は和室らしいが、廊下に和の要素は少ない。扉も洋風だ。襖ではイマイチ安心出来ないから丁度いい。

「……これ、どうやって脱ぐんです?」

部屋に入り、その広さと豪華さに感動し、それから露天風呂を見つけてふと気が付く。袴の脱ぎ方が分からない事に。

「ユキ様分かります?」

「たまに着てるからね」

雪兎はスルスルと脱いでいく、それを見てもよく分からず、俺は雪兎に手伝ってもらってようやく脱ぐことが出来た。

「浴衣が確か……この辺に、あったあった。これこれ」

雪兎は上を羽織っただけの格好で部屋を歩き回り、押し入れから浴衣を引っ張り出した。タオルもそこから引き出して、俺達は露天風呂に向かった。
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