俺の名前は今日からポチです

ムーン

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おはなし、ぜんぺん

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何度懇願しただろう、何度怒鳴っただろう、何回弱気と強気を繰り返したのだろう。
最初から数える気なんてないし、それに割く脳もない。脳はもう焦れったさに焼かれてしまった。

「ポチ、ポチ?  起きてる?」

疲れて声を出す気力すらなくなった俺の頬を叩き、雪兎が耳元で話す。

「大丈夫?」

「……なわけねぇだろアホが、とっとと外せ」

「え……?  ポチ?」

「…………ぁ、ごめん、なさい……ユキ様、俺もう無理です……」

この拘束を解くか、拘束したまま激しく攻め立てるか、どっちかをしてもらわなければ俺は本当に狂ってしまう。

「ポチ、今なんか怖くなかった?」

「知りませんよぉ!  早くなんとかしてください、俺もうおかしくなっちゃいますよ……」

「…………宿題してる間も結構乱暴な言葉遣いしてたよねぇー、耳栓してても聞こえてきたよ。ポチって元々はそういう子だったのかな?」

長々と耳元で嫌味を言う気か?  たまったもんじゃない、ベッドに来たなら俺の性欲を満たして欲しい。

「そんなの、どうでもいいでしょ。いいから……早く、イカせてくださいよ…………ユキ様、お願いですから」

会話をする上で相手の顔色が分からないというのがこんなにも辛いことだとは思わなかった。雪兎は声色を誤魔化すのが上手いから余計に、だ。

「いいから早くって……それ、お願いする態度?  ねぇポチ分かってる?  君、僕のペットなんだよ?  お話するならちゃーんと気持ち良くしてあげるから、僕の質問に答えなよ」

面倒臭い、が、仕方ない。
質問……乱暴な言葉遣いをする奴だったのか、というアレか。

「……一般庶民ですから、ユキ様みたいに上品な言葉遣いじゃないんですよ」

「ふぅーん?  君の周り皆そんなだったの?」

周りの人の言葉遣いなんてよく覚えていないけれど、中でも俺は汚い言葉を使っていたと思う。

「まぁ……俺は酷い方かもしれません」

「そっか。でも今はちゃんと話せてるからポチはいい子だね。えらいえらい」

雪兎はそう言って俺の頭を撫で、耳たぶを口に含んだ。はむはむと甘噛みされ、すぐに離される。

「じゃあ、次の質問ね」

「…………今の」

「言ったでしょ?  お話するならちゃんと気持ち良くしてあげるって」

気持ち良くなり過ぎて答えられなくなり放置される未来が見える。だが、ここで躊躇っては男が廃る。首輪を付けて飼われている時点で廃れ切っている気もするけれど。

「ポチ、喧嘩したことある?  そんな口の利き方してたら嫌な人に絡まれちゃうと思うんだよね」

「…………まぁ、人並みには」

「人並みって……普通の人は喧嘩しないよ、僕したことないし」

そりゃそんな貧弱な体で喧嘩なんてしたら大怪我をしてしまう。そう軽口を叩こうとしたが、シャツを捲って雪兎の手が腹を撫で始めたので話を続けることにした。

「……っ、ん……そう、ですね。派手なのは……っ、あ、してません、よ?  ちょっとした、ぁ、殴り合い…………何回か、した、だけ、ですからっ……」

「ふぅん?  乱暴な子だったんだ」

「そういうわけじゃ……ぁ、ゃんっ!」

話している途中で乳首を弾かれ、情けなくも悲鳴に似た嬌声を上げてしまった。
だが、俺が求めていたのはこの刺激だ、この快感だ。俺は雪兎がいるであろう方向に、きっとだらしなくなっているであろう笑みを向けた。

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