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やみのなかで

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今の俺はペット、ご主人様のお仕置きとご褒美に胸を踊らせるペット。
なんて言い聞かせてどうにかなるなら暗所恐怖症を発症していない。

「ポーチ、ほら、集中して。僕はどこにいる?」

雪兎が俺の頬を撫で、顔を挟むように揉む。
俺は不規則な呼吸をしながら「正面」と答えた。

「うん、ここにいるよ。ここには僕しかいない」

「ユキ……様、しか、いない」

「うん、他の誰もいない。ここは部屋の中、ベッドの上」

「…………ユキ様」

「口開けて」

何も考えず、少し顔を上げて口を開く。きっとだらしない顔をしているだろう、目隠しをされていて良かったかもしれない。
唇に柔らかいものが触れ、力を抜いた口内に弾力がある濡れたものが侵入して、頬や鼻に熱い吐息がかかる。
耳の後ろあたりを抑えた雪兎の手の力が強まって、俺はぼーっと雪兎にキスをされているんだなと理解した。
何故か積極的になれなくて、俺は雪兎にされるがままになっていた。何も考えられなくなってきて、頭の中が熱く白く明滅し、思考が消えていく。

「ん……」

「…………どう?  ポチ、まだ何か怖い?」

「ユキ様……」

「ん?」

「もっかい、してください。そうしたら……」

何もかもがどうでもよくなる。そう言おうとした口は再び塞がれる。
お互いの呼吸が整わないままの二回戦は更に激しくなって、俺はさっきよりもキスに集中できた。
水音と吐息、微かに漏れた甘い声だけが暗闇に響いている。どちらともつかず何度も求め合っているうちに拘束を忘れ、俺は雪兎を抱き締めようとして手錠をガチャガチャと鳴らした。

「…………今度はどう?」

「わかりません……もう、なんにも、わかんない、です」

「そっか、うんうん、いい調子。でも……まだ安心は出来ないよね?  落ち着いたらまた怖くなるかもだし…………そうだ!」

急に首が締まり、俺はヒキガエルのような声を漏らす。雪兎が首輪をいじっているらしい。

「これでどう?  息できる?」

「……なん、とか…………ぇほっ、でも、くるし」

「穴を二つほど進めたんだけど、まぁ息できるなら平気だよね」

ベルトタイプの俺の首輪は金具を留める場所によって締め付けが変わる。いつもは指が一本入るかどうか程度の緩めな設定だ。

「ゆ……き、さま…………も、いっこ、ゆるく」

「ふふ、んー、まぁ食べる時と寝る時は緩くしてあげるから、今は我慢ね」

食事と睡眠もこの状態で行うのか、そんなに長く拘束されたまま生活するのか、言いたい事は沢山できたが、声に出す酸素はない。

「考えまとまらないでしょ。いいアイディアだよね」

確かに思考力は低下している、今だって雪兎に頬をむにむにと弄ばれているのに、ろくな反応が出来ていない。

「んふふふっ、よだれ垂れてるよ。本当に犬みたい」

「ぁ……すいません…………」

「可愛い可愛い、よしよし」

頭にぽんぽんと感触がある、頭を撫でられたのだろう。
暗闇の中、呼吸も危うく、どこをどう触れられるか分からない。
そんな状況だというのに、俺は何故か安心しきっていた。
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