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もうそうにじゆうを

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窓の外から小鳥のさえずりが聞こえる、ある日の昼下がり。
勢いよく扉を開けて雪兎がベッドに飛び込んでくる。中学校の制服のまま、鞄を背負ったまま、満面の笑みで俺を見つめた……が、その笑みは俺の行動を見て消える。

「何してんの……」

雪兎の熱は俺が看病してすぐにすっかり下がって、その次の日から学校に行くようになった。だから俺は一人を満喫していたのだ。

「…………お早いお帰りで」

「何してんの?」

「ユキ様つい先日まで風邪引いて寝込んでたじゃないですか……それまで毎日失神するくらいの目に合わされてきた俺は、その、悶々とした日々を送っておりまして…………これは自然の摂理です」

いつもなら雪兎が帰ってくるのは今から三十分後くらいだ。
だから俺は安心しきって、熱にうかされて可愛らしくなった雪兎を思い浮かべ、一人自分を慰めていた。

「すぐそういうこと言うよね!  浮気性なのかなポチは。あれだろ、浮気は男の甲斐性だとか言うんでしょ!  最低!」

「オカズはユキ様ですよ」

「そ、そういう問題じゃないし勝手に妄想しないで!」

「妄想は自由でしょ……ユキ様がセーラー服着てしおらしく俺の服の裾を引いて「……しよ?」って言ってくる妄想してもいいでしょ」

「そんなの妄想してたの!?  この変態!」

普段の言動から考えれば雪兎の方が変態度は高い。変態度って何だ。

「前は実況させたくせに」

「前のはそんなマニアックじゃなかったろ!  ただ僕にしゃぶらせるだけの妄想ならいいけど、女装させるのはダメ!」

「何故か女子用の旧スク水を着たユキ様がシャワー室で俺に迫ってくる妄想しても……」

「ダメ!」

「ブカブカなのに俺のシャツを着て、しかもその下は何も履かずにベッドで待って……」

「いい加減にしてよこの変態!」

「…………怒るユキ様も、イイ」

「このっ……変態!」

これはビンタが来るか、と心を弾ませ顔を突き出した俺にぶつけられたのは鞄だった。
革製で金属の留め具があってノート類が詰まった鞄。

「っ…………ぁ…………鼻、鼻折れた」

「あ……ご、ごめ…………ポチが悪いんだからね!  反省してよ!」

謝りかけたのがまた可愛い、なんて言える余裕は俺にはなかった。鼻血は出ないが涙は出てくる。

「……そ、そんなに痛いの?」

腕を組んで頬を膨らませ、ぷいとそっぽを向いていた雪兎は、俺が動かないのを視界の端に捉えて俺の顔を覗き込みに来た。
こういうところも可愛い、とは言えないし言わない。言ったら調子に乗るに決まっている。

「ポチー……返事してよ、ポチ……」

そろそろ痛みも収まってきた、が、これは使える。
しおらしくなった雪兎を愛でるのもよし、このまま拗ねて雪兎が泣きついてくるのを待つのもよし。

「い、痛いの痛いの飛んで行けー……効かない、よね、こんなの」

めっちゃ効きましたよユキ様ー!  と言って押し倒すのは二流の俺。一流の俺は涙を零しながら雪兎を見つめる。

「う……い、痛いの?  ちゃんと診てもらった方がいいのかな……」

狙い通り雪兎がしおらしくなってきたのはいいのだが、一つ問題がある。そう大きくはないが、恥ずかしい問題だ。
俺は今、下半身丸出しだ。
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