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てんしのつばさ
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風邪で弱っていたこともあり、雪兎は簡単にひっくり返す事が出来た。
その過程で雪兎は泣き喚き、うつ伏せになった今はすすり泣いている。
「…………ユキ様、これ」
俺は雪兎が裸になるのを嫌がった、背中を見せるのを嫌がった理由を完璧に理解した。
雪兎の背中には大きな火傷の痕があった。
肩甲骨のあたりに左右非対称に広がったそれは醜いもので、見られたくなくて泣いてしまう気持ちも分かった。
「……羽みたいですね」
俺は憐憫の気持ちを表に出さず、馬鹿を演じた。
「天使みたいです。ほら、翼をもがれた……的な? 前から思ってたんですよね、ユキ様は天使だって。本物だったとは……驚きました」
「…………なに、いってるの?」
「あ、正体バレちゃったら空に帰るとかないですよね? 嫌ですよ俺、一生ユキ様の傍にいるって決めてるんですから!」
濡れたタオルで雪兎の小さな背中を拭く、その狭い肩は震えているようにも思えた。
翼の跡を優しく撫でて、俺は雪兎に新しい服を着せた。といっても見た目は同じ物なのだが。
「終わりましたよユキ様。どうでしたか? そんなに嫌なものでもなかったでしょ?」
「…………せなか、きもちわるくないの?」
「何がです?」
「………………ぽちの、ばか」
「えっ……嘘、何で?」
百点の気遣いだったと自負していたのだが、ダメだったのか?
俺は謝罪の意を込め、雪兎の頭を撫でる。
「風邪が治ったら、一緒にお風呂入りましょうね」
「……いいよ」
「ユキ様はまたあのセーラー服着るんですか?」
「……ううん、もういい」
「へ? そうですか。でもあの格好も好きなので、また着てくださいね」
雪兎は俺の手を掴んで頬に持っていく。柔らかく餅のような肌は触れるだけで笑みが零れる。
そんな頬を優しく摘んで、むにむにと感触を楽しむ。
雪兎も弱々しい笑顔を作って、俺の腕を抱き枕のように抱き締めた。
「もう寝ますか? ユキ様」
「んー……おやすみ」
「はい、おやすみなさいユキ様。いい夢を」
腕を抱き締められているせいで身動きが取れず、中途半端に背を曲げたまま静止する。
雪兎が眠って腕を離してくれるのを待っていたが、その時は一向にやってこない。
頬の感触を楽しむ余裕も少しずつ失われてきている。
「……んみゅぅ…………ぽちぃー」
「…………なんですか、ユキ様」
「それは、かぶじゃなくてだいこん……ぽちばかぁ」
「夢の中の俺はどんだけ馬鹿なんだよ! ちょっと似てるけどさぁ!」
俺は自由な方の手でベッドに肘をつき、椅子を動かして居眠りするような体勢をとる。
少し辛そうな、いつもとは違った雪兎の寝顔。
扇情的ではあるが、やはりいつもの寝顔が一番だ。雪兎には元気でいて欲しい。
俺は目が覚めたら雪兎が元気になっていてくれますようにと願って、意識を手放した。
その過程で雪兎は泣き喚き、うつ伏せになった今はすすり泣いている。
「…………ユキ様、これ」
俺は雪兎が裸になるのを嫌がった、背中を見せるのを嫌がった理由を完璧に理解した。
雪兎の背中には大きな火傷の痕があった。
肩甲骨のあたりに左右非対称に広がったそれは醜いもので、見られたくなくて泣いてしまう気持ちも分かった。
「……羽みたいですね」
俺は憐憫の気持ちを表に出さず、馬鹿を演じた。
「天使みたいです。ほら、翼をもがれた……的な? 前から思ってたんですよね、ユキ様は天使だって。本物だったとは……驚きました」
「…………なに、いってるの?」
「あ、正体バレちゃったら空に帰るとかないですよね? 嫌ですよ俺、一生ユキ様の傍にいるって決めてるんですから!」
濡れたタオルで雪兎の小さな背中を拭く、その狭い肩は震えているようにも思えた。
翼の跡を優しく撫でて、俺は雪兎に新しい服を着せた。といっても見た目は同じ物なのだが。
「終わりましたよユキ様。どうでしたか? そんなに嫌なものでもなかったでしょ?」
「…………せなか、きもちわるくないの?」
「何がです?」
「………………ぽちの、ばか」
「えっ……嘘、何で?」
百点の気遣いだったと自負していたのだが、ダメだったのか?
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「……いいよ」
「ユキ様はまたあのセーラー服着るんですか?」
「……ううん、もういい」
「へ? そうですか。でもあの格好も好きなので、また着てくださいね」
雪兎は俺の手を掴んで頬に持っていく。柔らかく餅のような肌は触れるだけで笑みが零れる。
そんな頬を優しく摘んで、むにむにと感触を楽しむ。
雪兎も弱々しい笑顔を作って、俺の腕を抱き枕のように抱き締めた。
「もう寝ますか? ユキ様」
「んー……おやすみ」
「はい、おやすみなさいユキ様。いい夢を」
腕を抱き締められているせいで身動きが取れず、中途半端に背を曲げたまま静止する。
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「……んみゅぅ…………ぽちぃー」
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「それは、かぶじゃなくてだいこん……ぽちばかぁ」
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