俺の名前は今日からポチです

ムーン

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ゆうごはん

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フォークとナイフ、使った経験は──従姉妹の結婚式で、くらいか。
確か六年ほど前、俺はまだ十一歳だった。だから作法なんて知らない。

「……右手がフォーク、だよな。いや利き手……俺は右利き。待てよ、左手でナイフ持って切れるわけねぇな、あれ……?」

どちらの手でどちらの食器を持てばいいのかすら分からない俺に、雪兎は自分の肉と食器を渡してくる。

「切ってー」

「え……?  ご自分でやってくださいよ、出来るでしょう?」

「やってよー、ポチけちー」

「こういうの経験少ないんで、ぐちゃぐちゃになっても知りませんよ、それでもいいなら」

「いいよ」

このまま断るつもりだったのに、無邪気な英断に押し負ける。

「……ったく、何歳ですか」

「十四だけど?」

「…………は?  十四?  マジで?  中二?」

「早生まれだから中三だよ」

俺は中学生男子に欲情したのか、そうか、とんだ変態だ。
まぁ、気が楽になることもある。中学生なら先程の一件や「気持ちいい?」という発言も、ペットの犬に向けたものと捉えられる。
……だったら、「気持ちいい」と答えた俺は、「もっとして」と言いそうになった俺は、何なんだ。

「早くしてよポチー、お腹空いた」

「あ、あぁ、すいません。にしても十四ですか、見えませんね」

「背は高い方だからね!  前から七番目!」

「顔は小学生でも通りますけどね……って微妙な順番をよくもまあ誇らしげに」

ふふん、と胸を張る雪兎。ナイフで肉を潰していく俺。
あぁダメだ、中学生に欲情した変態という烙印と慣れない食器、この二つが俺をどんどん焦らせる。

「……ぐっちゃぐちゃだ」

「だから、だから、自分でやれって……」

ステーキだったはずの肉は、つなぎの弱いハンバーグのようになっていた。自分のならまだしも飼い主の食事をこんな……こんなっ……ダメだ、捨てられる。

「んー、でも食べやすいし、ありがとうポチ」

なんだ天使か。どうりで顔がいいわけだ。よく良く考えれば御曹司のルックスが最高でそれもアルビノ系だなんて、出来すぎている。

「……今度からは自分でやるよ」

「自立は大事です、それを教えたかったんです」

無茶な言い訳をして、自分の肉もぐちゃぐちゃにする。それは雪兎への忠誠の表れなどではない、二回目でも下手くそだっただけだ。

「今度テーブルマナー勉強しようか」

「……ペットに食器なんて要ります?」

「床で食べるの?  僕は別にいいけど」

「待ってくださいごめんなさい教えてください」

流石に床で食うのはプライドが許さない。
首輪をつけられ年下に欲情しそれをネタにソロプレイしようとした俺でもまだプライドはある。
服と食器は最後の砦だ、そんな気がする。死守しなければならない。
今度テーブルマナーを教えてもらうことを約束し、その日は二人でぐちゃぐちゃの肉を食べた。
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