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純愛

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周りの目を気にして必死に平静を保とうとしているが、腰は揺れるし足は震える、もう限界だ。

「……っ! ふっ…………凪さんっ、凪さん……」

机の下で彼の足をつつき、声を殺して彼を呼ぶ。

「どうしました?」

「これっ……抜いて、ください……もう無理ですっ……」

「…………我慢、出来ませんか?」

「むりぃ……もう、ほんとにっ……限界……声っ、無理……」

彼は残念そうにため息をつく。呆れられてしまっただろうか、飽きられてしまっただろうか、嫌われてしまったのだろうか……
でも、もう周囲の目から隠し通すことは出来ない。

「止めてあげますから、トイレで取ってきていいですよ」

「ぁ……ありがとうございますっ……ちゃんと我慢出来なくてごめんなさい……」

振動が止まると声が漏れる心配は限りなく零に近付く。だが、ガクガクと震える足は店主や他の客に不審な目で見られてしまった。体調が悪いと捉えてくれることを願う。

「……ん、ぁっ……」

テープを剥がして陰茎に固定されたローターを取り、後孔に挿入されているバイブを抜く。細長く凹凸の激しいバイブをじっと見つめた後、僕は再びバイブを挿入した。自分で抜き挿しをして、前立腺を刺激する。

「はっ……ぁ、あっ…………んんっ……」

壁に手をつき、唇を噛む。もう少しで絶頂出来るかというところでコンコンと扉が叩かれた。

「涼斗さーん? 大丈夫ですか? 自分でやってたりしませんか?」

すぐに自慰を中止し、証拠を拭って水に流し、トイレを出た。汚れた玩具を彼が持っていた小さなビニールに入れ、鞄に押し込む。

「……自分でしてませんよね?」

「…………はい」

「それはよかった、そんなことされたら楽しみが半減しますからね」

「楽しみ……ですか?」

帰ったら抱いてくれるのだと思い、僕の身体は熱く昂る。微笑む彼を見ていると脳まで蕩けてきたように感じた。
彼がショートケーキを食べ終えれば帰れる、抱いてもらえる。それだけで頭がいっぱいになり、苺を挟む唇やクリームを舐める舌を見ているだけで身体が震えた。

「……そろそろ帰りましょうか」

「はいっ……!」

鈴の音を越えて暑い街に戻り、彼は僕の腰に手を添えてアパートに帰る道とは反対方向に歩き始めた。

「……凪さん? 家は……こっち」

「今日は天気が良くて、風が少し吹いていつもより涼しくて、公園を散歩するのにちょうどいいと思いませんか?」

「…………凪さんっ、僕もう限界なんです……」

「……こんな街中で色んなところ勃たせてるの見れば分かりますよ」

意地悪な甘い声に鞄を抱き締め、股間と胸を隠す。腰に回された手が鞄の下でジーンズの膨らみを撫でた。

「凪さぁん……もぅ……もう、むり……」

「あと少しですよ、ほら、ぁ……子供がたくさん居ますね。夏休みかぁ……楽しそうでいいですね」

彼に支えられ歩かされ、この街で最も大きな公園に入る。走り回って遊ぶ子供に、ジョギング中の社会人らしき男女、ベンチに座った老人。全ての年代と性別があった。

「……涼斗さん、こっち」

足が震えてろくに歩けないのでベンチに座ろうとしていたが、彼は公園のジョギングルートから外れ、周囲を注意深く確認してから茂みの中に入っていく。

「な、凪さん? ここ、入っちゃ行けないところ…………ぅわっ!?」

突然腕が離れたかと思えば突き飛ばされ、茂みの中少し開けた場所に倒れ込む。木の根っこで膝を打った、腕を擦りむいて血が滲んでいる。
流石に抗議しようと彼を見上げれば、彼は今まで見たことがない恍惚とした顔をしていた。

「……凪、さん?」

宝石のような青い瞳を細めて、ギラギラと輝かせて、僕だけを映している。真っ赤な舌の先端が薄桃色の唇を一周して、その艶やかさに見とれていると彼は僕の上に跨って地面に膝をついた。僕が起き上がるのを防ぐためか胸を手のひらで押さえつけ、ゆっくりと上体を倒して顔を近付ける。

「涼斗さん……考えてください。家で二時間放置されて、玩具で絶頂寸前に身体を攻められながら喫茶店に入って、玩具を外しても勃たせたまま街を歩いて…………そんな子が隣に居た。これで興奮しないなんてありえません」

「…………凪さん、ここ……外、ですよ?」

「はい、外です。この草木の向こうには健康的に運動を楽しむ人達が大勢居ます。禁止されていますけどキャッチボールをしている子達も居ましたね、この茂みの中にボールを飛ばしてしまうかもしれませんね」

僕のシャツを脱がす……かと思えば頭を過ぎて肘のあたりで止めた。腕が頭上で緩い拘束を受ける。胸に触れるか触れないかの愛撫が指の腹だけで行われ、散々焦らされた身体がビクビクと震えた。

「……バレちゃったらおしまいですね。まぁ、祈るしかありません。せいぜい声を出さないように頑張る……くらいでしょうか」

「凪っ、さん、やめてっ……やだ、ダメですっ……こんなことでしちゃ、ダメなんですよ……?」

「知ってますよ、だから興奮するんです。何か決まりを破らないと……何か普通でないことをしてないと……興奮しないでしょう?」

胸元を這い回る革手袋の感触が脇に移動し、今度は擽ったさで身が跳ねる。指先だけで弱々しく刺激され、その擽ったさは段々と快感に置き換わる。脇で感じるようになったと認めてしまう寸前に手が離れ、彼は今の今まで脇を愛撫していた右手を僕の顔の前に持ってくる。

「見えます?  結構濡れてますよね。この暑さじゃ汗もかきますよ」

「……ゃ」

「涼斗さん?」

「嫌、です。僕っ……これ、嫌ですっ…………外でなんてしたくありません、汗のことなんか凪さんに知られたくありません……お願いします、もう……やめてください」

彼が喜ぶのなら何でもしたいと思っていた。けれど、いくらなんでもこれは許容できない。半分泣きながらの懇願を聞いて、彼は深い深いため息をついた。

「ガッカリですよ涼斗さん……涼斗さんなら出来ると思ったのに。分かりました、もうしませんよ。もう、あなたとは何もしません」

「…………え? ま、待ってください……凪さん……それって、それ……違いますよね? 僕っ……これからも、凪さんと……」

「気が変わりました? ここでする気になりました? なってくれるような人じゃなきゃ、もう近所付き合いもしたくありません。鍵も返してくださいね、カメラも外してください、時間合わせて喫茶店にも来ないでください、もちろん尾行もポスト確認もやめてください」

ここで彼に逆らえば、もう二度と彼と話すことが出来ない。いや、それどころか見ることすら許されない。そうなったら僕の生きる意味はない。

「…………わ、分かりました……」

「何がですか? 俺、涼斗さんに何かを強制した気はありませんよ。あなたに何かを理解させるようなことも言ってません」

ここで抱いても構わない、そんな言い方じゃ彼は僕を見限る。僕が自分から求めなければならない。

「……僕っ、もう……限界です。凪さんに……抱かれたくて、身体が……熱いです。凪さんのが欲しくてお腹がジンジン疼くんです」

「へぇ……真昼間の人の多い公園なのに?」

「は……い、僕は、こんな明るい人気の多い場所で、欲情してます…………お願いします、抱いて……僕を、抱いてください。凪さん……」

顔から火が出そうだ、脳が沸騰してしまいそうだ。どうして、どうして僕は彼に恋してしまったんだろう。こんな人だと分かっていたら……分かっていても、きっと同じだ。

「ここで、下、脱げますか? 脱がなきゃ出来ませんよね、出来ないならその言葉は嘘ですよね」

何が起こるか全て分かっていても、僕はきっと同じ行動を取る。真昼間の人の多い公園で全裸になって、仰向けで、足を抱えて尻の肉を引っ張って穴を拡げ、泣きながら彼を誘う。

「……ここ、に……凪さんのっ……入れてください」

「………………最高ですよ、涼斗さん」

彼の笑顔が見たくて、彼に褒められたくて、彼を喜ばせるのは全て僕であって欲しくて、僕はひたすら非日常を演出する。
好きだと言われるいつかの日を夢見て、破滅の一歩手前で淫らに振る舞う。
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