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夏の終わりは近く

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部屋でまったり過ごしたり、食事の時間を過ぎるまで体を重ねていたり、庭を散歩して絵を描いたり、そんな日々が永遠に続くと心のどこかが確信していた。

「え……し、明明後日? 夏期休暇が終わるのか?」

「うん。課題、大丈夫なのかい?」

課題なんて存在ごと忘れていた。

「……そう言う雪大はどうなんだ?」

「僕は君の家に行く前に終わらせていたよ」

実家に何もかも置きっぱなしにしてきた。俺が課題をやるには一度家に帰らなければならない。

「そうなのか……俺は課題、多分無理だ。明明後日じゃ間に合わないし、家に置いてきたし……」

「そう……嫌だよ秋夜くん、君だけ留年なんて」

「課題提出が少し遅れたくらいなら大丈夫だ、留年はしないから安心しろよ」

安心したように微笑む雪大の頭を撫で、不意に思い出した。

「…………なぁ、俺達……夏期休暇が始まる前、とんでもないことをしたよな」

「とんでもないこと? なんだい?」

「俺がお前につけてしまったアザを隠すことなく歩き回っただろう! あれのせいで大勢に追われて部屋に逃げ込んだりしただろう?」

雪大は首を傾げ、しばらくしてから「思い出した」と微笑んだ。愛らしい仕草だが、今回ばかりはため息をつきたい。

「はぁ……どうしよう。どうするべきだ? 俺と雪大の関係はもう知れ渡っているようなもので…………もう無理だ、もう大学に行けない」

「辞めてしまうのかい?」

「……いや、それは」

「…………秋夜くん、実はね、父様が僕達の結婚に条件をつけたんだ」

条件? もう認められたと思っていたが、後からつけてくるものか?

「留年せず大学を高成績で卒業すること。もしくは、高く売れる絵を描くこと。もしくは、一切何もせず雪大の……僕の精神を安定させるためだけの存在になること」

二つ目は無理だ。一つ目を目指すべきだ。三つ目なんて論外だ。

「どうしてそんな条件を?」

「若神子の名を名乗らせ、次期社長の僕の伴侶と言うなら、僕の仕事を手伝える能力を得るか、ある程度の収入を持って欲しい……と」

正論だ。

「秋夜くんが若神子の会社以外で働くことは許されない。個人で絵を描くか、僕の補佐になるか、どちらかだよ」

「……なんで他の会社だとかはダメなんだ?」

「どこから情報が漏れるか分からないからだって」

若神子の会社の社長の補佐なんて俺に勤まるだろうか。勤まるように勉強しろと、そういうことか?
雪大の父親が求めるような収入を絵で得るのは無理だろうし、努力するしかない。

「よし……分かったよ、雪大。俺、頑張って大学で勉強する」

「その意気だよ秋夜くん」

「…………一度、家に帰してくれないか? 勉強道具が一式向こうにあるんだ」

雪大は残念そうな顔をして頷き、内線で使用人と話した。車を出せとかそんな内容に聞こえた。

「……秋夜くん、それじゃあ……大学が始まるまでお別れだね」

「え……? 俺はここには戻って来れないのか?」

「秋夜くんは僕がいない方が集中できると思うんだ」

それはそうだ。課題をしている横で雪大が応援なんてしてくれたら、課題を放り出して雪大を押し倒してしまう。俺の自制心は弱い。

「それはそうかもしれないが……寂しいな」

「うん、でも、課題に集中できるだろう?」

「それもそうだな。明明後日には会えるんだし……」

「秋夜くん、そろそろ下に行かないと」

促されて立ち上がり、雪大と共に玄関を出ると黒い高級車が目の前に停まっていた。使用人が開けてくれたので中に入ろうとすると、雪大に腕を掴まれた。

「………………寂しいよ、秋夜くん」

「雪大……俺も寂しいよ。でも、明明後日には会えるから、な?」

「……父様の条件、三択だったろう? 三つ目……僕の精神を安定させるためだけの存在にはなりたくないのかい?」

流石にそんな居候のような真似はしたくないので静かに首を横に振った。

「…………父様はね、君がいなければ僕は心を壊すと、そう思っているんだ。だからずっと傍にいる補佐や、家にいるだろう絵描きに絞った。情報が漏れるから他の会社は駄目だなんて方便だよ」

「……そうなのか。心配性なんだな、お父さん。お前は大丈夫だろう? そこまで心が弱くない」

雪大は俺の胸に顔を押し当てて首を横に振る。ぐりぐりと押し付けられる額が何とも愛らしい。

「だめ……なんだ。僕、君がいないと」

「…………雪大」

「君と仲良くなって、僕にとって孤独は死に等しくなった。君が僕を裏切っても、性交がどんなに嫌でも離れられず、結局僕はこんな淫乱にしつけられてしまった。秋夜くん……一緒がいいよ、一緒じゃなきゃ嫌だ」

「……分かったよ。じゃあ、勉強道具を取ったらすぐここに戻るよ」

使用人に目配せすると、構わないと言うように頷いた。車はどちらにせよ往復するのだから俺を乗せても乗せなくても変わらないのだろう。

「それなら僕も車に乗るよ」

「…………分かった。一緒に行こう」

「うん!」

満面の笑みの雪大と共に車に乗り込み、手を繋ぐ。嬉しそうにしている雪大の表情を楽しみつつ、先程の彼の発言を反芻する。
俺と友達になって雪大は孤独に耐えられなくなった。
俺が強姦しても、その後何度も性交を強要しても俺にすがり続け、淫乱に成り果てた。
雪大は本当に幸せなのだろうか。

「……なぁ、雪大」

きっと雪大にはもっといい友人も、もっといい恋人も現れるはずだった。

「…………幸せか?」

「うん! 秋夜くんといられたらそれだけで幸せだよ」

俺は良き友人や恋人の座に居座って出会いを根こそぎ奪った。きっと雪大は今後そういう人間に出会っても必要以上に仲良くはなれない、俺が居座ってしまって俺にもどき方が分からないから。

「……そうか。ならずっと一緒にいるからな」

俺に心を壊された雪大はもう二度と他者には依存できない。俺が去っても雪大は寂しがるだけ、ならどんなに罪深くても俺がいなければならない。

「嬉しい……秋夜くん、ずっとずーっと一緒だからね、課題中もずっと君の隣に居るよ」

「集中できなさそうだな……黙って待っていてくれよ?」

もう何度誓ったか分からないけれど、もう一度誓おう。
俺は雪大を絶対に幸せにし続けてみせる。
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