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おもちゃは玩ぶものだから

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太腿の上からどくと雪大はすぐに開脚した。膝を立てて後孔を俺の目に晒す雪大には淫乱という言葉が似合う。
御曹司も、上品も、神秘的も、幻想的も、今の彼には存在しない。ただただ浅ましく快楽を貪る人間がそこに居た。

「秋夜君っ、秋夜君……早くぅっ、早くしてよぉ、僕のお尻の中を指で掻き回して、僕を鳴かせて……お願い、早く……!」

「……あぁ、もちろんだ」

当然ながら今の雪大よりも俺の方がよっぽど低俗だ。雪大が淫乱に変わったのをいいことに雪大の身体を好きにできる休日を満喫している。

「ぁああっ……! ゆびっ、きた……ぁ、あっ」

「ここをトントン……だったか?」

柔らかい腸壁の中、微かに硬くなった雪大の弱点。前立腺と呼ばれる部位に振動を送る。最初は優しく指の腹で軽く叩く。

「あっ、ぁんっ! ひぁあっ! ぁ、あぁっ……もっと、もっとぉっ、しゅうやくぅんっ、きもちぃっ……!」

「気持ちいい? よかった……可愛いよ、雪大」

指を軽く曲げるだけで弓なりに身体を反らして喘ぐ雪大はとても可愛らしい。ぐちゅぐちゅと淫猥な水音を立てる穴にまた性器を突っ込みたくなってきた。

「きもちぃっ! ぁあああっ……しゅうやっ、しゅうやぁっ! きもひっ……んんんーっ! ぁ、あっ……気を、やって、ひぁんっ!」

しかし、二週間会わなかっただけで人はここまで変わるだろうか。寮での雪大は性行為に同意はしても好みはしなかったし、何度絶頂を迎えさせても一貫して「性行為は嫌いだ」と言っていた。

「しゅう、やぁっ……? ねぇ……ののしって、あざけってよぉっ……跡継ぎのくせにっ、父親のくせに……指先ひとつで叫ばされてしまう僕を、それを望む僕を……その甘い声でいじめておくれ」

雪大は自分を貶めるような俺の発言を嫌っていたはずだ。

「か、可愛いよ、雪大……愛してる。大好きだ、何があっても一生大切にすると誓うよ」

こんなふうに言えば喜んだ。雪大は自分を守り癒してくれる友人としての俺が好きだったはずだ。

「僕が欲しいのはその言葉じゃないよ、秋夜君……んぁっ! ぁ……? な、なんで? どうして指を抜いてしまうの……嫌だよ、掻き回してよぉっ、ずっと気をやってしまっていたいんだよ」

「雪大……愛してる」

真っ赤な目を見開いて俺を見つめる。驚きの後は戸惑いが表情に混じり、最後には悲しげな微笑みに変わった。

「…………ごめんね、秋夜君」

「それはどういう意味なんだ? 俺と夫婦になってくれないのか?」

「僕が欲しいのはもう快楽だけなんだよ。君からの愛情も、癒しも……もう何も欲しくない、ただただ犯されていたい」

寮に居た頃と真逆だ。これは良いことなのか? 俺は雪大に快楽に素直になってもらおうと頑張っていた、けれどこれは俺が求めていたものとは違う気がする。

「そうだ……ねぇ、僕を縛りたいんだろう? そうしてよ。僕を縛って、身動きを取れないようにして、ぶって、犯して、絞めて、虐めて、壊して欲しい」

二週間会わなかっただけで、快楽に慣れた身体が焦れったくなっただけで、快楽に慣れた自分を嫌っていた心が真逆に染まるわけがない。

「なぁ……雪大、お前は俺の何が好きなんだっけ」

守ってくれるところ、癒してくれるところ、寮に居た頃ならそう答えただろう。

「……その器用な指先とたくましい男根だよ」

「俺、の……心は?」

「いらない」

「どうして……?」

大好きな雪大に面と向かって「心はいらない」と明言されるなんて、俺にとっては心臓を握り潰されるような苦しみだ。

「以前まではとても欲しかった、君の全てを僕のものにして、僕の全てを君のものにしてもらいたかった。夫婦に……うん、なりたかったね。でもね、もういいんだ」

「な、なんで……どうしてだよ、雪大」

「うるさいなぁ……細かいこと気にしてないで早く僕を犯せよ、異常者」

異常なのはどっちだ、そう叫びそうになって口を押さえる。雪大を傷付けない反論を探して無言になっていると雪大は深いため息をつき、俺の陰茎を握った。

「ぁ……ゆ、雪大っ」

「こんなに硬くなって……可哀想に。ほら、早く楽におなりよ。僕の中で……ね?」

自分の中に導こうと言うのか腰に足を回して引き寄せ、俺の陰茎に痛みを与えない程度に手でも引っ張っている。

「雪大……お前は優しい俺が好きだと言っていたじゃないか、愛してると言ったら嬉しいと笑ってくれたじゃないか、あの雪大はどこへ行ったんだ?」

「死んだよ」

「へっ……?」

「君の大好きな雪大はもう居ないよ。僕はただの抜け殻……慣性で動いているに過ぎない。最期まで素直になれなかった雪大の、快楽への欲求だけが君の前にあるんだよ」

何を言っているんだ? 訳が分からない……幻覚だとでも言うのか? 違う、雪大は確かにここに居る。

「君の雪大は死んだんだよ、諦めて思い出として僕と交わってよ」

「ここに、生きてる……」

「違うんだよ……どうして分からないの」

「そんな言い方で分かるわけないだろ!?」

混乱のあまり怒鳴り声を上げると雪大は頭を庇い、震えながら小さく謝った。

「し、知られたくっ……ないんだ。大好きな君には、君にだけは、何も……僕の嫌なところ見せたくない……だ、だからっ、綺麗なところだけ、君が好きそうなところだけ出して、死ぬ前に君にもう一度愛されたくて、僕……」

「…………死ぬ? ま、まさか、大病でもあるのか?」

「大病……あぁ、その通りかもしれないね。僕の心か頭は病に侵されているよ。死にたいんだ、生きていたくない、早く消えたいんだよ……君に抱かれて、幸せな記憶を最後に、気持ちいい身体で死にたいんだ」

雪大の自殺願望の話は聞いていた。俺と一緒に居る間は生きたいと思ってくれていたのも聞いた。二週間も離れたから死への願望と傾いてしまっただけだ、また俺と過ごせば生への願望を育ててくれるはずだ。

「……生きたいって思わせてみせる」

赤い瞳から零れていく涙を拭い、震える唇にそっと口付けた。

「い、や……だっ、もう、いや……許してよ、もういやだ……」

「雪大、お前がどんな悩みを抱えているのか俺には分からない。けれど俺はその全てを受け止めたいと思っている、お前を愛している」

「二十年以上も我慢してきたんだっ……いい加減に許してよ、もう終わらせてよぉっ……」

涙を拭うのを口実に目を隠す手を掴み、涙を溢れさせる真っ赤な瞳と目を合わせた。

「……二十年以上我慢してきた? もう終わり? バカ言うなよ雪大……これから始まるんだよ、お前の人生は。俺に愛されて、俺を愛して、俺と一緒に寿命で死ぬまで幸せに生きるんだ。それがお前の本当の人生なんだよ」

「無理……だよ、そんなのっ……父様が許してくれるわけがない」

「なら逃げよう。海を越えて、言葉も分からない土地でゆっくりと過ごそう」

「そんなのっ……無理に決まってる、無理だよ……」

「無理だと思うけど嫌って言わないってことは……してみたいんだよな?」

赤い目が見開かれる。

「雪大、お前は本当に死にたいのか? それ……二番目とか、三番目とかの願いじゃないか? 一番目が無理だと思ってるから妥協して死にたいんじゃないか? 一番目はなんだ?」

「き、みっ……と、秋夜君とっ……夫婦になって、誰も居ない世界で、二人だけで生きたい……」

「…………分かった。叶えてみせるよ、雪大」

泣き続ける雪大に再び口付け、震える身体を愛撫し続けた。泣き止むことはなかったが雪大の方から俺に「好き」と伝えてくれるようになったので、痛むくらいに勃起していた性器を挿入し、ようやく肉欲だけでない交わりを果たし、夜は更けていった。
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