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終章 魔神王による希望に満ち溢れた新世界

世界創造

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創造神の座を奪い、ニャルラトホテプを追い出して早くも数ヶ月。慌ただしい日々が続いていた。
各大陸各島に魔力調整用の大樹を生やす作業はもちろん、竜の里に避難していた人々の再移住、避難せず僕達の戦争にも巻き込まれなかった人々の洗脳、彼らが幸福な生活を手に入れるまでの支援……問題は山積みだった。
だからクラールの死を嘆かずに済んでいた。けれど仕事が落ち着いてきて、アルと過ごす時間が増えて、クラールとドッペルとハルプの墓参りをする機会も増えて、しょっちゅう幻覚を見て呼吸困難になるようになった。

『魔神王様、聞いてますか魔神王様!』

『……あっ、あぁ、ベルゼブブ……ごめん、何?』

僕はいつの間にか「魔神王」という大層な名で呼ばれるようになった。神性を確立した今「魔物使い」だけでは不適切で、ヘルという名はアル以外には覚えていられないから……いや、ライアーも呼んでくれていた。何故だろう、この頃ライアーの記憶が急速に薄れていくのを感じる。

『各大陸の管理の話なんですけど、お菓子の国の跡地は私がもらいたいんです』

『あぁ……うん、じゃあお願い』

『……軽いんですね』

『ベルゼブブのことは信頼してるし……あぁそうか、管理人決めなきゃ……まだまだ忙しいね』

今日もまたアルが寂しがってしまう。残念に思いながらも僕は安堵していた、アルに会わなければクラールのことを思い出さなくて済むからだ。

『ベルフェゴールは植物の国の跡地に住みたいと。多くの亜種人類もそう言っています』

『うん、じゃあそうして。あの島の管理人はベルフェゴールね……そうだ、先輩……ヘルメスさんは?』

『ベルフェゴールと一緒に貴方の兄君が成長を早めさせ生まれた子供とダラダラ過ごしてますよ』

ベルフェゴールとヘルメスの子は兄に頼んで成長促進の魔法をかけさせた。産まれる前にヘルメスが死んでしまう可能性が高かったからだ、子の顔を見れずに死んでしまうなんて悲し過ぎる。

『……そうだ、先輩に生命の実を使えないか調査させてたよね。どうだった?』

『予想通り、神力による衰弱に神力の塊は逆効果……と。衰弱が起こる前なら神力への耐性を獲得出来るので有用かもしれないということです。同じ病気でも抗体を手に入れられる人間と死ぬ人間が居るのと似ている……と』

『そ、か……じゃあ先輩は、そろそろ死んじゃうんだね』

不老不死となった僕には寿命ある友人を見送る責務が与えられた。けれどヘルメスは若過ぎる。考えるだけで胸が痛く、息苦しい。

『……ほ、他は? 他に……管理人志望の人は?』

また呼吸困難になってしまう。僕は後でヘルメスに会うことを決め、今は仕事中だと頭を振った。

『アザゼルが「どこでもいいから管理させろ」で、ハスターが「希少鉱石の国そのまま住みたいけど海側邪魔だから移住させて」で、酒呑童子が「貴方に任せる、決定に文句は言わない」で、奥方のご兄弟達は「実験動物や合成生物の面倒を見てやりたい」で……こんなとこですかね』

アザゼルは管理人を王か何かと勘違いしているのではないだろうか。まぁいいや、大樹を生やすのも一苦労だった砂漠の国跡地でも押し付けよう。

『アザゼルは砂漠の国。ハスターは……「管理人に任命するから自力で掛け合って」って言っておいて。酒呑はどこか余ったら頼もうかな、彼本当有能……』

目の前に広げられた書類、そして写真を見比べる。トリニテートが引き起こした津波に襲われた科学の国は酷い有様だ。しかし丈夫な建物や浸水することのなかった地下に居た人間や動物は助かっているらしい。工場などが倒壊し化学物質が撒き散らされ、人が住める環境ではないため科学の国に居た人間は今、暫定的に牢獄の国に仮住まい中だ。

『……うん、クリューソスとカルコスには科学の国を頼むよ。他の国に売られた子とかも、希望に合わせてそこに送って』

合成生物や実験動物は住処を見つけるのが難しい。実験前に居た群れに帰しても虐められ追い出されることもあれば、逆に群れの仲間を喰おうとすることもある。

『そうだ、竜に大陸間の輸送を頼むって話は?』

『順調です、運送会社が出来そうですね』

『もう竜の里に閉じこもってなくてもいいんだし……兵器の国とか、ルシフェルが荒らしたとことか、まだ人住んでないよね。娯楽の国もマンモンが呪わなくなってからガタガタだし……あのでっかい土地使わせて』

牢獄の国の地下に封じられていたルシフェルが解放された後に消した国の跡地、アルを二度目に殺した荒野……あの辺りはまだ空白地帯だ。特殊な環境が必要な竜達以外にはいい住処になるだろう。

『後管理人居ないのは?』

『妖鬼の国、温泉の国、牢獄の国、神降の国、酒色の国……ですね』

『神降の国はトリニテートさん達に任せるよ。酒色の国は……メルかマンモン辺りに頼んでみて、ヴェーンさんでもいいかな。牢獄の国には王様居るし、あの人とは繋がりあるからそのままでいいや。妖鬼の国と温泉の国かぁ……近かったよね、あの二つ。統合して酒呑に頼んで』

『サクッと決まりましたね』

自分でも自分の手際の良さに驚いている。

『他に何か問題はあった?』

『特には……ぁ、神降の国の神具使いの一族ですが。貴方という神性が確立したことにより、彼らの神々は人界への干渉をやめる可能性があるらしく、彼らの血統からも神具使いの力は数世代かけて失われるだろうと』

『そっか……まぁ、大した問題じゃないよ、神具は命を削る危険な物だし……もう強大な敵なんて現れないからね』

『だといいですね』

不安を煽るような発言は控えて欲しい。

『そうそう、魔神王の恵みの大樹……でしたっけ? あの木、地下茎を広げて勝手に増えたりしてるみたいですよ』

『あ、そうなの? まぁ……別にいいよ』

『それと、どうしても木の周りは魔力が濃くなるので魔物が自然発生する可能性もあるかも……と』

魔物って自然発生するものなのか……いや、神性も人の信仰を受けて発生するのだから、魔物が別の要因で生まれることもあるだろう。サタンも魔力を固めて魔物を作ったりしていたし。

『浮遊していた幽霊が霊体を魔力でコーティングして、霊体のまま魔物になっている事案も発生しています』

『えぇ……まぁ、別にいいんじゃない? あの木には調整機能あるし……その設計はにいさまだから、生き物増やし過ぎるなんてことはないよ。むしろその土地の生態系を整えるために発生してるんじゃないの?』

『…………かもしれませんね、調べさせておきます』

僕が生やした木の魔力から生まれる魔物なら、僕の子も同然なのでは……いやいや違う違う。サタンも創り出した魔物は盾のように扱っていたし、きっと別物だ。

『今のところ報告は以上ですが、今後増えていくと思ってくださいね。しばらくは魔神王様の多忙は収まりませんよ』

『はは……手伝ってね』

『私はお菓子の国跡地を整備したいので。ご自身の兄弟にでも頼んだらどうですか』

そう吐き捨てるとベルゼブブは無数の蝿を呼び、自分の周りを飛び回らせ、消えた。お菓子の国の跡地に向かったのだろう。

『……僕も帰ろ。カヤ、お願い』

僕は一瞬で自室へと移動していた。だがここは酒色の国ではない、天界だ。家具は変わっていないが少し広くなった。

『ヘル、おかえりなさい』

ベッドに寝転がっていたアルが走り寄る。僕の肩に前足を置き、バタバタと黒い翼をはためかせている。

『ただいま、アル』

『……寂しかった。ヘル……一人は寂しい』

クラールが居なくなってからアルは前まで以上にスキンシップが多くなった。

『ごめんね、最近忙しくて。でも今日からはだんだん暇な時間が増えてくると思うから、ね?』

僕はクラールの死に向き合いたくなくて必死に動き回っていた。大陸に木を生やすだとか、移住の手伝いだとか、そんな大義名分の元にアルからも目を逸らしてきた。

『……聞いて欲しい事があるんだ、ヘル』

『うん、何? 何でも聞くよ』

『ハートを覚えているか? 鹿の獣人だ』

覚えている。獣人の国に行った時、草食の村で出会った鹿の獣人の青年だ。僕を泊めてくれて僕を守ってくれたりもした、優しい人だった。けれど彼はナイの味方をして僕を蹴り飛ばしたりもして……

『……うん、覚えてるよ。そういえばハートさんどこに居るんだろうね、敵になっちゃったって思ったけど結局ナイ君が消えた後も来なかったし……無事だといいな、やっぱり恩人だし』

『だよ、な……無事が、良かったよな、ヘル…………済まない。私は彼を喰った』

『…………え?』

今、なんて。

『ルシフェルに連れられて天界に来て、貴方が人界に向かった後……何故かハートが現れた』

どうやって? まさかナイが……今アルが無事だということは、行動を起こす前にライアーの空間転移が間に合ったということだろうか。

『…………彼は自分の子供が消えたと言った、貴方のせいだと』

ナイのことだろうか。

『……だから貴方の大切なものである私に死ねと。だが……それは方便だったようだ、彼は自分の大切な子供と同じように消えたかった。子供が居なければ生きる意味なんてないからな……私にはそれがよく分かった、だから、喰ってやったんだ』

ハートが死んでいた、それもアルが喰い殺したというのはとてもショックな報告だ。けれど僕にはアルがハートの気持ちを理解したということの方が重要だ。

『アル……アルも思ってるの? 子供が死んだから自分も死にたいって』

『…………あぁ、もし私の子が全員死んでいたなら……私も命を絶っていただろう』

『そんなっ! やだよ、アル……死なないで』

『もし全員死んだら……と言っただろう? 私の可愛いヘル、私の最初の愛し子。貴方はずっと私の傍に居て。あの子達がまた産まれてくるまで私と共に待とう。そしてまた五人で、いや、それまでに産まれた我が子達と共に暮らそう』

アルは僕を自分の子のように扱う。それは恥ずかしくもあるが、僕もアルを母親のようにも想っているから利害は一致している。

『……うん! 一緒に生きていこうね、アル』

僕達は永遠に生きていく。死んでいく者達を見送りながら、産まれくる者達を迎えながら、それを繰り返していく。
さぁ、まずは死んでしまった者達の為に祈ろう。一番初めはハートだ、彼が死んだ場所で彼を語ろう。
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