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第四十五章 消えていく少年だった証拠
魔眼の祖
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セレナが独断で竜の里を出て正義の国に乗り込んだ話を聞いた僕はすぐに竜を集めた。
『みんなに覚えておいて欲しいことがある、竜の里は──っと、その前に……みんな! 僕の言ってること分かる?』
僕を頭に乗せたシェリーの周りに集まった竜達は首を傾げる。全く分からない訳でもないと言ったところだろう、言葉を忘れ知能が下がったと言われる竜族だが、ここ数週間の異種族交流で言葉を覚え始めた。地頭はいいのだ。
『んー……サタンは連れてこれないし…………仕方ないなぁ、魂に訴えかけるしかないよ』
エレクトリック・ギターを鳴らすと竜達は鎌首を上げた。
『…………聞け! デカトカゲ共!』
ギターを掻き鳴らしながら叫ぶと竜達は僕に顔を近付ける。魔力を乗せた音ならきっと彼らにも僕の意思が伝わるだろう。
『竜の里の出入りは全て僕に報告することを義務とする!』
喉が破裂してしまいそうなシャウト、爪が擦り切れるような速弾き、それらはきっと竜達に伝わった。
『……あと、この場にいない竜がいたら伝言お願いね』
帰ろうと伝えようとシェリーの顔を覗き込んでいると遠くの方で雄叫びが上がった。驚いて顔を上げれば黄金の鱗を持った若い竜がドタドタと走ってきていた。
『ぎるるるっ! ぎるるぅっ!』
『え? えっと、な、何?』
『ぎるっ……じーじ、ぎるるっ!』
『じーじ? おじいちゃんかな?』
テレパシー能力を持った天使は居ないのだろうか…………クトゥルフって食えるのかな。
『じーじ、ない! ぎるるぅっ!』
『おじいちゃん居ないの?』
『ぎるっ! ひと! じーじ! そと! いく! みる! ぎるるるっ!』
『人間とおじいちゃんが外に行くのを見たんだね?』
いや、あんな気持ち悪い生き物を食べたくはない。魔物使いである僕はテレパシーなどなくても魔物と心を通わせられる……と思いたい。
『……分かった。シェリー……は、飛べないからダメだね。君、一緒におじいちゃんを探しに行こうか。シェリー、留守番お願いね、僕が帰ってこなくても僕を探しに来ちゃダメだよ』
黄金の竜に飛び乗り、人界への門を開く許可を与える。石を並べた黄金竜がその円の中に飛び込む寸前、僕はカヤに兄を連れてくるよう命じた。
『にいさま、この子のおじいちゃん探して欲しいんだけど』
『え……? え? ぁ、うん……』
どこに居たのかは知らないが突然移動させられて怒ることなく困惑した兄は黄金竜の角を掴んで魔法陣を展開させた。
『んー……科学の国だね』
『やっぱり……! あの王様だよ絶対。にいさま、空間転移』
『分かった』
頼みを聞くどころか命令を聞いてくれる兄に優越感を覚え、空間転移による強い光と浮遊感に構えなかったため、黄金竜の額の上で僅かにふらついた。
『うわ……何これ』
兄の声に眼下を覗けば津波に襲われる科学の国の姿があった。青いはずの海は市街地を襲う時には黒っぽくなるらしく、街中の海水は酷く汚い。
『…………にいさま、この子のおじいちゃんの居場所は?』
日常を壊された人々に思いを巡らせてしまったが、僕はこの国を滅ぼそうなんて話していたこともあったのだと首を振る。
『あぁ、えっと……防護結界!』
探知魔法の魔法陣を弄っていた兄は視界の端に何かを捉え、黄金竜を囲う結界を張った。結界に当たった何かが爆発し、その煙が晴れるも、何も見えない。
『……何?』
『分からない。兵器か何かだろうね。それよりおじいさんの居場所だけど……そこのビルの下みたいだね』
黄金竜は兄が指したビルへと向かう。下を覗いても黒っぽい水が様々なものを押し流す姿が見えるだけだ。
『……下ってどういうこと?』
「ん……? おーい! 新支配者どのー!」
兄からの返答を待っていた僕の耳に聞き覚えのある中年男性の声が届く。
『王様……!』
やはり竜の里を抜け出したのは彼だった。神降の国国王、トリニテート。
黄金竜に待つように言って、僕と兄はビルの屋上へ飛び移った。
「はは、助かった。どうやって帰ろうか悩んでたんだ」
ビルの屋上に設置されたベンチに座っている彼は笑いながら僕に小瓶を二つ渡した。ベンチの後ろにはアルテミスとアポロンも立っている。
「本当よ、アタシ達が科学の国に潜り込んでたってのにとぉが竜に乗って好き勝手やって」
『アルテミスさんアポロンさん……竜の里で見ないと思ったら……』
自分の子供達に潜入調査なんてやらせていたのか。
「悪いな新支配者どの。連れてきた竜……死なせてしまった」
『あなたもですか……!』
竜族がそう易々と命を落とすなんて、やはり天使は手強い。戦争が終わるまで竜達は里から出すべきではない。
『ぎるるるるるるっ……!』
唸り声に振り向けば黄金竜が泥だらけの大きな竜を咥えていた。ぐったりとした大きな竜の鱗は汚れてはいるが黄金だと分かる、彼が黄金竜の祖父だ。
『……っ、僕がもっと早く来ていれば……』
『…………ねぇ王様、この瓶何?』
悔やむ僕の手から兄が小瓶を奪い取る。
「襲ってきた天使が持ってたんだ、何とか倒して……再生されちゃたまらないから天使の魂をそこに入れた。片っぽは天使が回収しやがった雷帝どの……竜の魂だ」
『どっちがどっち?』
「分からん」
天使の魂と聞いて僕の意識は竜達から離れる。
『天使倒せたんですか!? っていうか……魂どうやって取ったんですか?』
「アタシの弓で倒したの」
「その後はそいつの持ってた武器でぐちゃぐちゃっとして魂出した」
霊体に干渉できるのは魔力か神力だ。神具なら霊体にも攻撃ができるのだろう、そして魂を包めなくなるくらいに霊体を破壊すれば、力と時間が必要だがコツを知らなくても魂を取り出せる。
『これ食べるの?』
『うん』
『じゃあ逃げた方食べてね……蘇生っと』
兄は小瓶の蓋を両方いっぺんに開けた。それと同時に竜に蘇生魔法をかける、すると白っぽい方の魂は竜の方へ向かい、光を反射することもない黒一色の魂は空へ向かう。
『こっちか……!』
黒い魂を掴み、飲み込む。すると一瞬目に大きなゴミが入ったような違和感を覚えた。
『……おとーと? 目、どうしたの……?』
怯えたような兄の声は珍しい。不思議がっていると兄は手鏡を僕に渡した。
『目が……ない!?』
「いや、目ん玉はあるみたいだぞ?」
『……ぁ、ほんとだ。目……黒くなった?』
目玉がなければ手鏡で自分の顔を確認することもできない。自分の間抜けさを恥じつつ目を観察すると、白目も虹彩も瞳孔も関係なく先程喰らった魂のように光を反射しない穴のような黒色になっているのだと分かった。しかし何度か瞬きをして目を擦ると元の白っぽい虹彩に戻った。
『…………ぎる……?』
『ぎるっ!? ぎるるっ、ぎるるるぁあっ!』
困惑していると竜の鳴き声が耳を劈く。視線を向ければ黄金竜が泥だらけの祖父の竜の周りをクルクルと飛び回っていた、喜んでいるのだろうか。
「おぉ……雷帝どのも生き返ったみたいだし、これは円満解決と──」
『……するにはあなたへの説教が必要ですよね。でも僕はそういうの苦手なので……アポロンさん、僕に何も言わずに独断で竜の里を出たあなたのお父さんによく言っておいてください』
科学の国はとりあえず放っておこう。この津波被害では戦争なんてしている場合ではないはずだ、正義の国を滅ぼした後で降伏を迫ろう。
『竜の里に帰るよ! 門作って!』
僕の声に竜達は祖父と孫の共同作業を始める。微笑ましい光景を横目に手に新しく手に入った力を使うよう意識して魔力を込めると大鎌が現れた。
『……サリエルか』
あの白目まで黒い瞳には見覚えがあると思っていたが、大鎌で完全に思い出した。
『死を司る天使、死与の魔眼を持つ天使……』
彼女も月の魔力を断片的に使う天使だったなと考えつつ、大鎌を軽く振るってみる。剣以上に扱いが分からない武器だと思っていたが、振ってみると案外使えそうな気がしてくる。
『…………ふふっ』
大鎌は霊体にのみ当てられる。死与の魔眼は目を合わせなくとも見つめるだけで発動する。
天使の魂集めが捗りそうだ。
『みんなに覚えておいて欲しいことがある、竜の里は──っと、その前に……みんな! 僕の言ってること分かる?』
僕を頭に乗せたシェリーの周りに集まった竜達は首を傾げる。全く分からない訳でもないと言ったところだろう、言葉を忘れ知能が下がったと言われる竜族だが、ここ数週間の異種族交流で言葉を覚え始めた。地頭はいいのだ。
『んー……サタンは連れてこれないし…………仕方ないなぁ、魂に訴えかけるしかないよ』
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『……あと、この場にいない竜がいたら伝言お願いね』
帰ろうと伝えようとシェリーの顔を覗き込んでいると遠くの方で雄叫びが上がった。驚いて顔を上げれば黄金の鱗を持った若い竜がドタドタと走ってきていた。
『ぎるるるっ! ぎるるぅっ!』
『え? えっと、な、何?』
『ぎるっ……じーじ、ぎるるっ!』
『じーじ? おじいちゃんかな?』
テレパシー能力を持った天使は居ないのだろうか…………クトゥルフって食えるのかな。
『じーじ、ない! ぎるるぅっ!』
『おじいちゃん居ないの?』
『ぎるっ! ひと! じーじ! そと! いく! みる! ぎるるるっ!』
『人間とおじいちゃんが外に行くのを見たんだね?』
いや、あんな気持ち悪い生き物を食べたくはない。魔物使いである僕はテレパシーなどなくても魔物と心を通わせられる……と思いたい。
『……分かった。シェリー……は、飛べないからダメだね。君、一緒におじいちゃんを探しに行こうか。シェリー、留守番お願いね、僕が帰ってこなくても僕を探しに来ちゃダメだよ』
黄金の竜に飛び乗り、人界への門を開く許可を与える。石を並べた黄金竜がその円の中に飛び込む寸前、僕はカヤに兄を連れてくるよう命じた。
『にいさま、この子のおじいちゃん探して欲しいんだけど』
『え……? え? ぁ、うん……』
どこに居たのかは知らないが突然移動させられて怒ることなく困惑した兄は黄金竜の角を掴んで魔法陣を展開させた。
『んー……科学の国だね』
『やっぱり……! あの王様だよ絶対。にいさま、空間転移』
『分かった』
頼みを聞くどころか命令を聞いてくれる兄に優越感を覚え、空間転移による強い光と浮遊感に構えなかったため、黄金竜の額の上で僅かにふらついた。
『うわ……何これ』
兄の声に眼下を覗けば津波に襲われる科学の国の姿があった。青いはずの海は市街地を襲う時には黒っぽくなるらしく、街中の海水は酷く汚い。
『…………にいさま、この子のおじいちゃんの居場所は?』
日常を壊された人々に思いを巡らせてしまったが、僕はこの国を滅ぼそうなんて話していたこともあったのだと首を振る。
『あぁ、えっと……防護結界!』
探知魔法の魔法陣を弄っていた兄は視界の端に何かを捉え、黄金竜を囲う結界を張った。結界に当たった何かが爆発し、その煙が晴れるも、何も見えない。
『……何?』
『分からない。兵器か何かだろうね。それよりおじいさんの居場所だけど……そこのビルの下みたいだね』
黄金竜は兄が指したビルへと向かう。下を覗いても黒っぽい水が様々なものを押し流す姿が見えるだけだ。
『……下ってどういうこと?』
「ん……? おーい! 新支配者どのー!」
兄からの返答を待っていた僕の耳に聞き覚えのある中年男性の声が届く。
『王様……!』
やはり竜の里を抜け出したのは彼だった。神降の国国王、トリニテート。
黄金竜に待つように言って、僕と兄はビルの屋上へ飛び移った。
「はは、助かった。どうやって帰ろうか悩んでたんだ」
ビルの屋上に設置されたベンチに座っている彼は笑いながら僕に小瓶を二つ渡した。ベンチの後ろにはアルテミスとアポロンも立っている。
「本当よ、アタシ達が科学の国に潜り込んでたってのにとぉが竜に乗って好き勝手やって」
『アルテミスさんアポロンさん……竜の里で見ないと思ったら……』
自分の子供達に潜入調査なんてやらせていたのか。
「悪いな新支配者どの。連れてきた竜……死なせてしまった」
『あなたもですか……!』
竜族がそう易々と命を落とすなんて、やはり天使は手強い。戦争が終わるまで竜達は里から出すべきではない。
『ぎるるるるるるっ……!』
唸り声に振り向けば黄金竜が泥だらけの大きな竜を咥えていた。ぐったりとした大きな竜の鱗は汚れてはいるが黄金だと分かる、彼が黄金竜の祖父だ。
『……っ、僕がもっと早く来ていれば……』
『…………ねぇ王様、この瓶何?』
悔やむ僕の手から兄が小瓶を奪い取る。
「襲ってきた天使が持ってたんだ、何とか倒して……再生されちゃたまらないから天使の魂をそこに入れた。片っぽは天使が回収しやがった雷帝どの……竜の魂だ」
『どっちがどっち?』
「分からん」
天使の魂と聞いて僕の意識は竜達から離れる。
『天使倒せたんですか!? っていうか……魂どうやって取ったんですか?』
「アタシの弓で倒したの」
「その後はそいつの持ってた武器でぐちゃぐちゃっとして魂出した」
霊体に干渉できるのは魔力か神力だ。神具なら霊体にも攻撃ができるのだろう、そして魂を包めなくなるくらいに霊体を破壊すれば、力と時間が必要だがコツを知らなくても魂を取り出せる。
『これ食べるの?』
『うん』
『じゃあ逃げた方食べてね……蘇生っと』
兄は小瓶の蓋を両方いっぺんに開けた。それと同時に竜に蘇生魔法をかける、すると白っぽい方の魂は竜の方へ向かい、光を反射することもない黒一色の魂は空へ向かう。
『こっちか……!』
黒い魂を掴み、飲み込む。すると一瞬目に大きなゴミが入ったような違和感を覚えた。
『……おとーと? 目、どうしたの……?』
怯えたような兄の声は珍しい。不思議がっていると兄は手鏡を僕に渡した。
『目が……ない!?』
「いや、目ん玉はあるみたいだぞ?」
『……ぁ、ほんとだ。目……黒くなった?』
目玉がなければ手鏡で自分の顔を確認することもできない。自分の間抜けさを恥じつつ目を観察すると、白目も虹彩も瞳孔も関係なく先程喰らった魂のように光を反射しない穴のような黒色になっているのだと分かった。しかし何度か瞬きをして目を擦ると元の白っぽい虹彩に戻った。
『…………ぎる……?』
『ぎるっ!? ぎるるっ、ぎるるるぁあっ!』
困惑していると竜の鳴き声が耳を劈く。視線を向ければ黄金竜が泥だらけの祖父の竜の周りをクルクルと飛び回っていた、喜んでいるのだろうか。
「おぉ……雷帝どのも生き返ったみたいだし、これは円満解決と──」
『……するにはあなたへの説教が必要ですよね。でも僕はそういうの苦手なので……アポロンさん、僕に何も言わずに独断で竜の里を出たあなたのお父さんによく言っておいてください』
科学の国はとりあえず放っておこう。この津波被害では戦争なんてしている場合ではないはずだ、正義の国を滅ぼした後で降伏を迫ろう。
『竜の里に帰るよ! 門作って!』
僕の声に竜達は祖父と孫の共同作業を始める。微笑ましい光景を横目に手に新しく手に入った力を使うよう意識して魔力を込めると大鎌が現れた。
『……サリエルか』
あの白目まで黒い瞳には見覚えがあると思っていたが、大鎌で完全に思い出した。
『死を司る天使、死与の魔眼を持つ天使……』
彼女も月の魔力を断片的に使う天使だったなと考えつつ、大鎌を軽く振るってみる。剣以上に扱いが分からない武器だと思っていたが、振ってみると案外使えそうな気がしてくる。
『…………ふふっ』
大鎌は霊体にのみ当てられる。死与の魔眼は目を合わせなくとも見つめるだけで発動する。
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