魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
839 / 909
第四十三章 国際連合に対抗する魔王連合

竜を生むもの

しおりを挟む
僕が頼んだイチゴパフェが届いた。追加料金でのトッピングである練乳によって写真のように赤くはない。

『ん~! 甘ぁい……!』

「ぅえ……ゲロ甘そ……」

隣でセレナが苦虫を噛み潰したような顔をしているが、僕は味覚が鈍いのでセレナが思っているほど甘さを感じてはいない。

『人が食べてるものに変な顔しないでよ』

「あぁ悪ぃ悪ぃ、甘いもんあんま好きじゃなくてな。それより……えっと、戦争? いつ頃なんだ? 正義の国に乗り込むならアタシも行きたいんだけど」

いくら武芸の国の出身で並よりは丈夫とはいえ人間であるセレナに無茶はして欲しくない。しかし後方支援をと言って聞くような者ではない。

『……追って連絡するよ。宿どこ?』

「ぁー、ちょっと待て。セネカさん、ペンないすか?」

セレナはセネカから受け取ったペンでナプキンに住所を書いた。

「ここだ。あんま待たせんなよ? この辺じゃあんま稼げねぇんだからさ」

『はいはい……セレナ、今は仕事なにしてるの?』

「前と一緒、魔物退治を主軸に便利屋。他のとこじゃ荷馬車の護衛とかあんだけどさぁ、この国ふざけてんのかってくらい平和なんだよな……貯金なくなっちまう」

暴力事件は元々少ないし、住んでいるのが魔物ばかりのために魔獣被害も少ない。セレナのような者が仕事に溢れても仕方ない。

『平和なのはいいことだよ、セレナちゃんもここで働く?』

『セネカ君、いつから採用できる立場になった? サボってないで仕事しなさい』

『うぁ……てんちょ、ごめんなさい……』

『全く……ようやく皿を割らないようになったと思ったら今度はサボりとはね』

『ごめんなさいってばぁ……』

このレストランの店長──ネールに注意され、セネカは他の客の注文を取りに行った。ネールは僕に視線を移すと深々と頭を下げ、微笑んだ。

『御機嫌よう国王様、浮気ですか?』

『違います』

『ですよね、こんな肉付きのバランスが悪い足……あんな完璧なバランスの奥様がいらっしゃるのに選びませんよね』

『客の足覗くのも人の嫁の足を語るのもやめてください』

少々無礼なネールを追い払い、改めてイチゴパフェを食べ進め──じゃなくて、セレナとの会話に花を咲かせる。

「……ぁ、そうそう、聞いてくれよ、こないだの仕事でさ、クッソデカい竜倒したんだよ」

『…………竜?』

「あぁ、魚バクバク喰われて漁にならないってな。で、その竜の倒し方なんだけどさー」

巨大な竜をいかにして討伐したか、自分の技術に体格の差、そして何よりもアイディアを自慢し始めたセレナを遮って「その漁村はどこだ」と聞いてみた。
きょとんしたセレナが教えてくれたのはシェリーを保護した場所にほど近い。

『セレナ……そっか、君だったんだ』

「なんだ? 話題になってたか? アタシあの村の英雄なんだぜ!」

『…………その竜の子供が今この国の港に居る』

「へ?」

『……母親が居なくて死にかけてたから保護した。酷い話だよね、何日もかけて少しずつ少しずつ……卵があって逃げられない竜を衰弱死させた』

笑顔だったセレナはムッとした顔に変わった。

「なんだよ、責めてんのか? あの竜あのまんまにしてたら漁村の奴らは飢え死にしてた。アタシは害獣駆除をしただけだ」

『別に責めてないよ。君は人間を救ったんだ、いい人だと思う。生き物殺してよく笑えるなーって思うけどね』

僕も散々殺したくせに、その屍の上でヘラヘラ笑っているくせに、よくそんなことが言えたものだ。

「……喧嘩売ってんのか?」

快活さを感じさせるオレンジの瞳が鋭くなった。

『やめなよ、君じゃ僕には勝てない』

「…………はぁ? よく言うな、魔獣におんぶにだっこだったのはどこのどいつだよ」

少し怒らせ過ぎたな。ただ、母の存在も知らないシェリーと死んでしまったその母竜が憐れで、英雄の礎の悲しみを知らせたかっただけなのだけれど。シェリーに思い入れ過ぎて言い方がキツくなったのは反省点だな。

『ごめんね、言い過ぎたよ。竜は生きてただけだ、それで生存競争で負けただけ……言い方が悪かったね、責めてないんだ、本当に。怒ってないし喧嘩も売ってない、そんな怖い顔しないでよ』

「…………なんかムカつくんだよな、お前」

『あはは……よく言われる』

そんな理由で殴られた幼い日々は今でも夢に見る。

「はぁ…………ま、アタシも悪かったよ。その子竜? にも今度詫び入れる。話変えようぜ、えっと……そうだ、嫁さん紹介してくれよ」

詫びか……そもそも母親の存在も知らないだろうシェリーに謝ったところで意味はない、セレナが少しスッキリするだけだろう。まぁ、謝罪するのを止めるのは流石にひねくれ過ぎだ、どうせシェリーは人間の言葉が分からないのだからセレナには好きなだけスッキリしてもらおう。

『また今度ね』

「写真とかないのか?」

『持ち歩いてはないよ』

部屋にはいくつか立ててある。アルはその写真を見る度に「貴方のも撮ろう」と言ってくる。自分の顔が鏡以外で目に入るなんて地獄だから撮っていないけど。
ぼうっとアルの姿を瞼の裏に浮かべてイチゴを味わっていると、メルの叫び声が耳に届いた。

『いらっしゃいませー……え、おっ、お父様!? ぁ、ちょっと……!』

くっきりと浮かび上がったアルの姿を消してしまうのが惜しくて目を閉じたままにしていると、肩に手が置かれた。

『魔物使い、行くぞ』

『……サタン、来てくれてありがとう。ちょっと待ってくれないかな、パフェ食べ終わるまで』

ようやく開けた目に映ったサタンは黙って僕の向かいに座り、追いかけてきたメルに向けて笑顔を作った。

『…………メロウ、葡萄酒を頼む』

『ぁ、はい……分かりました、お父様』

パタパタと駆けていくメルの赤髪がなびく様を横目にパフェを頬張る。急いで食べてしまわなければ……

『魔物使い、慌てずとも良い』

鋭い爪を生やした褐色の手に顎を掴まれ、力任せに引っ張られ、爬虫類を思わせる細長い舌で右頬を舐められた。

『……甘いな』

間近に迫った金色の瞳、その黒い瞳孔が膨らんだ。
薄笑いを浮かべ、サタンは僕から手を離した。相変わらず腹の読めない悪魔だ。

「…………えっと、こんにちは……サタン? さん。セレナーデっす」

『……浮気相手か? 魔物使い』

どうして誰も彼も僕が少し女性と話しただけで浮気だ浮気だと……まぁ、サタンが低俗な話をしていると安堵するから構わないけれど。

『お父様、ワインです』

『ありがとう、メロウ。色を伝えるのを失念していたが……赤を持ってきてくれたか、よく分かっているな、父は嬉しいよ、愛娘よ』

『ぁ……ありがとうございます…………えへへ』

葡萄酒を持ってきたメルはサタンに頭を撫でられて嬉しそうに、少し照れて頬を緩める。

『膝においで』

『……ごめんなさいお父様。ワタシ、仕事中で……』

『少しくらい構わないだろう? おいで』

メルは腕を掴まれて無理矢理サタンの膝に座らされた。不安そうに他の従業員の方を見ていたが、他の従業員達もサタンの異質さを感じ取ったのか目を逸らしていた。

『……美味い酒に美しく賢い娘、この素晴らしさが分かるな? 魔物使い』

『まぁ』

僕に助けを求めるような目を向けていたメルだったが、しばらくするとサタンにもたれ、そっと手を握り、嬉しそうに微笑んでいた。
しかし、なんだ……サタンが大してメルを愛しておらず、この行動がただのパフォーマンスであることを抜きにすれば微笑ましい光景のはずなのだが、似ていない上に見た目年齢が近く親子には見えず、そういう店の一角に見えてしまう。

「……な、なぁ魔物使い、サタンさんとあの店員さんマジで親子なのか? それとも……シュガーダディってやつ?」

セレナは耳打ちしているつもりだろうが、悪魔である二人は人間よりも耳がいい、多分聞こえているだろう。

『お父様は本物のお父様よ?』

『……メロウは母親似だからな』

やっぱり。

「え、ぁっ……す、すいません……」

気持ちは分かる──と言うより同じことを考えていた。前述の見た目年齢の近さ以外にも、サタンが見た目からして善人ではなさそうなのと、見た目だけならメルは色気溢れる美女であるのもそう見えてしまう原因なのだろう。

『…………ぉ、お父様……その、ワタシそろそろ仕事に戻らないと』

『もう少し……なかなかこっちに来られないのは知っているだろう? 今までの分を少しでも取り戻したいんだ、分かってくれ』

メルが気にしているのが仕事ではなく周りの目だということは彼女の仕草で分かる。
サタンの言動が嘘くさく見えるのは僕が彼の本心を知っているからだろうか? メルが嬉しそうにしているのだから言う気はないけれど、見ていると嫌な気持ちになってくるな。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

処理中です...