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第四十三章 国際連合に対抗する魔王連合

竜を生むもの

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僕が頼んだイチゴパフェが届いた。追加料金でのトッピングである練乳によって写真のように赤くはない。

『ん~! 甘ぁい……!』

「ぅえ……ゲロ甘そ……」

隣でセレナが苦虫を噛み潰したような顔をしているが、僕は味覚が鈍いのでセレナが思っているほど甘さを感じてはいない。

『人が食べてるものに変な顔しないでよ』

「あぁ悪ぃ悪ぃ、甘いもんあんま好きじゃなくてな。それより……えっと、戦争? いつ頃なんだ? 正義の国に乗り込むならアタシも行きたいんだけど」

いくら武芸の国の出身で並よりは丈夫とはいえ人間であるセレナに無茶はして欲しくない。しかし後方支援をと言って聞くような者ではない。

『……追って連絡するよ。宿どこ?』

「ぁー、ちょっと待て。セネカさん、ペンないすか?」

セレナはセネカから受け取ったペンでナプキンに住所を書いた。

「ここだ。あんま待たせんなよ? この辺じゃあんま稼げねぇんだからさ」

『はいはい……セレナ、今は仕事なにしてるの?』

「前と一緒、魔物退治を主軸に便利屋。他のとこじゃ荷馬車の護衛とかあんだけどさぁ、この国ふざけてんのかってくらい平和なんだよな……貯金なくなっちまう」

暴力事件は元々少ないし、住んでいるのが魔物ばかりのために魔獣被害も少ない。セレナのような者が仕事に溢れても仕方ない。

『平和なのはいいことだよ、セレナちゃんもここで働く?』

『セネカ君、いつから採用できる立場になった? サボってないで仕事しなさい』

『うぁ……てんちょ、ごめんなさい……』

『全く……ようやく皿を割らないようになったと思ったら今度はサボりとはね』

『ごめんなさいってばぁ……』

このレストランの店長──ネールに注意され、セネカは他の客の注文を取りに行った。ネールは僕に視線を移すと深々と頭を下げ、微笑んだ。

『御機嫌よう国王様、浮気ですか?』

『違います』

『ですよね、こんな肉付きのバランスが悪い足……あんな完璧なバランスの奥様がいらっしゃるのに選びませんよね』

『客の足覗くのも人の嫁の足を語るのもやめてください』

少々無礼なネールを追い払い、改めてイチゴパフェを食べ進め──じゃなくて、セレナとの会話に花を咲かせる。

「……ぁ、そうそう、聞いてくれよ、こないだの仕事でさ、クッソデカい竜倒したんだよ」

『…………竜?』

「あぁ、魚バクバク喰われて漁にならないってな。で、その竜の倒し方なんだけどさー」

巨大な竜をいかにして討伐したか、自分の技術に体格の差、そして何よりもアイディアを自慢し始めたセレナを遮って「その漁村はどこだ」と聞いてみた。
きょとんしたセレナが教えてくれたのはシェリーを保護した場所にほど近い。

『セレナ……そっか、君だったんだ』

「なんだ? 話題になってたか? アタシあの村の英雄なんだぜ!」

『…………その竜の子供が今この国の港に居る』

「へ?」

『……母親が居なくて死にかけてたから保護した。酷い話だよね、何日もかけて少しずつ少しずつ……卵があって逃げられない竜を衰弱死させた』

笑顔だったセレナはムッとした顔に変わった。

「なんだよ、責めてんのか? あの竜あのまんまにしてたら漁村の奴らは飢え死にしてた。アタシは害獣駆除をしただけだ」

『別に責めてないよ。君は人間を救ったんだ、いい人だと思う。生き物殺してよく笑えるなーって思うけどね』

僕も散々殺したくせに、その屍の上でヘラヘラ笑っているくせに、よくそんなことが言えたものだ。

「……喧嘩売ってんのか?」

快活さを感じさせるオレンジの瞳が鋭くなった。

『やめなよ、君じゃ僕には勝てない』

「…………はぁ? よく言うな、魔獣におんぶにだっこだったのはどこのどいつだよ」

少し怒らせ過ぎたな。ただ、母の存在も知らないシェリーと死んでしまったその母竜が憐れで、英雄の礎の悲しみを知らせたかっただけなのだけれど。シェリーに思い入れ過ぎて言い方がキツくなったのは反省点だな。

『ごめんね、言い過ぎたよ。竜は生きてただけだ、それで生存競争で負けただけ……言い方が悪かったね、責めてないんだ、本当に。怒ってないし喧嘩も売ってない、そんな怖い顔しないでよ』

「…………なんかムカつくんだよな、お前」

『あはは……よく言われる』

そんな理由で殴られた幼い日々は今でも夢に見る。

「はぁ…………ま、アタシも悪かったよ。その子竜? にも今度詫び入れる。話変えようぜ、えっと……そうだ、嫁さん紹介してくれよ」

詫びか……そもそも母親の存在も知らないだろうシェリーに謝ったところで意味はない、セレナが少しスッキリするだけだろう。まぁ、謝罪するのを止めるのは流石にひねくれ過ぎだ、どうせシェリーは人間の言葉が分からないのだからセレナには好きなだけスッキリしてもらおう。

『また今度ね』

「写真とかないのか?」

『持ち歩いてはないよ』

部屋にはいくつか立ててある。アルはその写真を見る度に「貴方のも撮ろう」と言ってくる。自分の顔が鏡以外で目に入るなんて地獄だから撮っていないけど。
ぼうっとアルの姿を瞼の裏に浮かべてイチゴを味わっていると、メルの叫び声が耳に届いた。

『いらっしゃいませー……え、おっ、お父様!? ぁ、ちょっと……!』

くっきりと浮かび上がったアルの姿を消してしまうのが惜しくて目を閉じたままにしていると、肩に手が置かれた。

『魔物使い、行くぞ』

『……サタン、来てくれてありがとう。ちょっと待ってくれないかな、パフェ食べ終わるまで』

ようやく開けた目に映ったサタンは黙って僕の向かいに座り、追いかけてきたメルに向けて笑顔を作った。

『…………メロウ、葡萄酒を頼む』

『ぁ、はい……分かりました、お父様』

パタパタと駆けていくメルの赤髪がなびく様を横目にパフェを頬張る。急いで食べてしまわなければ……

『魔物使い、慌てずとも良い』

鋭い爪を生やした褐色の手に顎を掴まれ、力任せに引っ張られ、爬虫類を思わせる細長い舌で右頬を舐められた。

『……甘いな』

間近に迫った金色の瞳、その黒い瞳孔が膨らんだ。
薄笑いを浮かべ、サタンは僕から手を離した。相変わらず腹の読めない悪魔だ。

「…………えっと、こんにちは……サタン? さん。セレナーデっす」

『……浮気相手か? 魔物使い』

どうして誰も彼も僕が少し女性と話しただけで浮気だ浮気だと……まぁ、サタンが低俗な話をしていると安堵するから構わないけれど。

『お父様、ワインです』

『ありがとう、メロウ。色を伝えるのを失念していたが……赤を持ってきてくれたか、よく分かっているな、父は嬉しいよ、愛娘よ』

『ぁ……ありがとうございます…………えへへ』

葡萄酒を持ってきたメルはサタンに頭を撫でられて嬉しそうに、少し照れて頬を緩める。

『膝においで』

『……ごめんなさいお父様。ワタシ、仕事中で……』

『少しくらい構わないだろう? おいで』

メルは腕を掴まれて無理矢理サタンの膝に座らされた。不安そうに他の従業員の方を見ていたが、他の従業員達もサタンの異質さを感じ取ったのか目を逸らしていた。

『……美味い酒に美しく賢い娘、この素晴らしさが分かるな? 魔物使い』

『まぁ』

僕に助けを求めるような目を向けていたメルだったが、しばらくするとサタンにもたれ、そっと手を握り、嬉しそうに微笑んでいた。
しかし、なんだ……サタンが大してメルを愛しておらず、この行動がただのパフォーマンスであることを抜きにすれば微笑ましい光景のはずなのだが、似ていない上に見た目年齢が近く親子には見えず、そういう店の一角に見えてしまう。

「……な、なぁ魔物使い、サタンさんとあの店員さんマジで親子なのか? それとも……シュガーダディってやつ?」

セレナは耳打ちしているつもりだろうが、悪魔である二人は人間よりも耳がいい、多分聞こえているだろう。

『お父様は本物のお父様よ?』

『……メロウは母親似だからな』

やっぱり。

「え、ぁっ……す、すいません……」

気持ちは分かる──と言うより同じことを考えていた。前述の見た目年齢の近さ以外にも、サタンが見た目からして善人ではなさそうなのと、見た目だけならメルは色気溢れる美女であるのもそう見えてしまう原因なのだろう。

『…………ぉ、お父様……その、ワタシそろそろ仕事に戻らないと』

『もう少し……なかなかこっちに来られないのは知っているだろう? 今までの分を少しでも取り戻したいんだ、分かってくれ』

メルが気にしているのが仕事ではなく周りの目だということは彼女の仕草で分かる。
サタンの言動が嘘くさく見えるのは僕が彼の本心を知っているからだろうか? メルが嬉しそうにしているのだから言う気はないけれど、見ていると嫌な気持ちになってくるな。
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