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第三十九章 君臨する支配者は決定事項に咽ぶ
幸せな逃亡劇を
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雲一つない真っ青な空の下、白いタイルに透明の水──楕円形の大きなプール。
「いやぁ君の子はバリエーション豊かだね」
『ですねー……可愛いでしょう?』
「可愛いけど君に全然似てないよねー、聞かなきゃ親子って分かんないよ」
プールサイドに腰掛ける僕の隣で空色のジュースを楽しんでいるのはヘルメス。僕は今日神降の国に来ていた。
「向こうに大人用あるけど君は泳がないの?」
『泳ぐより子供達見てた方が楽しいので』
大人用のプールは足がつかないくらいに深い、溺れてしまう。今眺めているプールは子供用で、その上水を少なめに入れてもらっているから僕は立っても水面は膝にも届かない。
「結婚も子供も先越されちゃったなー」
『先輩、恋愛の方は?』
「娯楽の国の天使さん好きだったんだけどねー、全っ然相手にしてくれなくてさぁ。こっち来てからはまぁ顔と地位でモテるはモテるんだけどぉ……なんかこう、本気になれない」
風俗店に入り浸っていれば本気になる人と出会う確率は下がるだろう。店員の愛想は接客に過ぎないし、誠実な恋愛を望む人はヘルメスのような人を嫌うと思う。
「ねぇ魔物使いくーん誰か紹介してよぉー、いい人いないのー?」
『タイプとかあります?』
「巨乳! 巨乳だったらどんなクズでもいいよ!」
『あー……ぁ、前、どこかの国で乳牛用の魔獣が……』
「最悪人間じゃなくてもいいから人型でお願い! 人間がいいけど魔物でもいいからせめて人型でお願い!」
人間がいいなら僕に聞かないで欲しい。
『巨乳どうこうって言うなら酒色の国来たらどうです? 淫魔は年代体型自由ですよ、顔や羽や尻尾は割と固定されてるみたいですけど……』
「淫魔……かぁ、うーん、いやいいんだよ? 可愛い子ばっかだしアッチの方は最高でしょ? でもなー……腹上死は流石に嫌だしなぁ……」
下世話な話をしている頭を浄化するために純粋な子供達を眺める。
クラールは犬かきが上手い。ドッペル達は翼が濡れるとまずいかと思いきやその翼を鰭のように使って優雅に泳いでいる。水鳥のような羽根なのだろうか?
「でも胸……胸が……大きさ自在……零れるようなのも、頭より大きいのもいいってことだよね……!?」
『……そんなに胸が好きですか』
頭より大きいとなると日常生活に支障が出ていそうで心配が先に出る。
「男はみんな好きだろ!? 包容力の具現化! 母なる乳だよ!」
ちょっと何言ってるのか分からない。
「…………君、まさか、おしり派?」
『いえ、巨乳セミロングのおっとりお姉さんが好みです』
「だよねー! 年上かぁ、年上いいよねぇ! 俺は胸さえあればどっちでもいいけどさ!」
やっぱり乳牛がピッタリじゃないか? いや、牛の方が嫌か。牛からしても人間の男なんて恋愛対象外に決まっている。そもそも形がかけ離れ過ぎているのだからそんな目で見ることは出来ないだろう。
『…………楽しそうだな』
「お、アルちゃん久しぶり、元気? お産の後は体調とか色々ヤバいって聞くよ?」
『……まぁ、元気だ』
プールの底に座り、僕の膝に顎を乗せる。その背中に疲れたのかクラールがよじ登っている。ドッペル達は激しく泳ぐよりもゆったり浮かんでいたいようで、アルが揺らす尾が作る流れに身を任せている。
『…………そんなに乳が大きい女が好きか?』
「大好き……! アルちゃんそういう知り合いいない?」
『牛でも飼ってろ』
「夫婦だねぇ!」
何故だろう、アルが不機嫌に見える。背中を登るクラールが毛や羽根を毟ってしまっているからだろうか。
「いややっぱりさぁ、包容力が……ね!」
『そうですねー、やっぱり年上で包容力のある女の人っていいですよね』
「年上の余裕ってやつって言うか、手のひらで転がされたいって言うか……」
膝に振動が伝わる、小さく低い声なので聞こえにくいがアルが唸っているようだ。
『その余裕がなくなる時もいいですよね』
「あー! ぁー……いいね」
『人前ではクールなのに二人になると撫でて撫でて言ってきたり、ちょっと他の女の子と話すと唸ったり、しばらく離れただけで寂しかった寂しかったって擦り寄ってきたり』
『………………ん?』
アルの耳がピンと立つ。それとほぼ同時にクラールが登頂に成功し、アルの頭頂で自慢気に吠える。撫で回して褒めてやると甲高い声を出して甘え始めた。
『今のクラールみたいな感じなんですけど、甘える時のきゅーんって声が最高に可愛いんですよね』
『…………私だな!? おい、ヘル! それは私だろう! いつから私の話になっていた!? 巨乳の女はどうした!』
「……あれ、いつの間にかノロケ聞かされてた」
僕の好みは昔から変わらず巨乳でセミロングのお姉さんで、今もその話をしていたはずなのだが、無意識にすり替えてしまっていたようだ、申し訳ない。
『見てください照れてますよめちゃくちゃ可愛いでしょ』
「ぁ……うん、あのね魔物使い君。俺は君と違ってズーフィリアとかじゃないから……可愛いと思っても君みたいのじゃないんだよね」
『…………ズーフィリアってなんですか?』
「なんだろうねー……」
どうして目を逸らすのだろう。
目を逸らされると目を合わせてやりたくなるのでヘルメスの顔を覗き込む。顔ごと逸らしていく彼の瞳を追いかけていると膝の上にクラールが飛び乗った。
『ん? 何、次はお父さんに登るの?』
前足の爪をシャツに突き立て、後ろ足で腕を蹴って登ろうとしている。落ちないかにだけ気を付けて好きに遊ばせよう。
『そうだ先輩、何か遊べるとこ知りませんか? 子供達が、ですよ』
「んー……もう少し大きかったり人間だったら割と分かるけどねぇ。この国にあるテーマパークは人型してない子には出来なさそうだし、最低でも五歳以上だしねぇ」
『……そうですか』
「…………お、お菓子でも食べる? そろそろ疲れたでしょ、ね、クラールちゃん?」
ヘルメスは僕の肩に登ったクラールに顔を近付けて微笑む。
『わぅ!』
クラールも彼の人柄を察してか元気に返事をした。表情は分かりにくいけれどきっと満面の笑みなのだろう。
「……じゃ、急遽開幕人間半数以下のお茶会でーす!」
アル達の毛皮や羽根を乾かしている間にお茶会の用意が整い、プールから少し離れて木陰に設置された机に集まる。
「…………なんでアタシが参加しなきゃいけないのよ」
いつの間にか来ていたアルテミスが不機嫌そうに腕を組んだまま呟く。
『嫌なら帰っていいですよ』
「絶っっ対帰らない! 何なのよアンタ久しぶりなのに失礼ね!」
しまった、アルテミスの性格を忘れていた。帰れと言われて帰るような彼女ではないのだ。
「まぁね、ヘルメスの友達だし? アンタはいいのよ、この際アンタの家族が魔獣ってのにも目を瞑る。アタシが一番納得行かないのは……アンタ達よこの化け物神父共!」
『……零、やっぱあかんて。本音と建前あるやろ? 誘われたからってホイホイ来たあかんかってんて、言うたやん俺』
「わぁ、このお菓子美味しいよ、りょーちゃんも食べなよ」
「どっちかだけでも話聞きなさいよっ!」
アルテミスの話もツヅラの話も聞いていない零は僕が座る前からクッキーを食べていた。と言ってもその後席に着いた僕の方が一枚目を早く食べ終わったのだけれど。
「リョウさん? ストロー用意してみたけどどう?」
『ん……おぉ、一人で飲めるわ。おおきになぁ王子さん』
「アンタは飲み食いしたものどこに行くのよ! そのクッションあんまり汚さないでよ!?」
未だ生首のツヅラは机の上に置かれたクッションに乗せられている。
「お兄さんにも伝えたけど、妖鬼の国では愛想悪くてごめんねぇ?」
『いえいえ』
銀の鍵を使う前、国王との会談に来た時に零に会った。けれど天使の撃退のために過去を変えたために零達は妖鬼の国以降今初めて僕に会ったことになっている。少々ややこしいし報告もよく覚えていないけれど、会談はライアーに任せてその時に零達にも接触したようだ。
「……神父ってもっと獣婚嫌うと思ってたけど、そうでもないのね」
『俺は姫さん言う通り化けもんやし、零は昔っから教えも規範もそない気にしてへんかったもんなぁ』
「罰則受けないように守ってはいたけど、りょーちゃんみたいに心の底から守ってたわけじゃないねぇ」
初めて会った時もアルに拒否感を示さなかったし、ベルゼブブとも普通に話していた。やはり零は神父としてはあまり良くない傾向を持つらしい。
「ねぇはちょっと嫌がり過ぎじゃない?」
「個人の自由だと思うんだよねぇ」
「気持ち悪いものは気持ち悪いのよ、別にやめろって言ってるわけじゃないしいいでしょ」
まぁ、感想は自由だ。しかしその自由を保証してやる義務も懐の広さも僕には無い。魔性の王は暴君であるべきだ。
『僕が気持ち悪いのは事実ですけど、面と向かって言うアルテミスさんもまぁまぁ気持ち悪いですよ?』
「うるっさいのよこの変態!」
『本当、口悪いですよね。子供の前だ……とか考えないんですか? そりゃあ理想の恋人なんか見つかりませんよ』
「んっのガキっ……! 見つかるに決まってんでしょ! アンタみたいなのじゃない、最っ高の男捕まえるんだから!」
『くれぐれも外面と能力だけいいドクズなスライムなんかに引っかからないよう、せいぜい頑張ってください? 結婚出来たらお祝い送りますよ、鋏とか』
アルテミスを煽るのが何となく楽しくなってくると、アルが足に尾を巻いて視線を寄越す。そろそろやめろと言いたいのだろう。彼女の方もヘルメスに宥められているし、子供の前だ。お茶でも飲んで落ち着こう。
「いやぁ君の子はバリエーション豊かだね」
『ですねー……可愛いでしょう?』
「可愛いけど君に全然似てないよねー、聞かなきゃ親子って分かんないよ」
プールサイドに腰掛ける僕の隣で空色のジュースを楽しんでいるのはヘルメス。僕は今日神降の国に来ていた。
「向こうに大人用あるけど君は泳がないの?」
『泳ぐより子供達見てた方が楽しいので』
大人用のプールは足がつかないくらいに深い、溺れてしまう。今眺めているプールは子供用で、その上水を少なめに入れてもらっているから僕は立っても水面は膝にも届かない。
「結婚も子供も先越されちゃったなー」
『先輩、恋愛の方は?』
「娯楽の国の天使さん好きだったんだけどねー、全っ然相手にしてくれなくてさぁ。こっち来てからはまぁ顔と地位でモテるはモテるんだけどぉ……なんかこう、本気になれない」
風俗店に入り浸っていれば本気になる人と出会う確率は下がるだろう。店員の愛想は接客に過ぎないし、誠実な恋愛を望む人はヘルメスのような人を嫌うと思う。
「ねぇ魔物使いくーん誰か紹介してよぉー、いい人いないのー?」
『タイプとかあります?』
「巨乳! 巨乳だったらどんなクズでもいいよ!」
『あー……ぁ、前、どこかの国で乳牛用の魔獣が……』
「最悪人間じゃなくてもいいから人型でお願い! 人間がいいけど魔物でもいいからせめて人型でお願い!」
人間がいいなら僕に聞かないで欲しい。
『巨乳どうこうって言うなら酒色の国来たらどうです? 淫魔は年代体型自由ですよ、顔や羽や尻尾は割と固定されてるみたいですけど……』
「淫魔……かぁ、うーん、いやいいんだよ? 可愛い子ばっかだしアッチの方は最高でしょ? でもなー……腹上死は流石に嫌だしなぁ……」
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クラールは犬かきが上手い。ドッペル達は翼が濡れるとまずいかと思いきやその翼を鰭のように使って優雅に泳いでいる。水鳥のような羽根なのだろうか?
「でも胸……胸が……大きさ自在……零れるようなのも、頭より大きいのもいいってことだよね……!?」
『……そんなに胸が好きですか』
頭より大きいとなると日常生活に支障が出ていそうで心配が先に出る。
「男はみんな好きだろ!? 包容力の具現化! 母なる乳だよ!」
ちょっと何言ってるのか分からない。
「…………君、まさか、おしり派?」
『いえ、巨乳セミロングのおっとりお姉さんが好みです』
「だよねー! 年上かぁ、年上いいよねぇ! 俺は胸さえあればどっちでもいいけどさ!」
やっぱり乳牛がピッタリじゃないか? いや、牛の方が嫌か。牛からしても人間の男なんて恋愛対象外に決まっている。そもそも形がかけ離れ過ぎているのだからそんな目で見ることは出来ないだろう。
『…………楽しそうだな』
「お、アルちゃん久しぶり、元気? お産の後は体調とか色々ヤバいって聞くよ?」
『……まぁ、元気だ』
プールの底に座り、僕の膝に顎を乗せる。その背中に疲れたのかクラールがよじ登っている。ドッペル達は激しく泳ぐよりもゆったり浮かんでいたいようで、アルが揺らす尾が作る流れに身を任せている。
『…………そんなに乳が大きい女が好きか?』
「大好き……! アルちゃんそういう知り合いいない?」
『牛でも飼ってろ』
「夫婦だねぇ!」
何故だろう、アルが不機嫌に見える。背中を登るクラールが毛や羽根を毟ってしまっているからだろうか。
「いややっぱりさぁ、包容力が……ね!」
『そうですねー、やっぱり年上で包容力のある女の人っていいですよね』
「年上の余裕ってやつって言うか、手のひらで転がされたいって言うか……」
膝に振動が伝わる、小さく低い声なので聞こえにくいがアルが唸っているようだ。
『その余裕がなくなる時もいいですよね』
「あー! ぁー……いいね」
『人前ではクールなのに二人になると撫でて撫でて言ってきたり、ちょっと他の女の子と話すと唸ったり、しばらく離れただけで寂しかった寂しかったって擦り寄ってきたり』
『………………ん?』
アルの耳がピンと立つ。それとほぼ同時にクラールが登頂に成功し、アルの頭頂で自慢気に吠える。撫で回して褒めてやると甲高い声を出して甘え始めた。
『今のクラールみたいな感じなんですけど、甘える時のきゅーんって声が最高に可愛いんですよね』
『…………私だな!? おい、ヘル! それは私だろう! いつから私の話になっていた!? 巨乳の女はどうした!』
「……あれ、いつの間にかノロケ聞かされてた」
僕の好みは昔から変わらず巨乳でセミロングのお姉さんで、今もその話をしていたはずなのだが、無意識にすり替えてしまっていたようだ、申し訳ない。
『見てください照れてますよめちゃくちゃ可愛いでしょ』
「ぁ……うん、あのね魔物使い君。俺は君と違ってズーフィリアとかじゃないから……可愛いと思っても君みたいのじゃないんだよね」
『…………ズーフィリアってなんですか?』
「なんだろうねー……」
どうして目を逸らすのだろう。
目を逸らされると目を合わせてやりたくなるのでヘルメスの顔を覗き込む。顔ごと逸らしていく彼の瞳を追いかけていると膝の上にクラールが飛び乗った。
『ん? 何、次はお父さんに登るの?』
前足の爪をシャツに突き立て、後ろ足で腕を蹴って登ろうとしている。落ちないかにだけ気を付けて好きに遊ばせよう。
『そうだ先輩、何か遊べるとこ知りませんか? 子供達が、ですよ』
「んー……もう少し大きかったり人間だったら割と分かるけどねぇ。この国にあるテーマパークは人型してない子には出来なさそうだし、最低でも五歳以上だしねぇ」
『……そうですか』
「…………お、お菓子でも食べる? そろそろ疲れたでしょ、ね、クラールちゃん?」
ヘルメスは僕の肩に登ったクラールに顔を近付けて微笑む。
『わぅ!』
クラールも彼の人柄を察してか元気に返事をした。表情は分かりにくいけれどきっと満面の笑みなのだろう。
「……じゃ、急遽開幕人間半数以下のお茶会でーす!」
アル達の毛皮や羽根を乾かしている間にお茶会の用意が整い、プールから少し離れて木陰に設置された机に集まる。
「…………なんでアタシが参加しなきゃいけないのよ」
いつの間にか来ていたアルテミスが不機嫌そうに腕を組んだまま呟く。
『嫌なら帰っていいですよ』
「絶っっ対帰らない! 何なのよアンタ久しぶりなのに失礼ね!」
しまった、アルテミスの性格を忘れていた。帰れと言われて帰るような彼女ではないのだ。
「まぁね、ヘルメスの友達だし? アンタはいいのよ、この際アンタの家族が魔獣ってのにも目を瞑る。アタシが一番納得行かないのは……アンタ達よこの化け物神父共!」
『……零、やっぱあかんて。本音と建前あるやろ? 誘われたからってホイホイ来たあかんかってんて、言うたやん俺』
「わぁ、このお菓子美味しいよ、りょーちゃんも食べなよ」
「どっちかだけでも話聞きなさいよっ!」
アルテミスの話もツヅラの話も聞いていない零は僕が座る前からクッキーを食べていた。と言ってもその後席に着いた僕の方が一枚目を早く食べ終わったのだけれど。
「リョウさん? ストロー用意してみたけどどう?」
『ん……おぉ、一人で飲めるわ。おおきになぁ王子さん』
「アンタは飲み食いしたものどこに行くのよ! そのクッションあんまり汚さないでよ!?」
未だ生首のツヅラは机の上に置かれたクッションに乗せられている。
「お兄さんにも伝えたけど、妖鬼の国では愛想悪くてごめんねぇ?」
『いえいえ』
銀の鍵を使う前、国王との会談に来た時に零に会った。けれど天使の撃退のために過去を変えたために零達は妖鬼の国以降今初めて僕に会ったことになっている。少々ややこしいし報告もよく覚えていないけれど、会談はライアーに任せてその時に零達にも接触したようだ。
「……神父ってもっと獣婚嫌うと思ってたけど、そうでもないのね」
『俺は姫さん言う通り化けもんやし、零は昔っから教えも規範もそない気にしてへんかったもんなぁ』
「罰則受けないように守ってはいたけど、りょーちゃんみたいに心の底から守ってたわけじゃないねぇ」
初めて会った時もアルに拒否感を示さなかったし、ベルゼブブとも普通に話していた。やはり零は神父としてはあまり良くない傾向を持つらしい。
「ねぇはちょっと嫌がり過ぎじゃない?」
「個人の自由だと思うんだよねぇ」
「気持ち悪いものは気持ち悪いのよ、別にやめろって言ってるわけじゃないしいいでしょ」
まぁ、感想は自由だ。しかしその自由を保証してやる義務も懐の広さも僕には無い。魔性の王は暴君であるべきだ。
『僕が気持ち悪いのは事実ですけど、面と向かって言うアルテミスさんもまぁまぁ気持ち悪いですよ?』
「うるっさいのよこの変態!」
『本当、口悪いですよね。子供の前だ……とか考えないんですか? そりゃあ理想の恋人なんか見つかりませんよ』
「んっのガキっ……! 見つかるに決まってんでしょ! アンタみたいなのじゃない、最っ高の男捕まえるんだから!」
『くれぐれも外面と能力だけいいドクズなスライムなんかに引っかからないよう、せいぜい頑張ってください? 結婚出来たらお祝い送りますよ、鋏とか』
アルテミスを煽るのが何となく楽しくなってくると、アルが足に尾を巻いて視線を寄越す。そろそろやめろと言いたいのだろう。彼女の方もヘルメスに宥められているし、子供の前だ。お茶でも飲んで落ち着こう。
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