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第三十七章 水底より甦りし邪神
番外編 或る神父達の話
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町と森とのはっきりとした境目、森が始まる木の根元に隠していた風呂敷を広げ、その中の鳥を模した仮面や手袋を付けて、それに描かれた呪術を発動する。悪疫の医師の格好は気味の悪いものだが、呪いを施すのに適しているのだから仕方ない。それにこれを着ている人物はこの格好を案外気に入っていたりもする。
「んっ……よし、これで……大丈夫かな」
この服に施した呪いは仮面や上着、手袋まで全てを揃えて着た時点で発動し、効果は加護の力を弱めることのみ。呪いを逆流させれば出力は上がるが体に負担がかかる。それなりに使いたい時は脱ぐのがいい。
「さ、行こうねりょーちゃん」
親友の生首を服を入れていた風呂敷に包み、悪疫の医師の格好をした呑気な神父は町を歩く。
「天使様から貰った力封印してるし、零を積極的に探したりはまだしないだろうから、潜伏先はのんびり探そうねぇ」
零は正義の国の政府から下った「別命あるまで待機せよ」との命令を無視してツヅラを探しに国を出た。このまま帰れば苛烈な罰が待っており、人間でないとバレたツヅラは殺され続け、隠避の罪を問われ零も処刑されるだろう。そう予想している零は逃亡を決めていた。
「雪華に迷惑かけちゃうなぁ、駄目な師匠だ……」
雪華は正義の国で真面目に働いている。師匠であり加護を分け与えている零が罪人となった時その損害を最も被るのは雪華だ。零はそれだけを気にしていた。政府の命令を無視したことも、神を裏切ったと罵倒されることも、気にしていなかった。
天使が近付きにくいであろう国を探して、港で出航表をぼうっと眺める。予約が必要でないものを探せば自然と選択肢は収束する。零はため息をついて港町の茶店で休息をとった。注文したものが来るまでの間、手を組んで天を仰いだ。
「…………神様。りょーちゃんは神様を信じて、誰よりも真面目に教えを守ってきました。どうか、種族や宿命など覆してやってください」
ゆるゆるとした話し方をやめて、力を込めて祈る。
「罪はりょーちゃんのものではなく、あの神を騙る者のもの──どうか、憐れな子羊をお救い下さい。誰よりも救われなければならないりょーちゃんが救われないなら……」
水煙色の瞳で空をキッと睨む。
「…………神など居ない」
神父にあるまじき発言をした零は仮面を少しズラし、少しずつ茶を楽しんだ。
休憩を終えた零は風呂敷に包んだツヅラの頭を抱えて乗船受付に向かった。行先は神降の国、創造神を信仰しておらず天使があまり来ず、だからといって悪魔の寝床という訳でもない。今の零にはぴったりの逃亡先だった。直接の船はあるのか、乗り継ぎならどのルートが一番安いのか──そんなことを受付の者に聞き、乗る船は決まった。
数時間、乗船待ちの者達が座るベンチに座り続けた零は、自分が乗る船を見つけて伸びをしてから船に乗り込んだ。ベッドと机だけの狭い一人部屋だ、家具は全て床や壁に固定されている。
「ふぅー……案外バレないものだねぇ。荷物検査とかしっかりしてたらどうしようってドキドキしてたよぉ」
『……俺見つかったら猟奇殺人鬼やもんな』
風呂敷を広げ、首の断面だけが凍らされたツヅラの頭を持ち上げる。
「良かったぁりょーちゃん、元に戻って」
『…………すまんなぁ零、色々……』
「んーん、気にしないで。兄弟じゃないかぁ」
幼い時を同じ教会で過ごした兄弟、零は唯一の親友であり家族でもあるツヅラの頭部を膝に乗せ、鳥を模したマスクを着けたまま会話を楽しむ。
『……俺またあの夢見てたんか? 何やったかよぅ覚えてへんねんけど……あの子、零の弟子やったか……あの子にえらい酷いことした気ぃするわ』
「また今度会えたら一緒に謝ろっかぁ、零もちょっとキツく問い詰めちゃったりしたんだぁ」
『…………せやな、一緒に……』
心臓も肺もなく、会話どころか生存すら不可能であろうツヅラの姿。実体であれば悪魔ですら再生してからでなくては声を発せない頭と胴の切り離し。それを可能としているのはツヅラが妖怪だから、そして人魚の血肉を飲んだから。不死の呪いが生命を顕在させ続けているのだ。
『なぁ零? せめて上半身くらいは再生させてくれへん?』
「駄目だよぉ、自力で動けちゃ何するか分からないじゃないかぁ」
『はぁ……首だけって結構キツいで。何も出来へん』
「りょーちゃんの問題が解決するまで何も出来ないままでいてくれなきゃ困るんだよぉ」
零はゆるゆるふわふわとした口調と雰囲気でツヅラの交渉を跳ね除け続け、人前では風呂敷に包んで隠すことも忘れず、ツヅラに再生を、その他大勢にツヅラを見ることを、決して許さなかった。
「とうちゃーく、神降の国! そこそこ発展してるねぇ、嵐でもあったのか瓦礫すごいけど……」
零はバアルなどの神性が破壊した建造物に数秒の祈りを捧げ、入国審査を受けた。正義の国の神父という国連でもトップクラスの証明書に審査官達は目を丸くし、にわかに騒ぎ始めた。
「いやぁすいませんね、神父の証明書なんて初めて見たもので……それで、この国に何の用でしょう。少し前に他宗教の国と戦争になったこともありまして、滅多な用事でない限り、正義の国を始めとした宗教国家の方は入れられない決まりとなっております」
マスクまで着けて冷気を限界まで抑えていたが、それでも漏れた冷気が審査官の体を冷やした。
「……亡命、かなぁ」
「えっ……」
初めて見た国連の特権階級は亡命者だった。その事実は新米審査官の思考を止めるに十分過ぎた。その上、零は風呂敷を広げてツヅラの生首を見せた。
「これはりょーちゃん、僕の親友で兄弟。今は訳あって魔物でね、これでも普通に生きてるんだぁ。りょーちゃんが人間になれるように、なれなくても人間の中で生きていけるように、そんな活動をこそこそしてたら国に怪しまれちゃったんだぁ」
零はツヅラにすらどこまでが嘘なのか分からない話を組み立てた。とりあえず自分に出来るのはぶっ飛んだ頭と行動力を持つ兄弟を猟奇殺人犯にしてしまわないよう、生きていると示すことだった。そうツヅラは確信した。
『……頼むわ兄ちゃん、俺らもう行くとこあれへんねん。ここで断られたらもう処刑されるしか道あれへんようなってまうわ』
「りょーちゃんは死なないからきっと串刺しにして生き埋めだね。零は酷い罰を受けてから……んー、磔刑? 火炙り? 爪とか剥がされて皮もほとんど剥がされた状態でさぁ……遠巻きな火に炙られて…………入れてもらえないと零はそうなっちゃうけど、それが決まりなら仕方ないし、仕事なんだから追い出す君も恨みもしないよ」
ツヅラは零の組み立てる話に怯えていた。内容ではない、普段との差に怯えているのだ。ふわふわと掴みどころのない温和な神父……相対する者の毒気を抜く話し方に微笑み。それが凍堂・零。
だが自分を抱えているこれは何だ? 苛烈な罰についてや自分達の末路を話しておいて、そうなるかどうかの選択肢はお前にあると示しておいて、恨みはしないといつも通りの笑顔を浮かべるなんて──これは本当に零なのか? 子供時代を共に過ごした、学生時代も共に過ごした、大人になってからだって休日には顔を合わせていた、そんな自分にさえ零という人が分からない。
ツヅラは静かなパニックに陥っていた。
「…………死ぬと分かっている人を追い出すのはこの国の正義に反します。しかし、神父の亡命は……私には判断できかねます。上の者を呼んで来ますので少々お待ち願えますか」
「……ありがとうございます」
審査官が部屋を出ていくと扉には鍵がかけられ、零とツヅラにには分からないが部屋の外には武器を持った兵士達が並んだ。
『な、なぁ、零……』
「……上手くいきそうで良かったねぇりょーちゃん、零達助かるよぉ」
『え……いや、まだ分かれへんやろ』
「だぁーいじょうぶ、ふふ……どんな人が来ても言いくるめる自信はあるからぁ」
神父とは神の教えを伝え、人の心を救う者。正義の国において、天使の加護を受けておらず魔性との戦いも得意でない神父の仕事はカウンセリングだ。親身に相談に乗る者を各国へ派遣し、心を僅かでも救われた者達を信者に変えていく。
「特殊な精神状態にない健康で文化的な国の人はぁ、敵国の人間でもぉ、助けを求めている暫定無害の人を無下には出来ないものなんだよぉ」
鍵が開く音が部屋に響いて、零はツヅラへの説明を中止する。立ち上がり、部屋に入ってきた蒼い髪の青年に一礼した。
「ご丁寧にどーも。神父さん、随分変わったカッコだね。どーぞ座って」
生え際から毛先にかけて色が抜けていくグラデーションの髪と翠の瞳が特徴的な青年──ヘルメス。
零は再び頭を下げ、腰を下ろした。
「……首だけで生きてるんだ。凄いね……」
一通りの事情を聞いたヘルメスは改めてツヅラの姿をまじまじと眺めた。
「で、入国許可だね。亡命が嘘で間諜だったりするんなら──こんな生首持ってきたりしないよねぇ。正義の国の使いっ走りにしては不自然。だから、まぁ、信用は出来るかな」
嘘吐きなヘルメスは他人の嘘の矛盾点を突くのが得意だ、見破るのが得意なのだ。だから零の話は基本的に真実で構成されていると分かった。
「よし、入国は許可するよ。その代わり条件がある」
「…………何かな?」
「少し前山が落雷で崩れてね、獣人の国が壊滅的被害を受けたんだ。だから避難してきた獣人の国の方々を保護してるんだ、この国と獣人の国はあまり相性が良くないから獣人のみの特区を作ってね。君にはそこに行ってもらう、そこから出る時はまた特別な許可が必要。これを破った場合は強制送還……どうかな?」
「獣人の……! うん、分かったよぉ。それにしても落雷で山が崩れるなんてあるんだねぇ、怖い怖い……」
「……っと、条件はもう一つ。宣教を禁止する。これはどうかな」
「うん、うん、大丈夫ぅ、大人しく普通のお仕事して過ごすよぉ、ありがとうねぇ」
零はこうして神降の国への入国許可を得て、獣人地区の外れに家を貰い、悪疫の医者の格好のまま、生首と共に平和な暮らしを始めた。
「んっ……よし、これで……大丈夫かな」
この服に施した呪いは仮面や上着、手袋まで全てを揃えて着た時点で発動し、効果は加護の力を弱めることのみ。呪いを逆流させれば出力は上がるが体に負担がかかる。それなりに使いたい時は脱ぐのがいい。
「さ、行こうねりょーちゃん」
親友の生首を服を入れていた風呂敷に包み、悪疫の医師の格好をした呑気な神父は町を歩く。
「天使様から貰った力封印してるし、零を積極的に探したりはまだしないだろうから、潜伏先はのんびり探そうねぇ」
零は正義の国の政府から下った「別命あるまで待機せよ」との命令を無視してツヅラを探しに国を出た。このまま帰れば苛烈な罰が待っており、人間でないとバレたツヅラは殺され続け、隠避の罪を問われ零も処刑されるだろう。そう予想している零は逃亡を決めていた。
「雪華に迷惑かけちゃうなぁ、駄目な師匠だ……」
雪華は正義の国で真面目に働いている。師匠であり加護を分け与えている零が罪人となった時その損害を最も被るのは雪華だ。零はそれだけを気にしていた。政府の命令を無視したことも、神を裏切ったと罵倒されることも、気にしていなかった。
天使が近付きにくいであろう国を探して、港で出航表をぼうっと眺める。予約が必要でないものを探せば自然と選択肢は収束する。零はため息をついて港町の茶店で休息をとった。注文したものが来るまでの間、手を組んで天を仰いだ。
「…………神様。りょーちゃんは神様を信じて、誰よりも真面目に教えを守ってきました。どうか、種族や宿命など覆してやってください」
ゆるゆるとした話し方をやめて、力を込めて祈る。
「罪はりょーちゃんのものではなく、あの神を騙る者のもの──どうか、憐れな子羊をお救い下さい。誰よりも救われなければならないりょーちゃんが救われないなら……」
水煙色の瞳で空をキッと睨む。
「…………神など居ない」
神父にあるまじき発言をした零は仮面を少しズラし、少しずつ茶を楽しんだ。
休憩を終えた零は風呂敷に包んだツヅラの頭を抱えて乗船受付に向かった。行先は神降の国、創造神を信仰しておらず天使があまり来ず、だからといって悪魔の寝床という訳でもない。今の零にはぴったりの逃亡先だった。直接の船はあるのか、乗り継ぎならどのルートが一番安いのか──そんなことを受付の者に聞き、乗る船は決まった。
数時間、乗船待ちの者達が座るベンチに座り続けた零は、自分が乗る船を見つけて伸びをしてから船に乗り込んだ。ベッドと机だけの狭い一人部屋だ、家具は全て床や壁に固定されている。
「ふぅー……案外バレないものだねぇ。荷物検査とかしっかりしてたらどうしようってドキドキしてたよぉ」
『……俺見つかったら猟奇殺人鬼やもんな』
風呂敷を広げ、首の断面だけが凍らされたツヅラの頭を持ち上げる。
「良かったぁりょーちゃん、元に戻って」
『…………すまんなぁ零、色々……』
「んーん、気にしないで。兄弟じゃないかぁ」
幼い時を同じ教会で過ごした兄弟、零は唯一の親友であり家族でもあるツヅラの頭部を膝に乗せ、鳥を模したマスクを着けたまま会話を楽しむ。
『……俺またあの夢見てたんか? 何やったかよぅ覚えてへんねんけど……あの子、零の弟子やったか……あの子にえらい酷いことした気ぃするわ』
「また今度会えたら一緒に謝ろっかぁ、零もちょっとキツく問い詰めちゃったりしたんだぁ」
『…………せやな、一緒に……』
心臓も肺もなく、会話どころか生存すら不可能であろうツヅラの姿。実体であれば悪魔ですら再生してからでなくては声を発せない頭と胴の切り離し。それを可能としているのはツヅラが妖怪だから、そして人魚の血肉を飲んだから。不死の呪いが生命を顕在させ続けているのだ。
『なぁ零? せめて上半身くらいは再生させてくれへん?』
「駄目だよぉ、自力で動けちゃ何するか分からないじゃないかぁ」
『はぁ……首だけって結構キツいで。何も出来へん』
「りょーちゃんの問題が解決するまで何も出来ないままでいてくれなきゃ困るんだよぉ」
零はゆるゆるふわふわとした口調と雰囲気でツヅラの交渉を跳ね除け続け、人前では風呂敷に包んで隠すことも忘れず、ツヅラに再生を、その他大勢にツヅラを見ることを、決して許さなかった。
「とうちゃーく、神降の国! そこそこ発展してるねぇ、嵐でもあったのか瓦礫すごいけど……」
零はバアルなどの神性が破壊した建造物に数秒の祈りを捧げ、入国審査を受けた。正義の国の神父という国連でもトップクラスの証明書に審査官達は目を丸くし、にわかに騒ぎ始めた。
「いやぁすいませんね、神父の証明書なんて初めて見たもので……それで、この国に何の用でしょう。少し前に他宗教の国と戦争になったこともありまして、滅多な用事でない限り、正義の国を始めとした宗教国家の方は入れられない決まりとなっております」
マスクまで着けて冷気を限界まで抑えていたが、それでも漏れた冷気が審査官の体を冷やした。
「……亡命、かなぁ」
「えっ……」
初めて見た国連の特権階級は亡命者だった。その事実は新米審査官の思考を止めるに十分過ぎた。その上、零は風呂敷を広げてツヅラの生首を見せた。
「これはりょーちゃん、僕の親友で兄弟。今は訳あって魔物でね、これでも普通に生きてるんだぁ。りょーちゃんが人間になれるように、なれなくても人間の中で生きていけるように、そんな活動をこそこそしてたら国に怪しまれちゃったんだぁ」
零はツヅラにすらどこまでが嘘なのか分からない話を組み立てた。とりあえず自分に出来るのはぶっ飛んだ頭と行動力を持つ兄弟を猟奇殺人犯にしてしまわないよう、生きていると示すことだった。そうツヅラは確信した。
『……頼むわ兄ちゃん、俺らもう行くとこあれへんねん。ここで断られたらもう処刑されるしか道あれへんようなってまうわ』
「りょーちゃんは死なないからきっと串刺しにして生き埋めだね。零は酷い罰を受けてから……んー、磔刑? 火炙り? 爪とか剥がされて皮もほとんど剥がされた状態でさぁ……遠巻きな火に炙られて…………入れてもらえないと零はそうなっちゃうけど、それが決まりなら仕方ないし、仕事なんだから追い出す君も恨みもしないよ」
ツヅラは零の組み立てる話に怯えていた。内容ではない、普段との差に怯えているのだ。ふわふわと掴みどころのない温和な神父……相対する者の毒気を抜く話し方に微笑み。それが凍堂・零。
だが自分を抱えているこれは何だ? 苛烈な罰についてや自分達の末路を話しておいて、そうなるかどうかの選択肢はお前にあると示しておいて、恨みはしないといつも通りの笑顔を浮かべるなんて──これは本当に零なのか? 子供時代を共に過ごした、学生時代も共に過ごした、大人になってからだって休日には顔を合わせていた、そんな自分にさえ零という人が分からない。
ツヅラは静かなパニックに陥っていた。
「…………死ぬと分かっている人を追い出すのはこの国の正義に反します。しかし、神父の亡命は……私には判断できかねます。上の者を呼んで来ますので少々お待ち願えますか」
「……ありがとうございます」
審査官が部屋を出ていくと扉には鍵がかけられ、零とツヅラにには分からないが部屋の外には武器を持った兵士達が並んだ。
『な、なぁ、零……』
「……上手くいきそうで良かったねぇりょーちゃん、零達助かるよぉ」
『え……いや、まだ分かれへんやろ』
「だぁーいじょうぶ、ふふ……どんな人が来ても言いくるめる自信はあるからぁ」
神父とは神の教えを伝え、人の心を救う者。正義の国において、天使の加護を受けておらず魔性との戦いも得意でない神父の仕事はカウンセリングだ。親身に相談に乗る者を各国へ派遣し、心を僅かでも救われた者達を信者に変えていく。
「特殊な精神状態にない健康で文化的な国の人はぁ、敵国の人間でもぉ、助けを求めている暫定無害の人を無下には出来ないものなんだよぉ」
鍵が開く音が部屋に響いて、零はツヅラへの説明を中止する。立ち上がり、部屋に入ってきた蒼い髪の青年に一礼した。
「ご丁寧にどーも。神父さん、随分変わったカッコだね。どーぞ座って」
生え際から毛先にかけて色が抜けていくグラデーションの髪と翠の瞳が特徴的な青年──ヘルメス。
零は再び頭を下げ、腰を下ろした。
「……首だけで生きてるんだ。凄いね……」
一通りの事情を聞いたヘルメスは改めてツヅラの姿をまじまじと眺めた。
「で、入国許可だね。亡命が嘘で間諜だったりするんなら──こんな生首持ってきたりしないよねぇ。正義の国の使いっ走りにしては不自然。だから、まぁ、信用は出来るかな」
嘘吐きなヘルメスは他人の嘘の矛盾点を突くのが得意だ、見破るのが得意なのだ。だから零の話は基本的に真実で構成されていると分かった。
「よし、入国は許可するよ。その代わり条件がある」
「…………何かな?」
「少し前山が落雷で崩れてね、獣人の国が壊滅的被害を受けたんだ。だから避難してきた獣人の国の方々を保護してるんだ、この国と獣人の国はあまり相性が良くないから獣人のみの特区を作ってね。君にはそこに行ってもらう、そこから出る時はまた特別な許可が必要。これを破った場合は強制送還……どうかな?」
「獣人の……! うん、分かったよぉ。それにしても落雷で山が崩れるなんてあるんだねぇ、怖い怖い……」
「……っと、条件はもう一つ。宣教を禁止する。これはどうかな」
「うん、うん、大丈夫ぅ、大人しく普通のお仕事して過ごすよぉ、ありがとうねぇ」
零はこうして神降の国への入国許可を得て、獣人地区の外れに家を貰い、悪疫の医者の格好のまま、生首と共に平和な暮らしを始めた。
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