622 / 909
第三十五章 幾重もの偽物と閑話休題
結髪
しおりを挟む
明くる日、獣臭いベッドでカーテンの隙間からの陽光を受け、僕を包んでいた獣達をすり抜ける。軽く伸びをしてベッドに視線を移す。金、銀、赤銅が入り乱れる不可思議な光景だ。先程まで白と黒と赤銅の翼が僕を包んでいて暑苦し……とても温かくて良い寝心地だった。
『……ほっとこ』
もう一度飛び込んでもふもふを堪能したいところだが、彼らを起こせば騒がしい。僕は一人で洗面所に向かった。
長く伸びた髪は床に引き摺られている、少し前まで引き摺りはしなかったと思うのだが、伸びる速度が尋常ではない。引き摺らないようにまとめたいが、僕にそんな技術はない。とりあえず髪の毛をそこらに引っ掛けないように持ち上げて、ブラシとヘアゴムを持ってダイニングへ向かった。
『おはよ、フェル。髪……頼めないかな』
『今忙しい、自分でやって』
無下に断られてしまった。
朝食準備中のフェルの背中を見ながら髪をまとめる技術を持つ人を待つ。
『……お兄ちゃんがこんなに早く起きるなんて珍しいよね』
『そう……かな。そうだね』
人でなくなってから睡眠時間が短くなったように思える。腹が減ったという感覚もまずない。上手い返しが思い付かず無言の時を過ごしながら、人間でなくなっていく恐怖に自分の肩を抱き締めた。
『おはよぉー。ぁ、だーりん起きてたの? 珍しいわね』
『……メル、おはよ』
『ボクも居るよ、おはよ!』
『セネカさん、おはようございます』
両肩越しに同時に覗き込まれ、無愛想な返事をし、席に座ろうとする彼らを見てふと思い付き声を上げた。
『待って! あの、二人とも……髪、これ、何とかしてくれないかな』
『髪? あぁ、まっかせて!』
そう言ってキッチン鋏を持ってきたセネカを追い返し、メルに希望をかける。
『分かってるわだーりん、ちゃんとした鋏持ってくるから待ってて』
『違う違う違う違う……引き摺らないようにまとめて欲しいんだ』
『そっち? じゃあ三つ編みでもする?』
『セネカ出来ないでしょ、不器用なんだから……』
二人とも肩に付くか付かないかのショートヘアだ、相談相手を間違えたかもしれない。身嗜みだとかの話なら一番良い相手だと思ったのだが。
『メルちゃんだってやったことないくせに』
『やったことがなくても出来るわよ。こういうのは女のコの嗜みだもの。だーりん、髪触るわよ』
『ぁ……うん』
『ボクだって今は違うけど女の子になるし! ボクもやる!』
メルと同じようにセネカも僕の髪を持ち上げた──つもりだったのだろう。力強く引っ張られて何本かちぎれた。
『痛っ』
『ご、ごめん……』
他人にブラシを通された経験はあるが、三つ編みをされた経験はない。ぐいぐいと引っ張られたりちぎられたり、案外と痛いものだ。
『よし、完成!』
『なんかすっごいぴょこぴょこ飛び出してるけど完成だよ!』
部分的に頭皮が引っ張られ、長い髪の重量が全てそこにかかっている。髪を編んでいる者は皆この痛みに耐えて生活しているのだろうか?
『出来たの? 見せて……うわ、下手くそだね』
『ひ、酷いやフェルシュング君!』
どうやらメルとセネカの合作の出来は悪いらしい。
『フェル、ご飯作り終わったなら……』
『終わってない。僕も髪いじったりできないし』
『…………誰がこういうの上手いか知らない?』
『だーりん! 今度はワタシ一人でやるわ、三つ編みくらい出来るから!』
『な、何言ってるのメルちゃん! ボクの方が上手いって!』
メルに担当されていた左側頭部の方はあまり頭皮が引っ張られてはいないから、メルはそれなりに出来るのだろう。だが、セネカと張り合っている以上まともな出来にはならない。
『……二人とも、ご飯何人分かは先に出来たみたいだし、先食べなよ。今日は早番でしょ』
『だぁーりぃん……違うの、ちゃんと出来るのよ?』
『分かってる、メルは上手いよ』
『ボクはボクは?』
『二度と髪触らないでください』
不服そうなメルと落ち込むセネカを傍目に手探りで三つ編みを解き、ブラシを通そうとするも、絡まり合った髪を梳くのは容易ではない。
「おはよ……うわ、何お前髪ぐっちゃぐちゃだな」
『ヴェーンさん、ヴェーンさんって髪いじるの得意?』
「え、いや、全然。人形のヘアスタイルはいくらでも弄れるけど人間はキツい」
『人間も人形も髪は大して変わらないよ、やってくれない?』
「一番の違い教えてやろうか? 痛覚だ。後な、人形は一回やれば終わりで人間は風呂だの寝るだのの度にやんなきゃならない、面倒臭い」
そう言いながらもブラシを受け取って絡まった髪を元に戻してはくれた。やはり手先はかなり器用だ。
「フェールー、スムージー俺にやらせろ」
『トマト以外も入れてくださいね』
頭皮の痛みも大分引いたし、これで元通りだ。アル達獣連中には期待出来ないし、ライアーを人型に戻そうか、彼は何でも出来そうだ。
『ただいまー……あら、頭領はん。また伸びはった? 髪ばっかりやねぇ』
『あ、茨木、おかえり。あのさ、疲れてるところ悪いんだけど、髪編んでくれないかな』
『頭領はんの? ええよ』
何と勝負をしていた訳でもないのに、何故か「勝った」という言葉が頭に浮かんだ。初対面の頃か、茨木は綺麗に髪を結い上げていた記憶がある、今は男装しているから後ろで結んでいるだけだけれど。片手でもあの見事な髪型が出来るのなら──と期待していると、ぶちぶちと耳の後ろで音が響いた。
『……変やねぇ』
『い、茨木? 待っ……痛いっ! 痛い痛い痛いって!』
『んー……? こうやね!』
『ぅあっ!? ぁ……首、なんか変な音……』
髪を思い切り引っ張られて首を捻るなんてことがあるだろうか。随分引きちぎられてしまったし……ハゲてはいないだろうか。
『堪忍なぁ頭領はん、酔うてんのか眠いんか、なんや上手に出来へんわぁ』
『い、いや、いいよ……ごめんね、ありがと。もう寝て……』
『茨木さん、昼に味噌汁作るつもりだから良かったら起きてきて』
『はぁい、おやすみー……頭領はんに弟はん』
ひらひらと手を振って去っていく。相変わらず見事な男装だが、やはり色気はあるな……なんて考えたり。
もうライアーに頼るしかない。彼は確かビニール袋に包んで枕元に寝かせていたはずだ。
『……うわぁ』
ダイニングを出て部屋に向かおうとしたが、玄関で倒れている赤髪の男を見つけ、足が止まった。一度ダイニングに戻ってフェルに水をもらい、あまり近付きたくない酔い潰れているであろう酒呑の傍に膝を折って座る。
『酒呑、酒呑、起きて。もう少し頑張って部屋行って。ほら、水』
『ぉー……おおきに、天女はん』
『悪いけど僕は地上の男だよ』
水を飲み干した酒呑は靴箱に背を預け、ぼうっと座り込んでいる。手を引っ張って立ち上がらせようとしていると不意に彼の目が僕に向いた。三白眼……いやもはや四白に近いその目は改めて見ると恐怖を覚える。
『頭領やんけ、何しとるんそんなもん持って』
明瞭に近付いた瞳は僕の顔から僕の手にあるブラシに移る。
『……兄さんに髪編んでもらおうとしたら君が倒れてたんだよ。肩貸すから部屋で寝て』
『髪? えらいぐっちゃぐちゃやのぉ』
『茨木のせいだよ……いっぱいちぎられたし、僕ハゲてないよね?』
よろよろと立ち上がった酒呑は僕の肩を掴み、後ろを向かせた。
『……何?』
『ええからええから』
ブラシを奪い取ると僕の髪を梳き始める。酔っ払った粗雑な男に手を出されたら茨木以上の大惨事になる、始めはそう思っていた。
『…………痛くない』
髪を弄られているのに少しも痛くない、それどころか心地好い。
『……おーい、箸! 箸寄越し!』
壁を叩くと扉からフェルが顔を出す。
『箸……今朝は使わないからいいけど、なんで?』
『ええから寄越し』
箸をフェルから奪い取ると僕の頭、と言うより結い上げた髪の塊の部分に突き刺した。
『んー……もう一本』
『え……? ぁ、うん……』
『ほい、完成や頭領』
『嘘、箸でこの量まとまるの!? 何これ……え、何? 魔術?』
鏡がないからよく分からないが、まとまっているらしい。恐る恐る頭の後ろに手を持っていけばたわんだ結髪に触れた。絶妙なバランスながらしっかりと留められており、少し頭を振った程度ではビクともしない。
『すごい……ありがとう酒呑! 全然期待してなかったけど間違いだったよ!』
『失礼なやっちゃな、何年茨木の髪結わされてたと思てん。礼やら詫びやら兼ねて晩酌……朝酌付き合え』
『まだ飲むの? 寝なよ』
『いいよいいよいくらでも飲んで!』
『ちょっと……お兄ちゃん。まぁ……いっか』
その後僕は真昼過ぎまで続いた彼の晩酌ならぬ朝酌に付き合うことになり、何度も同じ話を聞かされて少し後悔したのだった。
『……ほっとこ』
もう一度飛び込んでもふもふを堪能したいところだが、彼らを起こせば騒がしい。僕は一人で洗面所に向かった。
長く伸びた髪は床に引き摺られている、少し前まで引き摺りはしなかったと思うのだが、伸びる速度が尋常ではない。引き摺らないようにまとめたいが、僕にそんな技術はない。とりあえず髪の毛をそこらに引っ掛けないように持ち上げて、ブラシとヘアゴムを持ってダイニングへ向かった。
『おはよ、フェル。髪……頼めないかな』
『今忙しい、自分でやって』
無下に断られてしまった。
朝食準備中のフェルの背中を見ながら髪をまとめる技術を持つ人を待つ。
『……お兄ちゃんがこんなに早く起きるなんて珍しいよね』
『そう……かな。そうだね』
人でなくなってから睡眠時間が短くなったように思える。腹が減ったという感覚もまずない。上手い返しが思い付かず無言の時を過ごしながら、人間でなくなっていく恐怖に自分の肩を抱き締めた。
『おはよぉー。ぁ、だーりん起きてたの? 珍しいわね』
『……メル、おはよ』
『ボクも居るよ、おはよ!』
『セネカさん、おはようございます』
両肩越しに同時に覗き込まれ、無愛想な返事をし、席に座ろうとする彼らを見てふと思い付き声を上げた。
『待って! あの、二人とも……髪、これ、何とかしてくれないかな』
『髪? あぁ、まっかせて!』
そう言ってキッチン鋏を持ってきたセネカを追い返し、メルに希望をかける。
『分かってるわだーりん、ちゃんとした鋏持ってくるから待ってて』
『違う違う違う違う……引き摺らないようにまとめて欲しいんだ』
『そっち? じゃあ三つ編みでもする?』
『セネカ出来ないでしょ、不器用なんだから……』
二人とも肩に付くか付かないかのショートヘアだ、相談相手を間違えたかもしれない。身嗜みだとかの話なら一番良い相手だと思ったのだが。
『メルちゃんだってやったことないくせに』
『やったことがなくても出来るわよ。こういうのは女のコの嗜みだもの。だーりん、髪触るわよ』
『ぁ……うん』
『ボクだって今は違うけど女の子になるし! ボクもやる!』
メルと同じようにセネカも僕の髪を持ち上げた──つもりだったのだろう。力強く引っ張られて何本かちぎれた。
『痛っ』
『ご、ごめん……』
他人にブラシを通された経験はあるが、三つ編みをされた経験はない。ぐいぐいと引っ張られたりちぎられたり、案外と痛いものだ。
『よし、完成!』
『なんかすっごいぴょこぴょこ飛び出してるけど完成だよ!』
部分的に頭皮が引っ張られ、長い髪の重量が全てそこにかかっている。髪を編んでいる者は皆この痛みに耐えて生活しているのだろうか?
『出来たの? 見せて……うわ、下手くそだね』
『ひ、酷いやフェルシュング君!』
どうやらメルとセネカの合作の出来は悪いらしい。
『フェル、ご飯作り終わったなら……』
『終わってない。僕も髪いじったりできないし』
『…………誰がこういうの上手いか知らない?』
『だーりん! 今度はワタシ一人でやるわ、三つ編みくらい出来るから!』
『な、何言ってるのメルちゃん! ボクの方が上手いって!』
メルに担当されていた左側頭部の方はあまり頭皮が引っ張られてはいないから、メルはそれなりに出来るのだろう。だが、セネカと張り合っている以上まともな出来にはならない。
『……二人とも、ご飯何人分かは先に出来たみたいだし、先食べなよ。今日は早番でしょ』
『だぁーりぃん……違うの、ちゃんと出来るのよ?』
『分かってる、メルは上手いよ』
『ボクはボクは?』
『二度と髪触らないでください』
不服そうなメルと落ち込むセネカを傍目に手探りで三つ編みを解き、ブラシを通そうとするも、絡まり合った髪を梳くのは容易ではない。
「おはよ……うわ、何お前髪ぐっちゃぐちゃだな」
『ヴェーンさん、ヴェーンさんって髪いじるの得意?』
「え、いや、全然。人形のヘアスタイルはいくらでも弄れるけど人間はキツい」
『人間も人形も髪は大して変わらないよ、やってくれない?』
「一番の違い教えてやろうか? 痛覚だ。後な、人形は一回やれば終わりで人間は風呂だの寝るだのの度にやんなきゃならない、面倒臭い」
そう言いながらもブラシを受け取って絡まった髪を元に戻してはくれた。やはり手先はかなり器用だ。
「フェールー、スムージー俺にやらせろ」
『トマト以外も入れてくださいね』
頭皮の痛みも大分引いたし、これで元通りだ。アル達獣連中には期待出来ないし、ライアーを人型に戻そうか、彼は何でも出来そうだ。
『ただいまー……あら、頭領はん。また伸びはった? 髪ばっかりやねぇ』
『あ、茨木、おかえり。あのさ、疲れてるところ悪いんだけど、髪編んでくれないかな』
『頭領はんの? ええよ』
何と勝負をしていた訳でもないのに、何故か「勝った」という言葉が頭に浮かんだ。初対面の頃か、茨木は綺麗に髪を結い上げていた記憶がある、今は男装しているから後ろで結んでいるだけだけれど。片手でもあの見事な髪型が出来るのなら──と期待していると、ぶちぶちと耳の後ろで音が響いた。
『……変やねぇ』
『い、茨木? 待っ……痛いっ! 痛い痛い痛いって!』
『んー……? こうやね!』
『ぅあっ!? ぁ……首、なんか変な音……』
髪を思い切り引っ張られて首を捻るなんてことがあるだろうか。随分引きちぎられてしまったし……ハゲてはいないだろうか。
『堪忍なぁ頭領はん、酔うてんのか眠いんか、なんや上手に出来へんわぁ』
『い、いや、いいよ……ごめんね、ありがと。もう寝て……』
『茨木さん、昼に味噌汁作るつもりだから良かったら起きてきて』
『はぁい、おやすみー……頭領はんに弟はん』
ひらひらと手を振って去っていく。相変わらず見事な男装だが、やはり色気はあるな……なんて考えたり。
もうライアーに頼るしかない。彼は確かビニール袋に包んで枕元に寝かせていたはずだ。
『……うわぁ』
ダイニングを出て部屋に向かおうとしたが、玄関で倒れている赤髪の男を見つけ、足が止まった。一度ダイニングに戻ってフェルに水をもらい、あまり近付きたくない酔い潰れているであろう酒呑の傍に膝を折って座る。
『酒呑、酒呑、起きて。もう少し頑張って部屋行って。ほら、水』
『ぉー……おおきに、天女はん』
『悪いけど僕は地上の男だよ』
水を飲み干した酒呑は靴箱に背を預け、ぼうっと座り込んでいる。手を引っ張って立ち上がらせようとしていると不意に彼の目が僕に向いた。三白眼……いやもはや四白に近いその目は改めて見ると恐怖を覚える。
『頭領やんけ、何しとるんそんなもん持って』
明瞭に近付いた瞳は僕の顔から僕の手にあるブラシに移る。
『……兄さんに髪編んでもらおうとしたら君が倒れてたんだよ。肩貸すから部屋で寝て』
『髪? えらいぐっちゃぐちゃやのぉ』
『茨木のせいだよ……いっぱいちぎられたし、僕ハゲてないよね?』
よろよろと立ち上がった酒呑は僕の肩を掴み、後ろを向かせた。
『……何?』
『ええからええから』
ブラシを奪い取ると僕の髪を梳き始める。酔っ払った粗雑な男に手を出されたら茨木以上の大惨事になる、始めはそう思っていた。
『…………痛くない』
髪を弄られているのに少しも痛くない、それどころか心地好い。
『……おーい、箸! 箸寄越し!』
壁を叩くと扉からフェルが顔を出す。
『箸……今朝は使わないからいいけど、なんで?』
『ええから寄越し』
箸をフェルから奪い取ると僕の頭、と言うより結い上げた髪の塊の部分に突き刺した。
『んー……もう一本』
『え……? ぁ、うん……』
『ほい、完成や頭領』
『嘘、箸でこの量まとまるの!? 何これ……え、何? 魔術?』
鏡がないからよく分からないが、まとまっているらしい。恐る恐る頭の後ろに手を持っていけばたわんだ結髪に触れた。絶妙なバランスながらしっかりと留められており、少し頭を振った程度ではビクともしない。
『すごい……ありがとう酒呑! 全然期待してなかったけど間違いだったよ!』
『失礼なやっちゃな、何年茨木の髪結わされてたと思てん。礼やら詫びやら兼ねて晩酌……朝酌付き合え』
『まだ飲むの? 寝なよ』
『いいよいいよいくらでも飲んで!』
『ちょっと……お兄ちゃん。まぁ……いっか』
その後僕は真昼過ぎまで続いた彼の晩酌ならぬ朝酌に付き合うことになり、何度も同じ話を聞かされて少し後悔したのだった。
0
お気に入りに追加
435
あなたにおすすめの小説
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる