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第三十一章 過去全ての魔物使いを凌駕せよ
人界は人のモノ
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今はそうは呼ばれていないようだけど、やがて植物の国となる島に人間達は避難させられた。もちろん他の大陸にも島にもまだまだ残っているだろう、それでも僕は自分の前世が悪魔にやらせた人助けを誇りに思う。
もう何時間も戦い続けているのに一向に太陽の位置が変わらない。いくら大陸間を移動しているといっても時間が進んでいないことは理解出来る。
前世の僕はそれにとっくの前から気が付いていたらしく、とある大陸に辿り着くと竜の頭の上で吼えた。
「……出て来いよ、邪教徒!」
竜が立つのは半透明のドームの前、魔法の国を一望する場所。その結界の上に立つのは──ヘクセンナハト。
「…………悪魔を従える君に邪教呼ばわりされたくないな。にしても……そうか、創造神の信者が幅をきかせてるのか……」
竜は片足をドームにかけ、身体を捻って長い尾でナハトを薙ぐ。地面を離れた足はそのままドームの上に乗り、尻尾を振ってバランスを取り、ドームの上に二足で立つ。
「サタン、この結界は割れないの? うん……うん、分かった。割らなくてもいいよ、中の人達を殺す気はないし……」
「私は殺したのにか?」
「……っ!? 確かにさっき……サタン! もう一回!」
ナハトは前世の僕の目の前に、竜の鼻の上に現れる。竜は首を振ってナハトを落とし、その大きな牙で穿いた。
口からはみ出た上半身と口内に入った下半身の繋ぎ目は簡単にちぎれて、竜は落ちていく上半身も空中で捕まえた。
「…………食べた? いや、飲み込むのはやめた方がいいかも……」
赤い塊が吐き出され、霧のようになって消える。
「消えた! やっぱり何かおかしい、何か仕込まれてる!」
「勘はいいようだな、魔物使い。しかし……お前自身が無能なのはよく分かっている」
今度はナハトは背後に現れ、前世の僕の首に縄を引っ掛ける。
「このまま絞め殺されたくなければ、この竜を下がらせろ」
「……っ、の……」
「なんだって? 早く竜を下がらせろ!」
「は……な、せぇっ!」
その叫びが早いか縄は四散し、ナハトの両腕が破裂する。
「なっ……魔物使い、一体何を……」
「……壊れろ」
魔法を繰り出そうとしたナハトの動きが止まる。腕の再生すら進んでいない。
「壊れろ、壊れろ、壊れろ壊れろっ……! 壊れろっってんだろ!? とっととこの世から失せろぉっ!」
竜の姿が消え、竜の尾と翼と角を生やした男が──サタンが前世の僕の目と口を腕で塞ぐ。
『落ち着け魔物使い、無茶な使い方をするな』
サタンは竜の姿だった時と同じように結界の上に立ち、破裂を繰り返して原型を失ったナハトを眺める。
『魔力が多く人間の範疇を越えていたとはいえ、人間を……こんな』
腕を剥がそうともがいていた僕の前世が抵抗を諦めると同時に肉片の集合体は人の形に戻る。
「魔物使い……お前、私の魔法を全て打ち消したな? おかげで……痛かったぞ、何百年ぶりだ……こんな痛み。まさかお前に与えられるなんてなぁっ!」
『……強さと相性を吟味してから牙を剥け、人間』
「私が魔物使いに負けるはずがない! 魔物使いは無能なんだ、私が……ずっと守らなければならなかった! 前は失敗した、今度は失敗しない、だから寄越せ!」
サタンは深いため息をつき、腕を解く。
半透明の結界の上に立たされた僕の前世は下の景色を見て、静かに息を呑む。
「…………魔物使い。さぁ、私の元に……」
「……アイツらを復活させたのは君だね」
「ああ、神様がそれを望んだ」
「君のせいでたくさん死んだ。人間も、動物も、魔獣も……だからさ、その回数君も死になよ。何回だって生き返れるんだろ? いいね、便利で」
僕の前世はナハトに尋常ならざる憎悪を向けている。自分の両親を殺したのは天使だという嘘を見破ってはいないはずだ、大量の死の原因となったというだけでここまでの憎悪を抱けるものなのか?
「……魔物使い。そうか、私を拒絶するのか…………残念だ。なら今一度人形にしてやる!」
ナハトの手に魔法陣が浮かぶ。サタンは腕を組み二人をじっと見つめている、手を出す気はなさそうだ。
「自身への再生と蘇生以外の魔法の使用を禁ずる!」
「私の言いなりに……ぇ?」
魔法陣は消え、ナハトが何を唱えようと何度手を振ろうとそれは現れなかった。
「…………で、出来た? 出来たよね、僕……」
『ああ、よくやった。これでこの女はただの人間だな、不老不死の……幾らでも拷問を試せる』
「星の動きも正常化するはずだし、旧支配者達の封印も戻るはず……天使を一人も殺せなかったのは残念だけど、僕達勝ったんだよね」
『…………そうだな』
サタンはナハトを結界の頂点から蹴り落とし、前世の僕を抱えてその横に飛び降りた。結界はドーム状になっているとはいえゆるやかに落ちるのは途中までだ。ナハトは地面に叩きつけられ、普通の人間なら即死であろう傷を負い、再生する途中だった。
「ぁ、ぁ……ぐ、ぅ…………魔物使い、この無能がっ、よくも……」
再生には若干の痛みと不快感が伴い、再生直後は治ったはずの部位に違和感を覚える。手足の末端でそれなら壊れた臓器を再生させたナハトが感じた苦痛は僕には想像も出来ないものだろう。
『ふっ……イイ、イイな……自分が何よりも優れていると勘違いし増長した人間、これほどイイものはない』
サタンは嗜虐的な笑みを浮かべ、塞がる直前だった傷口に爪先を突っ込んだ。尖った革靴はナハトの白い肌に遠慮なくぐりぐりと挿し込まれ、彼女の体内を蹂躙する。
『……何をやっても殺してしまう心配はなく、すぐに再生する。最高だな』
腹を破って足を出す。サタンの黒い靴とスラックスの裾は真っ赤に染まっていた。ナハトはしばらくの間苦痛に喘ぎ、傷が塞がると前世の僕の足に縋りついた。
「助けて……魔物使い、助けて、お願い……」
「…………やだよ」
「どうしてっ……魔物使い、私はずっとお前の世話をしてやったじゃないか! 確かに、一度守るのに失敗してしまったが……いや、二度だな、悪魔に遅れを取った。とにかく! 私は、私は……お前のために国を作って、お前のために魔法を編み出して、お前のために生きてきたんだ! それなのに……こんな仕打ちあんまりだろう。なぁ、魔物使い……助けてくれるよな?」
「何言ってるのか分かんないよ」
ナハトが話しているのは数代前の前世のことだろう、僕のために──なんてのは彼女の勝手な捏造だけれど。国も魔法も彼女の都合と好奇心で作り上げたものだ。
「……幼馴染みだろ? 魔物使い……私のことが好きだよな? そうなんだろ? 助けてくれるなら一度くらい抱かせてやってもいい」
「…………サタン。好きに使っていいけどベルゼブブと喧嘩しないでよ。多分欲しがるから仲良く分けて」
『確かに、美味そうだ。ブブも今回はよく働いた。喧嘩をするな……か、余がそんな子供に見えたか?』
前世の僕は無慈悲に手を振り払い、サタンの尾の上に腰掛けた。
「魔物使い…………そんな、嫌だ……お前も私を捨てるのか。私は誰より優秀なのに、誰も……私を、愛してくれない。お前だけは……違うと思っていたのに」
『……余は愛してやるさ。貴様は最高の玩具だ』
「嫌っ……嫌だ、魔物使い! 助けて、助けろ! 私が助けろって言ってるんだ、助けろ!」
「…………サタン、君の趣味じゃないだろうけどさぁ……舌抜くか喉潰すかして」
『確かに、余は声を聞くのも好きだが……人間の尊厳とも言える言葉を奪われた人間を見るのも好きだ、気にするな』
前世の僕には加虐趣味は無いようで、弄ばれるナハトから目を背け耳を塞いでいる。
しかし、彼の一連の言動は彼女を人として見ていないものだった。屠殺現場を見たくはないけれど、家畜のシステムそのものには何も思わない……そんな一般的な人のように、彼は自身の都合で人を助け人を利用し人を殺している。
虐殺よりも、拷問よりも、その人からズレた精神性は何よりも悪魔に近い。
僕はそう感じ、微かな寒気を覚えた。
もう何時間も戦い続けているのに一向に太陽の位置が変わらない。いくら大陸間を移動しているといっても時間が進んでいないことは理解出来る。
前世の僕はそれにとっくの前から気が付いていたらしく、とある大陸に辿り着くと竜の頭の上で吼えた。
「……出て来いよ、邪教徒!」
竜が立つのは半透明のドームの前、魔法の国を一望する場所。その結界の上に立つのは──ヘクセンナハト。
「…………悪魔を従える君に邪教呼ばわりされたくないな。にしても……そうか、創造神の信者が幅をきかせてるのか……」
竜は片足をドームにかけ、身体を捻って長い尾でナハトを薙ぐ。地面を離れた足はそのままドームの上に乗り、尻尾を振ってバランスを取り、ドームの上に二足で立つ。
「サタン、この結界は割れないの? うん……うん、分かった。割らなくてもいいよ、中の人達を殺す気はないし……」
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「……っ!? 確かにさっき……サタン! もう一回!」
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口からはみ出た上半身と口内に入った下半身の繋ぎ目は簡単にちぎれて、竜は落ちていく上半身も空中で捕まえた。
「…………食べた? いや、飲み込むのはやめた方がいいかも……」
赤い塊が吐き出され、霧のようになって消える。
「消えた! やっぱり何かおかしい、何か仕込まれてる!」
「勘はいいようだな、魔物使い。しかし……お前自身が無能なのはよく分かっている」
今度はナハトは背後に現れ、前世の僕の首に縄を引っ掛ける。
「このまま絞め殺されたくなければ、この竜を下がらせろ」
「……っ、の……」
「なんだって? 早く竜を下がらせろ!」
「は……な、せぇっ!」
その叫びが早いか縄は四散し、ナハトの両腕が破裂する。
「なっ……魔物使い、一体何を……」
「……壊れろ」
魔法を繰り出そうとしたナハトの動きが止まる。腕の再生すら進んでいない。
「壊れろ、壊れろ、壊れろ壊れろっ……! 壊れろっってんだろ!? とっととこの世から失せろぉっ!」
竜の姿が消え、竜の尾と翼と角を生やした男が──サタンが前世の僕の目と口を腕で塞ぐ。
『落ち着け魔物使い、無茶な使い方をするな』
サタンは竜の姿だった時と同じように結界の上に立ち、破裂を繰り返して原型を失ったナハトを眺める。
『魔力が多く人間の範疇を越えていたとはいえ、人間を……こんな』
腕を剥がそうともがいていた僕の前世が抵抗を諦めると同時に肉片の集合体は人の形に戻る。
「魔物使い……お前、私の魔法を全て打ち消したな? おかげで……痛かったぞ、何百年ぶりだ……こんな痛み。まさかお前に与えられるなんてなぁっ!」
『……強さと相性を吟味してから牙を剥け、人間』
「私が魔物使いに負けるはずがない! 魔物使いは無能なんだ、私が……ずっと守らなければならなかった! 前は失敗した、今度は失敗しない、だから寄越せ!」
サタンは深いため息をつき、腕を解く。
半透明の結界の上に立たされた僕の前世は下の景色を見て、静かに息を呑む。
「…………魔物使い。さぁ、私の元に……」
「……アイツらを復活させたのは君だね」
「ああ、神様がそれを望んだ」
「君のせいでたくさん死んだ。人間も、動物も、魔獣も……だからさ、その回数君も死になよ。何回だって生き返れるんだろ? いいね、便利で」
僕の前世はナハトに尋常ならざる憎悪を向けている。自分の両親を殺したのは天使だという嘘を見破ってはいないはずだ、大量の死の原因となったというだけでここまでの憎悪を抱けるものなのか?
「……魔物使い。そうか、私を拒絶するのか…………残念だ。なら今一度人形にしてやる!」
ナハトの手に魔法陣が浮かぶ。サタンは腕を組み二人をじっと見つめている、手を出す気はなさそうだ。
「自身への再生と蘇生以外の魔法の使用を禁ずる!」
「私の言いなりに……ぇ?」
魔法陣は消え、ナハトが何を唱えようと何度手を振ろうとそれは現れなかった。
「…………で、出来た? 出来たよね、僕……」
『ああ、よくやった。これでこの女はただの人間だな、不老不死の……幾らでも拷問を試せる』
「星の動きも正常化するはずだし、旧支配者達の封印も戻るはず……天使を一人も殺せなかったのは残念だけど、僕達勝ったんだよね」
『…………そうだな』
サタンはナハトを結界の頂点から蹴り落とし、前世の僕を抱えてその横に飛び降りた。結界はドーム状になっているとはいえゆるやかに落ちるのは途中までだ。ナハトは地面に叩きつけられ、普通の人間なら即死であろう傷を負い、再生する途中だった。
「ぁ、ぁ……ぐ、ぅ…………魔物使い、この無能がっ、よくも……」
再生には若干の痛みと不快感が伴い、再生直後は治ったはずの部位に違和感を覚える。手足の末端でそれなら壊れた臓器を再生させたナハトが感じた苦痛は僕には想像も出来ないものだろう。
『ふっ……イイ、イイな……自分が何よりも優れていると勘違いし増長した人間、これほどイイものはない』
サタンは嗜虐的な笑みを浮かべ、塞がる直前だった傷口に爪先を突っ込んだ。尖った革靴はナハトの白い肌に遠慮なくぐりぐりと挿し込まれ、彼女の体内を蹂躙する。
『……何をやっても殺してしまう心配はなく、すぐに再生する。最高だな』
腹を破って足を出す。サタンの黒い靴とスラックスの裾は真っ赤に染まっていた。ナハトはしばらくの間苦痛に喘ぎ、傷が塞がると前世の僕の足に縋りついた。
「助けて……魔物使い、助けて、お願い……」
「…………やだよ」
「どうしてっ……魔物使い、私はずっとお前の世話をしてやったじゃないか! 確かに、一度守るのに失敗してしまったが……いや、二度だな、悪魔に遅れを取った。とにかく! 私は、私は……お前のために国を作って、お前のために魔法を編み出して、お前のために生きてきたんだ! それなのに……こんな仕打ちあんまりだろう。なぁ、魔物使い……助けてくれるよな?」
「何言ってるのか分かんないよ」
ナハトが話しているのは数代前の前世のことだろう、僕のために──なんてのは彼女の勝手な捏造だけれど。国も魔法も彼女の都合と好奇心で作り上げたものだ。
「……幼馴染みだろ? 魔物使い……私のことが好きだよな? そうなんだろ? 助けてくれるなら一度くらい抱かせてやってもいい」
「…………サタン。好きに使っていいけどベルゼブブと喧嘩しないでよ。多分欲しがるから仲良く分けて」
『確かに、美味そうだ。ブブも今回はよく働いた。喧嘩をするな……か、余がそんな子供に見えたか?』
前世の僕は無慈悲に手を振り払い、サタンの尾の上に腰掛けた。
「魔物使い…………そんな、嫌だ……お前も私を捨てるのか。私は誰より優秀なのに、誰も……私を、愛してくれない。お前だけは……違うと思っていたのに」
『……余は愛してやるさ。貴様は最高の玩具だ』
「嫌っ……嫌だ、魔物使い! 助けて、助けろ! 私が助けろって言ってるんだ、助けろ!」
「…………サタン、君の趣味じゃないだろうけどさぁ……舌抜くか喉潰すかして」
『確かに、余は声を聞くのも好きだが……人間の尊厳とも言える言葉を奪われた人間を見るのも好きだ、気にするな』
前世の僕には加虐趣味は無いようで、弄ばれるナハトから目を背け耳を塞いでいる。
しかし、彼の一連の言動は彼女を人として見ていないものだった。屠殺現場を見たくはないけれど、家畜のシステムそのものには何も思わない……そんな一般的な人のように、彼は自身の都合で人を助け人を利用し人を殺している。
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