魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
上 下
491 / 909
第三十章 欲望に満ち満ちた悪魔共

事実の擦り合わせ

しおりを挟む
「俺達に話を聞きに来たんですか?」
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
 紘彬が部室を見回しながら答えた。

「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
 紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
 紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
 聖子が持っていた紙を指した。
 差し出された紙を如月が手袋をめた手で受け取ると部室を後にした。

「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
 弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
 垂水が厳しい声で弥奈の言葉をさえぎる。

「でも、ここの部員の名字、被枕ひまくらにある名前ばかりだよねぇ」
 弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
 耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
 弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。

「わ、わたしは……」
 由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
 聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
 今度は結城が狼狽うろたえたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
 聖子はぴしゃりと言って結城の言葉をさえぎった。
「…………」
 一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。

「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
 垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。

 部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。

「学校を見て回られてたんですか?」
 垂水が訊ねた。
 紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
 母校というのは事実だが。

「いえ、署に戻ってたんです」
 小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
 警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
 それで一旦戻って調べてきたのだ。

「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
 如月にそう返されて垂水は言葉にまった。
 垂水は如月にうながされて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。

「その紙、まだありますか?」
 話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
 垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
 そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
 被枕は『大宮』

「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
 垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
 紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
 と言った。

「桜井さん、どう思いますか?」
 校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
 これから警察署に帰るのである。
 如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
 この箱は証拠品である。

「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
 そうなのだ。
 調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
 駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。

 わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。

五月二十一日――鞍馬の山――

 垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
 椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。

「それは?」
 カプセルを嚥下えんかした時、背後から声が聞こえた。
 振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
 垂水はそう答えてから、
「何か?」
 と紘彬達に訊ねた。

「確認したいことがありまして」
 如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
 如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。

 垂水は箱を手に取って改めた。
 箱に変わった点はなかった。

 が――。

「『はるひの』は入れてない」
 垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日かすが』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
 垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
 と言うことは――。

「部員に春日がいるんですか?」
 そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
 紘彬と如月が顔を見合わせる。
 昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
 垂水が弁解するように答えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...