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第三十章 欲望に満ち満ちた悪魔共
『兄』の招来
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形見の小石を見つめる。赤い筋が入った球体に似た黒い石。じっと見つめていると不気味で魅力的な景色が心に浮かぶ。僕はその不思議な景色を歩いて、誰かの名を呼んだ。懐かしい響きのような、悲しい響きのような、人間では発音出来ないような──そんな名前だ。
『なっ……何、コレっ! 知らないっ! アシュちゃんこんなの聞いてない! ダンちゃん、ダンちゃん起きなさい! コレなんなのぉ~っ!』
現実世界の視界いっぱいに黒い霧が広がっている。
──ヘル君?
優しい声が頭の中だけに響く。
──喚んだ? ヘル君、どうしたの?
霧の中に手を伸ばすと誰かに握られた。骨ばった男の手だ、指は細長く、爪は短い。
「…………助けて欲しいんだ」
僕は何故か安心しきっていた。聖母の腕の中で眠る赤子のように心地好い微睡みの中に居た。
そっと踏み出し、霧を纏う。誰かに抱き締められるような、頭を撫でられているような、手を繋がれているような、送り出されるような……そんな感覚が無数に現れては消えていく。
──助ける? うん、助けるよ。お兄ちゃんは弟を助けるもの……何から?
優しい声が耳元で、頭の上から、僕の正面から、問いかける。
「……アシュメダイから」
もう一歩踏み出すと霧を抜けた。僕の目の前には焦りと恐怖を浮かべて僕を睨むアシュが居る。
『……犬の霊と、山の神と、その気味の悪い霧があるからって……アシュちゃんに勝てると思ってるのぉ~?』
彼女は声色だけは何とか整え、僕を威嚇する。けれど聖母に抱かれているような心地の僕にはそんな威嚇は届かない。僕はただ頭に流れ込む情報を、祝詞を、呟くだけ。
「究極至高の恐怖を……無知なる者に」
『……っ! 精神汚染!? やばい、本格的にヤバいっ!』
アシュは目を閉じ耳を塞ぎ、扉を蹴破って逃げて行った。
「…………月の裏側に我等の国を。この広い広い夢の中、深い夢を見よう……」
「お、おい……ヘル? だよな?」
「………………にゃる……しゅたん、にゃる……」
「ヘルっ! なぁ、ヘル……だよな?」
肩を誰かに──ヴェーンに掴まれ、揺さぶられている。僕は今何をしていたんだったか、ここはどこだろう。
ぼうっと考えながらヴェーンの顔を見上げると彼の頬には血が付着していた。更によく見れば彼は頭に酷い怪我を負っている。
「……ヴェーンさん! なっ、何その怪我、大丈夫!?」
「はっ……? ぁ、ああ、ちょっとクラクラするけど……」
「座って! 頭に怪我してるのに立ってちゃダメだよ、ほら早く座って!」
首に引っかかっていた目隠しを解き、ヴェーンの頭に巻く。すると目隠しに施された魔法陣が光り輝き、彼の傷はみるみるうちに癒えていった。
「治った……よね? 外すよ」
布には一滴の血も付着していない。僕はそれを不思議に思いながらまた首に引っ掛ける。結ばずに、風呂上がりにタオルを首にかけるようにだ。
「いつもの事だけどいつもより顔色悪いみたい、血飲む?」
「いや……お前が出したやつのせいだ」
「……僕が出した?」
何を出したと言うのだろう。
『ゴ、主人……樣。朙、レェ、無ィ?』
カヤの事だろうか? カヤは僕の背後で僕に擦り寄っている。何故カヤが出ているのだろう。
「つーか、お前、それ……頭、重くねぇのか」
「頭? 重いって何が?」
特に何も感じない。何か乗っているのかと頭にぺたぺたと手を這わせると耳の少し上あたりに何かが生えていた。太い木の枝のようなそれを掴むと痛みもなくポロリと落ちた。
「なっ、何、これ。え? 生えてた、よね?」
「あぁ……生えてた。反対も」
床に落ちているのは篦鹿の角だ。ヴェーンに反対側の頭を叩かれ、カランと音を立てて同じ大きさの角が床に転がる。
「…………僕人間だよね? っていうか……これ、鹿? 腕?」
角をじっと見ていると無数の腕が集まったような形に見えてきた。硬さからしても鹿の角に間違いはないのだが、それが人の腕に見える。五又に分かれているからそう見えるだけだと思いたいが──
「違うんじゃね……」
「僕は人間だよっ! 人間! ほ、ほら! 角あったところハゲてないし……髪生えてたら角なんか生えるとこないし、ちょっと付いてただけだよ」
何をどうしたら自分の腕よりも長い角が頭部左右に引っ付くのかは疑問だが、生えていた跡がないのだから僕の頭から生えてきた訳ではない。僕はそう結論付け、一旦角を放置することにした。
「……ここ、どこ?」
「アシュメダイの本邸って言わなかったか俺」
「アシュの? なんで?」
「いやそれも言っただろ……とにかく、ここから出るぞ。いつクソ淫魔に襲われるか分かんねぇ。クソ…………気に入らねぇからって歯向かうんじゃなかったな」
「えっ? なんで襲われるの?」
アシュはヴェーンとその家を紹介してくれたり暴走したフェルの分身を片付けてくれたりと何かと恩がある。協力的だった覚えがある。そんな彼女にどうして襲われるというのだろうか。
「召喚の代償が記憶だったりすんのか? いいから、ほら行くぞ」
ヴェーンに背を押され、開け放たれた扉から渋々と部屋を出る。扉が凹んでいるようだが何かをぶつけでもしたのだろうか。
「家を出る前にあのクソ淫魔は確実に襲ってくるはずだ……だから、玄関が一番ヤバいはず。でも大きな窓やらは他の淫魔が見張ってるだろうし…………お前、さっきの霧もっかい喚べよ」
「霧って何?」
「お前本当に覚えてねぇのか?」
覚えてないのかと言われても、覚えてないのであれば答えようがない。僕は先程からヴェーンの言動がおかしいと感じているが、彼にとっては僕が異常なのだろうか。
「カヤ、カヤ? 敵の場所と数の把握、お願い」
『……忬、ゥチ』
ふわりと半透明の犬が壁の中に消えていく。程なくして戻ってくると、僕の耳元で複数人の声を継ぎ合わせたような声で囁く。
『各、窻……ヒト、リ。サキュ……蓮…………大き、ナ……闔、前……淫蕩ノ悪魔……』
「各窓一人ずつサキュバスが居て、正面玄関にアシュメダイが居るって」
「おー……何で分かんだお前」
「可愛い子の言ってることは大体分かるよ」
「言葉だけならプレイボーイだな」
一般的な獣は言葉を操れないが、カヤは拙いながらも話してくれる。これで分からなかったら主人失格だ。
「カヤだけでアシュメダイ止められるとは思えないし……ここって確かヴェーンさんの家から遠かったよね」
「結構離れてんな」
「じゃあ助けを呼ぶのは無理……だとしたら、こっちの戦力はカヤとヴェーンさん……」
魔物使いとして、指揮官としての力を付ける好機だ。大事なのは敵と味方の戦力差の把握、地形の把握、それらから突破口が導き出される。
「待て待て。お前、神性に加護貰ってんだろ? それ使えよ、さっきの……角? のやつ」
加護? 角? あぁ、あの篦鹿の神性か。植物を枯らしたり生やしたり……それで戦えるとは思えない。
「……ね、この家って木造?」
「芯は違うな。木は貼ってるだけだ。木目が好きなんだとよ。でもま、お前はさっき床から草生やしたんだ、枝生やして道塞ぐくらいはできるだろ? クソ淫魔の足止めでもして一気に逃げようぜ」
「逃げようぜって言われても、そう自由に使えないし」
加護と言うからには天使の加護受者のように力を振るえてもいいものを、あの神性は僕に力を移してくれている訳ではないようで、そうそう使えない。
「…………ヘル君が受けたのは加護じゃない、力を分け与えられた訳じゃないんだよ。彼女はただ力の操り方を教えただけ。作物の実らせ方を、傷口の塞ぎ方を、穢れの撒き散らし方を、教えただけ。彼女自身今はそう強い神性じゃないんだ、この界の創造神と一緒にしないでもらいたいね」
「……はっ? お前、なんだよ急に……」
「…………へ? 何が?」
僕は今、加護を受けたのなら力を振るえるはずではないかと集中していた。その間一言も話していないのにヴェーンは僕を不審な目で見ている。
「…………お前、本当にヘルなんだよな」
「ヘルだよ、それ以外何に見えるって言うのさ」
「何に見えるって……」
ヴェーンはじっと僕の眼を見つめる。また眼球を狙っているのかと思うほどに、じっと。
血のように赤い双眸に僕が映っている。髪を分けて両眼を晒した不健康そうな少年が……燃えるような三つの目が。
「……っ!?」
僕はヴェーンの瞳の中の自分の姿が歪んだことに驚いて目を逸らし、メルに貰った角飾りに自分を移した。金属の曲面に映る僕の顔はいつも通り人間のものだ。
「見間違いかな…………ヴェーンさん? もういいよね、早く行こ」
「……お前。あぁ……大丈夫だな、目はあるな。鼻も、口も……ちゃんと、顔あるよな、お前」
「あるに決まってるじゃん、顔が無い生き物なんて居ないよ」
「疲れてんのか俺……何か気味悪ぃな、寒気してきた」
廊下を進み、階段を降りる。ヴェーン曰く僕は三階の寝室に連れて行かれていたらしい。このまま一階まで行って、三階と同じ作りなら窓の無い廊下を進んで──アシュメダイを出し抜いて、邸宅を脱出する。
その為の策はある。きっと成功する。僕は珍しくも自信を胸に足を動かした。
『なっ……何、コレっ! 知らないっ! アシュちゃんこんなの聞いてない! ダンちゃん、ダンちゃん起きなさい! コレなんなのぉ~っ!』
現実世界の視界いっぱいに黒い霧が広がっている。
──ヘル君?
優しい声が頭の中だけに響く。
──喚んだ? ヘル君、どうしたの?
霧の中に手を伸ばすと誰かに握られた。骨ばった男の手だ、指は細長く、爪は短い。
「…………助けて欲しいんだ」
僕は何故か安心しきっていた。聖母の腕の中で眠る赤子のように心地好い微睡みの中に居た。
そっと踏み出し、霧を纏う。誰かに抱き締められるような、頭を撫でられているような、手を繋がれているような、送り出されるような……そんな感覚が無数に現れては消えていく。
──助ける? うん、助けるよ。お兄ちゃんは弟を助けるもの……何から?
優しい声が耳元で、頭の上から、僕の正面から、問いかける。
「……アシュメダイから」
もう一歩踏み出すと霧を抜けた。僕の目の前には焦りと恐怖を浮かべて僕を睨むアシュが居る。
『……犬の霊と、山の神と、その気味の悪い霧があるからって……アシュちゃんに勝てると思ってるのぉ~?』
彼女は声色だけは何とか整え、僕を威嚇する。けれど聖母に抱かれているような心地の僕にはそんな威嚇は届かない。僕はただ頭に流れ込む情報を、祝詞を、呟くだけ。
「究極至高の恐怖を……無知なる者に」
『……っ! 精神汚染!? やばい、本格的にヤバいっ!』
アシュは目を閉じ耳を塞ぎ、扉を蹴破って逃げて行った。
「…………月の裏側に我等の国を。この広い広い夢の中、深い夢を見よう……」
「お、おい……ヘル? だよな?」
「………………にゃる……しゅたん、にゃる……」
「ヘルっ! なぁ、ヘル……だよな?」
肩を誰かに──ヴェーンに掴まれ、揺さぶられている。僕は今何をしていたんだったか、ここはどこだろう。
ぼうっと考えながらヴェーンの顔を見上げると彼の頬には血が付着していた。更によく見れば彼は頭に酷い怪我を負っている。
「……ヴェーンさん! なっ、何その怪我、大丈夫!?」
「はっ……? ぁ、ああ、ちょっとクラクラするけど……」
「座って! 頭に怪我してるのに立ってちゃダメだよ、ほら早く座って!」
首に引っかかっていた目隠しを解き、ヴェーンの頭に巻く。すると目隠しに施された魔法陣が光り輝き、彼の傷はみるみるうちに癒えていった。
「治った……よね? 外すよ」
布には一滴の血も付着していない。僕はそれを不思議に思いながらまた首に引っ掛ける。結ばずに、風呂上がりにタオルを首にかけるようにだ。
「いつもの事だけどいつもより顔色悪いみたい、血飲む?」
「いや……お前が出したやつのせいだ」
「……僕が出した?」
何を出したと言うのだろう。
『ゴ、主人……樣。朙、レェ、無ィ?』
カヤの事だろうか? カヤは僕の背後で僕に擦り寄っている。何故カヤが出ているのだろう。
「つーか、お前、それ……頭、重くねぇのか」
「頭? 重いって何が?」
特に何も感じない。何か乗っているのかと頭にぺたぺたと手を這わせると耳の少し上あたりに何かが生えていた。太い木の枝のようなそれを掴むと痛みもなくポロリと落ちた。
「なっ、何、これ。え? 生えてた、よね?」
「あぁ……生えてた。反対も」
床に落ちているのは篦鹿の角だ。ヴェーンに反対側の頭を叩かれ、カランと音を立てて同じ大きさの角が床に転がる。
「…………僕人間だよね? っていうか……これ、鹿? 腕?」
角をじっと見ていると無数の腕が集まったような形に見えてきた。硬さからしても鹿の角に間違いはないのだが、それが人の腕に見える。五又に分かれているからそう見えるだけだと思いたいが──
「違うんじゃね……」
「僕は人間だよっ! 人間! ほ、ほら! 角あったところハゲてないし……髪生えてたら角なんか生えるとこないし、ちょっと付いてただけだよ」
何をどうしたら自分の腕よりも長い角が頭部左右に引っ付くのかは疑問だが、生えていた跡がないのだから僕の頭から生えてきた訳ではない。僕はそう結論付け、一旦角を放置することにした。
「……ここ、どこ?」
「アシュメダイの本邸って言わなかったか俺」
「アシュの? なんで?」
「いやそれも言っただろ……とにかく、ここから出るぞ。いつクソ淫魔に襲われるか分かんねぇ。クソ…………気に入らねぇからって歯向かうんじゃなかったな」
「えっ? なんで襲われるの?」
アシュはヴェーンとその家を紹介してくれたり暴走したフェルの分身を片付けてくれたりと何かと恩がある。協力的だった覚えがある。そんな彼女にどうして襲われるというのだろうか。
「召喚の代償が記憶だったりすんのか? いいから、ほら行くぞ」
ヴェーンに背を押され、開け放たれた扉から渋々と部屋を出る。扉が凹んでいるようだが何かをぶつけでもしたのだろうか。
「家を出る前にあのクソ淫魔は確実に襲ってくるはずだ……だから、玄関が一番ヤバいはず。でも大きな窓やらは他の淫魔が見張ってるだろうし…………お前、さっきの霧もっかい喚べよ」
「霧って何?」
「お前本当に覚えてねぇのか?」
覚えてないのかと言われても、覚えてないのであれば答えようがない。僕は先程からヴェーンの言動がおかしいと感じているが、彼にとっては僕が異常なのだろうか。
「カヤ、カヤ? 敵の場所と数の把握、お願い」
『……忬、ゥチ』
ふわりと半透明の犬が壁の中に消えていく。程なくして戻ってくると、僕の耳元で複数人の声を継ぎ合わせたような声で囁く。
『各、窻……ヒト、リ。サキュ……蓮…………大き、ナ……闔、前……淫蕩ノ悪魔……』
「各窓一人ずつサキュバスが居て、正面玄関にアシュメダイが居るって」
「おー……何で分かんだお前」
「可愛い子の言ってることは大体分かるよ」
「言葉だけならプレイボーイだな」
一般的な獣は言葉を操れないが、カヤは拙いながらも話してくれる。これで分からなかったら主人失格だ。
「カヤだけでアシュメダイ止められるとは思えないし……ここって確かヴェーンさんの家から遠かったよね」
「結構離れてんな」
「じゃあ助けを呼ぶのは無理……だとしたら、こっちの戦力はカヤとヴェーンさん……」
魔物使いとして、指揮官としての力を付ける好機だ。大事なのは敵と味方の戦力差の把握、地形の把握、それらから突破口が導き出される。
「待て待て。お前、神性に加護貰ってんだろ? それ使えよ、さっきの……角? のやつ」
加護? 角? あぁ、あの篦鹿の神性か。植物を枯らしたり生やしたり……それで戦えるとは思えない。
「……ね、この家って木造?」
「芯は違うな。木は貼ってるだけだ。木目が好きなんだとよ。でもま、お前はさっき床から草生やしたんだ、枝生やして道塞ぐくらいはできるだろ? クソ淫魔の足止めでもして一気に逃げようぜ」
「逃げようぜって言われても、そう自由に使えないし」
加護と言うからには天使の加護受者のように力を振るえてもいいものを、あの神性は僕に力を移してくれている訳ではないようで、そうそう使えない。
「…………ヘル君が受けたのは加護じゃない、力を分け与えられた訳じゃないんだよ。彼女はただ力の操り方を教えただけ。作物の実らせ方を、傷口の塞ぎ方を、穢れの撒き散らし方を、教えただけ。彼女自身今はそう強い神性じゃないんだ、この界の創造神と一緒にしないでもらいたいね」
「……はっ? お前、なんだよ急に……」
「…………へ? 何が?」
僕は今、加護を受けたのなら力を振るえるはずではないかと集中していた。その間一言も話していないのにヴェーンは僕を不審な目で見ている。
「…………お前、本当にヘルなんだよな」
「ヘルだよ、それ以外何に見えるって言うのさ」
「何に見えるって……」
ヴェーンはじっと僕の眼を見つめる。また眼球を狙っているのかと思うほどに、じっと。
血のように赤い双眸に僕が映っている。髪を分けて両眼を晒した不健康そうな少年が……燃えるような三つの目が。
「……っ!?」
僕はヴェーンの瞳の中の自分の姿が歪んだことに驚いて目を逸らし、メルに貰った角飾りに自分を移した。金属の曲面に映る僕の顔はいつも通り人間のものだ。
「見間違いかな…………ヴェーンさん? もういいよね、早く行こ」
「……お前。あぁ……大丈夫だな、目はあるな。鼻も、口も……ちゃんと、顔あるよな、お前」
「あるに決まってるじゃん、顔が無い生き物なんて居ないよ」
「疲れてんのか俺……何か気味悪ぃな、寒気してきた」
廊下を進み、階段を降りる。ヴェーン曰く僕は三階の寝室に連れて行かれていたらしい。このまま一階まで行って、三階と同じ作りなら窓の無い廊下を進んで──アシュメダイを出し抜いて、邸宅を脱出する。
その為の策はある。きっと成功する。僕は珍しくも自信を胸に足を動かした。
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