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第二十九章 愛し仔の為の弔辞
初めての人
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降り注ぐような星の夜、収穫祭の灯りが戦火に変わった。国を囲っていた魔法陣は壊れ、大量の魔物が集った。ただ一体その場から離れる磨りガラスを引っ掻くような鳴き声の醜い鳥が印象的だった。
世界の歪みを感じ始めたのはいつだったか。
それを修正できないかと旅を始めたのはいつだったか。
時折に顔を合わせるだけの兄弟、息を荒らげる犬好きの人間、魔獣を見れば石をぶつける臆病な人間、泣きながら命乞いをするだけの優しい人間、様々な生き物と出会った。
ずっと、孤独だった。
兄弟、駄犬、雌犬、わんちゃん、狼さん…………私の名は滅多に呼ばれない。
アルギュロス、そう叫ぶ声は憎しみに満ちていて、到底呼び掛けと言えるものではなかった。
誰も存在を求める為に名前を呼ばなかった。誰も関心を寄せなかった、誰にも必要とされていなかった。
魔法の国は強力な結界に護られた国だったから世界の歪みからも隔離されているのではないかと観察していた。けれど結界が破れるという歪みの影響としか思えない事態になって、観察の理由は手掛かりを求めるものになった。
そして──そう、美しい光を見た。
炎よりも激しく、水よりも澄み、風よりも夙く、雷より強く輝き、地よりも雄々しく、この世のどんな色彩よりも鮮やかに、妖しく、美しい光。
──誰か……助けて
その光はそう呟いた。
気付けば身体が動いていて、その光の元に飛んでいて、大きな魔物の腕を落としていた。
──ね、君……僕を助けてくれたの?
光が急速に弱まり、収束し、その根源には弱々しい少年が居た。頭から頬にかけて酷い傷を負って、見つめ返すと目を逸らした。その可愛らしさに母性本能を擽られて、傷を舐めてやったら倒れてしまった。
魔物を追い払って、薬草と包帯で手当をして、起きた時のためにパンを拾って──戻ってきたら川に落ちていた。
全く手のかかる子供だ。
あの光は見間違いだったのかと思えるほど少年は弱々しい。けれど今も尚あの鮮やかな色達は彼の右眼に宿っている。もう一度見たいと思いながら彼の膝で休息を取ると、彼は突然泣き出した。
全く面倒な子供だ。
涙を拭って毛並みで癒してやろうとしたら、彼は私を抱き締めて更に大粒の涙を零した。
困惑した。けれど、悪い気はしなかった。
それから軽い自己紹介をすると彼は私を愛称で呼び始めた。名前が長いからというだけの理由のはずなのに、何故だか心が温かくなった。その後は少し気まずい事もあって、彼の不安は中々解消されなくて、とても困った。
魔物使いだろうし契約してもいいだろうと、血を混ぜるだけの簡単な契約でもしようと、まだ血に濡れていない刃物を探した。
すると彼は何を勘違いしたのか「嫌だ」と「待って」と「行かないで」と喚いた。
生まれて初めて存在を求められた気がした。合成魔獣の最高傑作としてでも、同じ場所で造られた兄弟としてでも、なんでもなく、彼はただ『私』を求めた。
姿を見せてやると彼は「よかった」と「僕を嫌わないで」と「ひとりにしないで」と、願った。
その願いは私が魔獣でなくても叶えられるものだった。それが私にはとても嬉しかった。私がどんな存在であろうと、私である限り彼は求めてくれるのだと。
その時、私は彼自身に虜になった。瞳の輝きでも、魔力の強さでもなく、生まれて初めて私を求めてくれた人として、惹かれた。全てを捧げるべきだと思えた。
だから私は契約の方法を最上級のものにした。自身の尾に名を刻ませて彼の名前を手に入れた。
あの痛みが、傷を付けることに心を痛める彼の涙が、傷を付けることに悦びを覚えた彼の微かな笑みが──全てが愛おしくて愛おしくて仕方なかった。
あの日から私は彼のもので、彼は私のものだった。
だから他の者──特に女と関わるのが嫌で嫌で嫌で仕方なくて、彼の魔力に惹かれる魔物共が嫌いで憎くて鬱陶しくて、彼を虐げる彼の兄が憎くて憎くて憎くて憎くて殺したくって……そんな激情を抑えるのが大変だった。
仲間は次第に増えて、兄とも家族になれて、幸せそうな彼を見ているだけで私も幸せになって──同時に腹立たしかった。
私だけを見て欲しい、私だけを求めて欲しい、私だけを愛して欲しい。
そしてそれは魔獣である限り叶わない願望で、叶わない恋で、そう分かったら思考が何かに塗り潰されて、彼を傷付けた。
それでも彼は私を許してくれた。愛してくれた。私に口付けしてくれた。
宝石も贈られて、叶わない恋ではなかったのだと歓喜した。
彼はあの日から今の今まで、徹頭徹尾、私だけを愛していた。そう確信出来た。
牢獄の国唯一の教会、主の居ない寂しい建造物。
その一室でアルは月を眺め、過去に思いを馳せていた。隣には毛布にくるまって眠るヘルの姿がある。
現在に意識を戻し、月から視線を外したアルはヘルの足元からヘルの上へと移動する。ゆっくりと体重をかけ、ベッドが軋む音とヘルが漏らした吐息の一つ一つに緊張を加速させられながら、ヘルに体を預けた。
懐かしい。
以前この部屋に泊まった時、ヘルは私を引っ張って自分の上に乗せた。重くないのかと戸惑ったが、抱き寄せられて観念した。
今、ヘルの呼吸は僅かに乱れている。アルが体重をかけ過ぎないように気を張っているとはいえ、重いことには変わりないし、何よりも圧迫感が恐ろしい。
『…………黒いままだな』
アルは月明かりに照らされた首飾りを見つめる。相変わらず黒い煙が渦巻いているようだ、前までのような色鮮やかさは欠片も無い。
移身石は最初に触れた者の魔力の状態を映し続ける。つまり、今のヘルの状態がいつもと違うということ──黒い煙が渦巻いているような心境だということ。
魔力は精神状態に大きく左右される。アルは起きたら元に戻っていることを願って、ヘルの鼓動を聴きながら目を閉じた。
息苦しさに目を覚ます。何も無い暗闇がどこまでも広がっている──右耳に手を伸ばし、指先に刺々しく丸いものが触れ、僕はベルゼブブの視界を借りるよう意識した。
「……アル。寝てる……だけ、だよね」
僕の胸に耳をぴったりとくっつけて、静かな寝息を立てて眠っている。その呼吸音も、鼓動も、体温も、生きている証全てを感じているのに、僕は不安で仕方なかった。
「…………起きて、アル、起きて」
まだ陽は昇っていない、窓から射し込む光は月や星のものだ。起こすべきではないと分かっていても、起こさずにはいられなかった。
『……ん? ヘル? どうした』
「…………ごめん、変な時間に起こして」
『構わない。何かあったか?』
「……目が覚めちゃって、散歩、行こうかなって」
アルの体温が離れる。
『外は冷える、上着か毛布を用意しろ』
アルはベッドの横で屈んで僕が乗るのを待っている。僕は毛布を肩にかけてアルに跨った。
アルは教会を出ると僕に尾を巻き付けて教会の屋根に登った。遠くに見上げていた十字架が隣に見える、切り立った岩山が見渡せる。
「…………綺麗」
『だろう? 私が居た頃には教会など無かったが……そうだな、そこの岩の上で見ていた』
教会の奥の岩山、飛び出した平たい岩を視線で示す。
『私は月や星を……夜空を眺めるのが好きでな』
アルから降り、三角屋根の頂点に腰を下ろす。アルの尾は僕の腰に巻き付いたままで、翼に抱き締めらられていて、愛されていると感じられる最高の時間だった。
『…………美しい夜空を見ると落ち着くんだ。笑えるだろう、こんな獣が……』
「ううん、似合ってるよ。アル綺麗だもん、特に月明かりだと、火や電灯より銀色が映えるんだ」
『……そうか。貴方はそうだったな。私を可愛らしいと、美しいと言ってくれるんだった』
尾の締め付けが増す。
『私が恐ろしくはないか? この尾は今すぐにでも貴方の背骨を折れる、この牙は貴方の喉を裂くかも知れん。いや、尾を離すだけで貴方は滑り落ちて死んでしまう。なぁ、ヘル……恐ろしくはないのか?』
低く甘い声が耳元で僕の殺し方を囁く。それを聞いていると頬が熱くなり、呼吸が乱れた。
「………………落としたりしないで、優しく殺してよ。死んだら、全部食べて」
『……そうだな。肉は勿論、骨も、血も、髪の毛すらも……この世に貴方を一片も残さない』
二つ返事をしたいけれど、声が上擦って気持ち悪くなってしまうのが分かり切っている。
『けれど、そんな事はしないよ。貴方を殺すなんて、そんな……貴方が居ない世界なんて、私には何の意味も見つけられない』
「ごめんね、アルはこういう話嫌いだったよね」
僕の死を仄めかす話をアルは何よりも嫌う。死にたいだとか、殺してだとか、そんな言葉は禁句だ。まぁ、今話を振ったのはアルだったけれど。
「でもね……僕、アルが僕を殺すとか食べるとか言ってるの聞くとね、ゾクゾクするんだっ……! 熱くなっちゃって……さぁ、もうっ……堪んないんだよ」
『…………可愛らしいな、貴方は』
「……っ! それもいい! それも好き、アルっ……僕、アルの声大好き! もっと、何か……言ってよ、耳元でさぁ……」
矛盾しているけれど、アルの声を聞くと安心して眠くなると同時に心が高鳴って身体が熱くなる。囁かれるとポカポカして、ゾクゾクして、もう何が何だか分からなくなる。
酩酊状態なのだろうか? 脳が蕩けていく、気温は低いのに汗ばんできた。
けれど、もう止まれない。
僕は夜が明けるまでアルに言葉をねだった。
世界の歪みを感じ始めたのはいつだったか。
それを修正できないかと旅を始めたのはいつだったか。
時折に顔を合わせるだけの兄弟、息を荒らげる犬好きの人間、魔獣を見れば石をぶつける臆病な人間、泣きながら命乞いをするだけの優しい人間、様々な生き物と出会った。
ずっと、孤独だった。
兄弟、駄犬、雌犬、わんちゃん、狼さん…………私の名は滅多に呼ばれない。
アルギュロス、そう叫ぶ声は憎しみに満ちていて、到底呼び掛けと言えるものではなかった。
誰も存在を求める為に名前を呼ばなかった。誰も関心を寄せなかった、誰にも必要とされていなかった。
魔法の国は強力な結界に護られた国だったから世界の歪みからも隔離されているのではないかと観察していた。けれど結界が破れるという歪みの影響としか思えない事態になって、観察の理由は手掛かりを求めるものになった。
そして──そう、美しい光を見た。
炎よりも激しく、水よりも澄み、風よりも夙く、雷より強く輝き、地よりも雄々しく、この世のどんな色彩よりも鮮やかに、妖しく、美しい光。
──誰か……助けて
その光はそう呟いた。
気付けば身体が動いていて、その光の元に飛んでいて、大きな魔物の腕を落としていた。
──ね、君……僕を助けてくれたの?
光が急速に弱まり、収束し、その根源には弱々しい少年が居た。頭から頬にかけて酷い傷を負って、見つめ返すと目を逸らした。その可愛らしさに母性本能を擽られて、傷を舐めてやったら倒れてしまった。
魔物を追い払って、薬草と包帯で手当をして、起きた時のためにパンを拾って──戻ってきたら川に落ちていた。
全く手のかかる子供だ。
あの光は見間違いだったのかと思えるほど少年は弱々しい。けれど今も尚あの鮮やかな色達は彼の右眼に宿っている。もう一度見たいと思いながら彼の膝で休息を取ると、彼は突然泣き出した。
全く面倒な子供だ。
涙を拭って毛並みで癒してやろうとしたら、彼は私を抱き締めて更に大粒の涙を零した。
困惑した。けれど、悪い気はしなかった。
それから軽い自己紹介をすると彼は私を愛称で呼び始めた。名前が長いからというだけの理由のはずなのに、何故だか心が温かくなった。その後は少し気まずい事もあって、彼の不安は中々解消されなくて、とても困った。
魔物使いだろうし契約してもいいだろうと、血を混ぜるだけの簡単な契約でもしようと、まだ血に濡れていない刃物を探した。
すると彼は何を勘違いしたのか「嫌だ」と「待って」と「行かないで」と喚いた。
生まれて初めて存在を求められた気がした。合成魔獣の最高傑作としてでも、同じ場所で造られた兄弟としてでも、なんでもなく、彼はただ『私』を求めた。
姿を見せてやると彼は「よかった」と「僕を嫌わないで」と「ひとりにしないで」と、願った。
その願いは私が魔獣でなくても叶えられるものだった。それが私にはとても嬉しかった。私がどんな存在であろうと、私である限り彼は求めてくれるのだと。
その時、私は彼自身に虜になった。瞳の輝きでも、魔力の強さでもなく、生まれて初めて私を求めてくれた人として、惹かれた。全てを捧げるべきだと思えた。
だから私は契約の方法を最上級のものにした。自身の尾に名を刻ませて彼の名前を手に入れた。
あの痛みが、傷を付けることに心を痛める彼の涙が、傷を付けることに悦びを覚えた彼の微かな笑みが──全てが愛おしくて愛おしくて仕方なかった。
あの日から私は彼のもので、彼は私のものだった。
だから他の者──特に女と関わるのが嫌で嫌で嫌で仕方なくて、彼の魔力に惹かれる魔物共が嫌いで憎くて鬱陶しくて、彼を虐げる彼の兄が憎くて憎くて憎くて憎くて殺したくって……そんな激情を抑えるのが大変だった。
仲間は次第に増えて、兄とも家族になれて、幸せそうな彼を見ているだけで私も幸せになって──同時に腹立たしかった。
私だけを見て欲しい、私だけを求めて欲しい、私だけを愛して欲しい。
そしてそれは魔獣である限り叶わない願望で、叶わない恋で、そう分かったら思考が何かに塗り潰されて、彼を傷付けた。
それでも彼は私を許してくれた。愛してくれた。私に口付けしてくれた。
宝石も贈られて、叶わない恋ではなかったのだと歓喜した。
彼はあの日から今の今まで、徹頭徹尾、私だけを愛していた。そう確信出来た。
牢獄の国唯一の教会、主の居ない寂しい建造物。
その一室でアルは月を眺め、過去に思いを馳せていた。隣には毛布にくるまって眠るヘルの姿がある。
現在に意識を戻し、月から視線を外したアルはヘルの足元からヘルの上へと移動する。ゆっくりと体重をかけ、ベッドが軋む音とヘルが漏らした吐息の一つ一つに緊張を加速させられながら、ヘルに体を預けた。
懐かしい。
以前この部屋に泊まった時、ヘルは私を引っ張って自分の上に乗せた。重くないのかと戸惑ったが、抱き寄せられて観念した。
今、ヘルの呼吸は僅かに乱れている。アルが体重をかけ過ぎないように気を張っているとはいえ、重いことには変わりないし、何よりも圧迫感が恐ろしい。
『…………黒いままだな』
アルは月明かりに照らされた首飾りを見つめる。相変わらず黒い煙が渦巻いているようだ、前までのような色鮮やかさは欠片も無い。
移身石は最初に触れた者の魔力の状態を映し続ける。つまり、今のヘルの状態がいつもと違うということ──黒い煙が渦巻いているような心境だということ。
魔力は精神状態に大きく左右される。アルは起きたら元に戻っていることを願って、ヘルの鼓動を聴きながら目を閉じた。
息苦しさに目を覚ます。何も無い暗闇がどこまでも広がっている──右耳に手を伸ばし、指先に刺々しく丸いものが触れ、僕はベルゼブブの視界を借りるよう意識した。
「……アル。寝てる……だけ、だよね」
僕の胸に耳をぴったりとくっつけて、静かな寝息を立てて眠っている。その呼吸音も、鼓動も、体温も、生きている証全てを感じているのに、僕は不安で仕方なかった。
「…………起きて、アル、起きて」
まだ陽は昇っていない、窓から射し込む光は月や星のものだ。起こすべきではないと分かっていても、起こさずにはいられなかった。
『……ん? ヘル? どうした』
「…………ごめん、変な時間に起こして」
『構わない。何かあったか?』
「……目が覚めちゃって、散歩、行こうかなって」
アルの体温が離れる。
『外は冷える、上着か毛布を用意しろ』
アルはベッドの横で屈んで僕が乗るのを待っている。僕は毛布を肩にかけてアルに跨った。
アルは教会を出ると僕に尾を巻き付けて教会の屋根に登った。遠くに見上げていた十字架が隣に見える、切り立った岩山が見渡せる。
「…………綺麗」
『だろう? 私が居た頃には教会など無かったが……そうだな、そこの岩の上で見ていた』
教会の奥の岩山、飛び出した平たい岩を視線で示す。
『私は月や星を……夜空を眺めるのが好きでな』
アルから降り、三角屋根の頂点に腰を下ろす。アルの尾は僕の腰に巻き付いたままで、翼に抱き締めらられていて、愛されていると感じられる最高の時間だった。
『…………美しい夜空を見ると落ち着くんだ。笑えるだろう、こんな獣が……』
「ううん、似合ってるよ。アル綺麗だもん、特に月明かりだと、火や電灯より銀色が映えるんだ」
『……そうか。貴方はそうだったな。私を可愛らしいと、美しいと言ってくれるんだった』
尾の締め付けが増す。
『私が恐ろしくはないか? この尾は今すぐにでも貴方の背骨を折れる、この牙は貴方の喉を裂くかも知れん。いや、尾を離すだけで貴方は滑り落ちて死んでしまう。なぁ、ヘル……恐ろしくはないのか?』
低く甘い声が耳元で僕の殺し方を囁く。それを聞いていると頬が熱くなり、呼吸が乱れた。
「………………落としたりしないで、優しく殺してよ。死んだら、全部食べて」
『……そうだな。肉は勿論、骨も、血も、髪の毛すらも……この世に貴方を一片も残さない』
二つ返事をしたいけれど、声が上擦って気持ち悪くなってしまうのが分かり切っている。
『けれど、そんな事はしないよ。貴方を殺すなんて、そんな……貴方が居ない世界なんて、私には何の意味も見つけられない』
「ごめんね、アルはこういう話嫌いだったよね」
僕の死を仄めかす話をアルは何よりも嫌う。死にたいだとか、殺してだとか、そんな言葉は禁句だ。まぁ、今話を振ったのはアルだったけれど。
「でもね……僕、アルが僕を殺すとか食べるとか言ってるの聞くとね、ゾクゾクするんだっ……! 熱くなっちゃって……さぁ、もうっ……堪んないんだよ」
『…………可愛らしいな、貴方は』
「……っ! それもいい! それも好き、アルっ……僕、アルの声大好き! もっと、何か……言ってよ、耳元でさぁ……」
矛盾しているけれど、アルの声を聞くと安心して眠くなると同時に心が高鳴って身体が熱くなる。囁かれるとポカポカして、ゾクゾクして、もう何が何だか分からなくなる。
酩酊状態なのだろうか? 脳が蕩けていく、気温は低いのに汗ばんできた。
けれど、もう止まれない。
僕は夜が明けるまでアルに言葉をねだった。
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