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第十九章 植物の国と奴隷商
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写真の中の少女が持つのは姫子やロージーにも似た葉脈のような触角に、茶色を主とした目のような模様の翅、それには細かい毛が生えていることが画面越しにも分かった。
「……文章文章っと。えーっと? 「なんか蝶みたいな集団ハケーン、なんのイベ?」だってさ。まぁ当たり前だけど一般人には分かってないみたいだね、となると客は上級国民様か、イカれた科学者か。どっちにしろ写真撮れるレベルのセキュリティ、取り返すのもそう難しくなさそうかな」
「これは……影美君だ。この翅の模様、間違いない」
「あの、これどこか分かりますか?」
「待ってね、位置情報……ダメだ、オフだな。慣れてる人だ。んーじゃあ特定、俺はあんまり得意じゃないから、暇人の集いこと掲示板にっと、えー「この場所分かる人いる? 見事当てられたら俺の厳選男の娘フォルダが火を吹くぜ」でいいか」
タンっと一際大きな音を立て、リンは伸びをする。部屋の奥に行ったかと思えば、大きな箱を抱えて帰ってくる。
「よし、じゃあこれ着て」
「僕ですか!? 嫌ですよ!」
箱の中身は可愛らしい服。とてもではないが外には出られないような派手なものばかりだ。
「何言ってんのほら早く、特定の報酬なんだよ」
「え……要るんですか? 待ってください、誰に見せるんですか」
「国中の俺の同志に」
渡される服はどれもふんだんにフリルがあしらわれており、女の子用だとひと目で分かる。
これを、着ろと。そして写真を不特定多数の人に見せろと。
「嫌ですよ!」
「……ヘルシャフト君、私からも頼む。君がこの服を着なければ彼女達の居場所が分からないんだろう?」
「え……いや、多分そんなこともないと」
「いやいや、言ってやらなかったら俺叩かれるから。炎上しちゃうから」
まぁ匿名なんだけど……と声に出さず呟き、リンはカメラを準備する。
「………………一枚だけですよ」
僕はなるべくスカート丈の長いものを選び、部屋の隅で着替えた。こんなことしなくてもいいだろうとは思っていたが、流されたというか押し負けたというか、つくづく損な性格だと思う。
「やっぱいいね! 最高! これはネットニュースものだよ!」
「一枚だけですよ……」
「火を吹くって書いちゃったんだよなー」
失敗だった、スカート丈しか見ていなかった。
膝あたりまで隠れるのはいいが、上がよくない。
首周りに布がなく鎖骨まで丸見え、また腹の部分も穴が空いている。服の構造上スカートが腰ギリギリの高さで、僅かに鼠径部が見えている。
露出を好まない僕にとっては最悪の服装だ。
「…………もういいですか」
「あ、ごめんちょっと腕上げてくれる? 頭の上で手を組む感じ……脇は需要が高くてね」
「…………本当に要るんですか」
リンの趣味だろうとは思いつつ、こうしなければ助けられないのだと自分に言い聞かせる。そうこうしているうちに場所が分かったようで、リンが地区番号を読み上げる。
「えー「3-258-698-447-55」だってさ。分かりやすく言えば三ブロック先の倉庫。ってかヘル君凄いよ、めちゃめちゃ反応いい。同志多いんだなぁ……他の奴もなんか出してこないかな……よし、煽るか……」
「三ブロック先ですね、早く行かないと」
『その格好で? 私は隣歩きたくないですよ』
「あっ……着替える、待って」
「君も大して変わらない服を着ていると思うけれど」
ウェナトリアの背に隠れて着替えながら、その意見に同意する。フリルや色使い、装飾などはベルゼブブの服装はリンが渡してきたものとよく似ている。
『私は露出ほぼないですよ? ロリータというジャンルには入るかもしれませんが、ヘルシャフト様が着たのはただの扇情的な服でして私の服装とは関係ないかと。そもそも私は悪魔の帝王なのだから、豪奢な服で当然でしょう』
「……君、背中思いっきり空いてるよ。っていうかさ、君女の子? どっちでもいいけどちょっと恥ずかしそうな顔してもらっていい? なんなら服貸すからさ。あと男の子なら写真上げさせて、火を吹くぜとか書いちゃったからもうちょっと上げないと」
『これは翅を出す穴です。私、悪魔ですから基本的には無性なんですよね。まぁ女の子と言ってますよ、その方がチヤホヤされますから』
「この掲示板の人達は君が男の子ならチヤホヤするよ。俺は恥ずかしそうな顔してくれたらどっちでもいいけど、君表情変わらないし……」
ベルゼブブとリンがくだらない会話をしている間に着替え終わり、ベルゼブブの手を引いて玄関に向かう。
『カルコス、クリューソス、貴様等は来んのか』
『今スポーツ中継がいいところで……ああっ! 何をしている! 早くボールを追わんか!』
『我は行こう、ガキが喰える好機がいつ来るか分からんからな』
玄関を出てアルを振り返る、その後ろにはカルコスがいた。
「カルコスも来るの? ありがとう、助かるよ」
『ああ、だがあの猫は来ん、薄情な奴だ』
人混みをかき分け三ブロック先の倉庫を目指す。
二ブロックも行けば人影はまばらになり、その先の目的地には人の気配まで消えた。
建物の影から倉庫の様子を伺う。外には武装した男が数人、見張りの役割を果たしていた。
『では僭越ながら私が……』
「食べちゃダメだよ、気絶だけね」
ベルゼブブは適当な返事をして、空高く跳び上がる。急降下を利用して男を一人踏み倒し、その隣の男の足を払い、低い位置に来た頭に膝を叩き込む。銃を叩き落とし、頭を蹴り──そんな肉弾戦が終わると、倉庫の前には六人ほどの山ができていた。
『流石はベルゼブブ様、お強い』
『それほどでもあります。ヘルシャフト様? 貴方様からの賛辞は?』
「…………もう居ないね。よし、じゃあ、入ろ」
『ヘルシャフト様って結構私を無視しますよねぇ』
ギィィ……と、金属が擦れる嫌な音。
倉庫に入っていくウェナトリアの後ろで、僕は見張りの男が持っていた銃を奪った。扱い方は全く分からない、だが武器であるのなら脅しには使えるだろう。
『何も居らんな、匂いもせん』
『仔猫の嗅覚では後も追えんか』
『……なんだと!? この駄犬が!』
倉庫の中に人はいない、音も気配もない。アルは何かを嗅ぎ取ったようで、倉庫の奥へ進んでいく。
「何か分かるのか?」
『微かだが、人の……中身の匂いがする』
『生き物は居らんのだろう? なら別の倉庫を当たろう。我は右に行く』
「なら私は左に」
カルコスとウェナトリアは揃って倉庫を出ていく。
攫われたナハトファルター族の人達を早く探し出さなければならないとは分かっている、だがアルの言う「人の中身の匂い」がどうにも気になる。内臓という意味だろうか。なら、誰かが死んでいるという事になる。
『では私達は裏の倉庫に行きますかね』
『ええ、そうしましょう』
「ま、待って。僕ちょっとここ調べたい」
『人居ないんですよ? 何があるってんです』
呆れたように両の手のひらを上に向け、わざとらしくため息を吐く。そんなベルゼブブとは正反対に、アルは真剣な眼差しで言った。
『……なら、ヘルはここに残れ』
『え、ちょっと先輩』
『申し訳ございませんベルゼブブ様。ヘルはまだ子供です、ヘルに奴隷の諸々は見せたくないのです』
『過保護ですねぇ。まぁ、ここは誰もいないですし、安全だとは思いますけど。何かあったら呼んでくださいね、契約悪魔の特権で駆けつけられますから。一応扉は閉めますよ?』
アルが賛成した理由は気に障るが、それ以上にここにある何かが気になる。
アルとベルゼブブを見送り、扉が閉ざされると倉庫内の明度は一気に落ちる。採光窓から微かに入る光を頼りに、僕は何かを探し始めた。
「……文章文章っと。えーっと? 「なんか蝶みたいな集団ハケーン、なんのイベ?」だってさ。まぁ当たり前だけど一般人には分かってないみたいだね、となると客は上級国民様か、イカれた科学者か。どっちにしろ写真撮れるレベルのセキュリティ、取り返すのもそう難しくなさそうかな」
「これは……影美君だ。この翅の模様、間違いない」
「あの、これどこか分かりますか?」
「待ってね、位置情報……ダメだ、オフだな。慣れてる人だ。んーじゃあ特定、俺はあんまり得意じゃないから、暇人の集いこと掲示板にっと、えー「この場所分かる人いる? 見事当てられたら俺の厳選男の娘フォルダが火を吹くぜ」でいいか」
タンっと一際大きな音を立て、リンは伸びをする。部屋の奥に行ったかと思えば、大きな箱を抱えて帰ってくる。
「よし、じゃあこれ着て」
「僕ですか!? 嫌ですよ!」
箱の中身は可愛らしい服。とてもではないが外には出られないような派手なものばかりだ。
「何言ってんのほら早く、特定の報酬なんだよ」
「え……要るんですか? 待ってください、誰に見せるんですか」
「国中の俺の同志に」
渡される服はどれもふんだんにフリルがあしらわれており、女の子用だとひと目で分かる。
これを、着ろと。そして写真を不特定多数の人に見せろと。
「嫌ですよ!」
「……ヘルシャフト君、私からも頼む。君がこの服を着なければ彼女達の居場所が分からないんだろう?」
「え……いや、多分そんなこともないと」
「いやいや、言ってやらなかったら俺叩かれるから。炎上しちゃうから」
まぁ匿名なんだけど……と声に出さず呟き、リンはカメラを準備する。
「………………一枚だけですよ」
僕はなるべくスカート丈の長いものを選び、部屋の隅で着替えた。こんなことしなくてもいいだろうとは思っていたが、流されたというか押し負けたというか、つくづく損な性格だと思う。
「やっぱいいね! 最高! これはネットニュースものだよ!」
「一枚だけですよ……」
「火を吹くって書いちゃったんだよなー」
失敗だった、スカート丈しか見ていなかった。
膝あたりまで隠れるのはいいが、上がよくない。
首周りに布がなく鎖骨まで丸見え、また腹の部分も穴が空いている。服の構造上スカートが腰ギリギリの高さで、僅かに鼠径部が見えている。
露出を好まない僕にとっては最悪の服装だ。
「…………もういいですか」
「あ、ごめんちょっと腕上げてくれる? 頭の上で手を組む感じ……脇は需要が高くてね」
「…………本当に要るんですか」
リンの趣味だろうとは思いつつ、こうしなければ助けられないのだと自分に言い聞かせる。そうこうしているうちに場所が分かったようで、リンが地区番号を読み上げる。
「えー「3-258-698-447-55」だってさ。分かりやすく言えば三ブロック先の倉庫。ってかヘル君凄いよ、めちゃめちゃ反応いい。同志多いんだなぁ……他の奴もなんか出してこないかな……よし、煽るか……」
「三ブロック先ですね、早く行かないと」
『その格好で? 私は隣歩きたくないですよ』
「あっ……着替える、待って」
「君も大して変わらない服を着ていると思うけれど」
ウェナトリアの背に隠れて着替えながら、その意見に同意する。フリルや色使い、装飾などはベルゼブブの服装はリンが渡してきたものとよく似ている。
『私は露出ほぼないですよ? ロリータというジャンルには入るかもしれませんが、ヘルシャフト様が着たのはただの扇情的な服でして私の服装とは関係ないかと。そもそも私は悪魔の帝王なのだから、豪奢な服で当然でしょう』
「……君、背中思いっきり空いてるよ。っていうかさ、君女の子? どっちでもいいけどちょっと恥ずかしそうな顔してもらっていい? なんなら服貸すからさ。あと男の子なら写真上げさせて、火を吹くぜとか書いちゃったからもうちょっと上げないと」
『これは翅を出す穴です。私、悪魔ですから基本的には無性なんですよね。まぁ女の子と言ってますよ、その方がチヤホヤされますから』
「この掲示板の人達は君が男の子ならチヤホヤするよ。俺は恥ずかしそうな顔してくれたらどっちでもいいけど、君表情変わらないし……」
ベルゼブブとリンがくだらない会話をしている間に着替え終わり、ベルゼブブの手を引いて玄関に向かう。
『カルコス、クリューソス、貴様等は来んのか』
『今スポーツ中継がいいところで……ああっ! 何をしている! 早くボールを追わんか!』
『我は行こう、ガキが喰える好機がいつ来るか分からんからな』
玄関を出てアルを振り返る、その後ろにはカルコスがいた。
「カルコスも来るの? ありがとう、助かるよ」
『ああ、だがあの猫は来ん、薄情な奴だ』
人混みをかき分け三ブロック先の倉庫を目指す。
二ブロックも行けば人影はまばらになり、その先の目的地には人の気配まで消えた。
建物の影から倉庫の様子を伺う。外には武装した男が数人、見張りの役割を果たしていた。
『では僭越ながら私が……』
「食べちゃダメだよ、気絶だけね」
ベルゼブブは適当な返事をして、空高く跳び上がる。急降下を利用して男を一人踏み倒し、その隣の男の足を払い、低い位置に来た頭に膝を叩き込む。銃を叩き落とし、頭を蹴り──そんな肉弾戦が終わると、倉庫の前には六人ほどの山ができていた。
『流石はベルゼブブ様、お強い』
『それほどでもあります。ヘルシャフト様? 貴方様からの賛辞は?』
「…………もう居ないね。よし、じゃあ、入ろ」
『ヘルシャフト様って結構私を無視しますよねぇ』
ギィィ……と、金属が擦れる嫌な音。
倉庫に入っていくウェナトリアの後ろで、僕は見張りの男が持っていた銃を奪った。扱い方は全く分からない、だが武器であるのなら脅しには使えるだろう。
『何も居らんな、匂いもせん』
『仔猫の嗅覚では後も追えんか』
『……なんだと!? この駄犬が!』
倉庫の中に人はいない、音も気配もない。アルは何かを嗅ぎ取ったようで、倉庫の奥へ進んでいく。
「何か分かるのか?」
『微かだが、人の……中身の匂いがする』
『生き物は居らんのだろう? なら別の倉庫を当たろう。我は右に行く』
「なら私は左に」
カルコスとウェナトリアは揃って倉庫を出ていく。
攫われたナハトファルター族の人達を早く探し出さなければならないとは分かっている、だがアルの言う「人の中身の匂い」がどうにも気になる。内臓という意味だろうか。なら、誰かが死んでいるという事になる。
『では私達は裏の倉庫に行きますかね』
『ええ、そうしましょう』
「ま、待って。僕ちょっとここ調べたい」
『人居ないんですよ? 何があるってんです』
呆れたように両の手のひらを上に向け、わざとらしくため息を吐く。そんなベルゼブブとは正反対に、アルは真剣な眼差しで言った。
『……なら、ヘルはここに残れ』
『え、ちょっと先輩』
『申し訳ございませんベルゼブブ様。ヘルはまだ子供です、ヘルに奴隷の諸々は見せたくないのです』
『過保護ですねぇ。まぁ、ここは誰もいないですし、安全だとは思いますけど。何かあったら呼んでくださいね、契約悪魔の特権で駆けつけられますから。一応扉は閉めますよ?』
アルが賛成した理由は気に障るが、それ以上にここにある何かが気になる。
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