165 / 909
第十四章 倒錯した悪魔達との狂宴
蒐集家
しおりを挟む
鼻歌を歌いながら、ヴェーンは皮膚の上から血管をなぞる。肌越しに感じる血の温度、脈動、そういったものに高ぶるらしい。
すぐに喰らいつかれなかったのと、口を塞がれなかったのは僕にとって唯一の幸運だった。
「僕 を 離 せ !」
右眼に針を刺したような短い痛みが走る、力は上手く発動してくれた。
ヴェーンは僕の腕と頭から手を離した。
「……っんだよ、急に、耳鳴り……?」
頭を抱え、苦しそうに顔を歪めた。
「あと……あ、僕 に 危 害 を 加 え る な !」
これを言っておけば大丈夫だろう、よく思いついたと自分を褒めたい。
頭痛を訴えるヴェーンの下を抜け出し、ベッドから這い降りて部屋を出る。
どうせなら家から出せだとか、解放しろだとか言えば良かっただろうか。
やはり要領が悪い、自分を蔑む。
豪奢な内装でなんとなく分かっていたことだが、やはり巨大な豪邸だ。
視界を占拠する長い廊下に大きな窓、窓は僕には割れそうにない。外に出る扉を探さなければ。
「待ちやがれ! ……っんのクソガキがぁ!」
燭台が飛んでくる、狙いは外れて僕の後ろの窓に当たる。
だが窓は割れない、僕の手のひらほどもない小さなヒビが入るだけだ。
「思い出したぁ……魔物使いのガキ、ちょっと前にこの国に来てたよな、お前」
「な、なんで、効いてない……!?」
「効いてるよぉ……ちゃーんとな、頭が痛くて仕方ねぇ」
ヴェーンは壁に飾られている模造刀を引き剥がす、留め具が鈍い音を立てて壊れ、壁が僅かに抉れた。
「ま、お前が思ってるほどは効いてねぇんじゃね? だって俺、純血じゃねぇもん」
逃げ出そうと頭はその経路を考えている、だが足は地面に縫いつけられたように動かない。
怯えて震え、勝手に力が抜ける。
座り込んだ僕の眼前に刃先が揺れた。
「ダンピールっての、分かる? 吸血鬼と人間の間の子ってわけ。それで俺と兄貴はババア……あ、母親ね。そう、ババアに嫌われてたんだよな、自分で産んどいて嫌うとか、勝手だよなぁ……ホント」
ヴェーンが手首を小さく動かす度に、刃先が大きく振れる。先端が前髪に触れると僕の恐怖が倍以上に膨らんだ。
「で、だよ。そのババアがこないだ死んだんだよ、兄貴も。俺はとっくに絶縁してたからどうでもいいっちゃいいんだけど、やっぱ気になるじゃん? 調べさせたのよ、そしたらなんと! 魔物使いが関連してると! 実際殺したのは違う奴みてぇだけどよ、関係者には違いねぇ。つまり、だ、お前は仇なんだよな」
母親は吸血鬼、その息子はダンピール。
まさかあの二人か? 酒食の国の……ここは、酒食の国? そしてヴェーンはあの二人の家族、と。
そこまで考えた時、ヴェーンが模造刀を振り上げたのが見えた。
咄嗟に頭を腕で庇う、振り下ろされ、鈍い音が響き渡った。
庇った腕が痺れる、打撃による痛みは僕の腕の動きを麻痺させた。
「あー……クソ、面倒臭ぇな、やめろよそーいうの、鬱陶しい。まだ殺しゃしねぇんだから大人しくしろよ」
その言葉に大人しくなる者がいるとは思えない、ようやく震えの止まった足を動かし、必死に逃げる。
魔物使いの能力が全く通じない訳ではない、少しの間ならヴェーンの動きを止められる。
問題は僕が力の使い過ぎで動けなくなることだ、そうなる前にこの館から脱出しなくては。
長い廊下を走り、広場らしき場所に出る。本来なら客を招いて舞踏会でも開くのだろうか、なんて余計な事を考えた。
広場を抜けて一際大きな扉を見つけた、きっとこれが外に出る扉だ。
僕は取っ手に飛びつき、そして絶望した。扉には薄っぺらい板が打ち付けられ、取っ手には鎖が巻かれていた。
「逃がす訳ねーじゃんよぉ、対策済みだっつーの。俺、ルートと違って慎重派だからよ」
「ひっ……く、来 る な !」
背後からの声に体は勝手に跳ね上がる。怯えを隠すことは出来ず、無理矢理絞り出した声もまた震えていた。
「チッ………面倒臭ぇな、本っ当に」
ヴェーンの横をすり抜け、頭と目の痛みや腕の痛みを堪えて必死に走る。
先程走ってきた廊下とは反対側にあった廊下は太陽の位置の関係で薄暗い。片っ端からドアノブを捻り、開いたのは一番奥の部屋だった。
転がり込んですぐに内側から鍵をかける、これでしばらくは大丈夫だろう。
自分の手も見えない暗闇の中壁を探ると、スイッチらしきものを見つけた。カチリと音がして、部屋の明かりがつく。
明滅する青白い光。ここは僕が最初に寝ていた部屋とは違った電灯を使っているようだ。
電灯に眩んだ目が慣れた頃、落ち着いて辺りを見回す。
正方形の部屋、壁を隠す鉄製の棚、そこに並ぶ瓶。僕の頭ほどの大きさの瓶には何かが浮かんでいる。手近な物を手に取り、光の下へ。
「玉……? なにこ…………うわぁっ!?」
液体の中に浮かんだ玉、その正体を理解した僕は瓶を放り投げてしまった。
ガシャーン! と大きな音を立てて割れる瓶、床を汚す液体、転がる玉、そして容易くこじ開けられるドア。
「よぉ、ここに居た………あ? お前、割りやがったな!? なんってことしてくれんだよ! んのクソガキがぁ!」
ヴェーンは僕の胸ぐらを掴む……が、何もせずに離した。
棚の物が落ちるのを避けたかったのだろう、ヴェーンは僕を無視して割れた瓶を確認する。
「……中身は無事か」
床に転がっていた玉を二つとも拾い上げ、ヴェーンは奥の棚へ向かう、下の段には液体だけが入った瓶がいくつか並んでいた。
「ったく、人のコレクションルーム荒らしやがって。お前、楽に死ねると思うなよ」
蓋は丁寧に閉め直され、僕が投げた瓶があった場所に同じ中身の新たな瓶が置かれた。
「………なっ、なん……何なんだよ、それ!」
「あ? 見りゃ分かんだろ」
「何でそんなもの……!」
「はぁ……これだから嫌なんだよ、眼の美しさが分かんねぇ馬鹿は」
瓶の中身は目玉だ。作り物ではなく本当に人間からくり抜かれた眼球。僕がさっき落としたのは青い瞳をしていた。
「なぁ、思ったことねぇか? 綺麗な目ぇしてるって。誰にでも経験あるよなぁ?」
「……それは、あるかもしれないけど、それは目単体じゃ成り立たないよ!」
少しでも話を長引かせれば助かる可能性も増えるかと、僕は精神を削る覚悟を決めた。
「あー……埋まってるからいいって? 馬鹿だな、そりゃ逆だ。球体なんだから取っちまった方がいいに決まってる、ずっと目ぇかっ開いてる奴もいねぇしな。それに目が充血したりシミができたりで綺麗なまま保っちゃくれねぇ、出してちゃーんと保存液に漬けといた方がいいんだよ」
男は棚から一つの瓶を手に取り、僕に見せた。水色の瞳と黄色の瞳が一つずつ浮かんでいる。その光景は吐き気を催すには十分過ぎる。
「これは確か、獣人の女だったかな? 生意気な奴でよ、俺の顔引っ掻きやがった。でもほら、こうして目だけになってみりゃ可愛いもんじゃねぇか」
ぐい、と瓶を僕の顔に押し付ける。瓶の中と目が合った気がして、呼吸が乱れた。
「オッドアイってのは珍しいし綺麗だけど、こうなると二人混ぜてんのか一人なのか分かんねぇってのが玉に瑕だよな」
ヴェーンは瓶を磨きながら棚に戻し、また違う瓶を僕に見せた。
「こっちは亜種人類のだ、知ってるか? ほら、虫っぽい奴らだよ」
瓶に浮かんでいるのは黒い玉だ、目のようには見えない。
よく見ると網のような模様が入っているような気がする。
「複眼って知ってるか? 気持ち悪いって言う奴も多いけど、俺は結構好きだぜ」
複眼でなくともこの部屋にある物は全て気持ち悪いと思うのだが。
「どうだ? 分かるか? 綺麗だろ?」
男は初めて純粋な笑顔を見せた、子供のように無邪気に輝く目には空恐ろしさを感じずにいられない。
僕に自分の芸術を分からせようとしているのだろうが、無駄な行為だ。
僕には全く分からないし、分かりたくもない。
だが、ここはどう答えるべきだろうか。
同意して男を喜ばせた方がいいのか? 見逃されるかもしれないが、それなら目をくれとも言われそうだ。だが反対すれば間違いなく逆上する、あの伝言とやらを無視して殺されるだろう。
「僕……は、い、生きている人に、ちゃんと、ついてる方が……綺麗、だと思います」
「…………あぁ、そ。まぁそうだろうな、そう言うと思ってた」
予想に反してヴェーンは落ち着いていた。
瓶を磨いているヴェーンは僕の方を見もしない、今なら逃げ出せるかもしれない。
僕は音を立てないように細心の注意を払いつつ、ドアに向かった。
すぐに喰らいつかれなかったのと、口を塞がれなかったのは僕にとって唯一の幸運だった。
「僕 を 離 せ !」
右眼に針を刺したような短い痛みが走る、力は上手く発動してくれた。
ヴェーンは僕の腕と頭から手を離した。
「……っんだよ、急に、耳鳴り……?」
頭を抱え、苦しそうに顔を歪めた。
「あと……あ、僕 に 危 害 を 加 え る な !」
これを言っておけば大丈夫だろう、よく思いついたと自分を褒めたい。
頭痛を訴えるヴェーンの下を抜け出し、ベッドから這い降りて部屋を出る。
どうせなら家から出せだとか、解放しろだとか言えば良かっただろうか。
やはり要領が悪い、自分を蔑む。
豪奢な内装でなんとなく分かっていたことだが、やはり巨大な豪邸だ。
視界を占拠する長い廊下に大きな窓、窓は僕には割れそうにない。外に出る扉を探さなければ。
「待ちやがれ! ……っんのクソガキがぁ!」
燭台が飛んでくる、狙いは外れて僕の後ろの窓に当たる。
だが窓は割れない、僕の手のひらほどもない小さなヒビが入るだけだ。
「思い出したぁ……魔物使いのガキ、ちょっと前にこの国に来てたよな、お前」
「な、なんで、効いてない……!?」
「効いてるよぉ……ちゃーんとな、頭が痛くて仕方ねぇ」
ヴェーンは壁に飾られている模造刀を引き剥がす、留め具が鈍い音を立てて壊れ、壁が僅かに抉れた。
「ま、お前が思ってるほどは効いてねぇんじゃね? だって俺、純血じゃねぇもん」
逃げ出そうと頭はその経路を考えている、だが足は地面に縫いつけられたように動かない。
怯えて震え、勝手に力が抜ける。
座り込んだ僕の眼前に刃先が揺れた。
「ダンピールっての、分かる? 吸血鬼と人間の間の子ってわけ。それで俺と兄貴はババア……あ、母親ね。そう、ババアに嫌われてたんだよな、自分で産んどいて嫌うとか、勝手だよなぁ……ホント」
ヴェーンが手首を小さく動かす度に、刃先が大きく振れる。先端が前髪に触れると僕の恐怖が倍以上に膨らんだ。
「で、だよ。そのババアがこないだ死んだんだよ、兄貴も。俺はとっくに絶縁してたからどうでもいいっちゃいいんだけど、やっぱ気になるじゃん? 調べさせたのよ、そしたらなんと! 魔物使いが関連してると! 実際殺したのは違う奴みてぇだけどよ、関係者には違いねぇ。つまり、だ、お前は仇なんだよな」
母親は吸血鬼、その息子はダンピール。
まさかあの二人か? 酒食の国の……ここは、酒食の国? そしてヴェーンはあの二人の家族、と。
そこまで考えた時、ヴェーンが模造刀を振り上げたのが見えた。
咄嗟に頭を腕で庇う、振り下ろされ、鈍い音が響き渡った。
庇った腕が痺れる、打撃による痛みは僕の腕の動きを麻痺させた。
「あー……クソ、面倒臭ぇな、やめろよそーいうの、鬱陶しい。まだ殺しゃしねぇんだから大人しくしろよ」
その言葉に大人しくなる者がいるとは思えない、ようやく震えの止まった足を動かし、必死に逃げる。
魔物使いの能力が全く通じない訳ではない、少しの間ならヴェーンの動きを止められる。
問題は僕が力の使い過ぎで動けなくなることだ、そうなる前にこの館から脱出しなくては。
長い廊下を走り、広場らしき場所に出る。本来なら客を招いて舞踏会でも開くのだろうか、なんて余計な事を考えた。
広場を抜けて一際大きな扉を見つけた、きっとこれが外に出る扉だ。
僕は取っ手に飛びつき、そして絶望した。扉には薄っぺらい板が打ち付けられ、取っ手には鎖が巻かれていた。
「逃がす訳ねーじゃんよぉ、対策済みだっつーの。俺、ルートと違って慎重派だからよ」
「ひっ……く、来 る な !」
背後からの声に体は勝手に跳ね上がる。怯えを隠すことは出来ず、無理矢理絞り出した声もまた震えていた。
「チッ………面倒臭ぇな、本っ当に」
ヴェーンの横をすり抜け、頭と目の痛みや腕の痛みを堪えて必死に走る。
先程走ってきた廊下とは反対側にあった廊下は太陽の位置の関係で薄暗い。片っ端からドアノブを捻り、開いたのは一番奥の部屋だった。
転がり込んですぐに内側から鍵をかける、これでしばらくは大丈夫だろう。
自分の手も見えない暗闇の中壁を探ると、スイッチらしきものを見つけた。カチリと音がして、部屋の明かりがつく。
明滅する青白い光。ここは僕が最初に寝ていた部屋とは違った電灯を使っているようだ。
電灯に眩んだ目が慣れた頃、落ち着いて辺りを見回す。
正方形の部屋、壁を隠す鉄製の棚、そこに並ぶ瓶。僕の頭ほどの大きさの瓶には何かが浮かんでいる。手近な物を手に取り、光の下へ。
「玉……? なにこ…………うわぁっ!?」
液体の中に浮かんだ玉、その正体を理解した僕は瓶を放り投げてしまった。
ガシャーン! と大きな音を立てて割れる瓶、床を汚す液体、転がる玉、そして容易くこじ開けられるドア。
「よぉ、ここに居た………あ? お前、割りやがったな!? なんってことしてくれんだよ! んのクソガキがぁ!」
ヴェーンは僕の胸ぐらを掴む……が、何もせずに離した。
棚の物が落ちるのを避けたかったのだろう、ヴェーンは僕を無視して割れた瓶を確認する。
「……中身は無事か」
床に転がっていた玉を二つとも拾い上げ、ヴェーンは奥の棚へ向かう、下の段には液体だけが入った瓶がいくつか並んでいた。
「ったく、人のコレクションルーム荒らしやがって。お前、楽に死ねると思うなよ」
蓋は丁寧に閉め直され、僕が投げた瓶があった場所に同じ中身の新たな瓶が置かれた。
「………なっ、なん……何なんだよ、それ!」
「あ? 見りゃ分かんだろ」
「何でそんなもの……!」
「はぁ……これだから嫌なんだよ、眼の美しさが分かんねぇ馬鹿は」
瓶の中身は目玉だ。作り物ではなく本当に人間からくり抜かれた眼球。僕がさっき落としたのは青い瞳をしていた。
「なぁ、思ったことねぇか? 綺麗な目ぇしてるって。誰にでも経験あるよなぁ?」
「……それは、あるかもしれないけど、それは目単体じゃ成り立たないよ!」
少しでも話を長引かせれば助かる可能性も増えるかと、僕は精神を削る覚悟を決めた。
「あー……埋まってるからいいって? 馬鹿だな、そりゃ逆だ。球体なんだから取っちまった方がいいに決まってる、ずっと目ぇかっ開いてる奴もいねぇしな。それに目が充血したりシミができたりで綺麗なまま保っちゃくれねぇ、出してちゃーんと保存液に漬けといた方がいいんだよ」
男は棚から一つの瓶を手に取り、僕に見せた。水色の瞳と黄色の瞳が一つずつ浮かんでいる。その光景は吐き気を催すには十分過ぎる。
「これは確か、獣人の女だったかな? 生意気な奴でよ、俺の顔引っ掻きやがった。でもほら、こうして目だけになってみりゃ可愛いもんじゃねぇか」
ぐい、と瓶を僕の顔に押し付ける。瓶の中と目が合った気がして、呼吸が乱れた。
「オッドアイってのは珍しいし綺麗だけど、こうなると二人混ぜてんのか一人なのか分かんねぇってのが玉に瑕だよな」
ヴェーンは瓶を磨きながら棚に戻し、また違う瓶を僕に見せた。
「こっちは亜種人類のだ、知ってるか? ほら、虫っぽい奴らだよ」
瓶に浮かんでいるのは黒い玉だ、目のようには見えない。
よく見ると網のような模様が入っているような気がする。
「複眼って知ってるか? 気持ち悪いって言う奴も多いけど、俺は結構好きだぜ」
複眼でなくともこの部屋にある物は全て気持ち悪いと思うのだが。
「どうだ? 分かるか? 綺麗だろ?」
男は初めて純粋な笑顔を見せた、子供のように無邪気に輝く目には空恐ろしさを感じずにいられない。
僕に自分の芸術を分からせようとしているのだろうが、無駄な行為だ。
僕には全く分からないし、分かりたくもない。
だが、ここはどう答えるべきだろうか。
同意して男を喜ばせた方がいいのか? 見逃されるかもしれないが、それなら目をくれとも言われそうだ。だが反対すれば間違いなく逆上する、あの伝言とやらを無視して殺されるだろう。
「僕……は、い、生きている人に、ちゃんと、ついてる方が……綺麗、だと思います」
「…………あぁ、そ。まぁそうだろうな、そう言うと思ってた」
予想に反してヴェーンは落ち着いていた。
瓶を磨いているヴェーンは僕の方を見もしない、今なら逃げ出せるかもしれない。
僕は音を立てないように細心の注意を払いつつ、ドアに向かった。
0
お気に入りに追加
435
あなたにおすすめの小説
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》
カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!?
単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが……
構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー!
※1話5分程度。
※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。
〜以下、あらすじ〜
市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。
しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。
車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。
助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。
特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。
『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。
外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。
中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……
不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!
筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい!
※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。
※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる