魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

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第六章 砂漠の国の地下遺跡

遺跡調査

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夜市は昨日見た時よりも賑わっている。
実際は昨日とそう変わらないのかもしれないが、参加しているとそう感じるのだ。

アルが肉の屋台に釘付けになっている間、僕はその向かいの小物売に惹かれていた。
装飾品や置物、様々な物が並んでいる。宝石のようなものもあるが、本物だろうか?  値札などはついていない。
商品に夢中になっていると、横で僕と同じように眺めていた少女とぶつかる。

「す、すいません」

「いえ、私の方こそ」

修道服を着た少女だ、藍色の服は少女の雪のように白い肌や髪を隠している。少しハミ出た髪は薄い水色だ、透き通るように冷たい美を感じさせた。

「これを見せて頂けますか?」

少女が指差したのは銅のロザリオだ、細やかな彫刻が施された見るからに高価な物。少女はそれを顔の前で回し、じっくりと観察した。

「頂きます、おいくらでしょうか」

店の主人は驚いたような顔をして値段を伝えた。
僕の予想通りに高額だ、だが少女は顔色一つ変えずに紙幣を渡した。
僕はきっと驚いて間抜けな表情をしていたのだろう、少女は僕にロザリオを見せて微笑んだ。

「鎖のところ、見えますか?」

「え?  あ、十字の模様が入ってる、かな?」

「ええ、これは魔を裁くロザリオ。本物を見つけられるとは素晴らしい僥倖です」

「へぇ……?」

「だから、あの値段なんて本来の価値よりもずっと安いんですよ」

店主さんには内密に、と悪戯っぽく片目を閉じる。
少女はロザリオを首にかけ、服の中に入れた。
またどこかでと微笑む少女に手を振っていると、目の前に串焼き肉が突き出される。串を持っているのは太く長い黒蛇だ。

『喰え、美味いぞ』

「ありがとう」

『ホント、あの店美味しいよ。ヘルシャフト君は?  何か良いの見つけた?』

「セネカさん……人に戻ってたんですね。僕は特に何も見つけてないですよ、これといって欲しいものがある訳でもないですしね」

『ふぅーん……』

自分から聞いておいてさほど興味はなかった様子で、曖昧な返事をしてセネカは再び肉を頬張る。
アルに渡された串焼き肉は確かに美味しい、だがそこまで熱中する程でもないだろう。
そこまで肉が好きでもない僕には理解出来ない程に喜んでいる二人を少し羨ましく思う。

宿に戻る頃には日付も変わり、部屋に入ると強烈な睡魔に襲われた。明日の約束の時間に遅れないように、と自分に言い聞かせながら眠りについた。


朝食を食べ、顔を洗っても取れない眠気から逃げるように階段を下りる。目を擦りながら広場に足を踏み入れると、元気な少女の声が半分眠ったままの頭に響いた。

「おっはよー、ヘル、アル」

そう言って向けられた手のひらに、一瞬戸惑った後で拳を軽くぶつけた。セレナはアルにも同じように手のひらを向け、アルは頭を突き出した。
乱雑にアルを撫でた後、セレナは僕の肩の上のコウモリに気がつく。

「あっ、おはようございます!  セネカさん!」

きゅう、と眠そうに返事をするコウモリ。
セレナは何かを勘違いしているような……まぁいいか。訂正するのは面倒だ。


宿を出て東、集合地点へと向かう。セレナの背負った大剣は今にも地面につきそうだ。

「重くないの?  その剣」

「こんなモン重たがってちゃ戦えねーよ。アタシはちゃんと片手でも振れるように鍛えてんだぜ」

セレナの腕はそこまで太くはない、鍛えられてはいるものの、巨大な鉄塊を振り回せるほどには見えない。

「へぇ……僕は多分両手でも持てないだろうね」

「お前はアタシみたいな単純な腕力よりも正確性が大事だろ?  腕力も必要だろうけどよ」

正確性、とは弓の事を言っているのだろう。カバンからハミ出た銀に輝く弓をチラリと見る。
日差しの強いこの国では、その輝きは増す一方だ。
少しは練習しておいた方がよかったかな、なんて思ったり。


集合地点に居たのは男一人だけだ、いくらまだ時間ではないとはいえ、他に応募者はいないのだろうか。

「ま、まさか君たち、移籍調査の護衛募集を見て来たのかい?」

「そうだぜ、おっさんもか?」

おっさん……まだ若そうに見えるのだが。窘めるべきかな。
男はメガネの位置を直し、大きく息を吸った、そして。

「ありがとう!」

「は?  な、なんだよおっさん……気持ち悪いな」

「大学の発表会があってね、そこでの発表次第では大学をクビになってしまうんだよ。だけど、あの遺跡を調査出来れば確実に賞賛される!」

興奮して大声をあげる男を落ち着かせ、深呼吸をさせる。
男はメガネの位置を直し、フッと笑う。

「失礼、取り乱したね。私はヴィッセン、ヴィッセン・サーバート。歴史学の教授だ。ハカセ、と呼んでくれたら嬉しい……と言っているのに呼んでくれる人は居ないんだ」

先程までとは違い自嘲的な笑みを浮かべる。
大人だというのに──いや、歳は関係ないのだろうか?  とにかく落ち着きのない人だ。

「おっさん賢いんだな」

「セレナ、ハカセって呼んであげてよ。この人まだそんな歳じゃないし、君さっきから口悪いよ?」

「さて、まだ時間ではないが……君たち以外に人が来るとも思えない。出発するとしようか」

競争相手がいないのは幸運だったが、二人だけとなると少し不安だ。
ヴィッセンは地図と方位磁針を手に持ち、歩き出す。
カバンを肩にかけ直したその時だ。

「ま、待ってくださ~い!」

藍色の修道服に身を包んだ少女が走ってきた。
昨日夜市で会った少女だ。

「まさか……君も来てくれるのか!」

「えっ?  は、はい。遺跡調査の護衛募集を見て」

「なんという幸運の重なり!」

再び興奮しだしたヴィッセンを取り押さえ、深呼吸させる。落ち着きを取り戻したヴィッセンは再び自己紹介し、ハカセと呼ぶようにねだった。

「私は見習いシスター、氷襲こおりがさね雪華せっかと申します。未熟者ですが、どうぞよろしくお願いします」

「よろしく雪華、アタシはセレナ。こいつがヘルで、狼がアル」

「……言うことなくなったんだけど」

セレナは勝手に僕とアルの分まで紹介を済ませ、そっと雪華に耳打ちする。

「ヘルの肩に乗ってるコウモリがセネカさんだ、口の利き方とか、なんか……色々、こう、気をつけろよ」

「は、はい!」

僕と少女達にはコウモリへの認識の微妙なズレがあるが、それを訂正する気は僕に存在しない。態度を気にするような性格はしていないが、強さに関しては少女達の想像通りだ。
アルもそのズレを面白そうにしているし、別に構わないだろう。本人はあまり気に入らないようできゅーきゅーと鳴いているが。
三人の護衛が集まり、ヴィッセンは大はしゃぎで駆けていく。遺跡は遠い、真昼間から走り回るのは愚かな行為だ。
僕達は体力を温存する為にペースを保って歩き、その途中で倒れたヴィッセンを拾った。
道のりはまだまだ長い。
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