シンデレラになりたい私の話

毬谷 朝一

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序章

第18話

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「……ちょっとやりすぎた?」


テーブルに積み上げられた報酬の山を見て、レディはそう呟いた。


「まあSランクの依頼だもんね~。強くてすっごくワクワクした!でもほとんどライラの分だよ、ほら。」


ヘヴンはにんまり笑って言うと、私のギルドカードを報酬にかざした。テーブルには半分ほどしか残っていない。


「あ、これはちゃんと計算して配分してあるから。ギルドカードはその辺もちゃんとしてるんだよね、だから安心して貰っときな。」


私が払い戻そうとしたのに気づいたジャックは、そう言って残りの報酬を分け始めた。


「それにお前、装備も揃えてねえだろ。それだけありゃ上等な物が一式揃うぞ。」

アルは私が来ているボロボロのローブを見て言った。


そうなのだ。私の装備は古い紺色のカーテンを縫って作ったローブと、先日買った赤茶のブーツのみ。


私のボロボロのローブをじっと見ると、ヘルは目をキラキラさせて言った。


「魔法を使うならやっぱりローブかなぁ、でも体術を使うなら身軽な方がいいのかも?あぁ、迷っちゃうよ!!」


ギャリーは私の装備に夢をふくらませているヘルの頭をばしばし叩くと呆れたように笑って言った。


「新調したばっかりのお前の装備を選ぶわけじゃないんだからな?わかってるよな?」


ギャリーはわかってるもん!と頬を膨らますヘルをつっついた。
それを見て楽しそうに笑っていたアルは、ふと私の方を向き直ると言った。


「それはそうと、装備を選ぶなら心配しなくてもいい。もうじきあいつが来るから。」


そう言うと同時にギルドのドアはバタバタと騒々しく音を立て、2人の男女が入ってきた。


「あぁ疲れた!うちの親父は全く人使いが荒くて困ってしまうよ、おかげで2週間もギルドに顔を出せなかった。なあヴェレナ?」

「ええ、そうねカッツェ。でも私にはなんの関係もなかったと思うのだけれどね!なぜ私は付き合わされたのかしらね!」


カッツェと呼ばれた男はオレンジ色の髪を1つでまとめ、頭におしゃれな帽子を被っている。手には大きなカバンを抱え、細い目を限界まで細めて笑った。

「ヴェレナがそこにいたからね!僕に捕まってしまった君の運の悪さを恨むんだね!でも色々なものを見られて楽しかったろう?」


ヴェレナと呼ばれた女は薄い紫色の髪を片側で緩くまとめ、やれやれと息をついた。
黒いぴったりとしたドレスのような格好につばの広いとんがり帽子を被っている。まるで魔女のようだ。
呆れたような彼女の金色の目はギルド内をぐるりと見渡した。

かつかつと私達の方へ近づくと、そばのテーブルにどっかりと座り込み、途端に呪詛のような愚痴を吐き始めた。


「冗談じゃないわよ、なんでたまたま通りがかっただけの私が手伝わなきゃいけないのよ!ああ、過去の自分を呪ってやりたい。困った顔しててもカッツェには近づかない方がいいわ……」


そう言ってだらりと椅子に背を預けた彼女は、ギャリーが差し出したジョッキのエールをぐびぐびと飲み干した。


「見ない顔がいるわね、新入り……あら、あなた金色の目をしてるの?おそろいだわ。」


彼女はそう言うと顔を私に近づけてにっこりと笑った。


「ヴェレナよ。半魔族の魔女なの。綺麗な色ね、よろしく。」


「ライラ、です。最近冒険者になりました、よろしくお願いします。」


やーんかわいい!と私の手を取りブンブンと振るヴェレナは魔族だという。見た目は色っぽいお姉さん、という感じだが、よく見れば歯が少し尖っているように見える。

「金色の目、お揃いって初めてなの。嬉しいわ、お姉ちゃんって思ってくれてもいいのよ?」

ニコニコと笑うヴェレナは、肩に手を置くカッツェをしっしっ!と追い払うように手で払った。


「僕はカッツェ。実家が商会をやっていてね、今回はその手伝いにヴェレナを借りてたんだ。ヴェレナがお姉ちゃんなら僕はお兄ちゃんだね!東から西、ゆりかごから墓場まで!世界最大の商会、ヨエル商会をどうぞよろしく!ってね。よろしくライラ。」


ご丁寧に決めポーズまでつけて紹介するカッツェをバシンと叩くと、アルはカッツェに私の装備を見て貰えないか頼んだ。


「こいつの装備、無茶苦茶だろ?だが見込みがある。予算オーバーでもいいから最高なのを見繕ってくれ。」


カッツェは驚いたように口を開けると、にんまりと笑った。

「…君がそこまで言うなんて珍しいねぇ。いいよ、最高なのを選ぼうじゃないか。ただしお金はだいぶお安くさせてもらうよ。アル達が認める冒険者、なおかつ顔は素晴らしく良い。これ以上ない宣伝になる!」


カッツェはそう言うと、鼻歌を歌いながら持っていたカバンをガサガサと漁りはじめた。
カバンには商会の倉庫とつながる魔法がかかっていて、たくさんの商品が入っているらしい。


これはどうだい?いやそうじゃない、もっとこう……とあれこれ装備を選ぶカッツェとアルの会話に入れず、自分の装備の話だと言うのに蚊帳の外になってしまう。


仕方なくヴェレナ達と談笑していると、ようやく決まったようで、カッツェとアルはニコニコと笑いがっちり握手をしている。


「世界最大の商会の、最高の装備だよ。どうかな?」


そう言って広げた装備は、なるほど確かに最高だと納得のいく素晴らしい装備であった。


「白いマントに黒いジャケット…うん、武器もしまいやすそうだし、何より可愛い!ジャケットは軍服をモチーフにしてるのかな?動きやすそうだし、いいと思う!」


ヘルは楽しそうに装備を手に取り、私の身体にあててサイズを確かめている。


「ちょっとは素材にも目を向けて欲しいんだけどなあ…凄いんだよ、マントなんかアラクネの金と銀の繭から作られた糸も織り込んであるんだ。光にあたるとキラキラするでしょ?ジャケットは火鼠の皮衣も使われてるし。」


ヘヴンは、装備を身につけた私をしげしげと眺めると不思議そうに言った。


「うーん、こうして見るとやっぱり男の子に見えないよね。意外と筋肉はついてるみたいだけど。」


私はくるくると動き回って着心地を確かめる。
うん、悪くない。それに……かわいい。
黒のジャケットには金と赤で刺繍もされている。マントをひらひらとさせると、光の当たる角度で色も変わるようでとても美しい。


冒険者は無骨な装備しかないと思っていたけど……こんなに可愛いものを譲ってくれるなんて。


「……本当に、ありがとうございます。こんなに素敵なものを…私、頑張って有名になります。必ずこの恩に報いてみせます。」


私が何度も何度もお礼を言うと、カッツェはひらひらと手を振って笑った。

「いやいや、いいんだよ。その装備を着るには並みの冒険者じゃダメだし、君みたいな子でよかった。」


ええ、もう脱いじゃうの?と不満そうなヘルとレディを横目に、私は真新しい装備をいそいそと脱いで、もとのローブに着替えた。


こんなに素敵な装備だもの、汚したくない。


私は綺麗にたたんで、カッツェから貰った布に包んでぎゅっと抱きしめた。

「……私、忘れません。皆さんに優しくしてもらえて、本当に嬉しかったです。ありがとうございます……また、会えたらお話してくれますか…?」


恐る恐る聞くと、私はそっと目をふせた。


森でみたアル達はとても強かった。後ろをついてきていたと言うが、気配は全く感じ取ることが出来なかった。
ギルドでの扱いや、周りの冒険者たちの見る目からわかる。この人達は、とても凄い人達だ。


そんな人達と数日過ごせただけでありがたい。そう思うべきだろう。


私はちりっと痛む胸に気付かないふりをして薄く笑った。


「あー…その事なんだが。」

アルは少し言葉を濁した。かしかしと頭をかきながら薄く笑うと、顔を上げた私の目を見て言った。


「俺達はパーティ……グループ?チーム?まあなんでもいい…そう、何かを組んでいてな、そこにいる奴ら全員と、8人で。そこの9番目にならないか。」


『鷹の止まり木』と彼らは言った。


一匹で獲物を捕えることの出来る強い鷹にも、休む場所が必要だろ?そこに仲間がいれば尚更いい。


「考えたのはギャリーだからな、俺じゃねえぞ。」

そう言って笑うと、アルは私の頭にぽんと手を置いた。


「うちは“自由”がモットーでな、俺達が自由であるための努力を惜しまない。仲間の自由を守るためなら、俺達は全力を尽くすぞ。お前は何かワケありのようだったから誘うのを迷ったんだが……」


アルは自信に満ちた顔で言った。


「自由は好きか?ライラ。」


自由?自由……自由ってなんだろうか。


前世も今も、自由を考えたことなんてなかった。
小さな穴から外に出て、初めて自由に触れた気がしたんだ。


私は……どうなりたい?


「私は……」


口に出していいのか、差しのべられた手をとってもいいのか、それが正解か分からない。


でも……それでも私は、ひと時でもいいから


「私は……自由になりたい。」


私は、自由になりたい。


そのとき確かに、世界に色がついて、視界が開けた気がした。
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