シンデレラになりたい私の話

毬谷 朝一

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序章

第5話

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 今日私は5歳の誕生日を迎えた。誕生日といえばご馳走である。さあ、今日の私の朝食を紹介しよう。



 夜明けに庭に出て集めた朝露!

 食べられる薬草!の根っこ!

 以上だ!



 4歳頃から滅多に食事は与えられなくなった。ここ最近は暴力をふるうメイドや虫を食べさせてくる執事の姿すら見かけない。


……私はいつまで生きていられるだろうか
 というか、本当に私は生きているのか


 メイドが来なくなったのは……いつの間にか私が死んでいたからではないだろうかす



 気づけばいつもお腹を空かせている。私が食べた記憶のある食べ物といえば、庭に咲いている植物や、たまに小鳥やうさぎが窓辺に持ってきてくれる小さな果物ぐらいだ。ただ、小鳥が運んでくる果物はメイドに気づかれてしまい、窓を封鎖されてしまった。実質植物しか食べていないようなものだ。
お母さんが植えていた薬草はほとんどが食べられるものだった。本当に感謝している。


 私は床にペタンと座ると、働かない頭でぼんやりと考える。


 お腹、空いたなあ……


 私はふと、近くにあった机に視線を向けた。


 そして、机の奥の隠しだなに手をかける

 右、左、左、右、押して右、最後にひく。


 隠しだなのギミックを解除すると、そこには以前見たときと変わらない輝きを放つ、美しい剣があった。
私はそれを慎重に手に取った。


 右手に剣を持つと、左腕にそっと刃を当ててスっと動かす。左腕はぱっくりと切れて、みるみるうちに血が流れ始めた。私は流れる血をぼんやりと眺めると、ああ、生きていたのか、と思った。



 ふと鏡に映る自分を見ると、そこには皮と骨で出来ているような、小さくみすぼらしい人間がいた。そこに映る私はいつ見ても傷だらけで、長く伸びた黒髪とそこから覗く金色の瞳だけが私であることを判別させた。


 私がもっと小さな頃は、庭の薬草で傷薬を作ったり、力をつけるために剣を振るう練習をすることが出来た。


いつからだろうか、体を動かすことすらままならなくなったのは。


 いつからだろうか、水が足りないせいで喉が張り付き、喋ることもままならなくなったのは。


 壁に背を預け、剣を抱き抱えると、私はもう動くのも億劫になり、そのままぼうっとしていた。気づくと、辺りに差し込む太陽の光が月の光に変わっていた。


 暗い部屋を照らす光で、今夜が満月であることを悟った。



 チラチラと影が映る私の視界の端には、まるまると太ったネズミがいた。私は、ネズミをむんずと捕まえ、顔の前に持って言った。


 ネズミって、食べれたっけ。


 私の体に流れる魔力は、今の私の体で使うと暴発して体ごと爆散してしまう。魔法で火を起こすことは出来ない。魔石もない。ならば、生のまま食べるしかあるまい。

私は、手の中で脈打つネズミに、大きく開けた口をゆっくりと近づけた。



 ドンッッッ!!!



 なんだか外が騒がしい。少し驚いて顔をネズミから離すとと、ネズミは体をよじって手の中から逃げてしまった。



 ドガッッッ!!!



 なんだか音が近づいてくる。複数の人間が近づいてきているようだ。


 遠くで悲鳴が聞こえる。

 私を殴ったメイド、私に虫を食べさせた執事の声だ。



 遠くで鈍い音がする。

 私が殴られていた時によく聞こえた音だ。




 バキッッッバキッッッバキッッッ!!!



 私の部屋の扉が壊されそうだ。


 メイドが鍵をかけて行ったのが幸いした。私は、少しでもドアから距離を取ろうと、部屋の奥へと這いずった。握りしめた剣は、まるでずっとそこにあったのかのように私の手に馴染んでいる。


 覚悟を決めなければ。


 私は大きく息を吸うと、壁に手をかけながら力を振り絞って立ち上がった。頭がクラリとして倒れそうになったが、足を踏ん張り扉を見すえる。ひときわ大き音が鳴ると、扉を蹴破り、5人ほどの男が私の部屋に踏み入る。どいつもこいつも下卑た笑いを顔に下げ、値踏みするような目で私を舐めるようにみた。



「うはははは!!!!王城も今頃は仲間が占拠している頃合いだろうなぁ!!!」


「ここにいるのはみすぼらしい子供だけかぁ?メイドと使用人は誰を世話してたんだァ?」


「…あ、こいつ黒髪に金色の目じゃねぇの。あれだ、可哀想なオウジサマ」


「ああ!!あの街で噂の!はっは、かわいそうになァ?お前はここで死ぬ、残念だったなァ」


 下品な笑い声を上げた男たちは、1歩1歩私の方に近づいてくる。扉の向こうには、メイドや執事が血を流して倒れているのが見えた。


 私は、それを見ると全てがどうでも良くなった。




 ここで死んでも、いいか


 もう十分頑張ったじゃないか


 王子様は今日も助けてくれない。

 だって私が王子様だから。

 私はお姫様じゃない。



 私は目を閉じた。


 私が諦めたと思ったのか、男たちは大股で近寄ってくるのを感じた。




( 愛しています、ライラ様 )

 ふと、どこからか声が聞こえる。


 目を開けて、私は手に持った剣を見る。ずっと使っていたように手に馴染んでいる剣は、月の光を受けてキラキラと輝いていた。


 まるで、誰かに励まされているようだった。


「……い」



「ああ?なんだァ?」



 ひりついた喉を開いて、私は男たちを見すえて言った。



「私は、死ねない!!!」




 私は1番近くにいた男に向かって剣を突き出した。男が間抜けな顔で崩れ落ちる。残った男たちは、私の方を憐れむように嘲笑った。自分たちが負けるはずがない、と思っているような笑みだった。






 私は、お姫様じゃない。


 なら、なればいい。これはその1歩だ。







 私は剣を軽く握り、男たちへ向かって一歩踏み出した。

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