エデンの花園

モナカ(サブ)

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第1章 不穏な花

第1話 開花

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何も無い暗闇に、私は立っていた

怖くて、寂しくて、悲しくて、不安と孤独と絶望に胸が押し潰されそうな暗闇で、私は一人泣いていた。

誰の助けを呼んでも、誰も助けてくれない。
真っ暗な闇にただ飲み込まれていくだけ。

「誰か・・・誰か助けてよ・・・怖いよ・・・苦しいよ・・・もうこんなのやだよ・・・!!」

私はただ暗闇の中で泣いていた。

???「おい、お前、大丈夫か?」

ふと、誰かの声が聞こえる。

誰の声かは思い出せない。でもその声はどこか懐かしさと安心感を感じさせてくれる優しい声だった。この暗闇で一人ぼっちの私には十分過ぎるほど救いだった。

目の前に手が差し伸べられる、その手をギュっと握ると、とても暖かかった。

「君は・・・?」

???「ん?俺?」

???「俺の名前は・・・・・・」










ジリリリリリリリリリリ!!
相変わらずうるさい目覚ましが私の耳元で鳴り響く。

嫌な夢を見た、嫌な昔の思い出。
でも、そんな事気にしてもしょうがない。

朝だ、窓から光が漏れ、小鳥が鳴いている、ん?もう朝か、学校の時間だ、遅刻しないように早く起きなくては。

気怠い身体をベットから起こし、朝の歯磨きをするために洗面所へ向かう、お気に入りの黄緑色の歯ブラシにイチゴ味の歯磨き粉をつけ歯を磨くのが朝の日課である。

コップに水を入れクチュクチュペーをする。その後は髪を結び整えなくてはいけない。

ピンクのゴムで髪の毛をツインテールに結び始めた私は、ふと鏡を見る・・・。

・・・・・・何かがおかしい。

特に何も無い普通の日常に、急に映り込んできた違和感。一見普通に見えるが『ソレ』は明らかに異質な空気を放っていた。

クロミん「なにこれ・・・?花?」






私の頭にピンクの小さなチューリップが生えていた。







「・・・・・・・・・・・・」

まだ寝ぼけてるのか私は、そう考えながら水で顔を洗う、フカフカのタオルで顔をふきもう一度鏡を見る。

クロミん「う、嘘だよね・・・」

やっぱり、生えていた。

クロミん「あはは・・・な、なにこれ・・・?」

訳の分からない事態に混乱を隠しきれない。

クロミん「な、なんでチューリップ???」

よく分からないけどとりあえず頭から引っこ抜いてみようと思いピンクのチューリップを引っ張る。

クロミん「うーん!!ぬ、抜けない!!」

痛みは無いがいくら引っ張ってもまったく抜けない、抜ける様子が微塵もない。

アタフタとしながら考えを巡らす、そうだ、ハサミで切ってしまえばいい。そう思うと部屋に戻り机の中からハサミを取り出す。洗面所に戻る。

クロミん「うーん、ちょっと可哀想だけどね。チューリップさん、さよなら~。」

そう言って私はチューリップをハサミでちょん切る。

クロミん「ふぅ~、変な事もあるもんだなぁ。」

ハサミを部屋の机に戻し、洗面所でまた髪を結ぶ作業をする・・・はずだった。

クロミん「ん?あれ?」

切ったはずのチューリップが、また頭から生えている。

クロミん「ん???あれれ???」

仕方なくまた部屋からハサミを持って来て、チューリップを切る。すると目の前で信じられない光景が起きる。

切ったはずのチューリップが、また頭からニョキニョキと、生えてきたのだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

クロミん「おかあさぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!」

母「朝から元気ね~、どうしたの~?」

クロミん「おかあさんおかあさん大変だよ!!頭!!」

母「頭?頭がおかしくなったの?それはいつもの事じゃない~。」

クロミん「酷いよおかあさん!!違うよ!!頭見て頭!!頭にチューリップが生えちゃったよ!!引っ張っても抜けないし切ってもまた生えてくるし大変だよ!!」

クロミん「こんなんじゃ学校のみんなにバカにされちゃうよ~!!うわーん!!」

母「あらあら~、ほんとね、可愛いチューリップが生えてるわ。いいじゃない、とっても似合ってるわ~。」

クロミん「呑気な事言わないで!!緊急事態だよ!!」

母「とりあえず朝ごはん食べなさい~。あんたの大好きなスクランブルエッグよ~。」

クロミん「うぅ・・・おいしい・・・。」

私は半分涙目でスクランブルエッグを頬張る。

(うぅ・・・なんでこんな事に・・・。)

『次のニュースです、近日、東京都内で一般人の不審死が多発しております。遺体の損傷が激しく、連続殺人事件と見て警察は調査を進めてる模様です。深夜の12時から4時にかけて犯行が行われており、その時間帯での外への出歩きは大変危険で・・・・・・』

『速報が入って来ました、最近警察が捜査を進めていた、20代男性だけを狙った誘拐監禁事件の犯人が逮捕されました、容疑者は東京都住在のまりんこ容疑者で・・・』

私はテレビのニュースを見る。

(・・・・・・・・・なんだか物騒なニュースやってるなぁ。)

ボケーッと画面を眺めていると母が後ろから声をかけてくる。

母「まっ、せっかくだし育ててみればいいじゃない、毎日水やりしてあげなさい~。」

そう言った母はどこからか水の入ったジョウロを取り出してくる。

クロミん「ひっ!!おかあさん・・・何する気・・・!?」

母「・・・なにって、水やりよ?」

クロミん「ちょ!!何考えてんの!?う、うわぁ!!」

おかあさんがお構い無しに頭に水をかけてくる。

クロミん「きゃぁぁぁぁ!!つめたーい!!おかあさんのバカー!!」

母「あらあら~、心なしかチューリップさんも喜んでるわ~。」

するとまた信じられない事が起きる。

母「あらあら~。このチューリップ、水をあげると光るのね~。」

水を与えられたチューリップがキラキラと光始めたのだ。鏡を見てない私でもわかるほど強く光っている。

クロミん「うぅ・・・なにこれ~。」

私は半べそをかきはじめる。

母「ほらほら、泣かないの、可愛いお顔が台無しよ。きっとこれは魔法のチューリップなのよ~。魔法少女にでもなったんじゃないの~?」

クロミん「魔法少女・・・この歳じゃギリギリだよ!!もう私17だよ!?」

母「いいじゃない魔法少女、おかあさんも昔憧れてたわぁ~。」

クロミん「やだよ~、悪の怪物と戦うなんて絶対やだ~!!」

母「変な事考えてないで学校いってきなさい~。あ、そうそう、花壇のチューリップに水やりお願いね~。」

クロミん「・・・はーい」

私は元気の無い返事をする。

お気に入りの水色の靴を履き、ジョウロを持って玄関のドアを開ける、すぐ側にある花壇に生えてるチューリップに涙目で水やりをする。

クロミん「うぅ・・・チューリップはもう見たくなーい!!」

クロミん「呪われちゃったのかなぁ・・・ぐすん」

そうだ、きっとこれは呪いだ、最近チューリップの水やりをサボってたからチューリップに呪われてしまったんだ。

仕方なくそう考える事にした私はトボトボと学校への道を重い足取りで歩く。

(バカにされる、みんなに絶対にバカにされるぅ・・・。)

そう考えながら、私は学校に向かうのだった。
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