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第九章 鷹匠
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末盛城に在ってひとり鬱々と楽しまぬ日々を送っていた織田勘十郎信行のもとに、ある日、ふらりとひとりの鷹匠が訪のうて来た。津々木蔵人と名乗ったその男は、まだ若いが整った顔立ちで、所作のはしばしに自然な威厳を感じさせる、どこか武家風な男である。彼は、いと美しき奥羽の鷹を御目に掛けるという触れ込みで、この高貴なる若君の御前へと罷り出たのである。
信行は、鷹狩を好んでいた。とはいえ彼の関心は、どちらかというと鷹狩という営為にではなく、鷹そのものの優美な姿形をひたすら愛でることにあった。最愛の弟を殺され、その復仇と勇み立った守山攻めも未遂に終わり、さらにまた後の処分においても常に清洲に主導権を握られ蚊帳の外に置かれ続けていた彼は、慰めを欲していた。そのような折、尾張では珍しい、奥羽の大鷹を目にすることのできる機会は、願ってもない申し出であったといってよい。もちろんこの場合、相応の金子と引き換えにはなろうが、「御目に掛ける」とは「献上する」のと同義である。
どことも知れぬ深山よりやって来た津々木蔵人は、卑屈さを全く感じさせない柔らかな笑みを湛え、涼やかな所作で微かな衣摺れの心地よい音だけを立て、まるで風のようにふわりと信行の前へと着座した。彼は手甲をしておらず、その上に繋いだ鷹もいない。ただ、いくつか小さな穴のあいた古びた小箱が脇へぽつりと置かれているだけである。
「儂は、鷹匠が参ったと聞いた。」
信行は、顔をしかめて言った。
「奥州の見事な鷹を献じに参った、とな。さて、肝心の鷹はどこにおるのじゃ?このあと呼子でも吹くと、空からそちの肩に降り来たるという趣向か?じゃが、どうやらお主にはその用意もできておらぬようじゃ。」
津々木は、この貴人のあからさまな皮肉にも一切動揺したそぶりを見せず、ただ柔らかな微笑みだけを返した。そして軽く一礼すると、膝の前に置かれたあの小箱の蓋を取り去り、両手で捧げてことりと床へと置いた。
屋根のなくなった箱の中から、ひょこひょこと忙しく動く、丸く茶色い頭が見え隠れした。津々木は箱の中に手を差し入れ、それを取り出し、信行の前へと差し出した。大きく丸い頭、よく超え太った丸みのある胴体にはいく筋かの特徴的な筋模様が入り、まるで畳まれた扇のような幅広の尾が突き出ている。愛嬌のある円な眼、少し下方に湾曲した、真っ黒で尖った嘴。
「百舌でございます。」
津々木蔵人は言った。
「拙者、日頃は山中に籠り多く鷹を躾けますが、大空を駆ける最上の狩人は、鷹ではなくこの百舌でございます。鷹は優美で美しく、人にも懐く良き禽でございますが、こと獲物を狩るにつけては、百舌こそがこの世で最上のもの。」
「そちは、戯れておるのか?」
ここに来て、信行は怒りをあらわにして言った。
「斯様に小さな、雀のように無垢なる小鳥が、鷹に勝ると申すか。尾張にも鳥はおる。鷹狩も行う。何が弱く何が強いか、尾張者は知らぬとたかを括っておるのか。」
「たか」が「鷹」と掛かり、下座に控えた下士たちのあいだに笑いが漏れた。彼らは、自らのあるじが他国者の無知ゆえの傲岸さを、貴人にふさわしい余裕をもった諧謔で軽くいなしたと思ったのである。だがそれは、ただの偶然だった。信行は焦り、ますます怒りをつのらせた。
「鷹は猛禽である。その小鳥は、おそらく鷹の餌であろう。そちは鷹匠であると自惚れ、どうせ無知な他国者と我らを軽んじ嘲笑んがため、ただの餌を大空駆ける狩人だと我らに吹聴しておるのであろう。」
もはやただの言いがかりと化した信行の悪罵に、津々木は眉ひとつ動かさず、静かにこう言った。
「左様なこと、拙者は思うてもおりませぬ。しかし、ただの餌にも見ゆるこの小鳥は、確かに鷲や鷹にも勝る、空の狩人なのでございます。今より、そのこと、御目にかけたく思いまする。」
そう言うとやにわに、末盛城奥御殿の中庭に向け左手をかざした。それを合図に、庭に控えた数名の下人が一斉に池の水を叩いた。水面にいた数羽の鴨が驚いて羽ばたき、宙に浮いた。
すると、津々木蔵人の掌の上から一条の黄色い光線が真横にぴゅんと飛び、逃げ遅れた一羽の小鴨を空中で差し貫いた。哀れな小鴨と無慈悲な狩人は一緒にぱしりと音を立て水に落ちたが、やがて百舌は、しぶきを立てつつ何度も羽ばたきながら自らの背丈よりも大きな小鴨の屍体を引っ張り、池の岸につけてその場で肉を啄みはじめた。
おお、という大きなどよめきが起こり、座敷中の家士たちがこの小さな殺戮者を指差して何事かガヤガヤと言い交わしはじめた。津々木は口に指を当ててそれを制止させ、今度は右手で合図すると、一人の童女が、何やら大きな木の枝のようなものを手に捧げて御前に上がって来た。それはあちこち湾曲し、鋭く長い刺がほうぼうに突き出た禍々しい枝で、根元だけ加工され、床につけて置くことができるようになっている。
童女はそれを床の上に据え、その傍らでいったん信行に拝跪し、終えるとトコトコと足を踏み鳴らして下がっていった。
「そは、枳殻の枝か?」
信行は上座から、訝しそうに聞いた。
「まさしく。枳殻でございます。この枝振りは特によく、あちこち刺が出て、手に持つだけでも危のうございます。」
「それを以て、なんといたす?」
「まあ、ご覧くだされ。百舌の狩の見ものは、これからでございます。」
津々木は言い、丸めた指を唇につけて、ピイと鋭く指笛を鳴らした。すると、小鴨の屍体をズタズタに引き裂き、中の赤身の肉をうまそうに啄んでいた百舌がやにわに首をもたげ、とりあえずとばかり屍体の首から上だけを引き千切ると、それを咥えたまま飛翔し、津々木の前にふわりと降り立った。
津々木は、無言で床に据えた枳殻の枝のほうを指差した。しばらく首をきょろきょろさせていた百舌は、やがて指示を了解したのか小さく羽ばたいて宙に浮かび、口に咥えた小鴨の頸を、そのまま枳殻の鋭い枝のひとつに突き刺した。
わずかに唸り声が聞こえ、万座がどよめいた。すると、そしらぬ顔で百舌は羽ばたき、また先ほどの水辺に戻って、いくつかに引き裂いた胴体の一部を咥えて戻ってくると、また同じように別の枝へとそれを突き刺した。四度戻って、ほぼ完全に獲物の身体を串刺しにし終えると、百舌は愛嬌のある顔でころりころりと鳴くと、津々木蔵人の掌の上へとポン、と載った。
黒光りするその嘴からは、まだ哀れな小鴨の肉片や臓物が垂れ下がり、血が細い糸を引いて板敷の床をわずかに汚していた。津々木は愛しそうに百舌の丸い頭を指で撫でると、信行に目を戻してこう言った。
「百舌は、その愛くるしい姿かたちから単なる小鳥と思われますが、その性質は獰猛、そして凶悪でございます。自らに倍する鳥をも襲い、地に叩き落とし、これをばらばらにして啄みます。百舌は、生まれながらにして無慈悲なる大空の闘士。その生き様は、さながら朱に塗れて戦い続ける武士のようでございます。」
「見た目には、とてもそうは思えぬが、な。」
いま見たものに深い感銘を受けた信行は、すでに先ほどの怒りをどこかに置き忘れたかのように言った。
「見事じゃ。たしかに見事な狩であった。」
「御城奥池の静謐を乱し、要らざる殺生をなした咎につきましては、何卒お目こぼしを。」
津々木蔵人は静かにそう願い、頭を下げた。
「しかしながら、ただ当たり前に優美なる鷹の姿かたちを御目にかけるよりも、こちらのほうが時宜を得た献上物かと思い定め申した。」
「そちは、何が言いたい?」
信行が、にやりとしながら聞いた。
「まるで儂に、この百舌から何かを学べ、と諭す軍師のような物言いじゃな。」
「拙者は、なにも。」
津々木は静かにそう答えて、百舌をまた小箱に入れ、蓋をその頭上に置いた。そして箱ごと信行に押しやり、「それでは、献上仕る。」とだけ言った。
津々木蔵人はそのまま数日城内に留め置かれ、それまで不在だった城中の鷹匠という名目上の地位を得て、織田勘十郎信行に仕えることになった。以降、彼ら二人は公然たる衆道の関係をとり結ぶようになる。
まだ若く英明で果断な信行は、あからさまに津々木を家中にて優遇し、常に脇に侍らせてその意見を聞いた。津々木も心得たもので、累代の重臣や先達には相応の礼を欠かさず接したため、大きな波風立つことなく彼は家中にて重きをなすようになる。もちろん、津々木はなにかにつけ有能で、その進言は常に的を射ており、的確だった。
津々木蔵人を得た織田勘十郎信行は、はっきりと実の兄、織田上総介信長に敵対する意思を固めた。
そして、そんな彼にほどなく木曽川の向こう岸より心強い追い風が吹いてきた。弘治二年四月、美濃国で前国主の斎藤道三が息子・新九郎義龍に攻められ、敗死したのである。
道三は成り上がり者ながら、美濃を奪って後は茶事や雅ごとに耽溺し、かつて持っていた緊迫感や鋭さを失っていた。このざまを見た美濃国人衆は、むしろ彼の息子を担いで道三に敵対し、数年に亘る内訌は悲劇的な結末を迎えた。そして同時にそれは、道三の好意と内々の支援を得て尾張における自らの立場の根拠としていた織田上総介信長にとって、隣国の強力な後ろ盾を失うことを意味した。
美濃の新国主・斎藤新九郎義龍は、父親以上に有能な男で、自国を強力に統治しただけでなく、隣国へもそろりと手を伸ばしてきた。これまで上総介に押され通しであった尾張守護代家や岩倉織田家などの旧勢力を積極的に支援し、勘十郎信行にも急接近した。内からは津々木蔵人から夜毎に焚きつけられ、その気になった勘十郎は積極的に手を打って実の兄を追い詰めて行く。
津々木に申し含められたそのやり方は巧妙だった。まるで百舌が他の鳥の鳴き真似をして餌を誘い出すかのように、表向きはこれまで通り清洲の兄との協調路線を崩さず、微笑みとともにその指示には必ず忠実に従った。また清洲や那古野に居ては危険が大きいと説き、実母の土田御前を自らの末盛城に引き取って保護した。
その裏で、いまだ盤石とはいえない清洲の家臣団に手をまわした。特に古より尾張に根を張った土豪たちに利をちらつかせてこれを取り込み、信長の筆頭重臣・林佐渡守秀貞をまず内々に味方とした。また比良の城に拠る佐々氏も誘い、兄を支える両翼をまずもぎ取ることに成功した。同じ頃、兄が守山に送り込んだ織田信時が城内の醜聞がらみで角田新吾に討ち取られたが、もちろんこの裏には南に隣接する末盛城の勘十郎と津々木蔵人の手の者たちによる暗躍があったのである。
兄は、知らぬ間に実の弟の手で丸裸にさせられていた。隣国の思惑も入り、上総介信長はこのまま、本性を隠した愛くるしい姿形の百舌の嘴に突かれ、噛みちぎられるのを待つばかりとなっているかのように見えた。
だが、織田勘十郎信行の見た夢は、たまゆらの儚いものであった。
これら一連の動きは、なぜか兄によりいちいち察知され、数多く計画された暗殺作戦はその直前になってことごとく回避され未遂に終わった。苛立った勘十郎は、津々木に促されるまま清洲の重要な直轄領であった篠木郷を力づくで横領するという挙に出てしまい、いまや百舌ははっきりとその獰猛な本性をあらわにして、みずからの兄に鋭い嘴の鋒を向けた。
尾張を割った兄弟骨肉の戦いは、しかしほんの数日だけで決着することとなる。両勢それぞれ千単位の大軍を向け稲生原で対峙したが、清洲側のねばり強い戦闘力に押された末盛勢は、ついに敗れて四散した。
信行が調略した林勢は末盛方に参じたが、佐々は清洲側につき奮戦した。佐々一族の次兄・孫介は、先に織田信光を殺害した坂井孫八郎を誅した武士であるが、この戦いの序盤、信行方の先鋒となった柴田権六勢の圧倒的な攻撃に立ち向かい討死した。
柴田勢の怒涛の勢いに、次々と戦闘部隊を引き剥がされ危機に陥った信長勢であったが、ここで本陣を守っていた一門の織田造酒丞信房や織田勝左衛門が奮戦した。さらに新参の森三左衛門可成の働きは目覚ましく、息切れした柴田勢をやがて撃退し、ひいては勝敗を逆転させることになる。森は隣国・美濃にて旧守護の土岐氏に仕える武士であったが、義龍の統治を嫌って尾張に流れ、信長に拾われたのである。彼はこの戦闘で大いに名をなし、以降、織田家の軍事の中核となって最前線を駆けることになる。
いっぽう、柴田勢をのぞく信行麾下の末盛勢は、全体に意気が上がらず、その戦いぶりも鈍かった。兵数では信長を凌駕していたものの、長年、信行の附家老として薫育に当たっていた佐久間大学丞盛重が、ここにきて信行を見切り、信長方に参じたという事実が彼らの脳裏に重くのしかかっていた。
盛重は家中でも有数の人望ある知恵者だったが、閨で津々木蔵人の甘言にのみ耳を傾けるようになった信行に愛想をつかし、あろうことか稲生原の戦場近くに名塚砦を築き立て籠もった。信行の大軍は、まずそこで気勢を削がれ鋭鋒が鈍り、これが後々の戦局へ大いに祟ったのである。
数十名の馬廻や小姓衆、一門衆らの奮戦により敵の攻撃をしのぎ、清洲勢がいったん体勢を整えて逆襲に転じるや、結束の脆い末盛勢は大いに崩れ立った。清洲股肱の重臣でありながら末盛方に投じた林一族の美作守通具は、黒田半平という武士と一騎討ちし相手の左手を斬り落としたが、織田勝左衛門の配下の雑兵に組討ちを挑まれ、疲弊しきったところを、敵将上総介信長に突き伏せられ、あえなく首級を挙げられた。
信長は自ら脇差を押し付けて美作守の頸を掻き切り、まだドロドロとした黒い血を吐き出し続けるそれを高く掲げて振り回し、高く澄んだ大音声で勝利の雄叫びを上げた。意気揚がる全軍がそれに唱和し、もはや戦勢は決定的となった。
士気沮喪し、ばらばらに逃げ散り始めた敵を、背中から狩る残忍な追撃戦が始まった。翌日に行われた首実検では、末盛方の錚々たる武士たちの変わり果てた姿が認められたが、数百も積まれた首の中には、末盛城からの使嗾によって守山城内を引っかき廻した、あの角田新五のそれも含まれていた。
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「もうわかったよ、もうわかったよ、ちっくしょう!」
秀吉が、いきなり素っ頓狂な大声を上げた。
「梁田弥次右衛門が清洲のお城から姿を消すのと同時に、末盛に津々木蔵人なる鷹匠が現れたんじゃ。清洲が片付き、次は末盛。ぜんぶ、総見院様とおみゃあさんの目論見だったんじゃろ?」
秀吉は言い、くやしそうな顔をしながら、閉じた扇でまっすぐ弥三郎の胸板のあたりを差した。
「わしゃ、なんも聞かされていなかったでよ。今の今まで。総見院様も、なんも教えてくりゃあせん!」
言い終わり、苛立たしげにその扇を開いて、せわしなく自分の首筋に風を送り込みはじめた。
「つまりよ。武衛様(斯波氏)への謀叛からはじまる、この尾張のすさまじい内訌の最初っから最後まで、常にあんたが影で関わっていた、いうことかい?」
横から又助が、唖然としたままの顔で尋ねた。弥三郎は、目を瞑りながらゆっくりと頷いた。
又助は、納得がいかぬかのように質問を続けた。
「いや、おみゃあさんがそげに凄い細作だとしてもよ、同じ尾張国内で、同じ面さげてあちこちのお城を、別々の名を名乗って気ままに出入りするなぞ、できるものかい?おかしいと気づく奴は、必ず居るじゃろう?」
「実はそれも、細作としての腕のうち。」
弥三郎は答え、その秘訣について幾つかを口にした。すなわち、平素より目立たぬように振舞うこと。人の印象に残らぬよう、静かに抑揚なく話すこと。目標とする貴人に取り入ることに成功したら、あとは必要以上に人前に出ぬこと。友は一切作らぬこと。そして、誰かの恨みを買わぬこと。
「これらのことを心がけるだけで、随分と人の覚えの裡からは消え申す。人は、自らが気にすることしか、月日を跨いでまで覚え続けることはありません。皆々、ただ自らが生き残るため、日々をなんとかやり過ごすのに精一杯なのでございます。」
「そげなもんかいよ。あんた、若ぇ頃はそりゃ見場の佳い顔じゃったから、人はいつまでも覚えていそうなものじゃがな。」
言って、又助は思った。そういえば、昔からこの弥三郎が身に纏っている儚げな雰囲気は何だ?ふっ、と息を吹きかけると、まるですべてが消えて無くなってしまいそうな。常に、その存在そのものに幽かな靄のようなものがかかっており、そこに当たる光を弱め、拡散させて、くっきりとした影を作らずにその輪郭をぼかし続けている。
まるで、この世に在りながら、この世のものでないような、そんな雰囲気を弥三郎は身に纏い続けている。どこか不思議な男だった。美しいかたちの顔を持ちながら、しかしそれは誰の印象にも記憶にも残らない。
祝弥三郎重正は、まるで顔のない男のようだった。
上座から、弥三郎とは好対照といっていい、その醜さゆえ誰の記憶にも残り続ける容貌の小男が、悔しそうな顔をして二人を眺めていた。彼はまるで、弥三郎のした話に自らの優れた才覚と洞察力による解説を加え、過去の出来事の真相を解き明かし続けなければ、我身の置き所がなくなるかのように言った。
「そうじゃ・・・そうじゃ!稲生原の戦でも、それに先立つ一連の綱引きでも、あんたは常に、勘十郎様に従うふりをして、単にこれを煽っていたんじゃ。まるで、敵から誰かを裏切らせたようなそぶりをして、実は自らが総見院様の走狗だったんじゃ!全て、事前に申し合わせたとおり。あんたは、総見院様の得になるように勘十郎様を操り、傀儡のように踊らせて・・・傀儡の胸いっぱいに大っきな夢を見させて。そしてさいごに、指先でピンと突いて、ぱたりと倒したんじゃ。」
「そうして・・・尾張は。」
又助が言いかけたが、そのあとはせわしなげに秀吉が引き取った。
「ぜんぶ、織田上総介のもんになっちまった!」
信行は、鷹狩を好んでいた。とはいえ彼の関心は、どちらかというと鷹狩という営為にではなく、鷹そのものの優美な姿形をひたすら愛でることにあった。最愛の弟を殺され、その復仇と勇み立った守山攻めも未遂に終わり、さらにまた後の処分においても常に清洲に主導権を握られ蚊帳の外に置かれ続けていた彼は、慰めを欲していた。そのような折、尾張では珍しい、奥羽の大鷹を目にすることのできる機会は、願ってもない申し出であったといってよい。もちろんこの場合、相応の金子と引き換えにはなろうが、「御目に掛ける」とは「献上する」のと同義である。
どことも知れぬ深山よりやって来た津々木蔵人は、卑屈さを全く感じさせない柔らかな笑みを湛え、涼やかな所作で微かな衣摺れの心地よい音だけを立て、まるで風のようにふわりと信行の前へと着座した。彼は手甲をしておらず、その上に繋いだ鷹もいない。ただ、いくつか小さな穴のあいた古びた小箱が脇へぽつりと置かれているだけである。
「儂は、鷹匠が参ったと聞いた。」
信行は、顔をしかめて言った。
「奥州の見事な鷹を献じに参った、とな。さて、肝心の鷹はどこにおるのじゃ?このあと呼子でも吹くと、空からそちの肩に降り来たるという趣向か?じゃが、どうやらお主にはその用意もできておらぬようじゃ。」
津々木は、この貴人のあからさまな皮肉にも一切動揺したそぶりを見せず、ただ柔らかな微笑みだけを返した。そして軽く一礼すると、膝の前に置かれたあの小箱の蓋を取り去り、両手で捧げてことりと床へと置いた。
屋根のなくなった箱の中から、ひょこひょこと忙しく動く、丸く茶色い頭が見え隠れした。津々木は箱の中に手を差し入れ、それを取り出し、信行の前へと差し出した。大きく丸い頭、よく超え太った丸みのある胴体にはいく筋かの特徴的な筋模様が入り、まるで畳まれた扇のような幅広の尾が突き出ている。愛嬌のある円な眼、少し下方に湾曲した、真っ黒で尖った嘴。
「百舌でございます。」
津々木蔵人は言った。
「拙者、日頃は山中に籠り多く鷹を躾けますが、大空を駆ける最上の狩人は、鷹ではなくこの百舌でございます。鷹は優美で美しく、人にも懐く良き禽でございますが、こと獲物を狩るにつけては、百舌こそがこの世で最上のもの。」
「そちは、戯れておるのか?」
ここに来て、信行は怒りをあらわにして言った。
「斯様に小さな、雀のように無垢なる小鳥が、鷹に勝ると申すか。尾張にも鳥はおる。鷹狩も行う。何が弱く何が強いか、尾張者は知らぬとたかを括っておるのか。」
「たか」が「鷹」と掛かり、下座に控えた下士たちのあいだに笑いが漏れた。彼らは、自らのあるじが他国者の無知ゆえの傲岸さを、貴人にふさわしい余裕をもった諧謔で軽くいなしたと思ったのである。だがそれは、ただの偶然だった。信行は焦り、ますます怒りをつのらせた。
「鷹は猛禽である。その小鳥は、おそらく鷹の餌であろう。そちは鷹匠であると自惚れ、どうせ無知な他国者と我らを軽んじ嘲笑んがため、ただの餌を大空駆ける狩人だと我らに吹聴しておるのであろう。」
もはやただの言いがかりと化した信行の悪罵に、津々木は眉ひとつ動かさず、静かにこう言った。
「左様なこと、拙者は思うてもおりませぬ。しかし、ただの餌にも見ゆるこの小鳥は、確かに鷲や鷹にも勝る、空の狩人なのでございます。今より、そのこと、御目にかけたく思いまする。」
そう言うとやにわに、末盛城奥御殿の中庭に向け左手をかざした。それを合図に、庭に控えた数名の下人が一斉に池の水を叩いた。水面にいた数羽の鴨が驚いて羽ばたき、宙に浮いた。
すると、津々木蔵人の掌の上から一条の黄色い光線が真横にぴゅんと飛び、逃げ遅れた一羽の小鴨を空中で差し貫いた。哀れな小鴨と無慈悲な狩人は一緒にぱしりと音を立て水に落ちたが、やがて百舌は、しぶきを立てつつ何度も羽ばたきながら自らの背丈よりも大きな小鴨の屍体を引っ張り、池の岸につけてその場で肉を啄みはじめた。
おお、という大きなどよめきが起こり、座敷中の家士たちがこの小さな殺戮者を指差して何事かガヤガヤと言い交わしはじめた。津々木は口に指を当ててそれを制止させ、今度は右手で合図すると、一人の童女が、何やら大きな木の枝のようなものを手に捧げて御前に上がって来た。それはあちこち湾曲し、鋭く長い刺がほうぼうに突き出た禍々しい枝で、根元だけ加工され、床につけて置くことができるようになっている。
童女はそれを床の上に据え、その傍らでいったん信行に拝跪し、終えるとトコトコと足を踏み鳴らして下がっていった。
「そは、枳殻の枝か?」
信行は上座から、訝しそうに聞いた。
「まさしく。枳殻でございます。この枝振りは特によく、あちこち刺が出て、手に持つだけでも危のうございます。」
「それを以て、なんといたす?」
「まあ、ご覧くだされ。百舌の狩の見ものは、これからでございます。」
津々木は言い、丸めた指を唇につけて、ピイと鋭く指笛を鳴らした。すると、小鴨の屍体をズタズタに引き裂き、中の赤身の肉をうまそうに啄んでいた百舌がやにわに首をもたげ、とりあえずとばかり屍体の首から上だけを引き千切ると、それを咥えたまま飛翔し、津々木の前にふわりと降り立った。
津々木は、無言で床に据えた枳殻の枝のほうを指差した。しばらく首をきょろきょろさせていた百舌は、やがて指示を了解したのか小さく羽ばたいて宙に浮かび、口に咥えた小鴨の頸を、そのまま枳殻の鋭い枝のひとつに突き刺した。
わずかに唸り声が聞こえ、万座がどよめいた。すると、そしらぬ顔で百舌は羽ばたき、また先ほどの水辺に戻って、いくつかに引き裂いた胴体の一部を咥えて戻ってくると、また同じように別の枝へとそれを突き刺した。四度戻って、ほぼ完全に獲物の身体を串刺しにし終えると、百舌は愛嬌のある顔でころりころりと鳴くと、津々木蔵人の掌の上へとポン、と載った。
黒光りするその嘴からは、まだ哀れな小鴨の肉片や臓物が垂れ下がり、血が細い糸を引いて板敷の床をわずかに汚していた。津々木は愛しそうに百舌の丸い頭を指で撫でると、信行に目を戻してこう言った。
「百舌は、その愛くるしい姿かたちから単なる小鳥と思われますが、その性質は獰猛、そして凶悪でございます。自らに倍する鳥をも襲い、地に叩き落とし、これをばらばらにして啄みます。百舌は、生まれながらにして無慈悲なる大空の闘士。その生き様は、さながら朱に塗れて戦い続ける武士のようでございます。」
「見た目には、とてもそうは思えぬが、な。」
いま見たものに深い感銘を受けた信行は、すでに先ほどの怒りをどこかに置き忘れたかのように言った。
「見事じゃ。たしかに見事な狩であった。」
「御城奥池の静謐を乱し、要らざる殺生をなした咎につきましては、何卒お目こぼしを。」
津々木蔵人は静かにそう願い、頭を下げた。
「しかしながら、ただ当たり前に優美なる鷹の姿かたちを御目にかけるよりも、こちらのほうが時宜を得た献上物かと思い定め申した。」
「そちは、何が言いたい?」
信行が、にやりとしながら聞いた。
「まるで儂に、この百舌から何かを学べ、と諭す軍師のような物言いじゃな。」
「拙者は、なにも。」
津々木は静かにそう答えて、百舌をまた小箱に入れ、蓋をその頭上に置いた。そして箱ごと信行に押しやり、「それでは、献上仕る。」とだけ言った。
津々木蔵人はそのまま数日城内に留め置かれ、それまで不在だった城中の鷹匠という名目上の地位を得て、織田勘十郎信行に仕えることになった。以降、彼ら二人は公然たる衆道の関係をとり結ぶようになる。
まだ若く英明で果断な信行は、あからさまに津々木を家中にて優遇し、常に脇に侍らせてその意見を聞いた。津々木も心得たもので、累代の重臣や先達には相応の礼を欠かさず接したため、大きな波風立つことなく彼は家中にて重きをなすようになる。もちろん、津々木はなにかにつけ有能で、その進言は常に的を射ており、的確だった。
津々木蔵人を得た織田勘十郎信行は、はっきりと実の兄、織田上総介信長に敵対する意思を固めた。
そして、そんな彼にほどなく木曽川の向こう岸より心強い追い風が吹いてきた。弘治二年四月、美濃国で前国主の斎藤道三が息子・新九郎義龍に攻められ、敗死したのである。
道三は成り上がり者ながら、美濃を奪って後は茶事や雅ごとに耽溺し、かつて持っていた緊迫感や鋭さを失っていた。このざまを見た美濃国人衆は、むしろ彼の息子を担いで道三に敵対し、数年に亘る内訌は悲劇的な結末を迎えた。そして同時にそれは、道三の好意と内々の支援を得て尾張における自らの立場の根拠としていた織田上総介信長にとって、隣国の強力な後ろ盾を失うことを意味した。
美濃の新国主・斎藤新九郎義龍は、父親以上に有能な男で、自国を強力に統治しただけでなく、隣国へもそろりと手を伸ばしてきた。これまで上総介に押され通しであった尾張守護代家や岩倉織田家などの旧勢力を積極的に支援し、勘十郎信行にも急接近した。内からは津々木蔵人から夜毎に焚きつけられ、その気になった勘十郎は積極的に手を打って実の兄を追い詰めて行く。
津々木に申し含められたそのやり方は巧妙だった。まるで百舌が他の鳥の鳴き真似をして餌を誘い出すかのように、表向きはこれまで通り清洲の兄との協調路線を崩さず、微笑みとともにその指示には必ず忠実に従った。また清洲や那古野に居ては危険が大きいと説き、実母の土田御前を自らの末盛城に引き取って保護した。
その裏で、いまだ盤石とはいえない清洲の家臣団に手をまわした。特に古より尾張に根を張った土豪たちに利をちらつかせてこれを取り込み、信長の筆頭重臣・林佐渡守秀貞をまず内々に味方とした。また比良の城に拠る佐々氏も誘い、兄を支える両翼をまずもぎ取ることに成功した。同じ頃、兄が守山に送り込んだ織田信時が城内の醜聞がらみで角田新吾に討ち取られたが、もちろんこの裏には南に隣接する末盛城の勘十郎と津々木蔵人の手の者たちによる暗躍があったのである。
兄は、知らぬ間に実の弟の手で丸裸にさせられていた。隣国の思惑も入り、上総介信長はこのまま、本性を隠した愛くるしい姿形の百舌の嘴に突かれ、噛みちぎられるのを待つばかりとなっているかのように見えた。
だが、織田勘十郎信行の見た夢は、たまゆらの儚いものであった。
これら一連の動きは、なぜか兄によりいちいち察知され、数多く計画された暗殺作戦はその直前になってことごとく回避され未遂に終わった。苛立った勘十郎は、津々木に促されるまま清洲の重要な直轄領であった篠木郷を力づくで横領するという挙に出てしまい、いまや百舌ははっきりとその獰猛な本性をあらわにして、みずからの兄に鋭い嘴の鋒を向けた。
尾張を割った兄弟骨肉の戦いは、しかしほんの数日だけで決着することとなる。両勢それぞれ千単位の大軍を向け稲生原で対峙したが、清洲側のねばり強い戦闘力に押された末盛勢は、ついに敗れて四散した。
信行が調略した林勢は末盛方に参じたが、佐々は清洲側につき奮戦した。佐々一族の次兄・孫介は、先に織田信光を殺害した坂井孫八郎を誅した武士であるが、この戦いの序盤、信行方の先鋒となった柴田権六勢の圧倒的な攻撃に立ち向かい討死した。
柴田勢の怒涛の勢いに、次々と戦闘部隊を引き剥がされ危機に陥った信長勢であったが、ここで本陣を守っていた一門の織田造酒丞信房や織田勝左衛門が奮戦した。さらに新参の森三左衛門可成の働きは目覚ましく、息切れした柴田勢をやがて撃退し、ひいては勝敗を逆転させることになる。森は隣国・美濃にて旧守護の土岐氏に仕える武士であったが、義龍の統治を嫌って尾張に流れ、信長に拾われたのである。彼はこの戦闘で大いに名をなし、以降、織田家の軍事の中核となって最前線を駆けることになる。
いっぽう、柴田勢をのぞく信行麾下の末盛勢は、全体に意気が上がらず、その戦いぶりも鈍かった。兵数では信長を凌駕していたものの、長年、信行の附家老として薫育に当たっていた佐久間大学丞盛重が、ここにきて信行を見切り、信長方に参じたという事実が彼らの脳裏に重くのしかかっていた。
盛重は家中でも有数の人望ある知恵者だったが、閨で津々木蔵人の甘言にのみ耳を傾けるようになった信行に愛想をつかし、あろうことか稲生原の戦場近くに名塚砦を築き立て籠もった。信行の大軍は、まずそこで気勢を削がれ鋭鋒が鈍り、これが後々の戦局へ大いに祟ったのである。
数十名の馬廻や小姓衆、一門衆らの奮戦により敵の攻撃をしのぎ、清洲勢がいったん体勢を整えて逆襲に転じるや、結束の脆い末盛勢は大いに崩れ立った。清洲股肱の重臣でありながら末盛方に投じた林一族の美作守通具は、黒田半平という武士と一騎討ちし相手の左手を斬り落としたが、織田勝左衛門の配下の雑兵に組討ちを挑まれ、疲弊しきったところを、敵将上総介信長に突き伏せられ、あえなく首級を挙げられた。
信長は自ら脇差を押し付けて美作守の頸を掻き切り、まだドロドロとした黒い血を吐き出し続けるそれを高く掲げて振り回し、高く澄んだ大音声で勝利の雄叫びを上げた。意気揚がる全軍がそれに唱和し、もはや戦勢は決定的となった。
士気沮喪し、ばらばらに逃げ散り始めた敵を、背中から狩る残忍な追撃戦が始まった。翌日に行われた首実検では、末盛方の錚々たる武士たちの変わり果てた姿が認められたが、数百も積まれた首の中には、末盛城からの使嗾によって守山城内を引っかき廻した、あの角田新五のそれも含まれていた。
******
「もうわかったよ、もうわかったよ、ちっくしょう!」
秀吉が、いきなり素っ頓狂な大声を上げた。
「梁田弥次右衛門が清洲のお城から姿を消すのと同時に、末盛に津々木蔵人なる鷹匠が現れたんじゃ。清洲が片付き、次は末盛。ぜんぶ、総見院様とおみゃあさんの目論見だったんじゃろ?」
秀吉は言い、くやしそうな顔をしながら、閉じた扇でまっすぐ弥三郎の胸板のあたりを差した。
「わしゃ、なんも聞かされていなかったでよ。今の今まで。総見院様も、なんも教えてくりゃあせん!」
言い終わり、苛立たしげにその扇を開いて、せわしなく自分の首筋に風を送り込みはじめた。
「つまりよ。武衛様(斯波氏)への謀叛からはじまる、この尾張のすさまじい内訌の最初っから最後まで、常にあんたが影で関わっていた、いうことかい?」
横から又助が、唖然としたままの顔で尋ねた。弥三郎は、目を瞑りながらゆっくりと頷いた。
又助は、納得がいかぬかのように質問を続けた。
「いや、おみゃあさんがそげに凄い細作だとしてもよ、同じ尾張国内で、同じ面さげてあちこちのお城を、別々の名を名乗って気ままに出入りするなぞ、できるものかい?おかしいと気づく奴は、必ず居るじゃろう?」
「実はそれも、細作としての腕のうち。」
弥三郎は答え、その秘訣について幾つかを口にした。すなわち、平素より目立たぬように振舞うこと。人の印象に残らぬよう、静かに抑揚なく話すこと。目標とする貴人に取り入ることに成功したら、あとは必要以上に人前に出ぬこと。友は一切作らぬこと。そして、誰かの恨みを買わぬこと。
「これらのことを心がけるだけで、随分と人の覚えの裡からは消え申す。人は、自らが気にすることしか、月日を跨いでまで覚え続けることはありません。皆々、ただ自らが生き残るため、日々をなんとかやり過ごすのに精一杯なのでございます。」
「そげなもんかいよ。あんた、若ぇ頃はそりゃ見場の佳い顔じゃったから、人はいつまでも覚えていそうなものじゃがな。」
言って、又助は思った。そういえば、昔からこの弥三郎が身に纏っている儚げな雰囲気は何だ?ふっ、と息を吹きかけると、まるですべてが消えて無くなってしまいそうな。常に、その存在そのものに幽かな靄のようなものがかかっており、そこに当たる光を弱め、拡散させて、くっきりとした影を作らずにその輪郭をぼかし続けている。
まるで、この世に在りながら、この世のものでないような、そんな雰囲気を弥三郎は身に纏い続けている。どこか不思議な男だった。美しいかたちの顔を持ちながら、しかしそれは誰の印象にも記憶にも残らない。
祝弥三郎重正は、まるで顔のない男のようだった。
上座から、弥三郎とは好対照といっていい、その醜さゆえ誰の記憶にも残り続ける容貌の小男が、悔しそうな顔をして二人を眺めていた。彼はまるで、弥三郎のした話に自らの優れた才覚と洞察力による解説を加え、過去の出来事の真相を解き明かし続けなければ、我身の置き所がなくなるかのように言った。
「そうじゃ・・・そうじゃ!稲生原の戦でも、それに先立つ一連の綱引きでも、あんたは常に、勘十郎様に従うふりをして、単にこれを煽っていたんじゃ。まるで、敵から誰かを裏切らせたようなそぶりをして、実は自らが総見院様の走狗だったんじゃ!全て、事前に申し合わせたとおり。あんたは、総見院様の得になるように勘十郎様を操り、傀儡のように踊らせて・・・傀儡の胸いっぱいに大っきな夢を見させて。そしてさいごに、指先でピンと突いて、ぱたりと倒したんじゃ。」
「そうして・・・尾張は。」
又助が言いかけたが、そのあとはせわしなげに秀吉が引き取った。
「ぜんぶ、織田上総介のもんになっちまった!」
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