籠の中の小鳥

早川隆

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第五章

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やがて僕らの仲間たちによる行き過ぎが暴かれて、アルマゲドンの魔物に操られた世間の俗物どもは、一斉に僕らと敵対しはじめた。僕はうっすらと知っていたが、それは確かに、かなり行き過ぎた過剰防衛だった。たとえ自らの身を、そしてなにより大切なあの方の御身を守るためだとはいっても、敵対者の一家を皆殺しにするといった行為は、正当化することはできない。

外部の報道でこのことを知った僕らの同士たちのうちの一部に、動揺が走った。そして、一部が脱走した。あの方は寛大にも、道を見失ったそれらの子羊たちをお許しになり、去るものは追わずとばかり無視を決め込んだ。だが、すでに先鋭化し、視野の狭まった同士たちの一部 (そもそも、無意味な殺戮行為を始めたのはそいつらだ!)は、仲間に対するそうした裏切りを容赦しなかった。

脱走者が出ると、かならず討伐隊が編成され、隊はどこまでも標的を追って、これを粛清した。やがてこうしたことが日常になり、さらに規律は乱れて、同士たちは疑心暗鬼にかられて仲間の顔色を伺うようになった。あの方は常に泰然自若。しかし先鋭分子たちが実質的に僕らの団体の舵を切るようになり、流血と粛清、そして恐怖による支配こそが僕らの日常になった。



やがて、彼女が消えた。

いや、すでにその前から、行き過ぎた報復行為や粛清に倫理的な疑問を覚えた彼女から、一緒に活動を抜けようと僕は何度も哀願されていた。あなたを愛しているから。あなただけは、他の連中とは別だから。彼女は涙を流し、そう言ってしきりに僕をかき口説いたが、僕の信心は揺るがなかった。

今はたしかに、悪い時だ。だが、これも試練だ。これを乗り越えれば、やがて僕らの前に真理の大海原が現れるであろう。そして僕らは、籠から解き放たれて、大空に向かってはばたくことができるだろう。だから、今は我慢するんだ。そしていつか、一緒に翔ぶんだ。毎回毎回、僕の答えは同じだった。

そして彼女は消えた。数名と一緒になっての脱走で、実はそのうちの一人は首脳部の仕込んだスパイだった。姿を消した一党はやがて手もなく捕縛され、泣き叫びながら許しを乞い、ぶざまにジタバタしながら連れ戻されてきた。判決は、もちろん全員処刑。

やがて僕の前に、後ろ手に縛られた彼女が引き出されてきた。

「教団の掟だ。君が処分しろ。」
先鋭化した首脳部のひとりが言った。彼は、僕と彼女の関係を知っていた。
「君の信心は純粋だ。あの方のため、それをここで証明してみせろ。そうすれば君は、もう一段、真理の階梯かいていを上に上がることができる。」

実のところ僕は、彼の言うことなど信じてはいなかった。だが、それ以上に彼女が僕の元を去り、こんなくだらない連中と一緒になって逃げ出そうとしたことが信じられず、情けない気分だった。いったい、なにやってるんだ!またあの籠の中に戻ろうってのか?そして、それすらし損ね・・・て、もう、籠の中で歌うことすらできなくなってしまったじゃないか!

眼鏡ははんぶん割れ、顔はあちこち流血して鼻の形が変わっていた。ここへ引き出されるまでに、捕縛者たちから凄まじい暴力が振るわれたことがうかがわれた。彼女は、泣きはらした目でこちらを見上げた。少し鼻をすすり、あの懐かしい香りが少しこちらに流れてきた。命乞いはしなかったが、もちろん僕に、助けてやる考えもなかった。僕の信心は純粋だった。だから、たとえ誰に言われなくても、僕はやっただろう。僕はただただ、情けない気分だった。

処刑のあいだ、彼女は一切声を上げなかった。
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