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第四章
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ビラも配ったし、パソコンを売った。時にはトラックを運転して山間部の拠点から商品を大量に積み出してきたし、時にはそこでパソコンを自ら組み立てた。後に、こちらを潰しにかかって来た表通りの量販店の連中とやり合ったり、明らかに彼らに雇われたチンピラと裏通りで取っ組み合ったりもした。
しかし、理不尽にもいつも彼らの味方しかしない国家権力とは、なるべくことを構えず従順に従うのがあらかじめ申し合わされた統一戦法だったので、僕らは警官の職質や勾留には大人しく従った。そうした場合、高度の法律知識を持った僕らの仲間の弁護士が動いて、いつも手早くトラブルは解決された。そうだ、そもそも、僕らは法律違反なんてしていないんだ!
・・・いや、仮にちょっとした違反 (軽犯罪法など)を犯していたとしても、それは現世の誤りを正すための、やむにやまれぬ過渡期の必要悪だというべきだろう。僕たちは、誰にも迷惑をかけず、誰を傷つけることもなく、なるべくうまくやりたいんだ。でも現世の国家権力あるいは世間という醜悪な俗物の集まりどもが僕たちの前に立ち塞がり、明確な悪意を持って、僕らの邪魔をするんだ。
彼らは、僕らを恐れているんだ。
だから僕らはその後、この間違った法律を、あえて犯すようなこともやった。僕は直接には関わらなかったが、別のもっと純粋でコアなメンバーたちが、僕たちの邪魔をする奴らと直接対峙し、その脅威を物理的に排除するようなことも行った。多少、やり過ぎた連中もいた。僕はそれらの行き過ぎを弁護しようとは思わない。いくらなんでも、相手の身を傷つけたり、その命を奪ったりするような行動は、人として認めることはできない。
しかしその僕の倫理観についても、奴らが僕らの身を傷つけようとして来る今となっては、多少の変更を加えざるを得ない。奴らは、僕らを許そうとしない。奴らには、僕らと共存する考えはない。つまり奴らは、僕らの存在をみな消し去ろうとして来るのに相違ない。だから僕らは、僕らの身を守るため、そしてなにより僕らが信じるあの方の御身を守るため、奴らを排除せざるを得ない。
なぜなら、あの方はこの世界における最後の希望であり、あの方の御身になにか良からぬことが起こるということは、すなわち僕ら全員の死を意味するだけでなく、この世界の破滅をも意味することであるのだ。そのあとに残るのは・・・ただの空虚なのだ。
僕にはまた、もうひとつ、守るべきものがあった。あの眼鏡の娘だ。彼女は、あの仮設パソコン・ショップで僕と会話を交わした日の1週間前に加わったばかりの、某国立大学医学部の女子大生だった。お決まりのコースのようだが、両親も医者。彼女も当然のように医師を目指すことを強いられ、それまではなんの疑問も持たずに敷かれたレールをただ走っていただけだった。だが、僕同様にあの方の声を聞き、真実の道に目覚めてからは、それまでの全てのしがらみを断ち切ってここにやって来た。
ここは、彼女の居るべき場所、彼女に用意された、たったひとつの生きる道筋だった。
「それまでの私は、籠の中の小鳥だったの。」
二人だけになったあるとき、彼女は僕に言った。
「居心地のよい、小さな籠の中に飼われて、水と餌を与えられて、いっぱいの愛を注がれて・・・。でも、私に求められるのは、ただ彼らのように歌うこと。彼らの言うことを、そのまま繰り返しなぞること。愚にもつかない、真理からはほど遠いたわごとを、毎日のように、ただ歌うこと。それだけ。」
彼女は言い終わると、僕の肩に頭を寄せて、そのままじっと目を閉じた。
「かつての私は、籠の中のカナリア。ただ歌うだけの、悲しいカナリア。でも今は違う。私は籠を出て、大きな空にはばたいて、そしてあなたと一緒に、ここに居る。」
僕は黙って、彼女の細い肩に腕を廻し、小さな、かたちのよい頭を撫ぜた。
世界は僕らのためにあり、そして真理は、僕らの傍らにあった。
僕らは、ただ信ずるもののため、あの方の指示にしたがって、その後も活動を続けた。
しかし、理不尽にもいつも彼らの味方しかしない国家権力とは、なるべくことを構えず従順に従うのがあらかじめ申し合わされた統一戦法だったので、僕らは警官の職質や勾留には大人しく従った。そうした場合、高度の法律知識を持った僕らの仲間の弁護士が動いて、いつも手早くトラブルは解決された。そうだ、そもそも、僕らは法律違反なんてしていないんだ!
・・・いや、仮にちょっとした違反 (軽犯罪法など)を犯していたとしても、それは現世の誤りを正すための、やむにやまれぬ過渡期の必要悪だというべきだろう。僕たちは、誰にも迷惑をかけず、誰を傷つけることもなく、なるべくうまくやりたいんだ。でも現世の国家権力あるいは世間という醜悪な俗物の集まりどもが僕たちの前に立ち塞がり、明確な悪意を持って、僕らの邪魔をするんだ。
彼らは、僕らを恐れているんだ。
だから僕らはその後、この間違った法律を、あえて犯すようなこともやった。僕は直接には関わらなかったが、別のもっと純粋でコアなメンバーたちが、僕たちの邪魔をする奴らと直接対峙し、その脅威を物理的に排除するようなことも行った。多少、やり過ぎた連中もいた。僕はそれらの行き過ぎを弁護しようとは思わない。いくらなんでも、相手の身を傷つけたり、その命を奪ったりするような行動は、人として認めることはできない。
しかしその僕の倫理観についても、奴らが僕らの身を傷つけようとして来る今となっては、多少の変更を加えざるを得ない。奴らは、僕らを許そうとしない。奴らには、僕らと共存する考えはない。つまり奴らは、僕らの存在をみな消し去ろうとして来るのに相違ない。だから僕らは、僕らの身を守るため、そしてなにより僕らが信じるあの方の御身を守るため、奴らを排除せざるを得ない。
なぜなら、あの方はこの世界における最後の希望であり、あの方の御身になにか良からぬことが起こるということは、すなわち僕ら全員の死を意味するだけでなく、この世界の破滅をも意味することであるのだ。そのあとに残るのは・・・ただの空虚なのだ。
僕にはまた、もうひとつ、守るべきものがあった。あの眼鏡の娘だ。彼女は、あの仮設パソコン・ショップで僕と会話を交わした日の1週間前に加わったばかりの、某国立大学医学部の女子大生だった。お決まりのコースのようだが、両親も医者。彼女も当然のように医師を目指すことを強いられ、それまではなんの疑問も持たずに敷かれたレールをただ走っていただけだった。だが、僕同様にあの方の声を聞き、真実の道に目覚めてからは、それまでの全てのしがらみを断ち切ってここにやって来た。
ここは、彼女の居るべき場所、彼女に用意された、たったひとつの生きる道筋だった。
「それまでの私は、籠の中の小鳥だったの。」
二人だけになったあるとき、彼女は僕に言った。
「居心地のよい、小さな籠の中に飼われて、水と餌を与えられて、いっぱいの愛を注がれて・・・。でも、私に求められるのは、ただ彼らのように歌うこと。彼らの言うことを、そのまま繰り返しなぞること。愚にもつかない、真理からはほど遠いたわごとを、毎日のように、ただ歌うこと。それだけ。」
彼女は言い終わると、僕の肩に頭を寄せて、そのままじっと目を閉じた。
「かつての私は、籠の中のカナリア。ただ歌うだけの、悲しいカナリア。でも今は違う。私は籠を出て、大きな空にはばたいて、そしてあなたと一緒に、ここに居る。」
僕は黙って、彼女の細い肩に腕を廻し、小さな、かたちのよい頭を撫ぜた。
世界は僕らのためにあり、そして真理は、僕らの傍らにあった。
僕らは、ただ信ずるもののため、あの方の指示にしたがって、その後も活動を続けた。
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