籠の中の小鳥

早川隆

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第一章

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・・・だから、言っているだろう!

這い寄る混沌。そして避け得ない破局。奴らは僕らを迫害していて、僕らはなんとか生き残ろうとそれに必死で抵抗している。だが・・・もうそろそろ、ケリをつけるべきときなのだ。

今のところ、奴ら・・・魔物どもの力は圧倒的だ。一対一ならまだなんとか対抗もできるのだが、なにしろこの世はみんな、奴らのものだ。奴らの頭数と悪知恵の総量は、それはもう無限大と言ってもいいほどで、奴らはその邪悪な本性をさらけ出し、ただひたすらに僕らを迫害し、この世に居場所を無くしてしまうための奸策かんさくを次から次へと編み出し、それらをたちどころに、躊躇なく実行してくる。

逃げても逃げても。
倒しても倒しても。
あらがっても抗っても!

奴らは容赦無く僕らを襲って来る。互いに生存圏を画定し、はっきりとした一線を引いて共存しようなどいう考えは、みじんもない。

そう。奴ら・・・魔物どもは、僕らがこの地上に存在することを許すつもりなど毛頭ない。いやそれどころか、僕らがかつてこの地上に存在していたという、その確かな事実すら、なかったことにするつもりに違いないのだ。

奴らは、僕らを許さない。一人として生かしておく考えはない。僕らの実在を消し、僕らの記憶を消し、残されるべき一切の記録や痕跡をも、残らず灰や塵屑ちりくずにしてしまうつもりなのだ。

なんてことだ!



しかし、そもそも。いったいなんでこんなことになってしまったのだろう?

僕はたしか、少し前まではあちら側にいた存在だったはず。いや、それはもう、このわずかな、しかし濃密な短期間をはさみ、遥か彼方のうっすらとした記憶の断片に過ぎなくなってしまっているが。

いまでもあちら側に居れば、僕はそれまでのようにただ安穏とした毎日を送りつづけていたに違いない。相応の苦痛と緊張と屈辱はあれど、まあまあ悪くはない、手厚く保護された奴隷としての小さな小さな幸せなら、きっと手に入れることができていたに違いない。

それは、今のようにこの世界の真実にさえ気づくことがなければ、そして無上の歓喜に身を打ち震わし、それまでの自分の周りを覆っていた嘘やごまかしや迷妄を振り払い、真理の戦士として先陣きって彼らに異議を突きつける光栄な役割を担うことがなければ、僕が辿たどっていたに違いない、唯一の道だ。

だが、僕はその道を踏み誤った。誤って、本当によかった。その結果、僕は険しく細くくらい、しかしまごうかたなく正しい、真実の道を歩むことになったのだから。でも、少し考えるようなこともなくはない。あの日あのとき、世紀末の混沌渦巻く街角で彼女と出会い、そしてそのあと、あのお方に出会うことさえなかったら・・・。
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