冥府の王

早川隆

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アイが目にした初めての風景は、眼の前いっぱいの星々。

白、赤、橙、そして青。ぜんぶ合わさってきらきらと輝き、あちこちに光芒を投げかけながら、自分の涙でにじんで見えなくなる。背景には広々とした漆黒の夜空。どこか遥か彼方からのほのかな光に照らされて、星々は、ちりちり破ぜる線香花火のひげの先のように、しずくを撒きながら滝を零れ落ちる水のように、アイの視界から次々と消えてゆく。

さまざまに煌めき、なにごとかを囁きながら名残惜しげに去ってゆく。そしてしばらくすると、アイは虚空の闇の中に、ひとり、ひっそりと取り残されているのだ。

アイには記憶に残るその風景が、夢なのかうつつなのかわからない。おそらくそれは、幼きみぎりにアイが見た夢の中の光景に過ぎないのであろう。しかし、なぜアイがそんな夢を見たのかは謎だ。彼女は幼かったし、夜空に輝く星々を見たことなんて、それまで無かったであろうから。

もしかしたらそれは父祖伝来の、遺伝子レベルで刻み込まれた原初の記憶だったのかもしれない。夢ではなく現実に、アイの祖先が遠い昔どこかで見た光景だったのかもしれない。

ともかくそれは、彼女の持つ、人生で最初の記憶だ。
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