107 / 112
閃光王子
十三
しおりを挟む
グリード・ヴェインは拍手の中カメラの前に姿を現し、ドーン連邦それぞれの王やブルズカンパニーなど世界の大手企業の社長達と握手を交わした後、マイクの前で演説を始めた。
「我々ヴェイン公国は、長年ファルブル家のために尽力し、フェルト国に技術を提供し続けて来た。そしてその技術とファルブル家の力を以って我々は世界の悪と戦って来た! そしてようやく世界に平和が訪れたのだ。しかしフェルト国はアルベルト・ファルブルと我々が戦っている間何をしていた? ただ我々の技術の恩恵に預かり、ファルブル家の力に頼ってあぐらをかいていただけだ!」
歓声と拍手が起こる。
「フェルト国内の歴史を見れば、ドーン連邦から富を搾取して来た事がよく分かる。フェルト国内では有名な話なのだが、ファルブル家は魔法で戦う特殊部隊なのだ。海外の統治者のために書かれたマーク・アレックス著の『大根王子』でもその事が書かれている。
しかし! ユリアン・ファルブルが発見した金塊を平等に分配したエピソードはでたらめだ!」
グリードは『大根王子』を掲げて叫んだ。
「この中では洞窟内に天まで届くような金塊が見つかっている描写があるが、今までファルブル家の魔法が重複した事は無い! 黄金を生み出す魔法を持っていたのはアルベルトの祖父、ガラフだけだ! そしてファルブル家でもない冒険家が魔法使いになるなどもちろんあり得ない! よってガラフ時代以前に魔法でできたような所在不明の金塊が大量に見つかるなどあり得ない話なのだ!
つまり洞窟内にあった金塊は、本当は当時のドーン国に管理されていたドーン国の刻印が入った金塊であり、実際はフェルト政府が一方的に金塊を奪い、後からガラフがフェルト政府による過去の蛮行に心を痛め、罪滅ぼしのために金塊を諸外国に配って帳尻を合わせただけなのだ!
本当のユリアン・ファルブルはフェルト国内の貧しい者や社会からはじき出された者達を集め、ヘルデを作って発展させて来た人格者だ。決して他国から金塊を持ち去るような人物ではない! 歴史はフェルト政府とアレックスによって捻じ曲げられていたのだ!」
再び歓声と拍手が起こる。
「海外向けにファルブル家視点で書かれたこの本がまるでフェルト国の正史のような扱いを受けているが、もっと真実に目を向けるべきだ! フェルト政府がこれ以上ファルブル家の力を笠に着て野蛮な振る舞いを行わぬようアルベルト・ファルブルが勇気を持って王政を廃止し、民主主義に体制を変えたのと時を同じくして、ついに我々も立ち上がる時が来た! 我々はフェルト国への長年の貸しを精算する機会を得たのだ。そう、それが今回の石油だ! 私はファルブル家と粘り強く交渉し、人命が失われないよう努力した。これから我々ヴェイン公国とドーン連邦が油田を管理し、世界を本当のあるべき姿に戻す! 不当にまた搾取するような事があってはならない! 我々はドーン連邦と協力し、現在発掘予定地に展開している全ての軍と連携してフェルト国に対抗する!」
拍手とフラッシュの中でグリードの演説は続いている。
アランとアルベルトは王宮でテレビを見て絶句していた。アランは立ち上がって叫んだ。
「馬鹿な! 何だこの演説は! 発掘予定地の軍事的緊張は全て芝居だったのか! 初めからフェルト国を締め出そうと……なんてことだ!」
「レオン達が誘拐された時に身代金などではなく油田に手を出すなという交換条件だったのも、私がすぐに発掘地に行って戦闘が始まってしまわないよう時間を稼ぐためだったんだな。黒幕はヴェイン公だったんだ」
「それにフェルト国内の大手企業まで向こうに付いている。これではもし今からフェルト軍を向かわせたら本当にフェルト政府による侵略行為に見えてしまう」
「しかしこの言い方はまるで初めからファルブル家と政府が別々に動いていたかのような印象を持たせようとしているように見える。何故こんな言い方を?」
アランは椅子に座ると背もたれに体を預けた。
「おそらく今回の事に君を介入させたくないからだろう。あくまでフェルト国と他国の問題にしたいのだ」
「私がこのまま口出ししないと思っているって事か? なぜそう思うんだ?」
「僕が実際に軍を挙げて戦争にならなければ君がいたずらに人を殺めるような事はしないと踏んだのでは? ヴェイン公は君がもう国政には関わらないと思っているんだ」
時を同じくして酒場でテレビを見ていたアサヒが笑みを浮かべた。
「どうやら世界平和とやらが訪れた今、ヴェイン公はアルベルトが退位したフェルト国を切り捨てたようだな。しかしずいぶんとそれっぽい話をでっち上げたもんだ」
レオンが口を開いた。
「うーん、メイのお父さんて意外と馬鹿だったんだな。それとも石油の利権に目が眩んだかな」
ヘンリーは首を傾げた。
「なんで? どういう事よ?」
「そりゃーお前、これを見た人はドーン連邦は被害者だ、でもファルブル家は悪くない、悪いのはフェルト政府だったんだって思うかもしれないけどさ、父上に向かって自分が石油を頂戴します、俺の誘拐を手引きしたのは私ですって白状してるような物じゃんか」
「あーまあ……でも世間体があるしさ、レオンの事があるとはいえアルベルト様もいくらなんでもヴェイン公の所にいきなり乗り込んでったりは……」
レオンは首を振った。
「いいや、するねあの人は。父上を止めないとな。このままじゃメイのお父さんが真っ二つになっちまう」
「俺も行こう。アフターサービスもしっかりしないとな」
レオンはアサヒと共に酒場を出た。
アルベルトは立ち上がった。
「アルベルト様?」
「レオンを誘拐した黒幕が分かったんだ。ヴェイン公の所に行って来るよ」
「待つんだ!」
「悪党がああやって顔を揃えているんだ。待つ必要は無いだろう?」
アルベルトは部屋を出て行こうとした。
「待つんだ」
アランのいつもと違う声にアルベルトは立ち止まって振り返った。
「……アラン?」
「アルベルト様……今回はフェルト国も戦わなくてはならない」
「我々ヴェイン公国は、長年ファルブル家のために尽力し、フェルト国に技術を提供し続けて来た。そしてその技術とファルブル家の力を以って我々は世界の悪と戦って来た! そしてようやく世界に平和が訪れたのだ。しかしフェルト国はアルベルト・ファルブルと我々が戦っている間何をしていた? ただ我々の技術の恩恵に預かり、ファルブル家の力に頼ってあぐらをかいていただけだ!」
歓声と拍手が起こる。
「フェルト国内の歴史を見れば、ドーン連邦から富を搾取して来た事がよく分かる。フェルト国内では有名な話なのだが、ファルブル家は魔法で戦う特殊部隊なのだ。海外の統治者のために書かれたマーク・アレックス著の『大根王子』でもその事が書かれている。
しかし! ユリアン・ファルブルが発見した金塊を平等に分配したエピソードはでたらめだ!」
グリードは『大根王子』を掲げて叫んだ。
「この中では洞窟内に天まで届くような金塊が見つかっている描写があるが、今までファルブル家の魔法が重複した事は無い! 黄金を生み出す魔法を持っていたのはアルベルトの祖父、ガラフだけだ! そしてファルブル家でもない冒険家が魔法使いになるなどもちろんあり得ない! よってガラフ時代以前に魔法でできたような所在不明の金塊が大量に見つかるなどあり得ない話なのだ!
つまり洞窟内にあった金塊は、本当は当時のドーン国に管理されていたドーン国の刻印が入った金塊であり、実際はフェルト政府が一方的に金塊を奪い、後からガラフがフェルト政府による過去の蛮行に心を痛め、罪滅ぼしのために金塊を諸外国に配って帳尻を合わせただけなのだ!
本当のユリアン・ファルブルはフェルト国内の貧しい者や社会からはじき出された者達を集め、ヘルデを作って発展させて来た人格者だ。決して他国から金塊を持ち去るような人物ではない! 歴史はフェルト政府とアレックスによって捻じ曲げられていたのだ!」
再び歓声と拍手が起こる。
「海外向けにファルブル家視点で書かれたこの本がまるでフェルト国の正史のような扱いを受けているが、もっと真実に目を向けるべきだ! フェルト政府がこれ以上ファルブル家の力を笠に着て野蛮な振る舞いを行わぬようアルベルト・ファルブルが勇気を持って王政を廃止し、民主主義に体制を変えたのと時を同じくして、ついに我々も立ち上がる時が来た! 我々はフェルト国への長年の貸しを精算する機会を得たのだ。そう、それが今回の石油だ! 私はファルブル家と粘り強く交渉し、人命が失われないよう努力した。これから我々ヴェイン公国とドーン連邦が油田を管理し、世界を本当のあるべき姿に戻す! 不当にまた搾取するような事があってはならない! 我々はドーン連邦と協力し、現在発掘予定地に展開している全ての軍と連携してフェルト国に対抗する!」
拍手とフラッシュの中でグリードの演説は続いている。
アランとアルベルトは王宮でテレビを見て絶句していた。アランは立ち上がって叫んだ。
「馬鹿な! 何だこの演説は! 発掘予定地の軍事的緊張は全て芝居だったのか! 初めからフェルト国を締め出そうと……なんてことだ!」
「レオン達が誘拐された時に身代金などではなく油田に手を出すなという交換条件だったのも、私がすぐに発掘地に行って戦闘が始まってしまわないよう時間を稼ぐためだったんだな。黒幕はヴェイン公だったんだ」
「それにフェルト国内の大手企業まで向こうに付いている。これではもし今からフェルト軍を向かわせたら本当にフェルト政府による侵略行為に見えてしまう」
「しかしこの言い方はまるで初めからファルブル家と政府が別々に動いていたかのような印象を持たせようとしているように見える。何故こんな言い方を?」
アランは椅子に座ると背もたれに体を預けた。
「おそらく今回の事に君を介入させたくないからだろう。あくまでフェルト国と他国の問題にしたいのだ」
「私がこのまま口出ししないと思っているって事か? なぜそう思うんだ?」
「僕が実際に軍を挙げて戦争にならなければ君がいたずらに人を殺めるような事はしないと踏んだのでは? ヴェイン公は君がもう国政には関わらないと思っているんだ」
時を同じくして酒場でテレビを見ていたアサヒが笑みを浮かべた。
「どうやら世界平和とやらが訪れた今、ヴェイン公はアルベルトが退位したフェルト国を切り捨てたようだな。しかしずいぶんとそれっぽい話をでっち上げたもんだ」
レオンが口を開いた。
「うーん、メイのお父さんて意外と馬鹿だったんだな。それとも石油の利権に目が眩んだかな」
ヘンリーは首を傾げた。
「なんで? どういう事よ?」
「そりゃーお前、これを見た人はドーン連邦は被害者だ、でもファルブル家は悪くない、悪いのはフェルト政府だったんだって思うかもしれないけどさ、父上に向かって自分が石油を頂戴します、俺の誘拐を手引きしたのは私ですって白状してるような物じゃんか」
「あーまあ……でも世間体があるしさ、レオンの事があるとはいえアルベルト様もいくらなんでもヴェイン公の所にいきなり乗り込んでったりは……」
レオンは首を振った。
「いいや、するねあの人は。父上を止めないとな。このままじゃメイのお父さんが真っ二つになっちまう」
「俺も行こう。アフターサービスもしっかりしないとな」
レオンはアサヒと共に酒場を出た。
アルベルトは立ち上がった。
「アルベルト様?」
「レオンを誘拐した黒幕が分かったんだ。ヴェイン公の所に行って来るよ」
「待つんだ!」
「悪党がああやって顔を揃えているんだ。待つ必要は無いだろう?」
アルベルトは部屋を出て行こうとした。
「待つんだ」
アランのいつもと違う声にアルベルトは立ち止まって振り返った。
「……アラン?」
「アルベルト様……今回はフェルト国も戦わなくてはならない」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる